私家版 Who’s Who その5 マギー・スミス
マギー・スミス(Margaret Natalie Smith、1934-2024)
イングランド、エセックス州イルフォード出身
昨日の新聞でイギリスの大女優マギー・スミスが亡くなったことを知り大きな衝撃を受けた。文字通り椅子の上でのけぞった。僕は個人的に映画・音楽・文学関係等の物故者リストを作っているが、今年はすでにノーマン・ジュイソン監督、パオロ・タビアーニ監督(タビアーニ兄弟の弟)、フジコ・ヘミング、吉田ルイ子、ドナルド・サザーランド、アラン・ドロンなど、大物がすでに何人も亡くなっているが、正直マギー・スミスの死ほどショックは受けなかった。
比較的若い世代にはマギー・スミスと言えば「ハリー・ポッター」シリーズのミネルバ・マクゴナガル先生を演じた人というのが一番分かり易いだろう。あるいはTVドラマ「ダウントン・アビー」シリーズの先代伯爵夫人役と言えばピンと来る人も多いかと思う。しかし僕は彼女の名を聞いてまず思い浮かぶのは「天使にラブ・ソングを」(1992)のきつい顔をした修道院長である。
最初に観た彼女の出演作は「予期せぬ出来事」(1963)で1972年7月13日に観ている。次に観たのがアカデミー主演女優賞を受賞した「ミス・ブロディの青春」(1968)で、74年9月15日に観ている。続いて「三人の女性への招待状」(1966)を74年11月24日に観た。その次が「オセロ」(1965)で75年5月11日に鑑賞。いずれもテレビで観ている。まだ衛星放送のなかったころで、テレビ(地上波という言葉も衛星放送が始まってからできた言いかたなので、これも当時は当然存在しない言葉だった)では、昼間や9時台のゴールデン・タイム、そして夜中を含めるとほぼ毎日映画が放送されていた。
しかしこれらの作品を観たのはいずれもほぼ半世紀前なので、後で観直した「ミス・ブロディの青春」以外はいまや記憶の彼方である。だから鮮明に覚えているいちばん古い映画が「天使にラブ・ソングを」ということになるのである。これは2000年6月11日に観ている。テレビではなくレンタルで観ている。丁度VHSビデオがDVDに切り替わる時期なので、どちらで観たのかははっきりしないが。逆に今のところ最後に観たのはTVドラマ「ダウントン・アビー」の劇場版「ダウントン・アビー/新たなる時代へ」(2022)。観たのは23年3月3日。当日の日記にはこう書いてある。「ラストで先代の伯爵夫人ヴァイオレットが死ぬ。マギー・スミスの存在感は圧倒的で、それまであった大騒ぎをすべて吹っ飛ばし、最後は彼女がすべてをかっさらっていった。今後続編が作られたとしても、もう彼女を観られないのかと思うと寂しい。」
マギー・スミスはジュディ・デンチと並ぶイギリスの大女優である。共に1934年生まれ。そのすぐ下で大女優と呼べるのはヴァネッサ・レッドグレイヴ(1937)とジュリー・クリスティ(1940)そしてヘレン・ミレン(1945)ということになろうか。シェイクスピアを生んだイギリスは数多くの名優を輩出したが、大女優と呼べるのはこの5人くらいだろう。
最後は「ラヴェンダーの咲く庭で」のレビューで書いた紹介文を引用して締めくくりたい。
僕はずっとこの映画を観たくて仕方がなかった。もちろんその理由はジュディ・デンチとマギー・スミスというイギリスの2大女優が競演しているからである。イギリスはシェイクスピアの国。俳優はみな舞台で経験と実力を積み、それから映画やテレビに進出するというのが一般的なパターンである。二人とも演劇界で多くの業績を残した。OBE、DBEの勲位を両方受勲し、デイムの称号を授けられた数少ない名女優である。ジュディ・デンチを最初に観たのは「眺めのいい部屋」だと思うが、最初に大女優として意識したのは97年の9月にイギリスのブライトンで「Queen Victoria至上の恋」を観た時である(滞在中ダイアナ妃が亡くなる悲劇が起き、その日にケンジントン・パレスまで行って人々が献花している様子を見てきた)。ジュディ・デンチはヴィクトリア女王に扮した。日本公開時はあまり話題にならなかったがなかなかの秀作だった。その後は「ヘンリー五世」「恋におちたシェイクスピア」「ムッソリーニとお茶を」「ショコラ」「アイリス」「シッピング・ニュース」と何本も観てきた。「ムッソリーニとお茶を」はフランコ・ゼフィレッリ監督晩年の傑作で、マギー・スミスとここでも競演している。
マギー・スミスを最初に観たのは「予期せぬ出来事」か「三人の女性への招待状」あたりだろうが、恐らく端役だろうからその頃は全く意識していなかった。有名な「ミス・ブロディの青春」や「眺めのいい部屋」(ジュディ・デンチと競演)を観た時もさほど意識していなかったと思う。彼女をはっきりと意識したのはあの「天使にラブ・ソングを」と「天使にラブ・ソングを2」のきつい顔をした修道院長役である。その後は「ゴスフォード・パーク」や「ハリポタ」シリーズのプロフェッサー・マクゴナガル役でおなじみ。
【おすすめのマギー・スミス出演作】 *作品の出来ではなく、マギー・スミスの演技に絞って選定した。
「ミス・ブロディの青春」(1968)ロナルド・ニーム監督、イギリス
「天使にラブ・ソングを」(1992)エミール・アルドリーノ監督、アメリカ
「眺めのいい部屋」(1986)ジェームズ・アイヴォリー監督、イギリス
「秘密の花園」(1993)アグニェシュカ・ホランド監督、アメリカ
「ムッソリーニとお茶を」(1999)フランコ・ゼフィレッリ監督、アメリカ
「ゴスフォード・パーク」(2001)ロバート・アルトマン監督、伊・英・米・独
「ラヴェンダーの咲く庭で」(2004)ャールズ・ダンス監督、イギリス
「カルテット!人生のオペラハウス」(2012)ダスティン・ホフマン監督、イギリス
「パリ3区の遺産相続人」(2014)イスラエル・ホロヴィッツ監督、米・英・・仏
「ダウントン・アビー/新たなる時代へ」(2022)サイモン・カーティス監督、英・米
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