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2024年2月

2024年2月29日 (木)

これから観たい&おすすめ映画・BD(24年3月)

     【新作映画】公開日
3月1日
 「ARGYLLE アーガイル」(2024)マシュー・ヴォーン監督、イギリス・アメリカ
 「コットンテール」(2023)パトリック・ディキンソン監督、イギリス・日本
 「FEAST 狂宴」(2022)ブリランテ・メンドーサ監督、香港・フィリピン
 「52ヘルツのクジラたち」(2024)成島出監督、日本
 「水平線」(2023)小林且弥監督、日本
3月2日
 「かづゑ的」(2023)熊谷博子監督、日本
 「津島 ―福島は語る・第二章―」(2023)土井敏邦監督、日本
3月8日
 「DOGMAN ドッグマン」(2023)リュック・ベッソン監督、フランス
 「アバウト・ライフ 幸せの選択肢」(2023)マイケル・ジェイコブス監督、アメリカ
 「青春の反抗」(2023)スー・イーシュエン監督、台湾
 「ゴールド・ボーイ」(2023)金子修介監督、日本
3月15日
 「デューン 砂の惑星 PART2」(2024)ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、アメリカ
 「12日の殺人」(2022)ドミニク・モル監督、フランス・ベルギー
 「FLY! フライ!」(2023)バンジャマン・レネール監督、アメリカ・フランス
 「ビニールハウス」(2022)イ・ソルヒ監督、韓国
 「変な家」(2023)石川淳一監督、日本
3月22日
 「コール・ジェーン ‐女性たちの秘密の電話‐」(2022)フィリス・ナジー監督、アメリカ
 「四月になれば彼女は」(2024)山田智和監督、日本
3月29日
 「ゴーストバスターズ/フローズン・サマー」(2024)ギル・キーナン監督、アメリカ
 「パリ・ブレスト~夢をかなえたスイーツ~」(2023)セバスティアン・テュラール監督、フランス
 「RHEINGOLD ラインゴールド」(2022)ファティ・アキン監督、独・オランダ・モロッコ・他
 「美と殺戮のすべて」(2022)ローラ・ポイトラス監督、アメリカ
 「ラブリセット 30日後、離婚します」(2023)ナム・デジュン監督、韓国
3月30日
 「ゴッドランド/Godland」(2022)フリーヌル・パルマソン監督、デンマーク・アイスランド・他
4月5日
 「パスト ライブス/再会」(2023)セリーヌ・ソン監督、アメリカ
 「アイアンクロー」(2023)ショーン・ダーキン監督、アメリカ
 「ブルックリンでオペラを」(2023)レベッカ・ミラー監督、アメリカ
4月12日
 「プリシラ」(2023)ソフィア・コッポラ監督、アメリカ
 「No.10」(2021)アレックス・ファン・ヴァーメルダム監督、オランダ・ベルギー
 「貴公子」(2023)パク・フンジョン監督、韓国
 「クラユカバ」(2023)塚原重義監督、日本
4月19日
 「異人たち」(2023)アンドリュー・ヘイ監督、イギリス・アメリカ
 「マンティコア 怪物」(2022)カルロス・ベルムト監督、スペイン・エストニア
 「あまろっく」(2023)中村和宏監督、日本
4月26日
 「ゴジラ×コング 新たなる帝国」(2024)アダム・ウィンガード監督、アメリカ
 「エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命」(2023)マルコ・ベロッキオ監督、伊・仏・独
 「悪は存在しない」(2023)濱口竜介監督、日本



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【新作DVD・BD】レンタル開始日(ネット配信日は各映像配信サービスによりまちまちです)
2月28日
 「バカ塗りの娘」(2023)鶴岡慧子監督、日本
3月1日
 「ソウルに帰る」(2022)ダヴィ・シュー監督、独・仏・ベルギー・カタール
3月6日
 「エリザベート1878」(2022)マリー・クロイツァー監督、オーストリア・ルクセンブルク・仏・独
 「世界が引き裂かれる時」(2022)マリナ・エル・ゴルバチ監督、ウクライナ・トルコ
 「トンソン荘事件の記録」(2023)ユン・ジュンヒョン監督、韓国
 「星くずの片隅で」(2022)ラム・サム監督、香港
 「ルー、パリで生まれた猫」(2023)ギヨーム・メダチェフスキ監督、フランス・スイス
 「ロスト・キング 500年越しの運命」(2022)スティーヴン・フリアーズ監督、イギリス
 「アンダーカレント」(2023)今泉力哉監督、日本
 「春に散る」(2023)瀬々敬久監督、日本
 「狎鴎亭(アックジョン)スターダム」(2022)イム・ジンスン監督、韓国
 「白鍵と黒鍵の間に」(2023)冨永昌敬監督、日本
 「大雪海のカイナ ほしのけんじゃ」(2023)安藤裕章監督、日本
 「CLOSE/クロース」(2022)ルーカス・ドン監督、ベルギー・オランダ・フランス
3月8日
 「ミステリと言う勿れ」(2023)松山博昭監督、日本
3月20日
 「極限境界線―救出までの18日間―」(2023)イム・スルレ監督、韓国
 「バーナデット ママは行方不明」(2019)リチャード・リンクレイター監督、アメリカ
 「おまえの罪を自白しろ」水田伸生監督、日本
3月27日
 「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」(2022)ジェームズ・キャメロン監督、アメリカ
4月3日
 「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」(2022)オリヴィエ・ダアン監督、フランス
 「デシベル」(2023)ファン・イノ監督、韓国
 「ぼくは君たちを憎まないことにした」(2022)キリアン・リートホーフ監督、独・仏・ベルギー
 「人生は美しい」(2022)チェ・グッキ監督、韓国
 「カンダハル 突破せよ」(2022)リック・ローマン・ウォー監督、イギリス
 「私がやりました」(2023)フランソワ・オゾン監督、フランス
 「福田村事件」(2023)森達也監督、日本
 「ほつれる」(2023)加藤拓也監督、日本
4月5日
 「ジェーンとシャルロット」(2021)シャルロット・ゲンズブール監督、フランス
4月12日
 「オオカミの家」(2018)クリストバル・レオン、他・監督、チリ
4月17日
 「オペレーション・フォーチュン」(2023 )ガイ・リッチー監督、英・米



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【旧作DVD・BD】発売日
2月26日
 「デヴィッド・リーン」(1944、50、52)デヴィッド・リーン監督、イギリス
  収録作品:「幸福なる種族」「マデリーン 愛の旅路」「超音ジェット機」
2月29日
 「アメリカン・ストーリーズ/食事・家族・哲学」(1988)シャンタル・アケルマン監督、仏・他
 「東から」(1993)シャンタル・アケルマン監督、ベルギー・フランス・ポルトガル
 「ノー・ホーム・ムービー」(2015)シャンタル・アケルマン監督、ベルギー・フランス
3月6日
 「大逆転」(1983)ジョン・ランディス監督、アメリカ
3月20日
 「ダニエル・シュミット監督傑作集」(1976、87)スイス・フランス
  収録作品:「天使の影」「デジャヴュ」
 「妻よ薔薇のやうに」(1935)成瀬巳喜男監督、日本
 「女優と詩人」(1935)成瀬巳喜男監督、日本
 「宗方姉妹」(1950)小津安二郎監督、日本
4月3日
 「エドワード・ヤンの恋愛時代」(1994)エドワード・ヤン監督、台湾
4月5日
 「華麗なるヒコーキ野郎」(1975)ジョージ・ロイ・ヒル監督、アメリカ
 「フットルース」(1984)ハーバート・ロス監督、アメリカ
4月10日
 「エイリアン2」(1986)ジェームズ・キャメロン監督、アメリカ
4月12日
 「ザ・ドライバー」(1978)ウォルター・ヒル監督、アメリカ
 「鈴木清順 浪漫三部作」(1980、81、91)鈴木清順監督、日本
  収録作品:「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」「夢二」
4月17日
 「ワンス・ウォリアーズ」(1994)リー・タマホリ監督、ニュージーランド

*色がついているのは特に注目している作品です。

 

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2024年2月16日 (金)

心に残る言葉たち その3 トレヴェニアン、その他の小説より

トレヴェニアン「ワイオミングの惨劇」(2004年、新潮文庫)
 「戦争ってどんなでした?すごい冒険だったでしょう?」
 「戦争が?戦争なんてだいたいが退屈だ。兵隊はいつも濡れて凍えてる。それにくたびれてる。虫に刺されてかゆい。そのうち突然みんなが銃を撃ちだし、怒鳴ったり、走りまわったりする。ものすごく恐ろしくて唾も飲めないくらいだ。闘いはやがて終わり、仲間が何人か死んで、けが人もでる。無傷な者はまたかゆいところを掻いたり、あくびをしたりする毎日に戻る。それが戦争だ。」(75-76)

 「盗むなら、でっかく盗め。子供に食わそうとパンを盗んだやつは鎖をつけられ、大きな岩を砕かせられる。しかし、でっかく盗んだら――ほんとにでっかくだぞ――そいつは称賛され、真似までされる。ロックフェラーしかり、モルガンしかり、カーネギーしかり。もちろんそういうやつらは法律を破らない。法律をつくるんだ。“企業”とか“大型融資”とか名前をくっつけて、盗みを合法的にするためにな。だから、盗みや悪党を志すならでっかく考えることだ。そうすれば一目置いてもらえるよ」(254)

コリン・デクスター「ウッドストック行最終バス」(1988年、早川文庫)
 「自殺は非常に多くの他の人々の生活にかかわることだ。重荷は捨てられたのではなく、一人の肩から他の人の肩に移されただけだ」(269)

ケン・フォレット『大聖堂』下巻(2005年、ソフトバンク文庫)
 フィリップが学んできたのはもっと地に足のついたやり方である。最初の修道院の院長だったファーザー・ピーターは、常々こう言っていた――「心では奇跡を祈れ、しかし手ではキャベツを植えよ」と。(12-13)


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 取り上げた3冊はいずれも文学作品ではなく、ミステリーなどのいわゆる娯楽小説から引用したものである。文学作品と大衆小説との境目があいまいになって久しいが、一般に大衆小説とよばれるものにもハッとするような名言や警句が含まれているものだ。こういう小説を多く読んでおくことは例えば映画の理解などにも結構役に立つものである。トレヴェニアンの最初の引用文はドイツ映画歴代1位に選ばれたこともある名作「Uボート」の映画評で引用したことがある。
 まあ、いろいろ書きたいことはあるが、下手なコメントを長々とつけるのは野暮というものだろう。読んだ人がそれぞれに味わい、あれこれ考えをめぐらすのが一番良いだろう。


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2024年2月13日 (火)

悠遊雨滴 その6:ソーイング・ビー ここまで公平な番組は日本ではまだ作れない

 現在NHKのEテレで「ソーイング・ビー6」が放送されている。「ブリティッシュ・ベイクオフ」シリーズ(パンやケーキなどを作るコンテスト)のスピンオフ番組で、その名の通り裁縫のコンテストである。つづり字のコンテストを英語で「スペリング・ビー」というが、「ビー」は蜂のこと。働きバチのイメージだろう。「ソーイング・ビー」はそれをもじったタイトルである。

 正確に布を断ち縫う能力、型紙に基づいて正確に縫い上げる力、さらにはデザイン力も求められる。まあ「スター誕生」の裁縫版が「ソーイング・ビー」で、お菓子作り版が「ブリティッシュ・ベイクオフ」だと思えばいい。日本にはない番組だが、ここで焦点を当てたいのは、番組の内容ではなくその姿勢である。「ソーイング・ビー」でも「ブリティッシュ・ベイクオフ」でも同じだが、その特徴が一番はっきり表れているのは今放送されている(現在ファイナルが行われている)「ソーイング・ビー6」だろう。


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 番組では様々な課題が課せられ、参加者は必死にその課題に取り組む。課題ごとに審査員が順位を決め、毎回一人ずつ脱落者が出る。それがこの番組の基本的流れだが、途中に各出場者のプライベートな生活が紹介される。興味深いのは、男性同士のパートナーや女性同士のパートナーが紹介されることが珍しくないということだ。しかしこの点について何ら特別な言及はない。ごく当たり前のこととして放送されており、出場者のパートナーも自然に顔を出している。

 さらに「ソーイング・ビー6」では片腕の肘から先がない出場者もいた。彼女も何ら特別扱いされることはなく、彼女に変に気を使ったりすることもない。それだけではない。なんと司会者の女性が明らかに妊娠している。回を追うごとにお腹が大きくなっているのが分かる。そのことについても何ら説明はなく、特別に言及されることもなくごく当たり前のこととして映されている。日本だったら間違いなく途中で司会者が交代させられていただろう。


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 ここまで公平で差別のない番組は日本にはない。もちろんイギリスだって差別もあるし偏見もある。ドイツ軍の暗号機「エニグマ」を解読したアラン・チューリングを描いた「イミテーション・ゲーム」という有名な映画がある。この映画はチューリングが暗号解読のために生み出した計算機が今のコンピューターの原型となったことだけではなく、当時同性愛は犯罪でありチューリングは有罪判決を受けたことも描いている。

 昔も今も偏見や差別はある。しかし両番組ともだれ一人特別扱いはせず、変に気を使ったりすることもなく番組を進めてゆく。その姿勢は本当に立派だと思う(まあ、美人のブローガンが他の出場者より多めに画面に映る傾向があったりはするが)。日本でもこのような番組が作られる日が来るのだろうか。彼我の差の大きさを想うと、今のところ見当もつかない。

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2024年2月 7日 (水)

悠遊雨滴 その5:音楽との長い付き合い

 1999年の夏、お盆で実家に帰ったときなつかしいものを見つけた。母屋の隣に昔祖父と祖母が住んでいた隠居所があるのだが、たまたま普段閉めてある雨戸が開いていたので中に入ってみたのである。廊下の突き当たりにある納戸の中にそのなつかしいものはあった。昔買ったレコードだ。保存状態が悪かったのでジャケットがすっかり黄ばんでしまっていた。いずれもなつかしいレコードだ。年に二回、盆と正月しか実家に帰らないのでそれまではどこにしまってあるのか分からなかったのである。あるいはもう捨ててしまったのかとも思っていた。



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 初めてレコードを買ったのは恐らく中三くらいの時だ。父親が商店会の付き合いで歌を覚えるためと称して、ステレオを買ったのがきっかけだった。ナショナルのテクニクスという家具調のどでかいステレオだった。高さが70~80センチもあったろうか。幅も本体と両脇のスピーカーを合わせて1メートル数十センチほどあっただろう。今のミニコンポと比べるとまことにバカでかい。とにかくスピーカーが大きくて、音を鳴らすとガラス窓(今のようなサッシではない)がカタカタ振動したのを覚えている。実家のある日立市は電気の日立の発祥地で、いわゆる企業城下町である。しかしなぜか父は日立の製品が嫌いで、家の電気製品は全部ナショナルの製品だった。テクニクスは当時の最新機で、テレビでも宣伝をしていた。今でも「テクニークスー」というメロディを覚えている。

 父は何枚かレコードを買ってきてしばらく聞いていたが、すぐに飽きて使わなくなってしまった。もっぱらステレオを使っていたのは僕だった。最初に買ったレコードは二枚のシングル盤、藤圭子(宇多田ヒカルの母親)の「圭子の夢は夜開く」と森山香代子の「白い蝶のサンバ」だった。何を買ったらいいのか分からなかったので、当時たまたま流行っていた曲を買ったのである。GS全盛のころだと思うが、流行っているものなら何でもよかったのだろう。それから少ない小遣いをはたいてシングル盤を少しずつ買い込んでいった。アルバムは高くてとても初めのうちは手が出なかった。値段はシングル盤が500~600円、LP盤が2000円、EP盤(45回転だがシングル盤のサイズで4~6曲くらい入っていた)が700円だった。その当時買ったレコードは今では貴重なものもあるが、今思うと顔が赤らむようなものも多かった。森山香代子と布施明が大好きで、シングル盤をそれぞれ5~6枚もっていたと思う。他に、ゼーガーとエバンスの「西暦2525年」、カフ・リンクスの「恋の炎」、クリスティーの「イエロー・リバー」、CCRの「プラウド・メアリー」、ドーンの「ノックは三回」、ルー・クリスティーの「魔法」、フィフス・ディメンションの「輝く星座」など。最初に買ったアルバムはどれだったか覚えてないが、当時もっていたのはアンディ・ウイリアムズ、グレン・ミラー、映画音楽集、PPM(ピータ、ポール&マリー)のライブ盤、シャルル・アズナブール、シャンソン名曲集、カンツォーネ名曲集、それとビートルズの「ヘイ・ジュード」(アメリカ編集版)などだった。他にEP盤で「サウンド・オブ・ミュージック」のサントラ盤、サイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」、ブラザーズ・フォーなどがあった。何で高校生がこんなのを聞いていたのかと自分でも驚くようなものも入っているが、それはおそらく映画の影響だろう。



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 高校に入学して入ったクラブは音楽部だった。これは合唱部なのだが、「涙を越えて」のような合唱向きの歌のほかに、「輝く星座~レット・ザ・サンシャイン・イン」、「ノックは三回」、「悲惨な戦争」、「サウンド・オブ・サイレンス」、「レット・イット・ビー」などの洋楽もよく歌った。まだフォーク・ブームが続いていたころで、当時はPPMやブラザーズ・フォーが大好きだった(今でも好きだが)。

 好みが一変したのは大学に入学してからだった。突然クラシック一辺倒になったのだ。きっかけや理由は覚えていない。とにかく『レコード芸術』を毎月買ってレコードをチェックしては、大学生協で買ってきた。大学1年の時中学生の家庭教師をしていたのだが、週2回教えて月1万円もらっていた。それを全部レコードにつぎ込んだのである。生協で買えばレコードは2割引。当時LPレコードは2500円だったので、生協で買えば2000円。1万円で5枚買える。

 ところで、レコードは買ったものの、ひとつ困った問題があった。ステレオを持っていなかったのである。大学の3年までは千葉県流山市の伯母の家に寄留していた。伯母の家にプレーヤーがあったので、それを借りて聞いてはいた。しかしスピーカーとつながっていないプレーヤーでは聞いた気がしない。そこでどうしたかというと、帰省する時にたまりたまったレコードを両手に下げて実家に持って帰り、そこで聞いたのである。全部で150枚くらい持ち帰ったろうか。今考えるとよくやったと思う。後で東京のアパートに引っ越して自分でミニコンポを買ってから、今度は逆に田舎から東京までまた運んだりした。結局全部は持ち帰れず、まだ何十枚かは田舎においてあった。実家で久々に見つけたのはその運び残ったレコードだったというわけだ。

 

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 クラシック熱は大学院に入るころまで続いた。80年代の初め頃、念願のラジカセを買った(まだステレオのミニコンポは高くて、やっと手に入れたのは80年代半ば頃か)。それから80年代の半ば頃まではよくFM放送を聞いた。僕がラジオを一番聞いたのはこの時期だ。高校生のころ時々夜中に「ユア・ヒット・パレード」を聞いたりしたことはあったが、それほどしょっちゅうというわけではなかった。FM雑誌を買い出したのも80年代に入ってからである。その頃から『FMfan』を愛読していて、長いこと買い続けていた。その後FM雑誌は相次いでなくなり、CD雑誌が主流になった。CD雑誌もどんどん消えてゆき、そのたびに買う雑誌を替えていった。一番長く愛読していたのは『CDジャーナル』だが、これも季刊になり今は買わなくなった。ネットが普及し雑誌そのものが売れなくなってきたからだ。

 当初はFM番組のチェックが主たる目的だったが、ラジオを聞かなくなるとCDの新譜案内のチェックが主たる目的となった。もっぱら新譜の情報はこれに頼っていた。それ以外のアーティスト関係記事はほとんど読まない。当時定期購読している雑誌はこの『FMfan』と『レコード・コレクターズ』のみ。『レコ芸』はクラシックを聴かなくなった時から買わなくなり、それに取って代わった『スイング・ジャーナル』もいつの頃からか1月号しか買わなくなった。1月号には年間のレコード評がまとめてある別冊が付くので、これ一冊あれば用が足りるからだ。
 ラジカセを買ったころから音楽の好みが大きく変わった。面白いもので、好きなジャンルは少しずつ変わるのである。クラシック一辺倒だった時でも、最初は交響曲が好きで、次にバイオリン曲、それからピアノ曲、室内楽と好みが移り、最後はバロックに行き着いた。今でもバロックとモーツァルトが好きだ。歌ものや管弦楽曲はなぜかあまり好きになれなかった。

 ラジカセを買ったころからしだいにクラシック以外のジャンルにも関心が広がっていった。FMを通じてロックや日本のニュー・ミュージックにも耳を傾けるようになったのだ。当時はFM雑誌で1~2週間先の番組をチェックして、ラジカセで片っ端からテープに録音していた。一体何本くらい録音したのか自分でも分からない。ラジオを聞かなくなってからは、もっぱらCDからカセットテープにダビングしていた。車の中で聞くためだ。CDを温度差や振動など条件の悪い車の中に置くのには抵抗があるので、わざわざテープにダビングしているのである。テープが廃れるとMDにダビングして聞くようになった。しかしMDもなくなり、今はただ車の中ではFM放送を聞くだけになっている。



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 話はジャンルに戻るが、ジャズに出会ったのも80年代初めだった。ジャズとの出会いが僕の音楽の嗜好を根本的に変えてしまったと言ってもよい。決してジャズ一辺倒にはならなかったが、この時からずっと一番好きなジャンルはジャズなのである。クラシックばかり聞いていた頃からジャズには関心があったのだが、周りにジャズが好きな友達がいなかったために、ずっと未知のジャンルだったのである。FM放送が僕をぐっとジャズに近づけたのだ。最初はヴォーカルをもっぱら聞いた。なんとなくその方が取っ付きやすかったのである。知識もなかったので、何から聞いたらよいのか分からなかったということもある。ところが、ある時たまたま古本屋でジャズの名盤を特集した雑誌を買った。「スイング・ジャーナル」誌の別冊である。むさぼるようにその雑誌から知識を吸収し、忘れないように手帳を作ってメモした。ジャケット写真も切り抜いて手帳に張り付けたりもした。その手帳を持ってレコード店へ行ったのである。初めて買ったジャズのレコードは、忘れもしないコルトレーンの「至上の愛」と「バラード」だった。銀座の輸入レコード店で見つけた。棚から取り出した時手がふるえたのを覚えている。「至上の愛」はよく理解できなかったが(そもそも初心者向きではなかった)、「バラード」は気に入った。この時から本格的にジャズにのめり込んで行ったのである。

 その後ジャズを始めソウルやブルース、そしてロックのレコードを次々に買いまくった。とにかく一気にジャズやその他のジャンルの知識を詰め込んだので、買いたいレコードが山ほどあったわけだ。買うのは専ら中古レコードだった。いつ頃から中古レコード店に出入りするようになったのかは定かではないが、恐らく80年代の前半あたりだろう。渋谷の「レコファン」、「セコハン」、「ハンター」、「ディスク・ユニオン」、新宿の「えとせとら」、「ディスク・ユニオン」、「八月社」、「レコファン」、下北沢の「セコハン」、その他お茶の水、高田馬場、池袋、吉祥寺等々、都内をくまなく捜し回った。今では名前を思い出せない店も何軒かある。渋谷の宮益坂沿いのビルの2階にあった店、高田馬場の神田川沿いにあったジャズ専門店とブルース専門店、新宿の「えとせとら」と同じ一角にあったラーメン屋の2階の店。これらの中古店のうちどれくらいが今でも残っているのだろうか。

 80年代の後半頃の中古レコードはだいたい千円くらいで買えた。定価より高いものは買うつもりはなかったので、だいたい1600円あたりが買うレコードの上限だった。もっぱら中古品を買っていたのは値段が安いからで、貴重盤を買い集める趣味は全くない。これは古本も同じで、こちらも初版本を高い金を出して買う趣味はない。そういう意味では、僕はコレクターであってマニアではない。あくまで好きなものだけを選んで買うことにしている。決してマニアックな集めかたはしない。一万枚を超えるレコードとCDを持っていれば立派なマニアだと他人は言うだろうが、本人はただ枚数が多いだけだと思っている。



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 どうして中古を買うかというと、その理由の一つは自分の性格である。新しいものにあまり興味を示さない。長いこと携帯を持たず(今はスマホを持っているが、これは車で事故ったとき困ったことがあるからで、基本非常連絡用である)、ワープロ専用機からパソコンに乗り換えたのもやっと2002年の夏からである。レコードがCDに駆逐されていっても、しばらくはレコードを買い続けていた。もっとも、CDプレーヤーもないのにパチンコの景品で何枚かCDを取ってはいたが。CDプレーヤーが出始めの頃は高くて手が出なかったのである。最初に買ったCDプレーヤーはウォークマンだった。安くてサイズも小さくて場所を取らなかったからだ。ビデオも東京から映画館が数館しかない上田に来て仕方なく借り始めた。

 もう一つの理由は、上でも書いたように、当然値段が安いからだ。中古で安いのが買えるのに、定価で買うのはばかばかしい。中古に出るまで2年でも3年でも辛抱強く待つ。たとえ中古屋でほしいものを見かけても、値段がCDならば1500円以上、DVDならば2500円以上なら、もっと安いのを見つけるまで待つ。映画はロードショーよりも300円の名画座によく通っていた。上田に来てレンタル店でビデオやDVDを借りるようになってからも、新作はめったに借りず、1週間レンタルになってから借りる。これが僕のやり方である。初版本に何万円も出したり、ジャズのオリジナル版に数千円を投げ出すなどという趣味は全く無い。ただただ安いから中古を利用するのである。出久根達郎のエッセイは好きでよく読むが、彼の本に出てくる貴重本を血眼になって捜し回る人種とは僕は本質的に異人種である。実際、学生、大学院生時代には、年間数十本から百本以上の映画を見、数百冊の本を買い、数百枚のレコードを買うにはそうする以外になかったのだ。働くようになってからもその習慣は変わらなかった。そういえば、車も中古車以外買ったことがない。

 中古品は安いのでどんどん買ってしまうが、コレクションの枚数が多くなるもう一つの理由は様々なジャンルを聞くからである。クラシック、ジャズ、フォーク、カントリー、ロック、R&B、ソウル、ブルース、レゲエ、ラテン、ワールド・ミュージック。日本の音楽も当然聴くし、アイルランドを中心としたケルト系ミュージック、イギリスのモダン・トラッド、スエーデンを中心とした北欧のポップス、中国のポップスに注目していた時期もあった。ヘビメタ系の騒々しいのや、どれを聞いても同じラップ系は好きではない(多少持ってはいるが)。アフリカのものも持ってはいるが、今一つなじめない。逆に欲しいのになかなか手に入らないのはアイリッシュ・ミュージックやフォルクローレである。新星堂のレーベル、オ-マガトキは実に良心的でここでしか手に入らない貴重なアーティストのものをたくさん出しているが、悲しいかな、なかなか中古店では見かけない。



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 40歳も過ぎて中年になってくると、また好みが変わってくる。ジャズも昔からサックスが好きだが、ピアノを中心にしたものにも強く惹かれるようになってきた。ヴォーカル系も女性ヴォーカルが中心で、ジャケットに美人が写っていると買いたくなってしまうのだから情けない。どんどん好みがやわになってきている。昔はジャズの真っ黒い感じのジャケットが好きだったのだが。とにかく最近聞いて良いと思うのは、ジャズではビル・エバンスやキース・ジャレットなどのピアニスト、アイルランド系、フォーク系、カントリー系、などの落ち着いた感じの音楽である。ジャズ、ソウル、ブルース、レゲエとブラック・ミュージックを中心に聞いてきた80年代とはだいぶ変わってしまっている。ここ10年ほどで一番よく聴くのはシンガー・ソングライターである。しかしこのところ昔買ったCDをどんどん聞き直しているが、ジャンルは何であれ良いものは今聞いても良い。改めて日々そう感じている。

 好みが変わったのには東京から上田に移ってきたことも遠因になっていると思われる。東京と違って、長野にはあまり中古レコード店がない。上田の「ブック・オフ」、「メロディ・グリーン」、「サザン・スター」、「トム」、そして長野の「グッドタイムス」あたりがよく行く店だった。置いてあるものも貧弱で、日本のものが中心。ジャズに至ってはほとんど中古では手に入らない(「グッドタイムス」には数はあるが何せ値段が高い)。したがって欲しいものと買えるものとが一致しない。長年そんな状態が続くと好みまで変わってくるのだろう。「ラウンド」と称してそれら中古店を定期的に回っていたが、今は中古店も少なくなり、基本的にはアマゾンで注文するようになっている。送料を取られるのが癪に障るが、近くの中古店に置いてないものも簡単に見つかるのでずっと楽だ。

 僕はレコードもCDも雑誌の新譜案内を見て買っている。ヒット・チャートには関心がないので、知っている曲が欲しくてCDを買うことはめったにない。ほとんど買ってきて初めて聴くものばかりである。しかしこれは本や映画も同じだ。本も映画も書評や映画評を読んだり聞いたりしてどれを買うか、観るか決めるという点では同じだから。音楽も同じことをしているにすぎない。

 

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<付記>
 この記事を最初に書いたのは2000年の1月ですが、その後何度か書き足して今はなきHP「緑の森のゴブリン」に掲載してありました。今回「悠遊雨滴」シリーズに再録するにあたってさらに加筆訂正しました。

 

2024年2月 4日 (日)

心に残る言葉たち その2 富野由悠季 夢と現実

 太平記と源氏物語にも書いてある通り、人類は2千年くらい前から同じで、色事ともめ事しかやっていないわけだ。(中略)
 人類は、夢を想定しておかないと、窒息してしまうから宇宙開発論というものがあり得た。1960年代ぐらいまでは、そういう夢を描けた時代だった。今は夢を語るではなく、もうリアリズムを考えなければならない時代になっている。それは地球が有限だからで、今のままでは人類の増殖によって地球が食いつぶされると分かる時代になった。宇宙開発よりも、地球を存続させるためにやらなければいけないことの方が急務になっている。
「朝日新聞」、2024年1月23日、「テクノロジーの未来を語る 富野由悠季の視点 1 宇宙開発:ガンダムの世界 来ないだろう」

 

<コメント>
 富野由悠季が「機動戦士ガンダム」の生みの親だということはこの記事を読んで初めて知った。だからこの記事を読んだのはタイトルに惹かれたからで、富野由悠季に対する関心からではない。子供の頃は「キングコング対ゴジラ」をはじめ、ガメラ、モスラ、ラドン、キングギドラなど怪獣映画をよく観に行った。「大魔神」も好きだった。テレビで「ウルトラQ」が始まったときは、怪獣映画を自宅で観られると大喜びしたものだ。しかし中学生になるとこういう子供向け映画や番組は卒業した。おそらくまともに観たのは「ウルトラマン」の最初のシリーズが最後だろう。だから、「仮面ライダー」も「ガッチャマン」も「ガンダム」もほとんどまともに観たことはない。「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」などの映画も恐らく観ていない。富野由悠季という名前に全く聞き覚えがなかったのはそういうわけだ。

 まあそれはともかく、ここに引用した彼の考え方には大いに共感した。今大事なのは夢より現実である。地球温暖化という世界的問題、異常気象や地震などの天災が頻発して災害列島と化した日本の現状、政治・経済・社会問題・悪化する一方の国民生活などの深刻な問題に全く対応できていない腐りきった政府。こういった現状を考えれば、富野由悠季の指摘は至極もっともである。

 そう思う一方で、確かに空を眺めて夢ばかり追っている場合ではない、今は足元をしっかりと見直すべきだというのは分かるが、夢がなくても良いのだろうかとも思う。夢があるから人は先に進めるのだし、現実が厳しいからこそ夢や希望が必要なのだ。富野由悠季は厳しい現状に対してもっと危機感を持てと警告しているのだろうが、夢は全く必要ないと言っているわけではないだろう。繰り返すが、目指すべき夢がなければ現状を乗り越えられないからだ。

 夢は前向きな面もあるが、その反面現実逃避の裏返しという側面もある。上ばかり見上げて歩いていて、すぐその先にある断崖に気づかなかったり、いつの間にかズブズブと泥沼に足を踏み入れていたりしては困る。かといって、いつも下ばかり向いて歩いていて、穴を埋めたり割れ目をふさいだりしてばかりでは息が詰まる。夢と現実をうまく組み合わせるためには、ありふれた言い方だが、結局足元をしっかりと踏み固めながら、前を向いて進む以外にないのではないか。時には足を止め、かがんで犬や猫の視点、あるいは小さな虫の視点で現実を見てみる。そしてまた前を向いて歩みだす。その時遠くばかりを見ていてはいけない。足元やすぐその先をよく見つめなくてはいけない。そして歩き疲れたら、足を止めて空を仰いで深呼吸する。その時広大な空と宇宙が目に入る。そして息が整ったら、また足元とその先を見つめて歩き出す。道なき荒野に道を開きながら。

 

2024年2月 3日 (土)

心に残る言葉たち その1 吉田ルイ子『ハーレムの熱い日々』より

 これまで新聞や雑誌、本などから心に残った文章をワードに打ち込んで記録してきました。精力的に映画評を書いていた頃頻繁に引用文を差しはさんでいたのは、これがあったからこそできたわけです。しかし記憶力が衰えて、映画を観た翌日にはどんな映画だったかほとんど覚えていないようになると、もう映画評は書けません。そうなるとこれまで書き溜めてきた膨大な量の引用文集も宝の持ち腐れです。
 それだったら、朝日新聞の「折々の言葉」の様にいっそシリーズ化して他の人たちにも共有してもらった方が良い。そう考えて新たに「心に残る言葉たち」というシリーズを立ち上げました。不定期の掲載ですが、次はどんな言葉と出会えるかと楽しみにしていただければ本望です。
 まず1回目はほぼ半世紀前に書かれた吉田ルイ子さんの名著『ハーレムの熱い日々』からの引用です。

 

 「南部の黒人は白人のザンパンを食べさせられていたんです。これも白人の食べない内臓を黒人がうまく料理する方法を見つけたんです。黒人だけの食べ物ソールフード(soul food)っていうんです。」(32)

 「私の大好きな西瓜、これもケントのお母さんの話では”ニガーの食べ物”だ。」(32)

 「それにハーレム独特の食べ物で、ハーレムにしかないもの、それはかき氷だ。」(33)

 「ハドソン河からイーストリバーまで、団地のすぐ傍らを走っている街路は、百二十五丁目といってハーレムの目抜き通り。洋服屋、靴屋、帽子屋、質屋などがやたらと多い。」(40)

 一体、ハーレムが怖いなどと誰が決めたのだろう。・・・
 ハーレムでも老人の酔っ払いはたくさん寝ていた。しかし、死にそうになっている病人を見たら、ハーレムの人たちはすぐに集まってきて、日かげに病人を連れていって手当てをする。それなのに、白人街では、こともあろうに警官が病人を見殺しにしているのだ。・・・
彼女(ケントのお母さん)は私が病気で寝ていた時、あの大きなお尻をのそのそと動かしながら、洗濯から掃除、料理までこまごまとやってくれた。そして何か欲しいものはないかと言って、パイナップル、グレープフルーツ、ココアなど、なんでも持って来てくれた。しまいには”おむすび”まで作ってくれようとするのだった。夜になっても、1時間おきに様子を見に来てくれて午前二時ごろまで側についていてくれた。
私は白人の女性も大勢知っているが、”お母さん”と言って甘えられるような温かさを感じさせる人は1人もいなかった。でも、ケントのお母さんをはじめ、ハーレムでつき合った女の人たちには、我がままを言っても、「ああ、よしよし」と大きな力で包んでくれるような温かさと寛容さを感じるのだった。」(89-92)

 それに、いかにもハーレムの建物らしいのは、エレベーターの扉が開くたびにちがった音楽が聞こえてくることだ。三階ではゴスペル、五階ではブルース、十二階でジャズ、十六階でリズムアンドブルース、そして二十階ではキューバンリズムというように。(p.12)

 ハーレムには私の好きなモダンジャズのクラブはなかった。ジャズはあまりにもクールになりすぎて、黒人社会から離れてしまったらしい。
と言っても、ジャズマンはハーレムに住んでいる。例えば、ピアノのセロニアス・モンクは猫と一緒に、小汚い路地の奥にあるがたぴし地下室に住んでいた。・・・
少し名前が出てくるとハーレムから出て白人社会に住むジャズマンが多いが、ウェイン(ウェイン・ショーター)はハーレムの人たちのことを”マイ・タイプ・オブ・ピープル”といって、ハーレムを離れようとしなかった。」(49-50)
吉田ルイ子『ハーレムの熱い日々』(昭和47年、講談社)

 

<コメント>
 「ソウル・フード」という言葉を考えると、言葉とはつくづく時代とともに変化してゆくものだと感じます。現代用語辞典『知恵蔵』には、「もともとソウルフードとは米国南部の黒人の伝統的な料理のことだが、特に2000年以降の日本ではソウル(魂、精神)との意味から派生し、各地特有の郷土料理などを指すことがほとんどとなっている」とあります。いわゆる和製英語の一つと考えていいでしょう。本来の「ソウル」は「ソウル・ミュージック」から来ていたのです。白人の残飯や白人が食べない部位を黒人が食べていたので「ソウル・フード」と呼ばれていたと聞いたら、今の若い人たちばかりか中年層もむしろびっくりするでしょうね。

 ニューヨークの黒人街ハーレムもかつては黒人が多くて危険な場所というイメージが一般にありました。しかしこれは白人の偏ったイメージをそのまま無批判的に受け入れていたことから広まったものでしょう。実際その中に飛び込んでみると、むしろ東京でいえば下町のような人情あふれる街だというのです。今はハーレムもだいぶ様変わりしてしまったようですが、言葉だけではなく街も変わってゆくわけです。その変わりゆく街のある時代を写真とともに記録する。写真家でありジャーナリストでもあった吉田ルイ子の業績は今も色あせない。

 エレベーターのドアが開くたびに違う音楽が聞こえてくるというくだりは何度か引用したことがあります。この本を読んで一番印象的だったのはこの文章です。その後にジャズは高級な音楽になりむしろ白人に好まれる音楽になってしまったというような文章があります。では黒人は何を聞いていたか。彼らはむしろソウルやR&Bを聞いていた。体をくねらせて妖艶に歌い踊るティナ・ターナーなどが大人気だったと確か書いてあったと思います。


<付記>
 吉田ルイ子さんは2024年5月31日に亡くなりました。冥福をお祈りします。

2024年2月 1日 (木)

先月観た映画 採点表(2024年1月)

「平和に生きる」(1947)ルイジ・ザンパ監督、イタリア ★★★★☆
「生きる LIVING」(2022)オリヴァー・ハーマナス監督、イギリス・日本 ★★★★☆
「トガニ 幼き瞳の告発」(2011)ファン・ドンヒョク監督、韓国 ★★★★☆
「イヌとイタリア人、お断り!」(2022)アラン・ウゲット監督、仏・伊・ベルギー・他 ★★★★☆
「ガザ 素顔の日常」(2019)ガリー・キーン、他、監督、アイルランド・カナダ・ドイツ ★★★★△
「英雄の証明」(2021)アスガー・ファルハディ監督、イラン・フランス ★★★★△
「コンフィデンシャル/共助」(2017)キム・ソンフン監督、韓国 ★★★★△
「怪しい彼女」(2014)ファン・ドンヒョク監督、韓国 ★★★★△
「さすらい」(1976)ヴィム・ヴェンダース監督、西ドイツ ★★★★△
「チャンス商会 ~初恋を探して~」(2015)カン・ジェギュ監督、韓国 ★★★★△
「ゴーストバスターズ/アフターライフ」(2020)ジェイソン・ライトマン監督、アメリカ ★★★★△
「アメリカの友人」(1977)ヴィム・ヴェンダース監督、西ドイツ・フランス ★★★★△
「壁あつき部屋」(1956)小林正樹監督、日本 ★★★★
「黒い司法 0%からの奇跡」(2019)デスティン・ダニエル・クレットン監督、アメリカ ★★★★
「不壊の白珠(ふえのしらたま)」(1929)清水宏監督、日本 ★★★★
「スター・トレック/叛乱」(1998)ジョナサン・フレイクス監督、アメリカ ★★★★
「ゴーストバスターズ」(1984)アイヴァン・ライトマン監督、アメリカ ★★★★
「Winny」(2022)松本優作監督、日本 ★★★★
「いつだってやめられる 7人の危ない教授たち」(2014)シドニー・シビリア監督、伊 ★★★★
「ストリート・オブ・ファイヤー」(1984)ウォルター・ヒル監督、アメリカ ★★★★
「隣人 -The Neighbors-」(2012)キム・フィ監督、韓国 ★★★★
「東京画」(1985)ヴィム・ヴェンダース監督、西ドイツ・アメリカ ★★★★▽
「ゴーストバスターズ2」(1989)アイヴァン・ライトマン監督、アメリカ ★★★★▽
「2」(1989)アイヴァン・ライトマン監督、アメリカ ★★★★▽
「映画 イチケイのカラス」(2023)田中亮監督、日本 ★★★☆
「サイコ・ゴアマン」(2020)スティーヴン・コスタンスキ監督、カナダ ★★★
「ある殺人事件 10年前の真実」(2016)ケヴィン・ストックリン監督、アメリカ ★★☆

 

 

主演男優
 5 ビル・ナイ「生きる LIVING」
   リュディガー・フォグラー「さすらい」
   マイケル・B・ジョーダン「黒い司法 0%からの奇跡」
   ブルーノ・ガンツ「アメリカの友人」
   パク・クニョン「チャンス商会 ~初恋を探して~」
   アルド・ファブリッツィ「平和に生きる」
   ユ・ヘジン「コンフィデンシャル/共助」
   ヒョンビン「コンフィデンシャル/共助」
   ハンス・ツィッシュラー「さすらい」
   アミール・ジャディディ「英雄の証明」
   ジェイミー・フォックス「黒い司法 0%からの奇跡」

 

主演女優
 5 シム・ウンギョン「怪しい彼女」
   ユン・ヨジョン「チャンス商会 ~初恋を探して~」
 4 八雲恵美子「不壊の白珠(ふえのしらたま)」

 

助演男優
 4 デニス・ホッパー「アメリカの友人」
   ジェラール・ブラン「アメリカの友人」
   パク・イナン「怪しい彼女」
   三井弘次「壁あつき部屋」
   ジーノ・ガヴェリエリ「平和に生きる」
   ヘインリッチ・ボーデ「平和に生きる」
   ガイ・ムーア「平和に生きる」

 

助演女優
 5 ナ・ムニ「怪しい彼女」
 4 チャン・ヨンナム「コンフィデンシャル/共助」

 

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