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2023年12月

2023年12月29日 (金)

悠遊雨滴(番外編:過去のエッセイ一覧)

 2023年12月 2日に「悠遊雨滴」シリーズの1回目を掲載しましたが、エッセイはそれ以前から折に触れて載せていました。画面左上にある「アーカイブ」欄の「映画レビュー以外の記事一覧」にすべてリストアップしてありますが、タイトルだけではエッセイかどうか分かりにくい上に、いくつかのカテゴリーに分散しているのでこの機会にこれまで書いたエッセイ一覧をまとめておくことにします。すべてリンクを張ってありますので、クリックすればその記事に飛びます。

 

近頃日本映画が元気だ 2005年8月28日
喫茶店考 2005年8月28日
茶房「読書の森」へ行く 2005年8月28日
道の向こうに何があるか 2005年8月28日
パニのベランダで伊丹十三を読みながら 2005年8月29日
ある陶芸家の話 2005年9月 1日
最近聞いたCDから 2006年1月 7日
久々にコレクターの血が騒いだ 2006年3月12日
庭のテラスで読書、至福の時 2006年5月5日
映画の小道具 2006年6月24日
蒼い時と黒い雲 2006年10月 9日
漂流するアメリカの家族 2007年2月18日
路地へ 2007年7月30日
シセルとディー・ディー・ブリッジウォーターに酔う 2007年10月 7日
『路地の匂い 町の音』 2007年12月21日
変貌著しい世界の映画 2009年5月 2日
コレクター人生 2020年7月13日
ピート・ハミルの訃報から思い浮かんだことなど~連想の波紋 20年8月7日
20年続いている読書会の愉しみ 20年9月3日
小説を読む楽しみ 2021年7月26日
ロシア侵攻前のキーウの様子を映し出した貴重な映像 「世界ふれあい街歩き ウクライナ キエフ」再放送 2022年7月2日
「白い道」、東京の下町訛り 2022年7月17日
なぜ映画を早送りで観るのか 2022年7月24日
「出没!アド街ック天国」の魅力 2022年8月 8日
おおたか静流さん追悼+テレビのCMソング 2022年9月 8日

 

悠遊雨滴 その3:小学生の時僕はバスに轢かれた

 実は小学生の時バスに轢かれたことがある。あの時も跳ね飛ばされた時にとっさに受け身の姿勢をとったのかどうかわからない。そもそも柔道を習う前か後かも今となっては確かめようもない。受け身との関係はともかく、この時はいくつもの幸運が重なって生還したのである。

 一番幸いだったのはバスだから道路とバスの底との隙間が大きいということ。バスに跳ね飛ばされた後、僕の真上でバスは止まった。小学生だからランドセルを背負っていたわけで、普通の車だったら引きずられていただろう。鼻をすりむくなんてことでは済まなかったはずだ。次に幸いだったのは、丁度左右のタイヤの真ん中で倒れたこと。どちらかにずれていたらタイヤの下敷きになっていた。轢かれた場所が交差点で、バスは交差点を右折してきたのでスピードは出ていなかったのも幸いした。バスだから大きく回転する。運転手にすれば突然右側から子供が飛び出してきたように見えただろう。信号は多分青から黄色になりかかった頃と思われる。無理をしなければ何もなかったわけだが、カバンを手に下げた銀行員のようなおじさんが横断歩道を渡り終えるくらいのタイミングだったので、自分も何とか渡れると思ったのだろう。だから無理に渡ろうとした自分が悪かったのである。

 それはともかく、いくつもの幸いが重なって、僕は奇跡的にかすり傷一つ負ってなかった。自分でバスの下からはい出て行ったくらいである。ふと上を見上げると、恐怖にひきつって真っ青な顔をしたバスの運転手がかがんでこっちを覗いていた。きっと生きた心地がしなかっただろう。あの時の運転手さん、ごめんなさい。

 バスから這い出ると、僕はどこも痛くないから学校へ行くと言った。そのころには何人もの大人が集まってきていて、頭を打っているかもしれないからお医者さんに診てもらった方が良いと引き留められた。仕方がないのでしぶしぶ病院へ行った。今度は連絡を受けた母親がこれまた真っ青な顔で病院に飛んできた。電話で特に怪我はしていないようだから安心してくださいと言われたに違いないが、息子がバスに轢かれたと言われた時点でもうそれ以外の言葉は耳に入っていなかっただろう。自分の目で見て無事を確認するまでは安心できなかったに違いない。

 特に異常はないと病院で言われたのだと思うが、安全のためにその日は学校を休んだ。翌日は元気に登校した。もう半世紀以上前のことだが、今でも時々思い出すことがある。それが意外なところで話題になってしまった。今年の秋に小学校6年のクラス会があった。大学生の頃に1度やったきりだから、ほぼ半世紀ぶりだった。その時幹事の一人から、あの後事故があった交差点に歩道橋ができたのはお前の事故がきっかけだったと言われた。全く知らなかったのでびっくりした。本当のことだろうか。なんで当事者が知らないんだ。そう思ったが、いい酒の肴にされてすっかりそういうことになってしまっていた。

 2次会の後解散したが、二次会の会場の近くにその交差点があった。これが「俺の」歩道橋で、轢かれたのはあのあたりだと説明すると、誰かが今度マジックで**歩道橋と書いておくよと言い出した。「頼むからそれだけはやめてくれ」と慌てて言った。そして件の横断歩道を渡って帰っていったが、まさかあの後本当に書いたりしていないだろうなあ。

悠遊雨滴 その2:受け身の効用

 小学生のころ一時期柔道教室に通っていた。どうして柔道を習おうと思ったのか覚えていないが、おそらく友達に誘われたのだろう。なぜ一時期しかやらなかったかと言えば、その理由は単純。ひたすら受け身の練習ばかりさせられて、ほとんど組ませてもらえないのでつまらなくなってやめてしまったのである。

 当時はまだ子供だったのでどうして受け身ばかりやらされるのか理解できなかった。しかし何事も基礎練習に無駄なことはない。後年あの時受け身をしっかり習っておいて良かったと思うことが度々あった。受け身を身に付けることの一番の効用は怪我を防げるということである。とっさに受け身が出るほど叩き込まれたことが後々非常に役に立った。例えば躓いて転んだ時に、どう対応するか頭で考えていたのでは間に合わない。危ないと思った瞬間とっさに受け身の体制に入れるくらい身についているから怪我を防げるのである。頭で考えるのではなく、体で覚えさせるためにあれほどしつこく練習させられたのだ。

 実際とっさに出た受け身が体を守ってくれた経験は何度もある。まだスキーをやり始めたころ。初心者向きの林間コースを滑っていた時、止まろうとしても止まらなくなってしまった。体が後傾姿勢になっているのでスキー板に力が伝わらない。だから止まろうと思っても止まれない。転べばいいのだろうが、次第に勢いがついてどんどんスピードが出てくるのでなおさら止まらない。コースの幅も狭いのでとにかくその時出来たのはできるだけ左右に曲がって直滑降にならないようにすることだけだった。

 ようやく広いゲレンデに出てほっとしたが、それもつかの間。はっきりとは見えにくいがその先が少しうねっていた。そのうねっている所の頂点で飛んだ!初心者がいきなりジャンプしたのだからたまらない。そのままつんのめるようにして大転倒。しばらく何が起こったのか理解できなかった。立ち上がって体を調べてみると、幸いまったく怪我はしていなかった。どこも捻ったり打ったりしていなかった。それで落ち着いて、やっと周りを見渡す余裕ができた。自分でも目を疑ったが、四方八方に身につけていたものが飛び散っている。正確には憶えていないので例えばの話だが、スキー板は左右別々の方に転がり、帽子は右後方、サングラスは左前方。スティックも左右泣き別れ。なんと片方の手袋まで取れている。一体何がどうなれば手袋まで取れるのか、その時不思議に思ったほどだ。それでいて体は全く怪我なし。どうやら着地した瞬間板が外れ、その後とっさに体を丸めて2、3回前転をするように転がったと思われる。

 転がることで衝撃を和らげる。これが受け身の効用である。何が起こったのか自分でもよく覚えていないくらいの瞬間的な出来事だった。体が勝手に反応して体を丸めたから怪我をしないで済んだわけだ。その後はずれたもの、脱げたものを全部拾い集めて、何事もなかったかのようにスキーを続けた。不思議に恐怖心も残らなかった。そこまでの大転倒は1度きりだが、その後も何回かスキー板が外れるほどの転倒をしたことがある。しかし一度もけがをしたことはない。毎回起き上がってすぐまた滑り出した。とっさに体を丸めるという無意識の反応が柔道をやめた後もずっと身についていたおかげだ。

 他にもこんな経験がある。東京にいた頃は調布市に住んでいたが、下宿のすぐ横を野川が流れていた。その川沿いの遊歩道を散歩していた時、錦鯉のようなものが川にいるのを発見。緑色の鉄柵を乗り越えて川まで下りて眺めた。間違いなく錦鯉だった。普通川に錦鯉がいるはずはない。誰かが放ったか、大雨の時にでも流れ込んだのだろう。ひとしきり眺めた後、土手を上ってまた柵を乗り越えようとした。片足を柵にのせ、もう一方の足を引き上げようとしたその時、土手の草が濡れていたのか靴底が濡れて滑りやすくなっていて足を滑らした。地面と体が平行な状態でまっすぐ下に落下。遊歩道側に落ちたが、そこは舗装されている。しかし手のひらを軽く擦りむいたりはしたかもしれないが、まったく怪我はしなかった。腰などを打ったりもしていない。これもとっさの出来事だったので何がどうなったのか覚えていないが、たぶん左側が下になる状態で落下したので、地面に落ちる直前に左手と左足を地面に軽くついて、それを支点にコロッと横に回転したのだと思う。落下の衝撃を回転力に変える。まさに受け身の原理そのもの。

 そんな経験を何度もして、柔道教室に通っていた時あれほどしつこく受け身の練習をさせられた意味がそこにあったのだとようやく気が付いた。もう10年くらい前か、躓いて転んだ時とっさに手が前に出なくてそのままの姿勢で倒れるので、鼻を打つ人が少なくないということを新聞で読んだことがある。信じられなかった。せめて手を出すぐらいのことがどうしてできなかったのか。それも手を突っ張っていては手に衝撃が集中するから、ひじを少し曲げて衝撃を吸収できるようにする。できれば回転する。なぜそんな簡単なことができないのか不思議に思ったが、とっさに体が反応できなければきっとそうなるのだろう。このままでは危ないと頭では分かっていても、とっさに体が対応できないから怪我をする。そういうことなのだろう。

 

 

2023年12月27日 (水)

これから観たい&おすすめ映画・BD(24年1月)

【新作映画】公開日
12月15日
 「未帰還の友に」(2023)福間雄三監督、日本
12月22日
 「ファースト・カウ」(2019)ケリー・ライカート監督、アメリカ
12月29日
 「宝くじの不時着 一等当選くじが飛んでいきました」(2022)パク・ギュテ監督、韓国
 「ブルーバック あの海を見ていた」(2022)ロバート・コノリー監督、オーストラリア
1月2日
 「映画 ◯月◯日、区長になる女。」(2024)ペヤンヌマキ監督、日本
1月5日
 「コンクリート・ユートピア」(2023)オム・テファ監督、韓国
 「シャクラ」(2022)ドニー・イェン監督、香港・中国
 「ミツバチと私」(2023)エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督、スペイン
 「笑いのカイブツ」(2023)滝本憲吾監督、日本
1月12日
 「弟は僕のヒーロー」(2019)ステファノ・チバーニ監督、イタリア・スペイン
 「ある閉ざされた雪の山荘で」(2024)飯塚健監督、日本
 「燈火(ネオン)は消えず」(2022)アナスタシア・ツァン監督、香港
 「葬送のカーネーション」(2022)ベキル・ビュルビュル監督、トルコ・ベルギー
 「ビヨンド・ユートピア 脱北」(2023)マドレーヌ・ギャヴィン監督、アメリカ
 「ニューヨーク・オールド・アパートメント」(2020)マーク・ウィルキンズ監督、スイス
1月13日
 「ガザ・サーフ・クラブ」(2016)フィリップ・グナート、他、監督、ドイツ
1月19日
 「サン・セバスチャンへ、ようこそ」(2020)ウディ・アレン監督、スペイン・米・伊
 「僕らの世界が交わるまで」(2022)ジェシー・アイゼンバーグ監督、アメリカ
 「ゴールデンカムイ」(2024)久保茂昭監督、日本
1月26日
 「哀れなるものたち」(2023)ヨルゴス・ランティモス監督、イギリス
 「コット、はじまりの夏」(2022)コルム・バレード監督、アイルランド

 

【新作DVD・BD】レンタル開始日(ネット配信日は各映像配信サービスによりまちまちです)
12月22日
 「独裁者たちのとき」(2022)アレクサンドル・ソクーロフ監督、ロシア・ベルギー
 「猫と、とうさん」(2022)マイ・ホン監督、アメリカ
 「コンフィデンシャル:国際共助捜査」(2022)イ・ソクフン監督、韓国
1月1日
 「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」(2022)金子由里奈監督、日本
1月10日
 「aftersun/アフターサン」(2022)シャーロット・ウェルズ監督、イギリス・アメリカ
 「私、オルガ・ヘブナロヴァー」(2016)トマーシュ・ヴァインレプ、他、監督、チェコ、他
 「アイスクリームフィーバー」(2023)千原徹也監督、日本
 「キングダム 運命の炎」(2023)佐藤信介監督、日本
 「PATHAAN / パターン」(2023)シッダールト・アーナンド監督、インド
1月12日
 「658㎞、陽子の旅」(2023)熊切和嘉監督、日本
1月17日
 「イノセンツ」(2021)エスキル・フォクト監督、ノルウェー・デンマーク・フィンランド・他
 「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」(2023)うケネス・ブラナー監督、アメリカ
1月24日
 「花椒(ホアジャオ)の味」(2019)ヘイワード・マック監督、中国・香港
2月2日
 「インスペクション ここで生きる」(2022)エレガンス・ブラットン監督、アメリカ
 「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」(2019)デヴィッド・ミデル監督、アメリカ
 「それでも私は生きていく」(2022)ミア・ハンセン・ラヴ監督、フランス
 「ダンサー イン Paris」(2022)セドリック・クラピッシュ監督、フランス ・ベルギー
 「ハント」(2022)イ・ジョンジェ監督、韓国
 「ひかり探して」(2020)パク・チワン監督、韓国
 「恋人はアンバー」(2020)デヴィッド・フレイン監督、アイルランド・英・米・ベルギー
 「ふたりのマエストロ」(2022)ブリュノ・シッシュ監督、フランス
 「フラッシュオーバー 炎の消防隊」(2023)オキサイド・バン監督、中国
2月7日
 「ザ・クリエイター/創造者」(2023)ギャレス・エドワーズ監督、アメリカ
 「バイオレント・ナイト」(2022)トミー・ウィルコラ監督、アメリカ

 

【旧作DVD・BD】発売日
12月22日
 「攻撃」(1956)ロバート・アルドリッチ監督、アメリカ
 「ラ・マルセイエーズ」(1938)ジャン・ルノワール監督、フランス
12月25日
 「街は自衛する」(1951)ピエトロ・ジェルミ監督、イタリア
1月12日
 「冬の旅」(1985)アニエス・ヴァルダ監督、フランス
 「ロベール・ブレッソン『バルタザールどこへ行く』『少女ムシェット』」(1964, 1967)フランス
1月17日
 「裸のランチ」(1991)デヴィッド・クローネンバーグ監督、イギリス・カナダ
1月24日
 「カラー・パープル」(1986)スティーヴン・スピルバーグ監督、アメリカ
1月26日
 「シャンタル・アケルマン Blu-ray BOX Ⅲ」(1976, 1982, 1986)ベルギー・スイス、他
  収録作品:「家からの手紙」「一晩中」「ゴールデン・エイティーズ」
1月31日
 「オタール・イオセリアーニBlu-ray BOX Ⅲ」(1994-2015)グルジア・ロシア
  収録作品:「唯一、ゲオルギア」「月曜日に乾杯!」「ここに幸あり」「汽車はふたたび故郷へ」、他
2月9日
 「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督傑作選 Blu-ray BOX」(1972, 1974, 1979)
  収録作品:「不安は魂を食いつくす」「マリア・ブラウンの結婚」「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」
2月14日
 「金持ちを喰いちぎれ」(1987)ピーター・リチャードソン監督、イギリス
2月14日
 「世にも怪奇な物語」(1967)ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ監督 

*色がついているのは特に注目している作品です。

 

 

2023年12月 2日 (土)

悠遊雨滴 その1

 以前から何か軽いエッセイをブログに書きたいと思っていた。朝日新聞の「三谷幸喜のありふれた生活」、伊藤理佐と益田ミリが交代で書いている同名のエッセイ「オトナになった女子たちへ」、「山田洋次 夢をつくる」などを愛読しているので、自分も何かそんな感じのエッセイを書きたいと思っていたのである。22年7月に「『白い道』、東京の下町訛り」という記事を書いたのもそういう思いからだが、その後がなかなか続かない。しかしもっと肩の力を抜いて、日々感じたことを気軽に書いてみるぐらいの気持ちでまずは書き始めてみることにした。いずれは毎週1回定期的に書けるようになりたいと思っているが、まずは思い立ったときにとにかく書いてみることから始めようと思う。

 そのためには何かタイトルが必要なので、あれこれ思いつくまま候補を書き留めてみた。「独言独語」、「妄想妄語」、「夢想庵のひとりごと」などいろいろ考えたが、結局「悠遊雨滴」にした。仕事を退職し悠々自適の生活をしているので(年金だけしか収入がないので、つましい生活を余儀なくされてはいるが)、それをもじってみた。構えず悠々とし、遊び心を失わず、水滴が石を穿つように気長に続けてみようという意味を込めている。

* * * * * * * * *

 まず1回目は失敗談から。先日歯医者へ行った。当然歯医者の駐車場に車を停めるわけだが、途中うっかりして、いつもの習慣で手前の「イオン」の駐車場に入ってしまった。まあどうせ歯医者の後はここで買い物をするつもりだったので、いっそここに車を停めてしまえ。そう思ってそこに車を置いて、歯医者まで歩いて行った。ところが予約時間は3時だと思いこんでいたが実際は3時30分でまだ早いと窓口で言われる。待つ間本が読めるのでむしろ好都合、受付の人にはここで待ちますと伝えた。早速古賀太さんの『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』をバッグから取り出して読み始める。しかしどうもページが薄暗いし、ピントが合わなくて字が読みにくい。そこではっと気が付いた。サングラスをかけたままだった!その日は雲一つない上田晴れで、日差しが強いので車を運転するときにサングラスをかけていたことを忘れていた。しかし本来の眼鏡(これは遠近両用)は車の中。仕方がないのでまた歩いて「イオン」の駐車場へ戻る。また歩くのも面倒なので、今度はそのまま車で歯医者へ戻った。

 その後はじっくり本を読んだ。『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』(集英社新書)はイタリア映画史をコンパクトにまとめた本で、新書版だから分かりやすい。実は、かつてフランスと並ぶヨーロッパの映画大国だったイタリアがどうしてこうも衰退してしまったのか、かねてから疑問だった。その理由が分かるかと思って買ったのだが、それ以外のところ、例えばほとんど一般には知られていないイタリア映画の黎明期の話から、ネオリアリズモ以前の話など、知らなかったことだらけで面白い。ネオリアリズモの前あたりから一気に慣れ親しんだ名前がどんどん出てくる。なじみの作品がたくさん出てくるが、これだけ整理されてまとめられると理解しやすい。今80年代ごろまで来たので、これからいよいよ不振期に入ってゆく。どう分析されているか、どこまで納得のゆく説明がされているか楽しみだ。ということで結果オーライだったが、それにしても3重の失敗に我ながらあきれる。まあもう年だからこんなことは珍しくはないが。むしろ、たっぷり本を読む時間ができた上に多少の運動にもなったので良かったと思う。

 最後に余談だが、この本に名前が出てくる作品(特に名作、傑作と呼ばれる作品)はほとんど観ている。それでもネオリアリズモ以前の古いものはなかなか観る機会もなかったわけだが、今はかなり手に入りやすくなっている。コスミック出版から出ているCD10枚組で1800円というシリーズが容易に手に入るのだ。1枚180円!しかもリマスターされているので映像は鮮明だ。映像がきれいで、この安さで、しかも貴重な作品が盛りだくさん。買わない手はない。

 そのシリーズの中には「イタリア映画コレクション」と題する特集がいくつも含まれている。今のところ「2ペンスの希望 DVD10枚組」(以後「DVD10枚組」は略す)、「ミラノの奇跡」、「越境者」、さらには「3大巨匠名作集」(ロッセリーニ、デ・シーカ、ヴィスコンティ)を持っている。よく調べてみると他にも「殿方は嘘吐き」、「人生は素晴らしい」、「十字架の男」、「栄光の日々」もあり、いずれ全部買いそろえる予定である。これを全部揃えれば、『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』に出てきて名前だけ知っている古い作品もかなり埋まることだろう。今からワクワクしている。

 

<付記>
 『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』を最後まで読んだ。残念ながら、なぜあれほど栄えたイタリア映画が見る影もなく衰退してしまったのかという疑問に対する納得のゆく説明は結局なかった。イタリア国内の観客数が減ったなどの現象は書かれていても、なぜそうなったのか、それに対してどのような手を打ったのかについての深い分析はない。どういう新しい監督が登場し、どういう作品を作ったかが並べられるばかりだ。

 テレビの普及で映画の観客が減ったのは何もイタリアに限らない、当時はどこの国でも同じように苦戦していた。しかし様々な努力や工夫をして90年代以降、特に21世紀に入ってから盛り返している国は(日本も含めて)少なくない。アメリカもかつての勢いはないが、イタリア映画ほどの激しい落ち込み様ではなく、それなりに一定の水準を保ってはいる。1976年に文革が終わった中国は80年代に息を吹き返し、次々と傑作を放ち世界の最高水準に並ぶ映画大国になった。スペイン内戦でファシストが勝利して以来長い間スペイン映画の歴史は検閲との戦いだった。しかし1975年に独裁者フランコが死んだ後、80年代にスペイン映画はルネッサンス期を迎え世界中の映画祭で次々に賞を取るようになった。ナチス台頭期に才能のあるユダヤ人や反ナチの映画人が大量に外国にのがれ、1920年代に世界でトップクラスの地位にあったドイツ映画はその後見る影もなく衰退していった。それが70年代から80年代にかけて新たな才能が続々台頭してきて、ニュー・ジャーマン・シネマと言われて一気に世界の第一線級に躍り出た。

 デヴィッド・リーンやキャロル・リード監督など多くの巨匠を産んだイギリス映画界も60年代から退潮傾向が目立ち、70年代から80年代はどん底だった。80年代に首相を務めたサッチャーは新自由主義経済を導入し、かつて「ゆりかごから墓場まで」と言われた福祉国家を弱肉強食の競争国家に変えてしまった。長期低落傾向にあった経済は国家補償を削り自己努力を奨励する競争社会(イギリスはまさにリトル・アメリカと化した)に改造することで上向きになったが、貧富の差は拡大した。90年にサッチャーが退いた後、イギリスの映画人たちはとんでもない格差社会になった現状を批判的に描き出し、かつての巨匠の時代に匹敵する活況を90年代に取り戻した。長い歴史を持つ韓国映画界も国家によるテコ入れで1990年代から傑作が現れ始めた。とりわけアメリカで映画を学んできた人たちが韓国で次々とすぐれた作品を作り始めた2000年以降に絶頂期を迎える。

 1980年代から、それまで映画を作っていたとは思いもしなかった国々の映画がどっと日本で公開されるようになってきた。2000年代に入ってその傾向は加速している。今や世界の様々な国の映画が観られるようになっている(しかもその水準はかなり高い)。女性監督も世界中で進出しており、世界映画の水準を押し上げる原動力の一つとなっている。

 イタリアもそれなりに作品は作っており、注目すべき作品もいくつか生まれてはいるが、60年代までの勢いや作品水準とは比べるべくもない(実際、『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』の冒頭で、著者自身も「映画大国イタリア」という言い方に驚く読者も多いだろうと書いている)。一体イタリアの映画産業に何が起こっていたのか。減ってゆく観客を呼び戻すためにイタリアの映画産業はどのような努力や工夫をし、国の文化政策は映画産業に対してどのような支援・援助をしてきたのか。またそれがどうしてあまり実を結ばないのか。そういった一番知りたいことにはほとんど言及されていない。イタリア映画衰退の謎はいまだ解明されていない。

 

2023年12月 1日 (金)

先月観た映画 採点表(2023年11月)

「福田村事件」(2023)森達也監督、日本 ★★★★☆
「ちいさな独裁者」(2017)ロベルト・シュヴェンケ監督、独・仏・ポーランド ★★★★☆
「デッドマン」(1995)ジム・ジャームッシュ監督、アメリカ ★★★★☆
「コーヒー&シガレッツ」(2003)ジム・ジャームッシュ監督、アメリカ ★★★★☆
「時の支配者」(1982)ルネ・ラルー監督、仏・スイス・西独・英・ハンガリー ★★★★☆
「ボイリング・ポイント/沸騰」(2021)フィリップ・バランティーニ監督、イギリス ★★★★△
「ヒトラーと戦った22日間」(2018)コンスタンチン・ハベンスキー監督、露・独・他 ★★★★△
「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」(2022)オレシャ・モルグネツ=イサイェンコ監督、ウクライナ・他 ★★★★△
「波紋」(2022)荻上直子監督、日本 ★★★★△
「都会のアリス」(1973)ヴィム・ヴェンダース監督、西ドイツ ★★★★△
「悪魔の世代」(2021)エミリス・ヴェリヴィス監督、エストニア ★★★★△
「キングメーカー 大統領を作った男」(2021)ピョン・ソンヒョン監督、韓国 ★★★★△
「エル プラネタ」(2021)アマリア・ウルマン監督、アメリカ・スペイン ★★★★△
「スウィート・シング」(2020)アレクサンダー・ロックウェル監督、アメリカ ★★★★△
「眠れぬ夜のカルテ」(2014)レスト・チェン監督、中国 ★★★★△
「海と毒薬」(1986)熊井啓監督、日本 ★★★★△
「大きな鳥と小さな鳥」(1966)ピエル・パオロ・パゾリーニ監督、イタリア ★★★★△
「イン・ハー・シューズ」(2005)カーティス・ハンソン監督、アメリカ ★★★★△
「Single8」(2022)小中和哉監督、日本 ★★★★△
「犯罪心理分析官」(2017)シエ・トンシェン監督、中国 ★★★★△
「20世紀ノスタルジア」(1997)原将人監督、日本 ★★★★
「グッドナイト・ムーン」(1998)クリス・コロンバス監督、アメリカ ★★★★
「パリ13区」(2021)ジャック・オーディアール監督、フランス ★★★★
「種まく旅人 ~みのりの茶~」(2011)塩屋俊監督、日本 ★★★★
「銀座カンカン娘」(1948)島耕二監督、日本 ★★★★
「イレイザーヘッド」(1976)デヴィッド・リンチ監督、アメリカ ★★★★
「銀河鉄道の父」(2023)成島出監督、日本 ★★★★▽
「冬薔薇」(2022)坂本順治監督、日本 ★★★☆
「最愛の夏」(1999)チャン・ツォーチ監督、台湾 ★★★☆
「ミラベルと魔法だらけの家」(2021)バイロン・ハワード、ジャレド・ブッシュ監督、米 ★★★
「映画 ST赤と白の捜査ファイル」(2015)佐藤東弥監督、日本 ★★


主演男優
 5 ジョニー・デップ「デッドマン」
   マックス・フーバッヒャー「ちいさな独裁者」
   トム・ウェイツ「コーヒー&シガレッツ」
   イ・ソンギュン「キングメーカー 大統領を作った男」
   ソル・ギョング「キングメーカー 大統領を作った男」
   イギー・ポップ「コーヒー&シガレッツ」
   コンスタンチン・ハベンスキー「ヒトラーと戦った22日間」
   シュー・ジェン「眠れぬ夜のカルテ」
   リャオ・ファン「犯罪心理分析官」
   陣内孝則「種まく旅人 ~みのりの茶~」
   トト「大きな鳥と小さな鳥」
   スティーヴン・グレアム「ボイリング・ポイント/沸騰」
 4 渡辺謙「海と毒薬」
   奥田瑛二「海と毒薬」

主演女優
 5 ケイト・ブランシェット「コーヒー&シガレッツ」
   ヤナ・コロリョーヴァ「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」
   アマリア・ウルマン「エル プラネタ」
   筒井真理子「波紋」
   スーザン・サランドン「グッドナイト・ムーン」
   トニ・コレット「イン・ハー・シューズ」
 4 カレン・モク「眠れぬ夜のカルテ」
   ラナ・ロックウェル「スウィート・シング」
   広末涼子「20世紀ノスタルジア」
   田中麗奈「福田村事件」
   キャメロン・ディアス「イン・ハー・シューズ」
   田中麗奈「種まく旅人 ~みのりの茶~」
   ルーシー・チャン「パリ13区」

助演男優
 5 ランス・ヘリクセン「デッドマン」
 4 ゲイリー・ファーマー「デッドマン」
   菅田将暉「銀河鉄道の父」
   光石研「波紋」

助演女優
 5 シャーリー・マクレーン「イン・ハー・シューズ」
   ヴィネット・ロビンソン「ボイリング・ポイント/沸騰」
 4 岸田今日子「海と毒薬」
   アレ・ウルマン「エル プラネタ」

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