こんなに多いとは!これがこのリストを作ったときの率直な感想である。正直これ程長大なリストになるとは全く予想していなかった。フランス映画とドイツ映画が圧倒的に多いし、日本も健闘している。しかし、リストを見てもらえば一目瞭然だが、優れた女性監督は世界中にいる!とりわけ2000年代に入ってから激増している。このことは女性の社会進出と決して無関係ではない。もはや珍しいなんてレベルはとうに超え、今や世界の映画の水準を引き上げる重要な担い手になっていると言っても過言ではない。
このリストを作ろうと思ったきっかけは、岩波ホールの元総支配人であった高野悦子さんの『私のシネマライフ』の最終章に載っている岩波ホールで上映した女性監督作品のリストを見たことである。この時点で強調されていたのは女性監督が男社会である映画製作に割り込んでゆくのがいかに大変だったかということである。大変なのは今でも変わらないだろうが、しかしここ20年の激増ぶりを見れば、もはや誰も彼女たちの勢いを止めることはできないことが分かるだろう。女性監督が増えるということは女性ならではの視点から作られた映画が増えるということであり、それは世界のとらえ方がより豊かに、より多様になるということである。映画は娯楽であるが、文化でもある。世界の人口の半分は女性なのだから、これは世界の文化をより豊かに、より多様に、よりしなやかにすることにつながる。歓迎すべきことだ。
最後にもう一度上記の岩波ホール上映作品リストに触れたい。そのリストに挙げられている作品のうち観ていない作品がかなりある。それらは今観ようとしてもなかなか観られない作品である。中でも残念なのは、羽田澄子監督と宮城まり子監督作品を1本も観ていないことである。東京にいるときに観ることができた作品も多いのだが、なぜか観に行かなかった。ずっと気にはなっていたのだが、今となっては自分でも観に行かなかった理由が分からない。女性監督の作品だからということでないことは確かだ。おそらくそのころはまだドキュメンタリー作品にあまり関心がなかったということではないか。まあ理由はともかく、彼女たちの作品はDVDやBDでは手に入らない。映画館などで観る機会もまずない(東京ならあるかもしれないが、地方の小都市在住ではまず無理だ)。DVDやBDが出ていないということは、ネット配信でも観られないということである。世界中の映画が観られる国は少なく、日本とフランスはこの点では飛び抜けて恵まれている。それでもなかなか観る機会がない作品はまだまだある。公開時に見逃していても、何らかの手段で後からでも観られるというようになってほしいものだ。
<付記>
日本映画界のジェンダー格差と労働環境の調査をしてきた一般財団法人Japanese Film Project(JFP)の23年度の調査結果によれば、22年に劇場公開された613本のうち女性監督は68人(11%)で前年より1%減っているとのこと。2000年以前より増えてきてはいるものの、まだまだ大きなジェンダー格差があることは明確だ。
【おすすめの女性監督映画】
「劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~」(2023)松木彩監督、日本
「バカ塗りの娘」(2023)鶴岡慧子監督、日本
「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」(2022)オレシャ・モルグネツ=イサイェンコ監督、ウクライナ・ポーランド
「ザリガニの鳴くところ」(2022)オリヴィア・ニューマン監督、アメリカ
「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」(2022)マリア・シュラーダー監督、米
「波紋」(2022)荻上直子監督、日本
「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」(2022)ヘティ・マクドナルド監督、イギリス
「PLAN 75」(2022)早川千絵監督、日本・フランス・フィリピン・カタール
「マイスモールランド」(2022)川和田恵真監督、日本
「よだかの片思い」(2022)安川有果監督、日本
「いとみち」(2021)横浜聡子監督、日本
「エル プラネタ」(2021)アマリア・ウルマン監督、アメリカ・スペイン
「オマージュ」(2021)シン・スウォン監督、韓国
「川っぺりムコリッタ」(2021)荻上直子監督、日本
「ザ・クロッシング」(2021)フローランス・ミアイユ監督、仏・チェコ・独
「シスター 夏のわかれ道」(2021)イン・ルオシン監督、中国
「ドライビング・バニー」(2021)ゲイソン・サヴァット監督、ニュージーランド
「朝が来る」(2020)河瀬直美監督、日本
「サンドラの小さな家」(2020)フィリダ・ロイド監督、アイルランド・イギリス
「すばらしき世界」(2020)西川美和監督、日本
「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」(2020)ニーシャ・ガナトラ監督、米・英
「ノマドランド」(2020)クロエ・ジャオ監督、アメリカ
「浜の朝日の嘘つきどもと」(2020)タナダユキ監督、日本
「息子の面影」(2020)フェルナンダ・バラデス監督、メキシコ・スペイン
「カセットテープ・ダイアリーズ」(2019)グリンダ・チャーダ監督、イギリス
「金の糸」(2019)ラナ・ゴゴベリーゼ監督、ジョージア・フランス
「夏時間」(2019)ユン・ダンビ監督、韓国
「名もなき歌」(2019)メリーナ・レオン監督、ペルー・スペイン・アメリカ
「82年生まれ、キム・ジヨン」(2019)キム・ドヨン監督、韓国
「パピチャ 未来へのランウェイ」(2019)ムニア・メドゥール監督、仏・アルジェリア・他
「ぶあいそうな手紙」(2019)アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督、ブラジル
「フェアウェル」(2019)ルル・ワン監督、アメリカ
「ペトルーニャに祝福を」(2019)テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督、北マケドニア・仏・ベルギー・クロアチア・スロヴェニア
「花椒(ホアジャオ)の味」(2019)ヘイワード・マック監督、中国・香港
「マルメロの伝言」(2019)クリスティナ・グロゼヴァ、ペタル・ヴァルチャノフ監督、ブルガリア
「マロナの幻想的な物語り」(2019)アンカ・ダミアン監督、仏・ルーマニア・ベルギー
「娘は戦場で生まれた」(2019)ワアド・アル=カティーブ、エドワード・ワッツ監督、英・シリア
「モロッコ、彼女たちの朝」(2019)マリヤム・トゥザニ監督、モロッコ・仏・ベルギー
「やすらぎの森」(2019)ルイーズ・アルシャンボー監督、カナダ
「ライド・ライク・ア・ガール」(2019)レイチェル・グリフィス監督、オーストラリア
「ワース 命の値段」(2019)サラ・コランジェロ監督、アメリカ
「レイトナイト 私の素敵なボス」(2019)ニーシャ・ガナトラ監督、アメリカ
「あなたの名前を呼べたなら」(2018)ロヘナ・ゲラ監督、インド・フランス
「さよならの朝に約束の花をかざろう」(2018)岡田麿里監督、日本
「存在のない子供たち」(2018)ナディーン・ラバキー監督、レバノン・フランス
「はちどり」(2018)キム・ボラ監督、韓国
「バハールの涙」(2018)エヴァ・ユッソン監督、仏・ベルギー・ジョージア・スイス
「マイ・ブックショップ」(2018)イザベル・コイシェ監督、スペイン・英・独
「淪落の人」(2018)オリヴァー・チャン監督、香港
「顔たち、ところどころ」(2017)アニエス・ヴァルダ、JR監督、フランス
「彼らが本気で編むときは、」(2017)荻上直子監督、日本
「デトロイト」(2017)キャスリン・ビグロー監督、アメリカ
「光」(2017)河瀬直美監督、日本
「ブレッドウィナー」(2017)ノラ・トゥーミー監督、アイルランド・カナダ・ルクセンブルク
「マルリナの明日」(2017)モーリー・スルヤ監督、インドネシア・仏・マレーシア・タイ
「レディ・バード」(2017)グレタ・ガーウィグ監督、アメリカ
「生きうつしのプリマ」(2016)マルガレーテ・フォン・トロッタ監督、ドイツ
「お父さんと伊藤さん」(2016)タナダユキ監督、日本
「サーミの血」(2016)アマンダ・シェーネル監督、スウェーデン・ノルウェー・他
「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(2016)アシュリング・ウォルシュ監督、カナダ・アイルランド
「永い言い訳」(2016)西川美和監督、日本
「あん」(2015)河瀬直美監督、日本・フランス・ドイツ
「92歳のパリジェンヌ」(2015)パスカル・プザドゥー監督、フランス
「MERU/メルー」(2015)ジミー・チン、エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ監督、アメリカ
「オンネリとアンネリのおうち」(2014)サーラ・カンテル監督、フィンランド
「グローリー/明日への行進」(2014)エヴァ・デュヴァネイ監督、アメリカ
「さいはてにて ~やさしい香りと待ちながら~」(2014)チアン・ショウチョン監督、日本
「サンダルウッドの記憶」(2014)マリア・リポル監督、スペイン・インド・フランス
「シアター・プノンペン」(2014)ソト・クォーリーカー監督、カンボジア
「しあわせへのまわり道」(2014)イザベル・コイシェ監督、アメリカ
「娘よ」(2014)アフィア・ナサニエル監督、パキスタン・アメリカ・ノルウェー
「はじまりは5つ星ホテルから」(2013)マリア・ソーレ・トニャッツィ監督、イタリア
「花咲くころ」(2013)ナナ・エクフティミシュヴィリ、ジモン・グロス監督、ジョージア・独・仏
「パプーシャの黒い瞳」(2013)ヨアンナ・コス&クシシュトフ・クラウゼ監督、ポーランド
「白夜のタンゴ」(2013)ヴィヴィアーネ・ブルーメンシャイン監督、アルゼンチン・他
「0.5ミリ」(2013)安藤桃子監督、日本
「愛さえあれば」(2012)スサンネ・ビア監督、デンマーク
「カンタ!ティモール」(2012)広田奈津子監督、日本
「さよなら、アドルフ」(2012)ケイト・ショートランド監督、オーストラリア・独・英
「少女は自転車にのって」(2012)ハイファ・アル=マンスール監督、サウジアラビア・独
「ハンナ・アーレント」(2012)マルガレーテ・フォン・トロッタ監督、独・仏・他
「マダム・イン・ニューヨーク」(2012)ガウリ・シンデー監督、インド
「もうひとりの息子」(2012)ロレーヌ・レヴィ監督、フランス
「おじいちゃんの里帰り」(2011)ヤセミン・サムデレリ監督、ドイツ・トルコ
「かぞくのくに」(2011)ヤン・ヨンヒ監督、日本
「ソハの地下水道」(2011)アグニェシュカ・ホランド監督、独・ポーランド
「桃さんのしあわせ」(2011)アン・ホイ監督、中国・香港
「プライズ ~秘密と嘘がくれたもの~」(2011)パウラ・マルコビッチ監督、メキシコ・仏・ポーランド・独
「ミツバチの羽音と地球の回転」(2010)鎌仲ひとみ監督、日本
「トイレット」(2010)荻上直子監督、日本
「愛について、ある土曜日の面会室」(2009)レア・フェネール監督、フランス
「タレンタイム=優しい歌」(2009)ヤスミン・アフマド監督、マレーシア
「ディア・ドクター」(2009)西川美和監督、日本
「冬の小鳥」(2009)ウニー・ルコント監督、韓国・フランス
「約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語」(2009)ニキ・カーロ監督、仏・ニュージーランド
「ハート・ロッカー」(2008)キャスリン・ビグロー監督、アメリカ
「木洩れ日の家で」(2007)ドロタ・ケンジェジャフスカ監督、ポーランド
「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」(2007)タマラ・ジェンキンス監督、アメリカ
「めがね」(2007)荻上直子監督、日本
「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」(2006)サラ・ポーリー監督、カナダ
「アフター・ウェディング」(2006) スサンネ・ビア監督、デンマーク
「サラエボの花」(2006)ヤスミラ・ジュバニッチ監督、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
「幸福のスイッチ」(2006)安田真奈監督、日本
「マルタのやさしい刺繍」(2006) ベティナ・オベルリ監督、スイス
「六ヶ所村ラプソディー」(2006)鎌仲ひとみ監督、日本
「赤い鯨と白い蛇」(2005)せんぼんよしこ監督、日本
「かもめ食堂」(2005)荻上直子監督、日本
「サン・ジャックへの道」(2005)コリーヌ・セロー監督、フランス
「スタンドアップ」(2005)ニキ・カーロ監督、アメリカ
「天空の草原のナンサ」(2005) ビャンバスレン・ダヴァー監督、ドイツ
「プロデューサーズ」(2005)スーザン・ストローマン監督、アメリカ
「クレールの刺繍」(2004) エレオノール・フォーシェ監督、フランス
「見知らぬ女からの手紙」(2004)シュー・ジンレイ監督、中国
「未来を写した子どもたち」(2004)ロス・カウフマン、ザナ・ブリスキ監督、アメリカ
「みんな誰かの愛しい人」(2004) アニエス・ジャウィ監督、フランス
「クジラの島の少女」(2003) ニキ・カーロ監督、ニュージーランド
「らくだの涙」(2003)ビャンバスレン・ダヴァー、ルイジ・ファロルニ監督、ドイツ
「おばあちゃんの家」(2002) イ・ジョンヒャン監督、韓国
「K-19」(2002) キャスリン・ビグロー監督、アメリカ・イギリス・ドイツ
「死ぬまでにしたい10のこと」(2002) イザベル・コイシェ監督、スペイン
「上海家族」(2002)ポン・シャオレン監督、中国
「ヘイフラワーとキルトシュー」(2002) カイサ・ラスティモ監督、フィンランド
「ベッカムに恋して」(2002) グリンダ・チャーダ監督、イギリス
「オリンダのリストランテ」(2001) パウラ・エルナンデス監督、アルゼンチン
「女はみんな生きている」(2001) コリーヌ・セロー監督、フランス
「子猫をお願い」(2001) チョン・ジェウン監督、韓国
「名もなきアフリカの地で」(2001) カロリーヌ・リンク監督、ドイツ
「マーサの幸せレシピ」(2001) サンドラ・ネットルベック監督、ドイツ
「遥かなるクルディスタン」(1999)イエスィム・ウスタオウル監督、トルコ・独・オランダ
「ロゼッタ」(1999) エミリー・ドゥケンヌ監督、ベルギー・フランス
「シュウシュウの季節」(1998) ジョアン・チェン監督、中国
「美術館の隣の動物園」(1998) イ・ジョンヒャン監督、韓国
「ユー・ガット・メール」(1998) ノーラ・エフロン監督、アメリカ
「りんご」(1998)サミラ・マフマルバフ監督、イラン・フランス・オランダ
「床家の三姉妹」(1997) メイベル・チャン監督、香港・日本
「ある貴婦人の肖像」(1996) ジェーン・カンピオン監督、イギリス
「ビヨンド・サイレンス」(1996) カロリーヌ・リンク監督、ドイツ
「アントニアの食卓」(1995) マルレーン・ゴリス監督、オランダ、ベルギー、イギリス
「女人、四十」(1995) アン・ホイ監督、香港
「ピアノ・レッスン」(1993) ジェーン・カンピオン監督、オーストラリア
「ロッタちゃん はじめてのおつかい」(1993) ヨハンナ・ハルド監督、スウェーデン
「ロッタちゃんと赤いじてんしゃ」(1992) ヨハンナ・ハルド監督、スウェーデン
「ジャック・ドゥミの少年期」(1991)アニエス・ヴァルダ監督、フランス
「エンジェル・アット・マイ・テーブル」(1990) ジェーン・カンピオン監督、オーストラリア
「森の中の淑女たち」(1990) グロリア・デマーズ監督、カナダ
「白く渇いた季節」(1989) ユーザン・パルシー監督、アメリカ
「ロミュアルドとジュリエット」(1989) コリーヌ・セロー監督、フランス
「サラーム・ボンベイ」(1988)ミーラー・ナーイル監督、インド・伊・仏・米
「赤ちゃんに乾杯!」(1985)コリーヌ・セロー監督、フランス
「追憶のオリアナ」(1984) フィナ・トレス監督、フランス、ベネズエラ
「マルチニックの少年」(1983) ユーザン・パルシー監督、フランス
「ドイツ・青ざめた母」(1980)ヘルマ・サンダース=ブラームス監督、西ドイツ
「歌う女歌わない女」(1977) アニエス・ヴァルダ監督、フランス・ベルギー
「遠い一本の道」(1977)左幸子監督、日本
「処刑の丘」(1976) ラリーサ・シェピチコ監督、ソ連
「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」(1975)シャンタル・アケルマン監督、ベルギー
「幸福」(1965) アニエス・ヴァルダ監督、フランス
「5時から7時までのクレオ」(1961)アニエス・ヴァルダ監督、フランス
「民族の祭典」(1938) レニ・リーフェンシュタール監督、ドイツ
「制服の処女」(1931) レオンティーネ・サガン監督、仏・独
「アクメッド王子の冒険」(1926) ロッテ・ライニガー監督、ドイツ
<注>
・お勧めする以上すべて自分で観た作品です。
・女性監督作品はまだまだありますが、自分が定めた一定の水準以上のものだけを掲載しています。
・リストに載せる作品は適宜追加してゆきます。