私家版 Who’s Who その3 クリント・イーストウッド
【クリント・イーストウッド】1930年、カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ
クリント・イーストウッド。数々のスターを輩出したハリウッドでもこれほど長い間第一線で活躍し続けている人物は珍しいだろう。なにしろ彼は僕が子供のころ既にスターだったのだ。テレビの「ローハイド」。当時の大人気番組だった。「ローン・レンジャー」、「コンバット」、「パパ大好き」、「名犬ラッシー」、「名犬リンチンチン」、「奥様は魔女」、「突撃マッキーバー」、「トムとジェリー」等々、おっと「ララミー牧場」と「ライフルマン」も忘れちゃいけない。今の世界中の子供たちが日本製アニメで育ったように、あの頃の日本の子供はみんなアメリカのテレビ番組を観て育ったのである。ところで「ローハイド」とはカウボーイたちがズボンの上に着ける革製のカバーのことだが、いったい何のためにあのバサバサしたものを着けているのかいまだによく分からない(ドラマではそこから転じてカウボーイ自体を指しているようだが)。
そしてマカロニ・ウエスタン時代。高校生から大学生の頃はジョン・ウェイン、ゲーリー・クーパー、バート・ランカスター、グレゴリー・ペック、ジェームズ・スチュワート、ヘンリー・フォンダ、グレン・フォード、アラン・ラッドなどが活躍する正統派西部劇も好きだったが、どちらかというとマカロニ・ウエスタンの乾いた感じの方が好きだった。ジュリアーノ・ジェンマ、リー・ヴァン・クリーフ、ジャン・マリア・ヴォロンテ、フランコ・ネロ、そしてクリント・イーストウッド。マカロニ・ウエスタン時代のイーストウッドは、ひげ面に葉巻をくわえた苦みばしった顔が実に格好よかった。
そして何といっても「ダーティハリー」(1971年)。これで一気にスターから大スターになった。その後しばらく80年代ぐらいまでは「ダーティハリー」シリーズの印象が強く、ややマンネリの印象を持っていた。90年代はさらに印象が薄かった。ただし、この記事を書くためにこの間70年代から90年代の作品を集中的に観たが、どれも悪くない。88年の「バード」でジャズの世界を描き、方向転換をした感じを受けた。ただし「バード」は映画としては今一つという印象で、むしろ製作総指揮を務めたドキュメンタリー「セロニアス・モンク/ストレート・ノー・チェイサー」の方が個人的には好きだ。監督業にも手を出していると意識し始めたのもこの頃か。実は既に1971年の「恐怖のメロディ」から監督をやっていたのだが、まだこの頃までは俳優のイメージが強かった。本格的に監督になったと感じたのは1992年の「許されざる者」あたりからだが、「マディソン郡の橋」(1995年)、「スペース・カウボーイ」(2000年)、「ミスティック・リバー」(2003年)などはどれも評判ほど優れた作品だとは思えなかった。この頃のイーストウッドはだいぶ枯れてきて、俳優としては昔とはまた別の味が出てきてよかったのだが、監督としてはまだたいしたことはないという認識だった。
僕が彼を監督としても一流だと初めて認めたのは「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)だった。これは群を抜く傑作で、監督としても俳優としても素晴らしいと思った。細い体形は昔のままだが、髪はすっかり白くなって後退し、顔には深い皺が何本も刻まれている。すっかりじい様だ。昔の苦みばしった顔もいいがこの枯れた味わいもいい。演出も今様のめまぐるしいアクション映画とは一線を画し、悠揚迫らぬ落ち着いた展開。モ-ガン・フリーマンとの老優二人のコンビがまた抜群だった。
この画期的作品で吹っ切れたかのように、その後は破竹の勢いで傑作を送り出し続けていることはご存じの通りだ。彼の作品は(監督、俳優両方含めて)40本以上観てきたが、真に驚くべきことは全く駄作がないことだ。60年以上映画にかかわってきて、つまらないと思う作品が1本もない(少なくともこれまで観てきた範囲では)。まさに奇跡のような存在。今やアメリカ映画界を代表する、いや世界の映画界を代表する巨匠である。
<クリント・イーストウッド出演作・監督作 おすすめの25本>
「ローハイド」(1959~1966)TVドラマ
「荒野の用心棒」(1964)セルジオ・レオーネ監督、イタリア・スペイン・西ドイツ
「夕陽のガンマン」(1965)セルジオ・レオーネ監督、イタリア・スペイン
「恐怖のメロディ」(1971)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ダーティハリー」(1971)ドン・シーゲル監督、アメリカ
「荒野のストレンジャー」(1972)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「アイガー・サンクション」(1975)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「アウトロー」(1976)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ガントレット」(1977)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「アルカトラズからの脱出」(1979)ドン・シーゲル監督、アメリカ
「ペイル・ライダー」(1985)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ザ・シークレット・サービス」(1993)ウォルフガング・ペーターゼン監督、アメリカ
「パーフェクト ワールド」(1993)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「目撃」(1997)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「スペース・カウボーイ」(2000)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ブラッド・ワーク」(2002)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ミリオンダラー・ベイビー」(2004)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「父親たちの星条旗」(2006)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「グラン・トリノ」(2008)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「チェンジリング」(2008)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「インビクタス/負けざる者たち」(2009)クリント・イーストウッド監督
「アメリカン・スナイパー」(2014)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ジャージー・ボーイズ」(2014)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「運び屋」(2018)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「クライ・マッチョ」(2021)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
<こちらも要チェック>
「リチャード・ジュエル」(2019)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ヒアアフター」(2010)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「硫黄島からの手紙」(2006)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「トゥルー・クライム」(1999)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「ダーティハリー5」(1988)バディ・ヴァン・ホーン監督、アメリカ
「ブロンコ・ビリー」(1980)クリント・イーストウッド監督、アメリカ
「戦略大作戦」(1970)ブライアン・G・ハットン監督、アメリカ
「荒鷲の要塞」(1968)ブライアン・G・ハットン監督、アメリカ。イギリス
「マンハッタン無宿」(1968)ドン・シーゲル監督、アメリカ
「奴らを高く吊るせ!」(1968)テッド・ポスト監督、アメリカ
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