録画しておきたい地上波テレビ番組
「先月観た映画 採点表(2021年5月)」の前書きで、「若者はテレビを観なくなり、代わりにスマホやインターネットに費やす時間が増えている。しかし一番の理由はテレビ(特に地上波)の内容があまりに貧困だからだろう。もちろん優れた番組も少なからずあり、僕の場合ハードディスクに撮りためた番組をブルーレイ・ディスクに落とす作業が追い付かないくらいである」と書いた。
では実際にどんな番組を録画しているか紹介したい。最初に、僕は衛星放送の契約をしていないので、地上波限定であることをお断りしておく。衛星放送の番組(特に連続ドラマ)はユーネクストで視聴している(それも見放題になってから)。金のない学生時代から本は古本屋で買い、映画は名画座で観、レコードやCDは中古店で買うという習慣が身に付いているので、なんでも最新の物を観たり聞いたりすることに意味があると考えていないからこれで何の問題もない。
さて、本題に戻ろう。自分が普段録画している番組だが、整理してみるとやはりNHKで放送されているものが多い(末尾の一覧表参照)。NHKの報道番組やドキュメンタリー番組に政治的な圧力や規制がかかっていることは周知の事実だが、それでも全体的に見てNHK番組の質の高さは民放番組をはるかに凌駕している。
まず取り上げたいのは朝の連続テレビ小説。かつては不自然な演出が多いのでまったくみなかったが、話題になった「あまちゃん」の総集編を観て以来かなりの割合で観るようになった。今では優れたものが多いと考えを改めている。ただすべて観ているわけではない。新しいシリーズが始まった時最初の何回か観て、そのまま見続けるかどうか判断する。連続テレビ小説は主人公の子供時代から始まることが多いので、ある意味子役の出来で観るか観ないか決まると言っても良い。「あまちゃん」以降の作品で観なかったものの多くは子役に魅力を感じなかったものだ。それだけが観なかった理由ではないだろうが、その要素が大きかったことは間違いない。その点今放送中の「おかえりモネ」は最初から大人になったヒロインが登場するので、あっさりこのハードルを越えてしまったわけだ(もちろん最初から面白そうだと思ったから観ているわけだが)。
次に取り上げるのは「ブラタモリ」。最初の頃はたまに観る程度だったが、桑子真帆アナウンサーの頃から毎週観るようになった。歴代のアナウンサーでは彼女がダントツで魅力的だったと断言したい。佇まいやリアクションが自然で、お飾り感は全くなかった。それだけにニュース番組などでの硬い表情を観ていると、NHKは彼女の魅力を生かし切れていないと感じざるを得ない。それはともかく、桑子アナ登場当時から毎回録画していたかどうかは記憶がはっきりしない。おそらく途中から録画するようになったと思われる。この番組の面白さは普通の紀行番組と全く違う視点から対象となる都市をとらえている点にある。観光地案内でもなく、ご当地グルメ紹介でもなく、地形や地理的条件からその都市の成り立ちを紐解いてゆく。こんな番組は他にない。実に新鮮な視点だった。タモリの博識さにも舌を巻く。今はコロナ禍でなかなか新しい土地でのロケができないが、タモリが元気なうちはずっと続けてほしい番組だ。「 笑っていいとも!」はほとんど観なかったが、「タモリの音楽は世界だ!」は面白かった。タモリが司会を務める番組はいくつか観たと思うが、何といっても「ブラタモリ」が最高傑作だと思う。
「浦沢直樹の漫勉neo」。これも絶対おすすめの番組。漫画家の実際の創作の現場を見ることはごく限られた関係者以外は普通できない。ネームから実際のペン入れまでを何台かの固定カメラで映し、その映像を浦沢直樹と当の漫画家が一緒に観ながらトークするという番組構成。毎回著名な漫画家が取り上げられるが、特に番組名に「neo」が付くようになった今年の最初の辺りは、ちばてつや、諸星大二郎、星野之宣といった大物が次々に登場しゴブリンは感涙にむせばんばかりだった。知らない漫画家も多いが、それでも毎回面白い。何度も何度も書き直し、たった1ページに何時間もかけるのかと驚くことしきり。漫画家志望者だけではなく、誰が観ても楽しめる内容になっている。どうして知っている人が少ないのか不思議に思う傑作番組だ。
「ソーイング・ビー3」については「ゴブリンのこれがおすすめ 44 イギリスのTVドラマ」の末尾に紹介文を書いたので、それを以下に引用しておく。<ドラマではないのでリストからは外してありますが、「ソーイング・ビー」という番組が滅法面白い。これは「スペリング・ビー」の裁縫版といった内容です。「スペリング・ビー」というのは単語のつづりを正確に書くコンテストですが(ビーは働きバチのイメージでしょうか)、「ソーイング・ビー」は型紙通りに服を作ったり、古着を再利用して全く違うドレスを作ったりと様々な課題が毎回出場者に課せられます。競技が進むごとに一人また一人と脱落者が出てゆきます。僕は裁縫に全く興味はありませんが、番組としては非常に面白い。シーズン2まではユーネクストで観ましたが、現在はNHKのEテレでシーズン3を放送しています(木曜日9時から9時半)。騙されたと思って一度観てください。きっとはまりますよ。>
「ふるカフェ系 ハルさんの休日」も一種の紀行番組。ユニークなのは古民家を改築したカフェを取り上げているブロガー、ハルさんを主人公に設定している点。ハルさんは毎回様々な都道府県にある「ふるカフェ」を訪ね、ユニークな建物の造りなどに関する蘊蓄を披露しつつ、店の主人や近所の人たちから元の古民家は何に使われていたのか、いかなる経緯でカフェに改築するようになったのかなどの話を引き出すという展開。僕自身古民家を改築した店が好きでよくブログに取り上げていたので、大いに興味を引き付けられる番組だ。ハルさんは架空の人物(渡部豪太が演じている)で、話の展開に少しやらせっぽいところがあるのが気になるが、紹介されるカフェがいずれも魅力的なのであまり気にせず楽しめばいい。
「世界ふれあい街歩き」と「日曜美術館」は放送されて長いので紹介は省略する。NHK編の最後に取り上げるのは最近発見した「あてなよる」という番組。録画予約していた番組が終了していたためたまたま録画されていたのが最初の出会いだが、これが面白かった。不思議なタイトルにもひかれた。番組中にも何度も出て来るのだが、「あて」という言葉の意味が分からない。まったく聞き覚えのない言葉だった。ある程度の推測はついていたが、ネットで調べてほぼ推測通りだと確認した。酒の肴やつまみという意味で、主に近畿地方で使われる言葉らしい。道理で聞き覚えがないはずだ。タイトルはさておき、京都の女性料理人がゲスト2人に料理を出し、酒のソムリエがその料理に合った酒をマリアージュするという趣向。まあグルメ番組だが、酒とあての組み合わせに的を絞ったところがユニークだ。僕自身はグルメではなく、料理も作らないが、グルメ・料理番組はなぜか好きだ。「孤独のグルメ」、「行列の女神~らーめん才遊記」、「居酒屋ぼったくり」、「鴨川食堂」、「ランチのアッコちゃん」、「女くどき飯」、「まかない荘」、「深夜食堂」、等々。結構お気に入り番組は多い。「あてなよる」はほとんど新聞の番組紹介欄にも取り上げられないので、知られないまま消えて行ってしまうのではないかと心配だ。だからここでぜひ一度ご覧になることをお勧めしておきたい。
次に民放の番組。ドラマは次々に入れ替わってしまうので、ここでは二つだけ紹介しておく。一つは「HAWAII FIVE-O」シーズン8。アメリカ得意の警察ドラマだが、アメリカ本土ではなくハワイが舞台というのがユニークだ。FIVE-Oのメンバーもそれぞれ魅力的で、毎回楽しみに観ている。ただ、シーズン8からダニエル・デイ・キムとグレイス・パークが主要メンバーから外れてしまったのが残念でならない。その少し前には日系人という設定のマシ・オカもFIVE-Oを去っている。東洋系の俳優がどんどんいなくなっている。新メンバーのビューラ・コアレとメーガン・ラスも悪くないが、どこか物足りなさが残ってしまう。ついでに触れておくと、本土ではなく熱帯の楽園が舞台の刑事ものと言えば、イギリスの「ミステリー in パラダイス」も傑作だ。カリブ海に浮かぶ架空の島(旧イギリス植民地)が舞台で、熱帯の島にパリっとスーツを着てネクタイを締めたイギリス人刑事が派遣されてくるというミスマッチが面白い。「HAWAII FIVE-O」と「ミステリー in パラダイス」を見比べると、イギリスとアメリカのユーモアのセンスの違いが良く分かって面白い。
日本の刑事ものでは、近日始まる「緊急取調室」のシーズン4が楽しみだ。日本の刑事ものは長年レベルが低かったが、このところ大分レベルが上がってきた感じがする。その中でもほとんど取り締まり室でドラマが展開される「緊急取調室」は出色の出来。天海祐希、田中哲司、小日向文世、大杉漣、でんでんといったレギュラー・メンバーが個性派ぞろいで、鉄壁の布陣だ。そういえば、「教場」も従来の刑事ドラマとは一線を画した異色の設定が功を奏している。「教場」は原作を先に読んだが、ドラマ版も木村拓哉の熱演もあって遜色がなかった。
最後に取り上げるのは、「ニッポン印象派」と「世界遺産」。僕は動植物のドキュメンタリー番組が好きで、イギリスのBBCと日本のNHK制作のネイチャー・ドキュメンタリーが大好物である。しかしカメラの高性能化とドローン撮影の普及によって民放でも優れたドキュメンタリー番組が生まれてきた。「世界遺産」がその代表で、何しろ素材が世界遺産だけにどの回を観ても息をのむ美しさに圧倒される。「ニッポン印象派」はその日本限定版といった内容で、日本の絶景を4K高精細カメラで写し撮り、これでもかと堪能させてくれる番組。印象派の画家たちがとらえようとした光を現代の撮影技術でとらえ再現しようというわけだ。世界遺産はもちろん素晴らしいが、都市化が進み開発の手が至る所に入り込んでいる日本にもまだこれほどの絶景があるのか。人里離れた奥地だけが映し出されるわけではない。人里の美しさにも目を向けているところが素晴らしい。
【録画しておきたい地上波テレビ番組】
「おかえりモネ」(NHK)
「ブラタモリ」(NHK)
「あてなよる」(NHK)
「世界ふれあい街歩き」(NHK)
「日曜美術館」(NHK Eテレ)
「浦沢直樹の漫勉neo」(NHK Eテレ)
「ふるカフェ系 ハルさんの休日」(NHK Eテレ)
「ソーイング・ビー3」(NHK Eテレ)
「ニッポン印象派」(民放)
「世界遺産」(民放)
「緊急取調室」(民放)
「HAWAII FIVE-O」シーズン8(民放)
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