ゴブリンのこれがおすすめ 59 イギリス映画(2)2000年以降
90年代以降のイギリス映画は大きく5つの系統に分けられるだろう。一つは「ウェールズの山」、「ブラス!」、「フル・モンティ」、「リトルダンサー」、「グリーン・フィンガーズ」、「ベッカムに恋して」、「キンキー・ブーツ」、「シャンプー台の向こうに」、「カレンダー・ガールズ」、「天使の分け前」などの系統。努力して困難を乗り越え成功を掴むという、明るい元気が出るタイプの映画だ。80年代のサッチャー時代を経て、景気こそ回復したが同時に貧富の差が拡大したイギリスの現状の反映である。絶望の裏返しであるほとんどやけっぱちの楽天主義と、奇想天外な発想で現状を突破しようという前向きの意欲が入り混じった状態から生まれてきた映画たちである。2000年代に入るとやけっぱちな感じは消え、むしろコミカルな味わいが付け加えられる傾向にある。
二つ目は「リフ・ラフ」、「レディバード・レディバード」、「ボクと空と麦畑」、「人生は、時々晴れ」、「がんばれリアム」、「マイ・ネーム・イズ・ジョー」、「家族のかたち」、「SWEET SIXTEEN」、「やさしくキスをして」、「麦の穂をゆらす風」、「オレンジと太陽」、「ルート・アイリッシュ」などの、イギリスの現状を反映した辛く、厳しく、暗い系統の作品群。ケン・ローチ監督の「わたしは、ダニエル・ブレイク」と「家族を想うとき」は、かつての福祉国家のなれの果てとでも呼ぶべき現状を気が滅入るほどリアルに描き出している。2000年代のすぐれた作品の多くはこの二つのタイプに属している。
三つ目の系統は「シャロウ・グレイブ」、「トレインスポッティング」、「ザ・クリミナル」、「ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」、「ロンドン・ドッグズ」、「レイヤー・ケーキ」、「バンク・ジョブ」などの一連のイギリス版犯罪映画である。いずれも、サッチャー時代に福祉国家から競争国家に路線転換し、アル中や薬中や犯罪がはびこるリトル・アメリカ化したイギリス社会の明と暗の反映である。2000年代に入るとこの系統の作品はぐっと減る。代わりにテレビ・ドラマでサスペンス・ドラマの傑作が大量に作られるようになる。
もちろんこういった作品ばかりではなく、四つ目の系統として、「Queen Victoria 至上の恋」、「エリザベス」、「アイリス」、「いつか晴れた日に」、「日陰のふたり」、「プライドと偏見」、「オリバー・ツイスト」、「クィーン」、「英国王のスピーチ」、「もうひとりのシェイクスピア」などの文芸映画や歴史劇なども作られている。
2000年代に入って増えてきたのは「エセルとアーネスト ふたりの物語」、「マイ・ビューティフル・ガーデン」、「ロンドン、人生はじめます」、「ガーンジー島の読書会の秘密」、「マイ・ブックショップ」などの、家庭劇や人間的な絆、コミュニティの絆を描く作品群。1番目のタイプに含めることも可能だが、自助や自己責任で済ませようとする政治的傾向に対する反動だと考えられる。サッチャー元首相は「社会などは存在しない。あるのは個人と家族だ」と言ったが、皮肉なことにコロナ禍で社会保障の大切さが見直されつつある。コロナに感染したジョンソン首相はNHS(国民健康サービス)による献身的な治療で救われた際、「社会なるものは現に存在する」というメッセージを出したという。今後はこのタイプの作品が増えてゆくのではないか。
「グリーン・フィンガーズ」(2000) ジョエル・ハーシュマン監督
「シーズン・チケット」(2000) マーク・ハーマン監督
「シャンプー台のむこうに」(2000) パディ・ブレスナック監督
「チキン・ラン」(2000) ニック・パーク、ピーター・ロード監督
「ブレッド&ローズ」(2000)ケン・ローチ監督、英・独・スペイン
「リトル・ダンサー」(2000) スティーブン・ダルドリー監督
「ブリジット・ジョーンズの日記」(2001) シャロン・マグワイア監督
「ゴスフォード・パーク」(2001) ロバート・アルトマン監督、伊・英・米・独
「アイリス」(2001) リチャード・エアー監督
「家族のかたち」(2002) シェーン・メドウス監督、英・独・オランダ
「ケミカル51」(2002) ロニー・ユー監督、英・米・加
「SWEET SIXTEEN」(2002) ケン・ローチ監督
「人生は、時々晴れ」(2002) マイク・リー監督
「ブラディ・サンデー」(2002)ポール・グリーングラス監督、イギリス・アイルランド
「ベッカムに恋して」(2002) グリンダ・チャーダ監督
「運命を分けたザイル」(2003) ケヴィン・マクドナルド監督
「真珠の耳飾の少女」(2003) ピーター・ウェーバー監督
「カレンダー・ガールズ」(2003) ナイジェル・コール監督
「ディープ・ブルー」(2003) アラステア・フォザーギル、アンディ・バイヤット監督
「明日へのチケット」(2004) ケン・ローチ監督、イギリス・イタリア
「ヴェラ・ドレイク」(2004) マイク・リー監督、英・仏・ニュージーランド
「Dearフランキー」(2004) ショーナ・オーバック監督
「ホテル・ルワンダ」(2004) テリー・ジョージ監督、南アフリカ・イギリス・イタリア
「ミリオンズ」(2004) ダニー・ボイル監督
「モーターサイクル・ダイアリーズ」(2004) ヴァルテル・サレス監督
「やさしくキスをして」(2004) ケン・ローチ監督
「ラヴェンダーの咲く庭で」(2004) チャールズ・ダンス監督
「Vフォー・ヴェンデッタ」(2005)ジェームズ・マクティーグ監督、イギリス・ドイツ
「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」(2005)ニック・パーク、他、監督、英・米
「オリバー・ツイスト」(2005)ロマン・ポランスキー監督、フランス・イギリス・チェコ
「キンキー・ブーツ」(2005)ジュリアン・ジャロルド監督、英・米
「クレアモントホテル」(2005)ダン・アイアランド監督、英・米
「コープス・ブライド」(2005)ティム・バートン監督、英・米
「ナイロビの蜂」(2005)フェルナンド・メイレレス監督
「プライドと偏見」(2005)ジョー・ライト監督
「ヘンダーソン夫人の贈り物」(2005)スティーヴン・フリアーズ監督
「マッチポイント」(2005)ウディ・アレン監督
「THIS IS ENGLAND」(2006)シェーン・メドウス監督
「麦の穂をゆらす風」(2006)ケン・ローチ監督
「やわらかい手」(2006)サム・ガルバルスキ監督、イギリス・他
「イースタン・プロミス」(2007)デビッド・クローネンバーグ監督、英・米・加
「この自由な世界で」(2007)ケン・ローチ監督、イギリス・他
「ヤング@ハート」(2007)スティーヴン・ウォーカー、アイリーン・ホール監督
「ウォレスとグルミット/ベーカリー街の悪夢」(2008)ニック・パーク監督
「バンク・ジョブ」(2008)ロジャー・ドナルドソン監督
「アリス・クリードの失踪」(2009)J・ブレイクソン監督
「17歳の肖像」(2009)ロネ・シェルフィグ監督
「パイレーツ・ロック」(2009)リチャード・カーティス監督、英・独
「ロンドン・リバー」(2009)ラシッド・ブシャール監督、英・仏・アルジェリア
「英国王のスピーチ」(2010)トム・フーパー監督、英・豪
「おじいさんと草原の小学校」(2010)ジャスティン・チャドウィック監督
「オレンジと太陽」(2010)ジム・ローチ監督
「家族の庭」(2010)マイク・リー監督
「ゴーストライター」(2010)ロマン・ポランスキー監督、仏・独・英
「ファクトリー・ウーマン」(2010)ナイジェル・コール監督
「ルート・アイリッシュ」(2010)ケン・ローチ監督、英・仏・・ベルギー・伊・スペイン
「わたしを離さないで」(2010)マーク・ロマネク監督、英・米
「砂漠でサーモン・フィッシング」(2011)ラッセ・ハルストレム監督
「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」(2011)ジョン・マッデン監督、英・米・他
「もうひとりのシェイクスピア」(2011)ローランド・エメリッヒ監督、英・独
「いとしきエブリデイ」(2012)マイケル・ウィンターボトム監督
「天使の分け前」(2012)ケン・ローチ監督、英・仏・伊・ベルギー
「おみおくりの作法」(2013)ウベルト・パゾリーニ監督、イギリス・イタリア
「カルテット!人生のオペラハウス」(2013)ダスティン・ホフマン監督
「グランド・ブダペスト・ホテル」(2013)ウエス・アンダーソン監督、イギリス・ドイツ
「イタリアは呼んでいる」(2014)マイケル・ウィンターボトム監督
「イミテーション・ゲーム」(2014)モルテン・ティルドゥム監督、英・米
「ジミー、野を駆ける伝説」(2014)ケン・ローチ監督
「ターナー、光に愛を求めて」(2014)マイク・リー監督
「パレードへようこそ」(2014)マシュー・ウォーチャス監督
「フューリー」(1914)デヴィッド・エアー監督
「アイヒマン・ショー」(2015)ポール・アンドリュー・ウィリアムズ監督
「エクス・マキナ」(2015)アレックス・ガーランド監督
「黄金のアデーレ 名画の帰還」(2015)サイモン・カーティス監督、英・米
「奇蹟がくれた数式」(2015)マシュー・ブラウン監督
「グランドフィナーレ」(2015)パオロ・ソレンティーノ監督、伊・仏・スイス・英
「ドレッサー」(2015)リチャード・エアー監督
「リリーのすべて」(2015)トム・フーパー監督、イギリス・ドイツ・アメリカ
「ウイスキーと2人の花嫁」(2016)ギリーズ・マッキノン監督
「エセルとアーネスト ふたりの物語」(2016)ロジャー・メインウッド監督、英・他
「人生はシネマティック!」(2016)ロネ・シェルフィグ監督
「セブン・シスターズ」(2016)トミー・ウィルコラ監督、英・米・仏・ベルギー
「わたしは、ダニエル・ブレイク」(2016)ケン・ローチ監督、英・仏・ベルギー
「マイ・ビューティフル・ガーデン」(2016)サイモン・アバウド監督
「ヴィクトリア女王 最期の秘密」(2017)スティーヴン・フリアーズ監督、英・米
「ウィンストン・チャーチル」(2017)ジョー・ライト監督
「ベロニカとの記憶」(2017)リテーシュ・バトラ監督
「ロンドン、人生はじめます」(2017)ロバート・フェスティンガー監督
「オフィシャル・シークレット」(2018)ギャヴィン・フッド監督
「ガーンジー島の読書会の秘密」(2018)マイク・ニューウェル監督、仏・英
「キーパー ある兵士の奇跡」(2018)マルクス・H・ローゼンミュラー監督、英・独
「キング・オブ・シーヴズ」(2018)ジェームズ・マーシュ監督
「シェイクスピアの庭」(2018)ケネス・ブラナー監督
「女王陛下のお気に入り」(2018)ヨルゴス・ランティモス監督、アイルランド・米・英
「博士と狂人」(2018)P・B・シェムラン監督、英・アイルランド・仏・アイスランド
「プライベート・ウォー」(2018)マシュー・ハイネマン監督、イギリス・アメリカ
「ボヘミアン・ラプソディ」(2018)ブライアン・シンガー監督、イギリス・アメリカ
「マイ・ブックショップ」(2018)イサベル・コイシェ監督、スペイン・英・独
「1917 命をかけた伝令」(2019)サム・メンデス監督、イギリス・アメリカ
「カセットテープ・ダイアリーズ」(2019)グリンダ・チャーダ監督
「家族を想うとき」(2019)ケン・ローチ監督、イギリス・フランス・ベルギー
「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」(2019)フランソワ・ジラール監督、英・加・ハンガリー・独
「ロケットマン」(2019)デクスター・フレッチャー監督
「アーニャは、きっと来る」(2020)ベン・クックソン監督、イギリス・ベルギー
「いつかの君にもわかること」(2020)ウベルト・パゾリーニ監督、伊・ルーマニア・英
「ファーザー」(2020)フロリアン・ゼレール監督、イギリス・フランス
「君を想い、バスに乗る」(2021)ギリーズ・マッキノン監督
「ジェントルメン」(2019)ガイ・リッチー監督、イギリス・アメリカ
「ベルファスト」(2021)ケネス・ブラナー監督
「ボイリング・ポイント/沸騰」(2021)フィリップ・バランティーニ監督
「イニシェリン島の精霊」(2022)マーティン・マクドナー監督、英・米・アイルランド
「ダウントン・アビー/新たなる時代へ」(2022)サイモン・カーティス監督
「ミセス・ハリス、パリへ行く」(2022)アンソニー・ファビアン監督
「ロスト・キング 500年越しの運命」(2022)スティーヴン・フリアーズ監督
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