シネコン初体験
この前の日曜日に待望のシネコン初体験をしてきました。4月21日にJT跡地にオープンした「アリオ」に「TOHOシネマズ上田」が併設されたのです。一時は「シネコン撤退か?」とも噂されたのですが、何とか開設されるようになったのです。そのあおりを食ってこれまであった街の映画館、「上田映劇」と「電気館」は閉鎖と決まったようです。現在「電気館」で鎌仲ひとみ監督の3部作、「ヒバクシャ~世界の終わりに~」、「六ヶ所村ラプソディー」、「ミツバチの羽音と地球の回転」を上映中ですが、シネコンには太刀打ちできないのでしょう。老兵は去るのみか、長いことお世話になってきただけに残念なことです。
一方のシネコン。「TOHOシネマズ」は思い切って料金を1500円に下げましたが、シネマイレージに入会すると1300円になります。ここまで下がれば新作を観に行くことにさほど抵抗を感じません(もっとも街の映画館にとってこの値段は脅威です)。ところが作品のラインナップは予想通り悲しいほど貧弱です。8スクリーンあるうちの半分ほどは「名探偵コナン」や「クレヨンしんちゃん」、「きかんしゃトーマス」などのお子様向けアニメに占領され、残りも「GANTZ」、「エンジェル ウォーズ(日本語吹替え版)」、「ナルニア国物語/第3章」、「ガリバー旅行記(日本語吹替え版)」などあまり心を惹かれない作品ばかりが並ぶ。予想していたとはいえ、安かろう悪かろうではなあ。
ただし1本だけ観に行きたいと思う映画がありました。「英国王のスピーチ」。もちろんこれを観に行ったわけです。いやあ、期待通りの傑作でしたね。名優コリン・ファースとジェフリー・ラッシュが堂々と、かつ軽妙に渡り合う。まさに英国歴史劇の味わいをたっぷり堪能できます。
英国の王室歴史劇にはシェイクスピアの史劇はもちろん、それ以外にも数多くの傑作があります。シェイクスピア関連を除いても「ヘンリー八世の私生活」(1933)、「ベケット」(1964)、「わが命つきるとも」(1966)、「冬のライオン」(1968)、「英国万歳!」(1994)、「Queen Victoria 至上の愛」(1997)、「エリザベス」(1998)、「クィーン」(2006)などごろごろあります。最近は女王ものが多かったですが、「英国王のスピーチ」はあまり知られていないジョージ6世に焦点を当てました。大英帝国の隆盛とともに歩んだヴィクトリア女王があまりに偉大すぎ、また現エリザベス女王の治世が長いため、その間に挟まれたジョージ5世、エドワード8世やジョージ6世はほとんど忘れ去られた存在でした。しかし第2次世界大戦期の国王であったジョージ6世にはある人間的なエピソードがあった。
まあ、この題材のユニークさがこの映画の特徴をよく表していますが、比較的直線的な展開にもかかわらず観客をひきつけてやまないのは、何といってもコリン・ファースとジェフリー・ラッシュという名優二人の演技力と存在感によるものだと言っていいでしょう。シェイクスピア劇で鍛え抜かれている英国の俳優たちはまさにこういう作品にうってつけなのです。王室ものではありませんが、「ヘンダーソン夫人の贈り物」(2005)でジュディ・デンチとボブ・ホスキンスが丁々発止とやり合う姿には、英国歴史劇の長い伝統を感じます。重厚でありながら軽妙。イギリス映画にまた傑作が加わりました。
しかし、「英国王のスピーチ」を観た後は他に観る映画がない。「ブラック・スワン」や「パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉」、あるいはマット・デイモンの「アジャストメント」も来るようだが、1300円を出して観に行く気になれるかどうか。ミニ・シアター系の作品はこの先どれくらい公開されるものか。3スクリーンから8スクリーンに増えるとはいえ、その点がどうしても気になる。