先月観た映画(10年2月)
「花の生涯~梅蘭芳」(08、チェン・カイコー監督、中国)★★★★☆
「ディア・ドクター」(09、西川美和監督、日本)★★★★☆
「3時10分、決断のとき」(07、ジェームズ・マンゴールド監督、米)★★★★☆
「夏時間の庭」(08、オリヴィエ・アサイヤス監督、フランス)★★★★☆
「アバター」(09、ジェームズ・キャメロン監督、米)★★★★
「重力ピエロ」(09、森淳一監督、日本)★★★★
「湖のほとりで」(07、アンドレア・モライヨーリ監督、イタリア)★★★★
「007/慰めの報酬」(08、マーク・フォースター監督、英米)★★★☆
「花の生涯~梅蘭芳」は「さらば、わが愛/覇王別姫」とどうしても比べられがちなのでその分損をしているだろう。「さらば、わが愛/覇王別姫」は中国映画歴代ベスト10に入るほどの名作。これと比べたら見劣りしても仕方がない。しかし「花の生涯~梅蘭芳」そのものは決して悪い出来ではない。人間ドラマもしっかりしており、いくつも山場のある展開も見事だ。「始皇帝暗殺」以降のチェン・カイコーは低迷していたが、「花の生涯~梅蘭芳」は2000年代の作品としては今のところ一番の出来だろう。
「ゆれる」を観てがっかりした西川美和監督だが、「ディア・ドクター」はいい。笑福亭鶴瓶を起用したことがこの作品の成功に大きく寄与した。彼のキャラクターがうまく生かされている。冒頭いきなり彼が失踪して「謎」が残るが、その「謎」は「ゆれる」のようないかにも人工的な設定ではない。偽医者だということは最初から推測できてしまう。むしろ映画は笑福亭鶴瓶扮する偽医者の人間性に焦点を当てる。彼が逃げたのも単にばれそうになったからというだけではなく、患者である八千草薫との人間的な関係の結果であるという描き方がいい。看護婦役の余貴美子がまたいい味を出している。
「3時10分、決断のとき」は「決断の3時10分」(57年)のリメイク作品。「決断の3時10分」は観ていないので比較はできないが、そんなことを意識しなくても十分楽しめる。
派手なドンパチやアクションだけで見せる映画ではなく、登場人物のキャラクターに陰影をつけ、人間ドラマとしてもひきつける作品になっている。主演のクリスチャン・ベイルとラッセル・クロウが共に好演。2人の道中でのやり取りが面白い。最後まで緊張感が続きぐいぐい引き付ける展開。西部劇の流行が終わった後に作られた西部劇としては出色の出来だ。
「夏時間の庭」はベルトラン・タヴェルニエ監督の「田舎の日曜日」と並ぶフランスの小津系統作品だと感じた。母親の残した絵画やアンティーク家具を老いた両親に置き換えてみれば、それが小津作品に通じる作品だということがよくわかるだろう。フランス映画らしい味わいの秀作。
話題の「アバター」は楽しめた。地元の小さな映画館で観たので3Dではなかったが、そんなことはどうでもいいことである。2Dで観てつまらなかったら、3Dで観てもつまらない映画だということ。2Dで観るより3Dで観た方がいいとしたら、中身のない見世物映画だということを証明しているにすぎない。
「アバター」は、言ってみれば2000年代の「ダンス・ウィズ・ウルブズ」だ。ネイティヴ・アメリカンが異星人になったようなもの。衛星パンドラをイラクに置き換えてみることも可能だ。しかし全体としての作りはよくある戦争アクションものの枠からほとんど出ていない。その限りにおいて楽しめるが、さほど深みがあるわけではない。
パンドラの不思議な世界はまるで宮崎駿の「風の谷のナウシカ」を観ているような感覚。しかし話に「ナウシカ」のような壮大さはない。まあ、十分楽しめたからあんまりない物ねだりをすることもないだろう。
「重力ピエロ」は最近日本のドラマや映画でよくみかけるタイプの映画。ミステリーのような展開はうまく作ってあるが、いかにも頭で作ったような、現実味の薄い映画だ。人間の描き方がどうも一面的で、話の展開もどこか人工的な感じがぬぐえない。
人間の心の闇の描き方がとおりいっぺんで、深みがない。人間の性格形成の描き方に何か決定論的なものがあるからだろう。観ている時は「一体どういうことだろう」と引き付けられて観るが、しばらく時間がたつとどんな映画だったか思い出せない。才気は感じられるが、小手先の演出やトリックに流れてしまいがち。そんな印象が残った。
「湖のほとりで」は久々のイタリア映画の傑作かと期待して観た。結果はだいぶ期待値を下回った。湖のほとりに男たちがたたずむシーンは何とも美しいのだが、ミステリーとしても人間ドラマとしても物足りない。
「007 カジノ・ロワイヤル」を観た時は面白いと思ったが、ダニエル・クレイグ版の第2弾「007/慰めの報酬」はあまり楽しめなかった。とにかく展開が速すぎて話が見えない。要するに、見せ場の連続で突き進むジェットコースター・ムービーが行きつく先はこういうことになるといういい見本だ。観客を置き忘れて、ただ見せ場を積み重ねればいいという作り方は早晩行き詰るだろう。
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コメント
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kimion20002000さん
コメントありがとうございます。
梅蘭芳の波乱に富んだ人生はまさにドラマチックですね。人生と時代が否応なしに交錯してしまう。読みやすい伝記があれば読んでみたいですね。
「ゆれる」は過大評価されていると思います。批評家の言うことはあまり鵜呑みにしないほうがいいですね。
「湖のほとりで」のあの老刑事は確かにいい役者でしたね。しかしどうもドラマが間延びしていてあまり楽しませんでした。「ポー川のひかり」の出来はどうでしょう。こちらは期待しているのですが。
投稿: ゴブリン | 2010年4月27日 (火) 15:34
こんにちは。
「夏時間の庭」以外は見ました。一応、レヴューしたのは次の三作です。
「花の生涯」は、京劇についての深い知識はないですが、モデルの役者に興味が惹かれます。短い記録フィルムを見た事はあるんですけどね。
http://blog.goo.ne.jp/kimion20002000/e/bb8c10617e1fa7fca5f8c63e4ad06b7c
「ディア・ドクター」は笑福亭鶴瓶の起用があたりましたね。ゴブリンさんが「ゆれる」にがっかりというのは面白いですね。評価の凄く高い映画ではありますが、僕はなにかもやもやしていてレヴューしていません。
http://blog.goo.ne.jp/kimion20002000/e/0bebd1f834027bda57425fdc46eec145
「007/慰めの報酬」は前作ほどではありませんでしたね。ただ
宇宙空間にまで行ってしまった活劇を、ちょっとまき戻したいという意図はわかります。
http://blog.goo.ne.jp/kimion20002000/e/00008abf68c7446a34c4a2110ad4fc08
「湖のほとりで」のあの老刑事の渋いおっさんは良かった。あんまり喋らないし。ちょっとあのシリーズがあってもいいかなと。
投稿: kimion20002000 | 2010年4月26日 (月) 11:05