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2008年12月

2008年12月30日 (火)

2008年主要公開作品

081129_8_2  今年もあと残すところ2日となりました。そろそろ2008年公開映画のベストテンをまとめている人も多いことでしょう。僕自身はほとんどDVDで鑑賞しているのでマイ・ベストテンをまとめるのは半年くらい先になります。

 本館ホームページ「緑の杜のゴブリン」の「Miscellany」コーナーに「2008年主要公開作品」を載せました。ブログは長いリストを載せるのに向いていませんので、本館HPにのみ掲載しています。ベストテンの選定、あるいは2008年公開映画を振り返ったりチェックしたりする時の参考にしてください。

 なお、このリストに関しては、個人的に参考資料として利用していただくのであれば、自由にコピーして使っていただいて結構です。

2008年12月29日 (月)

「トゥヤーの結婚」を観ました

 12月11日に「トゥヤーの結婚」を観た。「白い馬の季節」も12月22日に鑑賞。そして、現在「雲南の少女ルオマの初恋」をレンタル中である。このところ映画を観る本数が著しく減っている。その前の貯金があるので何とか今年観た映画の総数は100本を越えたが、どうもこのところ映画の方に気持ちが向かない。

 そんな中でもやはり気になるのは中国映画である。もう何年も前からアメリカと並ぶ世界映画界の横綱として認めてきた。西の横綱アメリカ映画は今年になってその落ち込みが顕著になってきた。しかし東の横綱中国映画は、公開本数こそ相変わらず多いとはいえないが、確実に質の高い作品を送ってきている。

080202  その中国映画のDVDが9月以降相次いで出ている。「トゥヤーの結婚」(ワン・チュアンアン監督)、「マイ・ブルーベリー・ナイツ」(ウォン・カーウァイ監督)、「ラスト・コーション」(アン・リー監督)、「ようこそ、羊さま」(リウ・ハオ監督)、「白い馬の季節」(ニンツァイ監督)、「雲南の少女ルオマの初恋」(チアン・チアルイ監督)。カザフスタン・ロシア・他製作の「モンゴル」(セルゲイ・ボドロフ監督)も10月に出ている。年が明けて1月には「胡同愛歌」(アン・ザンジュン監督)、「胡同の理髪師」(ハスチョロー監督)、「草原の女」(ハスチョロー監督)、「紅い鞄 チベット、秘境モォトゥオへ」(ハスチョロー監督)、「雲南の花嫁」(チアン・チアルイ監督)が出る予定。

 漢民族以外の映画人が台頭し、映画の舞台や登場人物も民族色豊かである。しかし中国は元々多民族国家。少数民族が描かれたり、とんでもない僻地が舞台になるのは珍しいことではない。ざっと思いつくものをあげれば、「山の郵便配達」、「小さな中国のお針子」、「野山」、「子供たちの王様」「思い出の夏」「ココシリ」「天上の恋人」、「あの子を探して」、「黄色い大地」「最後の冬」等々といくつもある。

 「トゥヤーの結婚」と「白い馬の季節」は共に中国の内モンゴルを舞台にしている。モンゴルの草原を舞台にした映画といえば、真っ先に思い浮かぶのはニキータ・ミハルコフ監督の「ウルガ」(91年)とビャンバスレン・ダバー監督の「天空の草原のナンサ」(05年、ドイツ製作だが実質的にモンゴル映画)という2本の傑作だ。それともう1本ある。椎名誠監督の「白い馬」(95年)。調べてみると内モンゴルで撮影された中国映画「天上草原」(03年)やモンゴル人とベルギー人が監督した「ステイト・オブ・ドッグス」(98年)というモンゴル・ベルギー映画もある(この2本は観ていない)。

 僕は過去に3回中国に出張したことがあるが、内2回はフフホトへも行った。フフホトは内モンゴル自治区の省都で人口258万人(04年現在)。日本の感覚では大都市だが、中国では一地方都市に過ぎない。2回とも草原を見に行かないかと現地の人たちに誘われたが、時間に余裕がなかったので断った。草原を見られなかったのは今でも残念だ。

Yuhi  「トゥヤーの結婚」は「ウルガ」や「天空の草原のナンサ」と比べても遜色ない優れた作品だった。「白い馬の季節」もなかなかの力作だ。中国映画の魅力、それは生活をリアルに描けることである。その生活の苛烈さの象徴として出てくるのが井戸掘りと水汲みである。文字通り井戸掘りがテーマである「古井戸」が思い浮かぶ。他にも「黄色い大地」など僻地を舞台にした映画には水汲みの大変さがしばしば描かれる。10キロ以上離れた井戸まで往復何時間もかけて水汲みに行くことなど水が豊かな日本では考えにくいが、そんな日本映画にも新藤兼人監督の名作「裸の島」がある。水がなければ人は生きてゆけない。生活が成り立たない。遊牧民族の生活の場である草原が年々砂漠化している。水と牧草の不足、その悪条件の中でも必死で生きようとする人々。タイトルにもかかわらず、「トゥヤーの結婚」が描いているのは結婚そのものではなく、生きるための必死の努力、生活のための闘いである。

  フランス映画「サン・ジャックへの道」で描かれた旅はいらないものを捨ててゆく旅だった。その旅の果てに兄弟や家族の絆を見出してゆく。その意味で「リトル・ミス・サンシャイン」に通じる主題を持った映画だった。「トゥヤーの結婚」は最初から余分なものは何も持っていなかった。しかし、水は枯れ、草原は荒れ果て、頼みの夫は井戸掘りの際の事故で半身不随に。トゥヤーたちは最低限必要なものすら失おうとしている。彼女はぎりぎりのところまで追い詰められ、苦悩した挙句夫婦の絆を守りつつ、人間的な生活も手に入れようとしたのだ。

 最初と最後に二度出てくるトゥヤーが涙を流すシーン(冒頭のシーンが二度出てくるという展開はイギリス映画の名作「逢びき」が有名だが、「本当のジャクリーヌ・デュ・プレ」でも少しひねった使い方をされている)。様々な思いが交錯していたに違いない。しかしそれはなんといっても元夫のバータルのために流した涙だろう。トゥヤーが望んでいたのは元夫も含めた家族を養ってくれる男の働き手だった(自殺を図った元夫をトゥヤーが「家族は誰も死なせない」と怒鳴りつけた。別れても彼は「家族」だったのである)。愛する夫のために別の男と結婚せざるを得ないむごい現実。子連れどころか、元夫まで連れた結婚。奇想天外な発想ながら。そこには生きるためにはどんなことでもしようという人間の、虚飾をすべて投げ捨てた姿がある。生へのむき出しの執念。非現実的な設定ながら、これほどリアルな生の現実を描いた作品は他にほとんど思い当たらない。

 下半身不随になった元夫のバータル。彼は草原の文化が消え去って行くことの象徴である。草原が豊かだったころ、モンゴル相撲も盛んに行われていたはずだ(彼はかつてそのチャンピオンだった)。しかしこの作品の優れたところは、決して重苦しくその現実を描いてはいないことだ。働き者で面倒見のよいトゥヤーが再婚相手を求めていると聞いて夫候補が次々と現れるあたりは実に滑稽ですらある。結局トゥヤーは「お隣さん」(といっても日本の感覚の「隣り」ではない)のセンゲーと再婚することになるが、このセンゲーという男がなんとも魅力的なのだ。おっちょこちょいだが憎めない性格。そう、「北の国から」で岩城滉一が演じた草太のような男なのだ。

 ワン・チュアンアン監督の母親は内モンゴルで生まれたそうである。失われてゆく草原での生活に対する愛着と喪失感が強いのはそのためである。彼はあるインタビューで「私はモンゴル文化が大好きです。だからこそ、この消え行く文化を映像に残したいと思いました」と語っている。まさに「天空の草原のナンサ」を撮ったビャンバスレン・ダバー監督と同じ思いだ。あるいは三峡ダムに沈み行く町と人々を描いた「長江哀歌」にも通じる。

Green_hill  だからといって「トゥヤーの結婚」はノスタルジーに包まれた甘い映画ではない。コミカルでファンタジーのような要素すら持ってはいるが、基本的にはリアリスティックな映画である。遊牧民たちが住む場所を追われてゆく過程のリアルさは「白い馬の季節」の方が上だが、反面そちらには「トゥヤーの結婚」のような、突き抜けた明るさと力強さはない。「トゥヤーの結婚」はコミカルでファンタスティックな味付けとリアリティーのバランスが絶妙なのである。しかもコミカルな要素を加えつつも、容赦のない現実の圧力も充分描きえている。子供を主人公にして、草原で生きる人々の生活に根ざした智恵やその独特の風習をファンタスティックに描いた「天空の草原のナンサ」よりもずっと苦い現実が描きこまれている。「天空の草原のナンサ」は遊牧民への賛歌だったが、「トゥヤーの結婚」は遊牧民への挽歌である。

 もう1本、あの壮絶な傑作「ココシリ」と比べてみるのもいいだろう。「ココシリ」はチベットカモシカの密猟グループを執拗に追い続ける民間パトロール隊を描いた映画だ。ココシリも昔は放牧が盛んだったが、ここでも草原が砂漠化し、生きる手段を失った遊牧民たちが密猟グループに皮剥ぎ職人として雇われているという現実がある。95分の作品が130分はあるかと感じさせるほどの息詰まる追跡劇。その95分の中にチベットの現実がたっぷり詰め込まれている。それはなんとも苦い現実だ。資本主義の冷徹な論理がパトロール隊の執念をねじ伏せてゆく現実。

 パトロール隊の隊長も精悍だったが、トゥヤーも凛とした強さを持っている。押しとどめがたい現実に押しひしがれながらも何とか踏みとどまろうと努力した。その姿に感銘を受けるのだ。しかしそれでも現実を押しとどめることは出来なかった。トゥヤーは何とか再婚を果たしたが、いずれ遠からぬうちに草原を去らざるを得なくなるだろう。結局個人の生活を守るので精一杯なのだ。個人や民間グループの力では押しとどめようのない大きな力。その冷徹な現実のメカニズムを「ココシリ」は明確に抉り出した。「トゥヤーの結婚」はより個人の問題に焦点を当てている。

 トゥヤーという魅力的なヒロインを生み出したことがこの作品を成功させたと言っていい。「キムチを売る女」のスンヒ、「ボルベール<帰郷>」のライムンダ、「母たちの村」のコレ、「スパングリッシュ」のフロール、「スタンドアップ」のジョージー、そして「銀馬将軍は来なかった」のオルレ。トゥヤーは自分で道を切り開いてゆくこれらの魅力的なヒロインたちの系譜に属する。「ククーシュカ ラップランドの妖精」のアンニのような超自然的な力は持たないが、大地の母という言葉は二人ともよく似合う。

 最後に余談を一つ。自分が観た映画を記録するのに使っているフリーソフト「映画日記」で調べたら、監督のワン・チュアンアンという名前は既に登録されていた。「おはよう北京」(チャン・ヌアンシン監督、1990)でマー・シャオチンと共に主演した俳優の名前もワン・チュアンアン(王全安)なのである。漢字も同じ。同一人物だろうか?一部のサイトにはワン・チュアンアンの作品として「おはよう北京」(出演)と「トゥヤーの結婚」(監督)が並んで載っているが、ワン・チュアンアン監督の紹介記事やプロフィール記事には「おはよう北京」のことは全く出てこない。英語のサイトを調べてやっと同一人物だということが確認できた。日本の映画情報サイトや映画データベースには有名俳優や監督などのどうでもいいつまらない話が山のように載っているが、こういう基本的なリサーチがおざなりにされている。

  それはともかく、「おはよう北京」は95年1月31日にビデオで観ているが、どんな映画だったか全く覚えていない。観たことすら忘れていた。アマゾンで調べるとビデオは700~800円台で出ているが、果たして買うほどの作品なのかどうか。

「トゥヤーの結婚」(ワン・チュアンアン監督、2006年、中国)★★★★☆

<追記>
 「トゥヤーの結婚」はぜひ本格レビューを書きたいと思っています。しかし今の調子では本当に書けるかどうかおぼつかないので、一応この記事に基本的な評価を書いておきました。

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2008年12月21日 (日)

これから観たい&おすすめ映画・DVD(09年1月)

【新作映画】
12月20日公開
 「チェコ人形アニメの巨匠たち」(ミロスラフ・カチョル監督、チェコ)
 「英国王給仕人に乾杯!」(イジー・メンツェル監督、チェコ・スロバキア)
12月23日公開
 「ティンカー・ベル」(ブラッドリー・レイモンド監督、米)
12月26日公開
 「ミラーズ」(アレクサンドル・アジャ監督、米・ルーマニア)
12月27日公開
 「アンダーカヴァー」(ジェイムズ・グレイ監督、米)
 「その男ヴァン・ダム」(マブルク・エル・メクリ監督、ベルギー・他)
 「そして、私たちは愛に帰る」(ファティ・アキン監督、ドイツ・トルコ)
1月9日公開
 「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」(ギレルモ・デル・トロ監督、米・独)
1月10日公開
 「チェ 28歳の革命」(スティーブン・ソダーバーグ監督、仏・スペイン・米)
 「きつねと私の12か月」(リュック・ジャケ監督、仏)
 「ミーアキャット」(ジェームズ・ハニーボーン監督、イギリス)
 「禅 ZEN」(高橋伴明監督、日本)
1月17日公開
 「戦場のレクイエム」(フォン・シャオガン監督、中国)
 「ラーメンガール」(ロバート・アラン・アッカーマン監督、米)
 「大阪ハムレット」(光石富士朗監督、日本)
 「ワンダーラスト」(マドンナ監督、イギリス)
 「感染列島」(瀬々敬久監督、日本)
1月24日公開
 「誰も守ってくれない」(君塚良一監督、日本)

【新作DVD】
12月26日
 「シプシー・キャラバン」(ジャスミン・デラル監督、米)
 「シークレット・サンシャイン」(イ・チャンドン監督、韓国)
 「アメリカン・クライム」(トミー・オヘイバー監督、米)
1月1日
 「クライマーズ・ハイ」(原田眞人監督、日本)
1月7日
 「告発のとき」(ポール・ハギス監督、米)
 「レールズ&タイズ」(アリソン・イーストウッド監督、米)
 「胡同愛歌」(アン・ザンジュン監督、中国)
 「胡同の理髪師」(ハスチョロー監督、中国)
 「草原の女」(ハスチョロー監督、中国)
 「紅い鞄 チベット、秘境モォトゥオへ」(ハスチョロー監督、中国)
1月9日
 「シティ・オブ・メン」(パウロ・モレッリ監督、ブラジル)
 「悲しみが乾くまで」(スサンネ・ビア監督、米・英)
 「ジェリー・フィッシュ」(シーラ・ゲフィン監督、仏・イスラエル)
 「チェ・ゲバラ 世界一有名なポートレート」(エクトール・クルス監督、英)
 「アフター・ウェディング」(スサンネ・ビア監督、デンマーク)
1月23日
 「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」(サラ・ポーリー監督、カナダ)
 「12人の怒れる男」(ニキータ・ミハルコフ監督、ロシア)
 「歩いても 歩いても」(是枝裕和監督、日本)
1月30日
 「雲南の花嫁」(チアン・チアルイ監督、中国)
2月6日
 「純喫茶磯辺」(吉田恵輔、日本)

【旧作DVD】
12月25日
 「裸の大将 DVD-BOX 上、中、下巻」
12月26日
 「狼の挽歌」(70、セルジオ・ソリーマ監督、伊・仏)
 「ビクトル・エリセ DVD-BOX」
   収録作品:「挑戦」、「ミツバチのささやき」、「エル・スール」
1月23日
 「国際諜報局」(65、シドニー・J・フューリー監督、イギリス)
1月31日
 「暗黒街のふたり」(73、ジョゼ・ジョバンニ監督、仏・伊)
 「危険がいっぱい」(64、ルネ・クレマン監督、仏)

 相変わらずドキュメンタリーが盛んだ。新作では「チェコ人形アニメの巨匠たち」に心を惹かれる。劇映画では「英国王 給仕人に乾杯!」と「チェ 28歳の革命」、「そして、私たちは愛に帰る」に注目。今や世界映画界の堂々たる横綱の位置に付く中国映画「戦場のレクイエム」も期待できそうだ。日本映画では「大阪ハムレット」と「誰も守ってくれない」が良さそうだ。

 新作DVDでも「シプシー・キャラバン」、「チェ・ゲバラ 世界一有名なポートレート」のドキュメンタリー2作に注目。他にも、久々の韓国映画注目作「シークレット・サンシャイン」、「クラッシュ」のポール・ハギス監督の新作「告発のとき」、衝撃作「シティ・オブ・ゴッド」の姉妹編「シティ・オブ・メン」、ニキータ・ミハルコフ監督が裁判劇の名作をリメイクした「12人の怒れる男」、珍しいデンマーク映画「アフター・ウェディング」とイスラエル映画「ジェリーフィッシュ」等、期待の作品が並ぶ。しかし個人的には中国映画が5本も出ることに感涙。未公開作品「アメリカン・クライム」と「レールズ&タイズ」も案外拾い物かも。

081129_42  旧作DVDではなんといっても「ビクトル・エリセ DVD-BOX」の発売が最大のクリスマス・プレゼント。「ミツバチのささやき」は既に持っているが、迷わず予約注文した。もう一つうれしいのは「BFI選定イギリス映画ベスト100」で59位に選ばれた「国際諜報局」の登場。マイケル・ケイン絶頂期の60年代に生まれた傑作。他にも「狼の挽歌」、「暗黒街のふたり」、「危険がいっぱい」と懐かしい作品がやっとDVDに。あの頃のチャールズ・ブロンソンは実に魅力的で大好きだった。芦屋雁之助が山下清になりきった「裸の大将」は日本のTVドラマが生んだ傑作のひとつ。おすすめです。

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2008年12月 9日 (火)

先月観た映画(08年11月)

「ジェイン・オースティンの読書会」(ロビン・スウィコード監督、米)★★★★
「つぐない」(ジョー・ライト監督、イギリス)★★★★
「ラスト・コーション」(アン・リー監督、米・中国・台湾・香港)★★★★
「ガチ☆ボーイ」(小泉徳宏監督、日本)★★★☆
「茄子 アンダルシアの夏」(高坂希太郎監督、日本)★★★☆

081206_48  先月は何と5本しか観ていない。レビューはおろか映画自体もほとんど観なくなってしまった。ボストンの滞在記をずっと書いているうちに写真日記の方に関心が傾いてしまい、日本に帰ってからもそれが続いているという感じ。デジカメを新調したこともあり、写真を撮るのに夢中になっている。地域SNSには毎日記事を3~5本書くという入れ込みよう。完全に逆転してしまいました。まあ、嘆いていても仕方がない、ぼちぼちやります。

「ジェイン・オースティンの読書会
 さて、まずは「ジェイン・オースティンの読書会」。12月1日に観た「最高の人生の見つけ方」はスペイン映画「死ぬまでにしたい10のこと」に似たテーマを持つ作品だと感じたが、こちらもデンマーク映画「幸せになるためのイタリア語講座」に似た設定の映画だと思った。アメリカ映画もよほどネタに困ってきたようだ。最近は日本の映画館で上映されるアメリカ映画の数も減り、大ヒット作品も少なくなった。代わりに日本映画が大量に公開されるようになった。アメリカ映画に翳りが見え始めている。

 そんなアメリカ映画の中では「ジェイン・オースティンの読書会」は良質な映画だといえる。かといって重いテーマではない。ジェイン・オースティンの作品をめぐる文学談義も出てくるが、彼女の作品を深く読み込んでいなければ理解できないというわけではない。ちょっとした文学的味付け程度である。そこはアメリカ映画、読書会に集まった4人の女性と男性一人はそれぞれに悩みを抱えてはいるが、決して深刻ではなく、ハッピーエンドに向かって明るいタッチで展開される。そこはどこか北欧的な暗いムードが漂う「幸せになるためのイタリア語講座」と異なる点だ。後者の6人の男女たちは深い悩みと心の傷を抱え、満たされない心の隙間を埋めるようにイタリア語講座に通う。心の傷が深い分、それぞれに愛する相手を求め合う気持ちも強い。こちらもハッピーエンドだが、悩みが深い分感動も深い。

 それに比べると「ジェイン・オースティンの読書会」はコメディ・タッチもまじえて描いており、恋の駆け引きやすれ違いなどに焦点を当てる。オースティンほどの深い人間観察はないが、悲喜こもごもの人間模様を軽妙なタッチで描いている。インテリたちが中心のドラマだが、それぞれに幸せをつかもうともがく人たちに暖かい視線を注いでいる点は「幸せになるためのイタリア語講座」と共通する。「幸せになるためのイタリア語講座」は地味で、「ジェイン・オースティンの読書会」はやや軽い。しかしそれぞれに味わいがあるいい映画だと思う。

「つぐない」
 「つぐない」は久々に観たイギリス映画。イギリスらしい気品のある映画だった。さほど深い感銘を与える映画ではないが、なかなかの出来である。13歳の少女の誤解が元で思わずついた嘘が一人の男の運命を変え、彼女自身と彼女の姉の運命も変えてしまう。身分の違う男女の恋愛、戦争、人生の最後まで背負い続けた罪意識というメロドラマ的な要素がたっぷり入っている。よく出来たメロドラマらしい劇的な展開。少女が誤った証言をした時点とその4年後が中心に描かれるが、最後にさらにその数十年後が描かれる展開がうまい。

 主演のキーラ・ナイトレイとジェームズ・マカヴォイも悪くないが、なんといってもこの映画の価値を格段に高めたのは少女の晩年を演じたヴァネッサ・レッドグレイヴである。ジュディ・デンチ、マギー・スミス、ヘレン・ミレンなどと並ぶイギリスの大女優。さすがの風格。「ヴィーナス」では彼女にふさわしい役を与えられなかったが、「つぐない」の役はまさにこの大女優にふさわしい役柄だった。彼女の登場で最後が一気にぐっと引き締まった。

081201_49 「ラスト・コーション」
  「ラスト コーション」は2時間半もある長い映画だった。予想はしていたが、後半はポルノ映画のようになってゆく。だが、アン・リー監督の人物描写は(濃厚なセックス描写も含め)さすがに巧みで、全体として悪くない映画だ。老け役に挑んだトニー・レオンと新人女優タン・ウェィの演技もなかなかいい。ただ、どうも基本の設定がリアルではない。傀儡政府の特務機関のボスであるトニー・レオンにはさすがの凄みと威圧感があるが、タン・ウェィはとても抗日組織のテロリストには見えない。テロ組織には何ら切羽詰った緊迫感もないし、テロに走らざるを得ない抑圧的状況がほとんど描かれていない。射撃の練習をしている場面などは、ほとんど学生の遊びにしか見えない。その点がどうもうそ臭くて最後まで違和感がある。したがってラストにいたる展開もいまひとつ盛り上がれなかった。

 アン・リー監督は初期の3部作「推手」、「ウェディング・バンケット」、「恋人たちの食卓」がいまだに彼の頂点だと思う。「いつか晴れた日に」や「ブロークバック・マウンテン」も優れた作品だが、やはりこの3部作には及ばない。

「ガチ☆ボーイ」その他
 「ガチ☆ボーイ」はそこそこのでき。これまた「フライ、ダディ、フライ」によく似た映画だ。若者の描き方が情けないオバカ映画ののりだ。どうして若者を描くとこうなってしまうのか。ただラストのガチンコ勝負あたりはなかなかの迫力。ではあるが、泣かせる演出という、これまた日本映画の悪い癖がこの映画にも出ている。堤新一と岡田准一という強力な役者がいる分出来は「フライ、ダディ、フライ」の方が上だ。ただし、この手の映画には韓国に「反則王」という秀作がある。ソン・ガンホ主演のサラリーマンの悲哀を描いたガチンコ・コメディ映画。同じプロレスがテーマだけに完成度の違いはいやでも目立ってしまう。

 「茄子 アンダルシアの夏」は日本のアニメ映画。公開当時から気になっていたがやっと観ることができた。アニメ大国日本の作品なのでさすがに出来は悪くない。監督の高坂希太郎が宮崎駿監督の一番弟子だけあって絵のタッチなどはジブリ作品を思わせる。ただ、自転車をこぐ足の動きなど絵の荒い点も目立つ。しかも47分の短い作品なので物足りなさが残る。まあ、物足りないというのはもっと観たかったという気持ちと裏腹だから、そう思わせる力があるともいえる。続編の「茄子2 スーツケースの渡り鳥」は出来がいいようだ。こちらも機会があれば観てみよう。

 アニメといえばテレビで放映された「墓場鬼太郎」のDVDも最初の1本だけ観た。原作の持ち味をそのままアニメにしているので大いに楽しめる。水木しげるの絵は実に味わい深い。決して正義の味方ではない鬼太郎がまたいい。続きを観たいがレンタル店で見つからない。置いてないのか?

081206_17  映画をあまり観ていないので、おまけとして市民劇場で観た「詩人の恋」について簡単に紹介しておこう。これは実にユニークで面白い劇だった。音楽劇は今まで結構見たが、これはいわゆるミュージカルではない。シューマンの「詩人の恋」を題材に、若手天才ピアニストのスティーブンと落ち目の声楽家マシュカン教授がすったもんだする二人芝居。ピアノを習いたいので歌はどうでもいいと言うスティーブンを、教授は歌い手の気持ちが分からなければ優れたピアニストにはなれないと説得。最初はしぶしぶ、しかし次第に教授の言う喜びと悲しみを知らなければ優れたピアニストにはなれないという言葉が理解できて来る。

 実際にピアノを弾き、ドイツ語で歌う。その驚くべき力量に正直驚いた(ドイツ語のせりふはさすがにうまくはないが)。さらには、二人とも実はユダヤ人であり、教授は第二次大戦中強制収容所にいたことが分かってくる。これが無理やりではなく、うまくテーマにかみ合っている。終始コメディとして展開されながらも、社会的テーマも違和感なく取り込まれている。教授役を加藤健一、スティーブン役を畠中洋が演じている。この二人しか出てこない。背景もずっと同じ。これで退屈させないところはさすが加藤健一だ。原作はジョン・マランス。

<おまけ>
■ジャック・ニコルソン(1937- ) マイ・ベスト10
 「最高の人生の見つけ方」(2007)
 「アバウト・シュミット」(2002)
 「恋愛小説家」(1997)
 「クロッシング・ガード」(1995)
 「シャイニング」(1980)
 「カッコーの巣の上で」(1975)
 「チャイナタウン」(1974)
 「さらば冬のかもめ」(1973)
 「ファイブ・イージー・ピーセス」(1970)
 「イージー・ライダー」(1969)

■モーガン・フリーマン(1937- ) マイ・ベスト5
 「素敵な人生の見つけ方」(2007)
 「ミリオンダラー・ベイビー」(2004)
 「ショーシャンクの空に」(1994)
 「許されざる者」(1992)
 「ドライビングMissデイジー」((1989)
 「グローリー」(1989)

(注)文中の写真は自分で撮ったものです。

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