先月観た映画(08年10月)
「ミリキタニの猫」(リンダ・ハッテンドーフ監督)★★★★☆
「ノー・カントリー」(ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン監督)★★★★☆
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(ポール・トーマス・アンダーソン監督)★★★★☆
「長い長い殺人」(麻生学監督、日本)★★★☆
「バンテージ・ポイント」(ピート・トラヴィス監督、アメリカ)★★★☆
「大いなる陰謀」(ロバート・レッドフォード監督)★★★
「アンブレイカブル」(M.ナイト・シャマラン監督、アメリカ)★★★
このところ記事の更新が滞っていてご迷惑をおかけしています。記事も書かず、TBも送っていないのでグーグルのページ・ランクはまたゼロになってしまいました。別館ブログ「ゴブリンのつれづれ写真日記」や地域SNSにはほぼ毎日記事を載せているのですが、映画中心の本館HP「緑の杜のゴブリン」と当ブログ「銀の森のゴブリン」は情けないことにほとんど休止状態です。
さて、「ミリキタニの猫」については「『ミリキタニの猫』を観ました」という記事をご覧ください。観てからもうだいぶたってしまいましたが、何とかレビューも書くつもりです。「アンブレイカブル」はボストンにいたときにテレビで観たもの。初めて観たと思っていましたが、帰国後「映画日記」を調べてみたら何と01年10月5日に一度観ていた。退屈なわけでもないが、盛り上がりもない。まあ、観たことも覚えていない程度の映画だ。「大いなる陰謀」はある程度期待していたが、がっかりした。雪山に取り残された米兵二人の扱いが何とも情緒的でいただけない。
「バンテージ・ポイント」と「長い長い殺人」
「バンテージ・ポイント」と宮部みゆき原作の「長い長い殺人」は同じような作りの映画。「バンテージ・ポイント」は米大統領暗殺事件を異なる8人の視点から何度も捉えなおすことで、少しずつその全容が明らかになって行くという趣向。しかし謎が単純すぎてわくわくするほどの面白さには至らず。暗殺もあっさり成功しすぎる。話が単純すぎるので複雑な展開にしたといえなくもない。大統領は必ずしも英雄的には描かれていないが、全体的にアメリカ肯定の映画である。ただ、主演のデニス・クエイドは好演。
「長い長い殺人」は思ったより力作だった。こちらは轢き逃げ事件、浮気の調査、結婚詐欺という一見互いに関連のなさそうなストーリーがやがて一つに結びついてゆくという展開。語り手が財布というのもユニークな設定だが、映画では単なるナレーション程度の扱い。さして効果的に使われているとは言えない。最近よく作られるタイプの映画で、犯人も予想通りで意外性はないものの、入り組んで謎めいた展開はこちらの方が上。美女をたくさん配した豪華キャストも魅力です。ただし、もともとWOWOW放映用に作られたようで、テレビ的安っぽさをしばしば感じる。
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は期待通りの力作だった。アプトン・ シンクレアの『石油!』が原作。アプトン・ シンクレアについては大学のアメリカ文学史で習った程度のことしか知らないが、20世紀初頭に社会問題小説を残した作家というのが一般的なイメージか。原作は読んでいないが、映画は原作から最初のごく一部を借りただけらしい。
ということはかなり創作の部分が大きいということである。小説の主人公はダニエルではなく息子である。映画ではダニエルが主人公で、社会状況よりむしろダニエル本人の行動に焦点を当てている。「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」はダニエルに扮したダニエル・デイ=ルイスを描く映画であり、映画の力強さはダニエル・デイ=ルイスの演技力と存在感からくるものだ。ポール・トーマス・アンダーソン監督の乾いた、ハード・ボイルドな演出も出色だが、何といってもダニエル・デイ=ルイスの存在が大きい。
しかしあまりに主人公の個性的振る舞いと性格に焦点を当てすぎたため、社会的関連性が薄くなってしまった。ラストが曖昧で説得力に欠けると感じるのは、結局イーライという人物との個人的軋轢で説明されているからである。このイーライという人物は原作にも描かれているようだが、どうも映画の中ではもてあまし気味だ。それは結末に必用なために存在しているからではないか。ポール・ダノは「リトル・ミス・サンシャイン」の時とはずいぶん違う役柄に果敢に挑んではいるが、結末がすっきりしないのは彼のせいでも、ダニエル・デイ=ルイスのせいでもないだろう。やはり二人の描き方に問題があったのだと思う。
「ノー・カントリー」
「ノー・カントリー」は乾いた演出が出色の傑作サスペンス映画だった。ハビエル・バルデム演じる殺し屋アントン・シガーが実に不気味だ。「海を飛ぶ夢」では20年以上もの間寝たきりの人物という難役を見事に演じたが、「ノー・カントリー」では本来の持ち味であるアントニオ・バンデラスの向こうを張るようなラテン系ブリブリ男+坊ちゃん頭+酸素ボンベ姿で現れる。「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」以上にハード・ボイルド・タッチだ。
この冷酷無比でかつ礼儀正しいという特異な性格の悪役が余りに強烈なので、さすがのトミー・リー・ジョーンズも影が薄いと感じてしまうほどだ。しかしそれは彼の役柄からきているともいえる。彼は自分にはとても理解できない事件に遭遇したのだ。終始ぼやいてばかりいる彼の姿は、今のアメリカを見る国民の姿と重なるのかもしれない。まあ、あまり深読みする必要もないだろう。クライムアクションとして上出来の映画である。コーエン兄弟の作品中でも特に優れた1本だ。
<おまけ>
■ダニエル・デイ=ルイス マイ・ベスト5
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」 (2007)
「ラスト・オブ・モヒカン」(1992)
「マイ・レフトフット」(1989)
「存在の耐えられない軽さ」(1988)
「マイ・ビューティフル・ランドレット」(1985)
■こちらもおすすめ
「眺めのいい部屋」(1986)
「日曜日は別れの時」(1971)
■気になる未見作品
「父の祈りを」(1993)
「ガンジー」(1982)
僕にとってダニエル・デイ=ルイスといえば、まず「マイ・ビューティフル・ランドレット」が真っ先に思い浮かぶ。「炎のランナー」と並ぶ80年代を代表するイギリス映画である。ダニエル・デイ=ルイスのデビュー作「日曜日は別れの時」を先に観てはいたが、ほとんどちょい役だろうから全く彼の記憶はない。実質的には「マイ・ビューティフル・ランドレット」で初めて彼を意識した。
その後はアカデミー賞を受賞した「マイ・レフトフット」も含め、あまりぱっとした作品がなかったというのが正直な印象だ。上に挙げなかった「風の中の恋人たち」(1987)や「エバースマイル、ニュージャージー」(1989)などにいたっては全く平凡な作品だった。
ヒュー・グラントと並んで貴公子然とした風貌で人気があったが、「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002)で復帰して以降は屈折した役に才能を発揮するようになった。「眺めのいい部屋」と「日曜日は別れの時」はダニエル・デイ=ルイスの印象があまりないのでベスト5からはずした。しかしどちらも作品としては優れたもので、特に「日曜日は別れの時」は大好きなグレンダ・ジャクソンの代表作であるばかりではなく、70年代イギリス映画を代表する傑作である。
■トミー・リー・ジョーンズ マイ・ベスト5
「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」(2005)
「メン・イン・ブラック」(1997)
「逃亡者」(1993)
「JFK」(1991)
「歌え!ロレッタ愛のために」(1980)
僕にとってトミー・リー・ジョーンズといえば「歌え!ロレッタ愛のために」と「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」がまず思い浮かぶ。優れた俳優であり、長い芸歴を持つが、そのわりには傑作への出演が少ない。この二本とせいぜい「JFK」くらいだろう。「歌え!ロレッタ愛のために」のドゥー役は実に鮮烈だった。素晴らしい俳優だと思ったのだが、その後はアクション映画かコメディー映画の出演が多かった。監督を兼ねた「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」でやっと本来の力を発揮したという印象だ。
ただ、CMの出演で話題になったように、コメディーもうまくこなす。「メン・イン・ブラック」がその代表作。あの渋い顔を生かした役柄とコミカルな役柄を使い分ける才能があるのだから、作品を選べばむしろこれからが活躍の時期なのかもしれない。
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コメント
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さきほどトラックバックを送信させていただきましたが、誤って他の日記「波乗りレストラン」から送信してしまいました。
こちらから削除することはできないようなので、削除をお願いしてもよろしいですか?お手数おかけして申し訳ございません。
投稿: こぶたのマーチ | 2008年11月11日 (火) 11:05