2007年公開映画マイ・ベストテン
【2007年外国映画マイ・ベストテン】
1位 「ボルベール<帰郷>」(ペドロ・アルモドバル監督、スペイン)
「パンズ・ラビリンス」(ギレルモ・デル・トロ監督、メキシコ・スペイン・他)
2位 「世界最速のインディアン」(ロジャー・ドナルドソン監督、ニュージーランド)
「今宵フィッツジェラルド劇場で」(ロバート・アルトマン監督、アメリカ)
3位 「長江哀歌」(ジャ・ジャンクー監督、中国)
「約束の旅路」(ラデュ・ミヘイレアニュ監督、フランス)
4位 「アズールとアスマール」(ミッシェル・オスロ監督、フランス)
「ONCE ダブリンの街角で」(ジョン・カーニー監督、アイルランド)
5位 「孔雀 我が家の風景」(リー・チャンウェイ監督、中国)
「トランシルヴァニア」(トニー・ガトリフ監督、フランス)
6位 「エディット・ピアフ 愛の讃歌」(オリヴィエ・ダアン監督、フランス・他)
「迷子の警察隊」(エラン・コリリン監督、イスラエル・他)
7位 「ボーン・アルティメイタム」(ポール・グリーングラス監督、アメリカ)
「ヘンダーソン夫人の贈り物」(スティーヴン・フリアーズ監督、イギリス)
8位 「ドリームガールズ」(ビル・コンドン監督、アメリカ)
「サン・ジャックへの道」(コリーヌ・セロー監督、フランス)
9位 「クィーン」(スティーヴン・フリアーズ監督、イギリス・他)
「キムチを売る女」(チャン・リュル監督、韓国・中国)
10位 「ミリキタニの猫」(リンダ・ハッテンドーフ監督、米)
「やわらかい手」(サム・ガルバルスキ監督)
次点 「善き人のためのソナタ」(フロリアン・ドナースマルク監督、ドイツ)
「オフサイド・ガールズ」(ジャファル・パナヒ監督、イラン)
「ボビー」(エミリオ・エステベス監督、アメリカ)
「ヒロシマナガサキ」(スティーブン・オカザキ監督、アメリカ)
「フランシスコの2人の息子」(ブレノ・シウヴェイラ監督、ブラジル)
「ダイ・ハード4.0」(レン・ワイズマン監督、アメリカ)
「ブラックブック」(ポール・バーホーベン監督、オランダ・他)
「パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド」(ゴア・バービンスキー監督)
「シッコ」(マイケル・ムーア監督、アメリカ)
「潜水服は蝶の夢を見る」(ジュリアン・シュナーベル監督、米・仏)
「スウィーニー・トッド」(ティム・バートン監督、米)
「題名のない子守唄」(ジュゼッペ・トルナトーレ監督、伊)
「僕のピアノコンチェルト」(フレディ・M・ムーラー監督、スイス)
「サラエボの花」(ヤスミラ・ジュバニッチ監督、ボスニア)
【2007年日本映画マイ・ベストテン】
1位 「それでもボクはやってない」(周防正行監督)
2位 「めがね」(荻上直子監督)
3位 「夕凪の街 桜の国」(佐々部清監督)
4位 「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(山崎貴監督)
5位 「河童のクゥと夏休み」(原恵一監督)
6位 「キサラギ」(佐藤祐市監督)
7位 「しゃべれども しゃべれども」(平山秀幸監督)
8位 「天然コケッコー」(山下敦弘監督)
9位 「あかね空」( 浜本正機監督)
10位 「サイドカーに犬」(根岸吉太郎監督)
次点 「HERO」(鈴木雅之監督)
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(松岡錠司監督)
昨年の注目作で観ていないものはまだたくさんあります。外国映画では「バベル」、「やわらかい手」、「ヘアスプレー」、「呉清源 極みの棋譜」、「パラダイス・ナウ」、「ここに幸あり」、「この道は母へとつづく」、「再会の街で」、「アフター・ウェディング」。日本映画ではほぼ観たいものは観たのですが、『キネマ旬報』でベストテンに入った「松ヶ根乱射事件」、「魂萌え!」、「腑抜けども 悲しみの愛を見せろ」などは一応観ておきたい。
まだまだ順位が動く可能性はありますが、これ以上遅らせるわけにもゆかないので思い切ってマイ・ベストテンを発表します。外国映画は捨てがたい作品が多いので、苦し紛れに2本ずつ選びました。
【2007年の概況】
次点までの22本を国別に見るとフランス5本、アメリカ5本、中国3本、スペイン2本、イギリス2本がベスト5。他にニュージーランド、アイルランド、イスラエル、ドイツ、イランが各1本ずつ。ゴブリンらしいヴァリエーションに富んだリストになったと思います。
何より注目すべきはフランス映画。70年代、80年代の不振が嘘のような充実振り。7、80年代はエリック・ロメール、リュック・ベッソン、パトリス・ルコントあたりが活躍していた程度。ニキータ・ミハルコフ、ラッセ・ハレストレム、オタール・イオセリアーニ、トニー・ガトリフなどの「外国人枠」を広げた90年代に上向きになり、2000年代に入るとかつての輝きを取り戻してきた。2001年の「アメリ」がターニング・ポイントとなる象徴的作品だったかもしれない。コリーヌ・セロー、フランソワ・オゾン、ジャン・ベッケルなどが次々と優れた作品を発表し、アニメ界ではシルヴァン・ショメやミッシェル・オスロの傑作が生まれた。他国との共同制作も旺盛に行っている。長らくアメリカと中国の2大横綱時代が続いたが、これからはフランスを加えた3横綱時代になるかもしれない。
80年代以降ほぼ切れ目なく続く中国映画の充実振りもすごい。ここ数年公開本数が減っていたが、予想通り北京オリンピック効果でまた本数が増えてきた。「長江哀歌」は堂々たる傑作だった。一方韓国映画は公開本数もだいぶ減った感じだ。相も変らぬ恋愛映画が多くてどれを観ていいか分からない。ベストテンに入ったのは中国と共同制作した「キムチを売る女」だけという寂しさ。ただ「ユゴ 大統領有故」、「光州5・18」など政治的テーマに切り込んだ作品や社会の底辺を描いた「黒い土の少女」のような作品も少しずつ出てきているので、今年はもっと上位に食い込む作品が出てくることを期待したい。
1位を独占したスペイン映画。まだまだ公開本数は少なく、少数の突出した作品がときどき現われるといった状況だ。フランコ死後に一気に花開いた80年代のような層の厚さはないが、才能のある若手や中堅が育ってくれば再び黄金期が訪れるかもしれない。その意味でスペインの映画製作事情が気になる。「スペイン映画ルネッサンス」といわれた80年代に続く90年代はほとんど話題になる作品を生まなかった。今の作品的充実振りもペドロ・アルモドバルを中心とした少数の才能ある人たちが支えている感じだ。しかし、フランコ独裁下でも少なからぬ傑作を生み続けてきたスペイン映画のこと、今後も優れた作品が生まれてくるに違いない。
70年代、80年代の停滞を90年代に乗り越えたイギリス映画。その勢いは2000年代に入っても衰えるどころかますます充実している。22本の中に2本というのは寂しいが、いずれも傑作だった。90年代以来ケン・ローチとマイク・リーの2大巨匠がリードしてきたが、この二人以外にも入れ替わり立ち代り優れた作品を生み出す人が現れる。それがイギリス映画の強みだ。テリー・ギリアム、ジェームズ・アイヴォリー、ニール・ジョーダン、リチャード・アッテンボロー、ケネス・ブラナー、ダニー・ボイル、マイケル・ウィンターボトム、マーク・ハーマンそしてスティーヴン・フリアーズ。さらにはアニメ界の巨匠ニック・パーク。実に層が厚い。今年はケン・ローチの「この自由な世界で」も公開される。イギリス映画の充実期はまだまだ続くだろう。
その他では久々にイラン映画が観られたのがうれしい。このところ好調のニュージーランドとドイツ映画も健在だ。珍しいアイルランド、イスラエル映画が上位に入ったのもうれしい。久々のスイス映画「僕のピアノコンチェルト」も秀作だった。東欧の映画も秀作が何本かあった。南米ではブラジルの「フランシスコの2人の息子」が素晴らしい作品だった。しかしこれ1本というのは寂しい。
最後に日本映画。非常に充実していた一昨年に比べるとぐっと小粒になった。傑作と呼べるのは上位の数本だけ。上映本数はかなりの数になるが、その大半はガキ相手のテレビドラマに毛が生えた程度の作品だ。どうも日本映画の製作者は外国映画の観客層と日本映画の観客層を分けて考えている気がする。目利きの観客は外国映画に相手をさせて、日本映画はガキやギャルを対象に有名テレビ俳優が出ているお手軽映画を見せておけばよい。そう考えているとしか思えない。もちろん真面目な映画を作っている製作者もいるが、悲しいことに一部にとどまっている。「天然コケッコー」の評価が低いと感じるかもしれないが、前に同じタイプの「青空のゆくえ」(2005年9位)を観ていたのでどうしてもインパクトが弱くなってしまった。そうでなければベスト5に入れていたかもしれない。
(注)
ベストテン確定後に観た映画を順次入れ込んであるので、一部記述と合わない部分があります。