先月観た映画(08年3月)
「アズールとアスマール」(06、ミッシェル・オスロ監督、仏)★★★★★
「キムチを売る女」(05、チャン・リュル監督、中国・韓国)★★★★☆
「ふくろうの河」(62、ロベール・アンリコ監督)★★★★☆
「最前線物語」(80、サミュエル・フラー監督、アメリカ)★★★★☆
「ボーン・アルティメイタム」(07、ポール・グリーングラス監督、米)★★★★☆
「記憶の扉」(94、ジュゼッペ・トルナトーレ監督)★★★★
「川本喜八郎作品集」(川本喜八郎監督、日本・他)★★★★
「アース」(07、アラステア・フォザーギル、他、監督、英・独)★★★★
「サイドカーに犬」(07、根岸吉太郎監督、日本)★★★★
「そして、デブノーの森へ」(04、ロベルト・アンドゥ監督、仏・他)★★★★
「アーサーとミニモイの不思議な国」(06、リュック・ベッソン監督、仏)★★★★
「ザ・センチネル 陰謀の星条旗」(06、クラーク・ジョンソン監督、米)★★★★
「さらば、ベルリン」(06、スティーヴン・ソダーバーグ監督、米)★★★☆
「アイ・スパイ」(02、ベティ・トーマス、米)★★★☆
「ハリウッドランド」(06、アレン・コールター監督)★★☆
「たとえ世界が終わっても」(07、野口照夫監督、日本)★★☆
「最前線物語」
「最前線物語」はサミュエル・フラー監督作品だけに、一味違う戦争映画だった。主演のリー・マーヴィンも50代後半なのでさすがに全盛期だった60年代の精悍さはないが、代わって渋さが増した。第一次大戦で生き残ったベテランの軍曹という設定がいい。内容はTVドラマの傑作「バンド・オブ・ブラザーズ」によく似ている。新兵をしごき上げる場面はあまりないが、戦地を転々とし、ノルマンディー上陸作戦を経てユダヤ人のゲットー解放まで描く点も似ている。最初に登場する4人の新兵がやがてベテラン兵に成長して最後まで生き残り、未熟な補充兵がどんどん死んでゆくという展開も同じだ。「バンド・オブ・ブラザーズ」もユダヤ人の強制収容所を発見する第9話が一つのクライマックスになっているが、「最前線物語」も最後に印象的な場面が用意されている。リー・マーヴィンがユダヤ人の子供を世話し、きれいな川のほとりで一緒にすごし、肩車して帰る場面だ。戦闘シーンばかり続いた後だけにほっとする場面である。しかしそのすぐ後に、その子供は彼の肩の上で死んだというナレーションが入る。さらに、第一次大戦のときも第二次大戦のときも、終戦になった後でリー・マーヴィンが敵兵を殺す場面が出てくる。単にアメリカ兵を勇ましく描いただけでないところに好感を持った。
「ボーン・アルティメイタム」
既にレビューや短評を書いているものは省略します。「ボーン・アルティメイタム」は大いに楽しめた。ボーン・シリーズは「ダイ・ハード」シリーズと並ぶ最強のシリーズの一つ。アメリカ映画が長年培ってきた映画つくりの粋を集めた傑作。しかし、数ある他のアクション物とどこが違うのかを説明するのは難しい。恐らく人間が持てる限界ぎりぎりの能力を持ったヒーローを描いているということではないか。これを越えるとサイボーグやロボットや宇宙人などの領域に入ってしまい、リアリティがその分減る。一方007と同じ不死身キャラでありながら、悠々と危機を脱出する余裕を持たせていない。また、シュワルツェネッガーのような筋肉マンタイプでもない。通常の人間の能力をはるかに超える力を持ちつつも見かけは普通の人間で、いつもぎりぎりのところまで追い詰められる。いつもへろへろになってぼやきながら奮闘するマクレーンと常に冷静さを失わないボーンという違いはあっても、スーパーマンではなく人間くささを失わないところが共通の魅力なのかもしれない。
「そして、デブノーの森へ」
「そして、デブノーの森へ」は最初こそつまらない映画を観てしまったかと不安になったが、途中からサスペンス調になってきてぐいぐい引きつけられた。ただ、観終わってしばらくたつともう内容が思い出せない。謎の女アナ・ムグラリスの真の狙いは何かというサスペンス仕立てと彼女がやたらと脱ぎまくるサービスに流されて、人間ドラマが浅くなっていると言わざるを得ない。ただ、昔懐かしいフランス映画の香りがあってその点は捨てがたい。ロベルト・アンドゥ監督はフェデリコ・フェリーニやフランチェスコ・ロージといったイタリア映画の巨匠の下で映画作りを学んだというから、今後が期待できそうだ。
「さらばベルリン」
「さらば、ベルリン」はかなり評判が悪いが、僕はそれほど悪くないと思った。「シン・シティ」ほどではないが、あえて白黒にした効果が出ていると思う。やはりノワールは白黒画面が似合う。謎の女ケイト・ブランシェットの秘密が最後の最後まで分からないという展開がいい。ただ、長大な原作を無理に縮めたため分かりにくくなっていたことは確か。「カサブランカ」や「第三の男」と比較してもあまり意味はない。白黒画面のノワール的雰囲気を楽しめばそれでいい。そう思って観ればさほど悪い出来ではない。
「サイドカーに犬」
「サイドカーに犬」は思ったより良かった。DVDのジャケットを見ててっきり田中麗奈が主演だと思っていたら、竹内結子が主演だった(汗)。僕は彼女がテレビのCMに出始めた頃は大好きだった。ただ、彼女のドラマも映画もほとんど観ていない。映画は「春の雪」に続いてこれが2本目だ。情けないメロドラマだった「春の雪」よりこちらの方が格段にいい。彼女には珍しい(?)少しがさつで蓮っ葉な女の役。でも根は優しい。いかにも彼女向きの役柄にしなかったことが成功の一番の理由だといえる。彼女はある男の愛人らしいのだが、家を出て行ったその男の妻の代わりに、男の娘の世話にやってくる。いきなり家に現われるのだが、名前はヨーコとしか言わない。家に住み着くのではなく、毎日自転車で通ってくるところがいい。女の子としだいに心を通わせてゆく過程が自然だ。映画は大人になった女の子(ミムラ)が20年前を回想するという作りになっていて、ヨーコさんがその後どうなったのか分からないのも何か胸にチクリと残っていい。「ALWAYS三丁目の夕日」が描いた50年代ではなく80年代を描いているので、30代くらいの世代にはむしろノスタルジーが掻き立てられるだろう。監督は根岸吉太郎。「雪に願うこと」にはやや劣ると思ったが、彼はこういうストレートなストーリーをいやみなく作れる才能がある。日本映画界の中では貴重な存在だ。
「ザ・センチネル」その他
「ザ・センチネル 陰謀の星条旗」はなかなかよくできた映画で、最後まで引き込まれた。シークレット・サービス内の裏切り者が最後のあたりまで分からない。マイケル・ダグラスが容疑者扱いされながら犯人を追い詰める展開。ありがちな設定なのに飽きさせない。キーファー・サザーランドが出演しているせいか、TVドラマ「24」のような味わいである。スピーディな展開で緊張感が続く。「24」の映画版を観ているようなものだと思えばいい。「24」はだんだん荒唐無稽になってきたので第2シーズンまで観てやめてしまったが、時限を切られた緊張感の中でハラハラドキドキのアクションが次から次へと展開するという一つのスタイルを完成させたといえる。ただ、「24」も「ザ・センチネル」もアメリカ的価値観の中ですべて展開していることは否めない。
たまたまテレビで観た「アイ・スパイ」は久々のエディ・マーフィ主演映画。いかにも彼にぴったりの役柄。まさに十八番で悪かろうはずはない。話の展開は何てことないが、エディ・マーフィとオーウェン・ウィルソンのでこぼこコンビが面白い。こういうコミカルな役柄を演じさせるとエディ・マーフィは天下一品だ。内容を云々する必要はない。お気楽コメディなんだから、楽しんで観られればそれでいい。
ちっとも楽しめなかったのは「ハリウッドランド」。TV版「スーパーマン」シリーズの主演俳優ジョージ・リーブスの死の真相を追うミステリーという触れ込みだが、ミステリーとしてもハリウッドの内幕物としても見るところがない。ジョージ・リーブスの悲劇的人生がうまく描けているわけでもない。どうも中途半端で見所がない。エイドリアン・ブロディ、ベン・アフレック、ボブ・ホスキンス、ダイアン・レインなど役者をそろえているにもかかわらず、そしてそれぞれいい味を出しているにもかかわらず、肝心なドラマが弱かった。
「たとえ世界が終わっても」は上田でロケをした映画なので観てみた。最近よく名前を聞くようになった新人女優芦名星、さらに一部で人気の大森南朋、安田顕の共演。着想はなかなかユニークだ。自殺サイトを通じて集まってきた自殺志願者たち。しかしいざと言うときになるとアレコレと遣り残したことがあると言い出してなかなか実行に移せない。しかも自殺サイトを運営していた男は集まってきた自殺志願者を立ち直らせようとしている男だった。面白い思い付きではあるが、どうも最近の底の浅い小説に似たお手軽映画だ。ドタバタ喜劇とお涙頂戴がごちゃ混ぜになったような作り。わざとらしい演技をさせているのも鼻につく。そもそもなんでヒロインの芦名星が自殺したがるのかさっぱり伝わってこない。芦名星は確かに美人だが、さっぱり魅力を感じない。作る側の安易な姿勢に不満ばかりが残る。
« 「記憶の扉」と「ふくろうの河」を観ました | トップページ | 「パンズ・ラビリンス」を観ました »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント