先月観た映画(08年2月)
「トランシルヴァニア」(06、トニー・ガトリフ監督、フランス)★★★★☆
「ヘンダーソン夫人の贈り物」(05、スティーヴン・フリアーズ監督、英)★★★★☆
「わが町」(56、川島雄三監督、日本)★★★★
「黒い十人の女」(61、市川崑監督、日本)★★★★
「見知らぬ女からの手紙」(04、シュー・ジンレイ監督、中国)★★★★
「キサラギ」(07、佐藤祐市監督、日本)★★★★
「街のあかり」(06、アキ・カウリスマキ監督)★★★★
「イカとクジラ」(05、ノア・ボーンバッハ監督、アメリカ)★★★★
「トランスフォーマー」(07、マイケル・ベイ監督、アメリカ)★★★☆
「オーシャンズ13」(07、スティーブン・ソダーバーグ監督、米)★★★
先月観た映画は10本。中ではやはりレビューを書いた「トランシルヴァニア」と「ヘンダーソン夫人の贈り物」が特に良かった。
もう1本レビューを今準備中なのは中国映画「見知らぬ女からの手紙」。2004年の東京国際映画祭で上映され、一部で公開されたがほとんど話題にはならなかったと思う。しかし、これは中国映画では珍しい悲恋もの。シュテファン・ツヴァイク原作の短編「未知の女からの手紙」の2度目の映画化。最初の映画化は有名なマックス・オフュルス監督の「忘れじの面影」。主演と監督を兼ねたシュー・ジンレイの魅力満載。後半の展開にはやや疑問があるが、前半の少女時代の描き方は秀逸だった。
市川崑監督の訃報を聞いてレンタル店で借りてきたのが「黒い十人の女」。有名な作品だけあって見応えたっぷり。山本富士子、岸恵子、岸田今日子は凄みがあった。中村玉緒が丸ぽちゃの顔だったのが可笑しい。宮城まり子がなんとなく不気味な役柄。船越英二は情けない男の役。男はだらしがなく、女は強いという図式。「浮雲」や「夫婦善哉」、あるいは最近のスペイン映画「ボルベール」などの図式と同じだ。いつの時代も強い男と弱い女という図式とその逆の図式は常に裏腹の関係として存在していたようだ。
川島雄三監督の「わが町」は「無法松の一生」のようなタイプの作品。これが滅法面白かった。青年から老年までを1人で演じた辰巳柳太郎が驚くほどうまい。舞台で鍛えただけあってすごい役者だ。しかしこれだけの作品が『キネマ旬報』ベストテンで1点も入らなかったとは。それほど当時の日本映画が充実していたということか。
話題の「キサラギ」は短い映画だが、息をもつかせぬどんでん返しの連続。次々に意外な事実が判明してゆく展開が見事。実に考え抜かれた脚本で、その点では「運命じゃない人」と同じタイプの映画だ。ただ、最後に如月ミキの生前の映像を流したのはいただけない。所詮はオタクの映画なのねという印象が残ってしまった。作品としては「運命じゃない人」の方が魅力的だ(こちらは美女も出てくるしね)。
久々のアキ・カウリスマキ作品「街のあかり」は「過去のない男」に比べて不満が残った。あそこまでいたぶられてほとんど救いがないんじゃねえ。それにしても、弱き者、不運な者に対するこの人の視線は本当に独特だ。そこには温かみもあるが、まるで昆虫観察のような突き放した冷徹なところもある。とことん個人に執着して社会的広がりを描こうとはしない。人間関係は描かれるが即物的な描き方だ。その辺が評価の分かれるところだろう。
「イカとクジラ」は「リトル・ミス・サンシャイン」と似た感じの映画だが、家族は最後まで崩壊したままだ。その意味で「街のあかり」に近い「現実味」がある。夫婦それぞれのいやらしい部分をこれでもかとばかり抉り出してゆく。ただ全体にコメディ調のトーンが被せられているので気が滅入るような後味の悪さはない。良くも悪くもアメリカの実像の一面をあぶりだした映画だろう。
「トランスフォーマー」はそこそこ楽しめた。CGを駆使したとことんお遊びの世界。手塚が描いた人間の心を持ったロボットなどというヒューマンな味わいはない。まあ、それはそれとして楽しめばいい。「オーシャンズ13」はスタイリッシュな切れのいい演出といえば聞こえはいいが、味わいの薄い映画だった。これだけ有名俳優を多数起用しながら、なんら人間的ドラマが描かれない。
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