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« 先月観た映画(08年1月) | トップページ | トランシルヴァニア »

2008年2月11日 (月)

「トランシルヴァニア」を観ました

G3  初めて観たロマの映画はエミーリ・ロチャヌー監督のソ連映画「ジプシーは空に消える」(76)だった。80年2月に日経小ホールで観ている(昨年DVDをゲット、こんなものまでDVDが出ているとは!)。エミール・クストリッツァ監督の「ジプシーのとき」(89、未見)より13年前に製作されている。次に観たロマ映画がトニー・ガトリフ監督の「ガッジョ・ディーロ」だった。2000年9月に観た。何と「ジプシーは空に消える」を観てから20年後である。それほどロマが映画で描かれることは少ないということだ。「ガッジョ・ディーロ」(97)は4つ星だったが大いに満足した。次に観たトニー・ガトリフ作品は「僕のスウィング」(02)。2004年の3月に観た。こちらは4つ星半の傑作。そして今回の「トランシルヴァニア」(06)がトニー・ガトリフ作品3作目である。

 「僕のスウィング」が公開された2003年はニュージーランドのマオリに伝わる伝説を主題にした映画「クジラの島の少女」、アボリジニの少女たちを描いた「裸足の1500マイル」、イヌイット語でイヌイットを描いた最初の映画「氷海の伝説」が公開された記念すべき年である。アフリカを舞台にしたアニメ映画「キリクと魔女」が公開されたのもこの年である。80年代に米・仏・伊・英・ソなどの映画大国以外の映画がどっと入ってくるようになった。2000年代以降はその傾向がさらに増幅されている。

 その傾向を顕著に反映しているのは『キネマ旬報』の外国映画ベストテンである。70年代までは票が入った作品は100本以内で収まっていた。初めて100本以上まで達したのが84年である。95年には130本を越えて、2ページでは収まりきらなくなり3ページ立てになった。2005年にはついに150本を超えた。これは明らかに欧米の映画大国以外の作品がどっと増えたことの反映である。中国や韓国やイラン映画は今ではベストテンの常連である。欧米以外の映画の公開本数が増えただけではなく、作品のレベルがほとんど欧米と変わらないところまで上がってきている。60年代まではわずか1ページで足りていた。しかもほとんどが欧米の映画だったことを思えば隔世の感である。70年代までは上記5大国以外に日本で紹介されたのは特定の傑出した監督の作品が中心だった。スウェーデンのイングマル・ベルイマン、オーストリアのヴィリ・フォルスト、インドのサタジット・レイ、スペインのルイス・ブニュエル、デンマークのカール・ドライエル、ポーランドのアンジェイ・ワイダ、イエジー・カワレロウィッチ、アンジェイ・ムンク、等々。

 日本や欧米先進国の感覚では信じられないような世界が映画で観られるようになった。初期の記録映画には、たとえばロバート・J・フラハティの「アラン」(34)や「極北の怪異」(22)のような作品があった。世界中の映画人がキャメラを持って「見たことのない驚異の世界」を記録した。しかしそこに住んでいる人々にとってそれは日常だった。80年代以降の映画が違うのはその点である。「ものめずらしさ」を驚異の目で記録するのではなく、それぞれの国民、民族が自分たちの言葉で自分たちを語り始めたのである。

 トルコ映画の「ハッカリの季節」、「遥かなるクルディスタン」、「路」、「エレジー」、ユーゴスラビアの「黒猫・白猫」、「歌っているのはだれ?」、セネガルの「母たちの村」、中国映画「ココシリ」、「子どもたちの王様」、「芙蓉鎮」、ネパール映画「キャラバン」、ラップランドを舞台にしたソ連映画「ククーシュカ ラップランドの妖精」、アイスランドの「春にして君を想う」、アフガニスタンの「アフガン零年」、オランダの「さまよえる人々」、「マゴニア」、カナダの「狩人と犬、最後の旅」、「大いなる休暇」、キルギスの「あの娘と自転車に乗って」、タイの「風の前奏曲」、チェコの「スイート・スイート・ビレッジ」、デンマークの「ペレ」、ノルウェーの「歌え!フィッシャーマン」、「キッチン・ストーリー」、ブータンの「ザ・カップ/夢のアンテナ」、ブラジルの「シティ・オブ・ゴッド」、ブルガリアの「略奪の大地」、ベルギーの「ロゼッタ」、イランの「友だちのうちはどこ?」、「酔っ払った馬の時間」、「ブラックボード」、「少年と砂漠のカフェ」、「亀も空を飛ぶ」、グルジアの「ピロスマニ」、ドイツ製作だが実質的にモンゴル映画である「天空の草原のナンサ」、フランス映画だがカリブ海に浮かぶマルチニック島を舞台にした「マルチニックの少年」等々。そこにはわれわれとは相当に異質の、信じられないような世界が描かれている。しかもこれらのほとんどが傑作の域に達しているのだ。

Gpjg8   いずれも見たこともない風習が描かれていたり、独特のユーモラスな世界があったり、日本とは全く違うゆったりとしたテンポで描かれたりしている。もちろんほとんどの作品は優れた人間ドラマになっており、それが大きな魅力なのだが、エキゾチックな雰囲気も魅力の一つである。その点で言えば、ロマを描いたトニー・ガトリフの一連の作品は格段にエキゾチックである。独特の衣装、独特の風俗と生活スタイル、そしてなんといってもあの独特の音楽が最大の魅力だろう。「ガッジョ・ディーロ」と「僕のスウィング」はロマ音楽そのものが主題だと言ってもいいほどだ。「トランシルヴァニア」は音楽が主題とは言えないが、全編に歌と踊りがあふれかえっている。典型的なのは「黒いオルフェ」を思わせるカーニバルの喧騒。酒場でも家の中でも車の中でも人が寄り集まると歌と踊りが始まる。ドラキュラの故郷トランシルヴァニアがこれほど豊かな音楽文化を持つ土地柄だったとは!

 「歌が飛んでゆく 歌が飛んでゆく・・・ここでは誰もが知っている 馬に乗っても歌うんだ。」劇中に出てくる歌だが、まさにその通りの土地柄である。その音楽に乗って展開されるドラマは野生的な愛の狂騒曲。とにかくキャラクターが濃い。ドラマも濃い。男を追いかけてトランシルヴァニアにやってきたフランス女がいつの間にかロマの女のようにたくましくなってゆく。ヒロインの名前がジンガリナという、フランス人としては異国風の名前なのが象徴的だ。まるでロマのような名前だ。途中でチャンガロという男が絡んできて、ロード・ムービーになって行く。その旅は出産で終わる。最後に笑いかけるジンガリナの笑顔が強烈な印象を残す。久々にレビューを書く意欲が湧いてくる作品と出合った。

  * * * * * * * * * * * *

 この間他に2本観た。「オーシャンズ13」は相変わらず速いテンポで、なんら人間的ドラマを挟まずにベルトコンベアーのように機械的に進行してゆく。2作目とほとんど変わらない、味わいの薄い映画だった。もう1本のアメリカ映画「イカとクジラ」はなかなかの佳作。ファミリー・ドラマだが、「クラッシュ」、「アメリカ 家族のいる風景」、「ランド・オブ・プレンティ」のような9・11の影を引きずった作品ではない。むしろこれら家族の絆を追い求める映画(「ラスト・マップ/真実を探して」、「リトル・ミス・サンシャイン」、「トランスアメリカ」などもこの系統だ)とは逆に、家族は崩壊したままで絆の回復は期待できそうにない。その点ではよりリアルにアメリカの現実を見つめていると言えるかも知れないが、作風としては伝統的なアメリカ映画の造りである。これも余裕があればレビューを書いてみたい。

「トランシルヴァニア」(2006年、トニー・ガトリフ監督、フランス) ★★★★☆
「イカとクジラ」(2005年、ノア・ボーンバッハ監督、アメリカ) ★★★★
「オーシャンズ13」(2007年、スティーブン・ソダーバーグ監督、米) ★★★

「トランシルヴァニア」のレビュー

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コメント

寺田徳子さん
 コメントありがとうございます。「ジプシーは空に消える」のDVDをなくしてしまったとは残念なことですね。一般にはまったくと言ってよいほど知られておらず、当然店頭やレンタル店に並ぶことは期待できない貴重なものですから。
 今調べてみましたら、インターネットの大手通販サイト「アマゾン」で入手可能なようです。新品でも買えますし、中古なら2680円のものが出ています。検索すればすぐ見つかりますので、早めに注文なさると良いと思います。

「ジプシーは空に消える」の貴重なDVDを入手したのに、先月の引越しでなくしてしまったらしく、あきらめきれずにキーワードで探していたら、このブログに行き当たりました。トニー・ガトリフの「ラッチョ・ドローム」も好きな映画の一つです。自分はフラメンコを習っておりますが、最初のインドの少女がくるくる舞うシーンがなんとも好きです。歌と踊り、田舎、サハラ砂漠、ハンガリーなどが好きな私としては「僕のスウィング」、「トランシルヴァニア」にも興味を持ちました。機会があったら、ぜひ見てみたいです。それにしても、なくしたDVDがなんとも悔しく、入手情報をご存知でしたら、教えてください。

シネトレ様 
返事が遅くなりまして申し訳ありません。実はどうしようか迷っておりました。「映画について熱く語れるブロガー」としてご指名いただいたのは大変名誉なことだと思っております。試写会に優先して招待いただけるという特典も大変に魅力的です。
ただ残念ながら今時間の余裕がありません。自分のブログの更新もままならないのが現状なのです。試写会も恐らく行けないことが多いと思います。
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トランシルヴァニアというとドラキュラを思い起こす人がいるかもしれないが、そのトランシルヴァニア地方(ルーマニアにある)が舞台でここは込み入った多くの民族が居住する地域。 監督のトニー・ガトリフはロマ(ジプシー)の血が流れていて、民族と文化(特に音楽)にこだわった独特の作風で力強い作品を作ってきました。そしてそれこそ溢れんばかりの民族音楽をベースにした音楽に誘われるように、映画の中で登場人物は旅をし(ロードムービー的)、何かが変わっていきます。しかも登場する主人公は一癖も二癖もあって、良い子ちゃんで... [続きを読む]

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