「ALWAYS 続・三丁目の夕日」と「めがね」を観てきました
今月に入って順調に映画を観ている。今日までに8本観た。先月は全部で11本だったのだからかなりのハイペースだ。8本のうち「ボーン・アイデンティティ」と「ボーン・スプレマシー」はTVで見たのだが(共に再見)、映画館で4本観ているのはすごい。映画の日の1日に「ミス・ポター」と「天然コケッコー」の2本、今日(11日)また「ALWAYS 続・三丁目の夕日」と「めがね」の2本を観た(偶然だが、もたいまさこと薬師丸ひろ子が2本の映画に共通して出ていた)。先月は「夕凪の街 桜の国」を観たし、今上映中の「エディット・ピアフ ~愛の賛歌~」も観たい。例年この時期になると不思議と映画館にいい映画が来るようになる。観だめしておかねば。
昨日と今日は「うえだ城下町映画祭」の期間でもあった。こちらも観に行きたかったのだが、色々観たいのを絞り込んでいったところ「関の弥太っぺ」1本だけになってしまった。これ1本で1日券1800円は高い。ということで諦めて映画祭とは別に上記2本を観たわけである。ただ、映画祭期間中だったせいか、「ALWAYS 続・三丁目の夕日」は何と30人くらい観客がいた。映劇にこれだけの観客が入っているのは久しぶりだ。ところが、7時から上映の「めがね」は何と僕1人。完全貸切独り占め状態。うれしいような寂しいような。まあ、これが上田か。もし僕が来なかったら、映写機を回したのかどうか聞きたかったがさすがにやめた。
「ALWAYS 続・三丁目の夕日」
「ALWAYS 続・三丁目の夕日」と「めがね」は共に傑作だった。「ミス・ポター」と「天然コケッコー」の時よりはるかに満足度は高い。「ALWAYS 続・三丁目の夕日」は続編だが、シリーズものには珍しいことに1作目を超えた。これは特筆すべきことである。1作目ではこれでもかとばかり泣かせる場面のオンパレードで、いささか食傷気味だった。今回はその反省の上に立ってか、泣かせる演出を極力押さえ、最後の最後までとって置いた。これで僕の評価はぐんと上がった。寅さんシリーズばりに冒頭に短いエピソードを置いてみたり(と、東京タワーが・・・びっくりしますよ)、鈴木オートに生意気なお嬢様を同居させたりと、新たな工夫も凝らしている。
泣かせの演出は減ったが、基本的な人間関係と人情路線は変わらない。だから安心して観ていられる。懐かしい小道具や小物も続々登場。前作のレビューで書いたローラー式絞り器が付いた洗濯機も無事(?)登場。24色の色鉛筆も懐かしい。しかしなんといってもあの街並み。昔の日本家屋が見事に再現されている。通りが広く見渡せる場面は文字通り息を呑んだ。看板のさび具合、板壁のくすみよう、玄関の引き戸、指で強くはじけば割れてしまいそうなくもりガラス、妙に丸っこかった車の形、いやあ懐かしい。画面を止めてしばらくじっと眺めていたいと思ったほどだ。
VFXの威力は絶大だ。新幹線こだま号のあの形!そして圧巻は上に高速が走っていない日本橋(前作の上野駅に匹敵)。テレビでブルーバックを使ったその撮影風景を放映していたが、やはり映画の大画面で観るとすごい。日本橋の上に空が見える解放感。このシーンだけで涙もの。他にも、そうそう、あのシュークリーム。思わず画面に手を伸ばして食べたくなった(何を隠そう、僕は甘党です)。
キャストも相変わらず豪華だ。懐かしい面々が帰ってきた。堤真一は相変わらず瞬間湯沸かし器だし、小雪はさっぱり汚れていないし、薬師丸ひろ子は日本の正しいおかあちゃんのまま。ただし、もたいまさこは暴走をしなくなり、正しいタバコ屋の「看板娘」になっていた。子役も小池彩夢というお嬢様が闖入してきたせいか、小清水一輝が俄然輝いており、前作で末恐ろしいと感じた須賀健太はすっかり普通の子役に。堀北真希は、言葉は田舎娘のままながらすっかり別嬪さんになっていた。吉岡秀隆のハイトーンは相変わらずだが、前作よりぐっと役に馴染んできた。そして今回一番役どころが変わったのは彼だ。淳之介を奪われまいと芥川賞に挑戦!その結果はいかに?
まあ、結果の予想は付いてしまう。それでもぐいぐい引っ張れるのだからなかなかよく出来たストーリーだ。個人的にうれしかったのは、吹石一恵の出演。あの車のCM以来お気に入りだ。「雪に願うこと」も良かった。ちょい役だがさわやかな印象を残した。他にも手塚理美や上川隆也、平田満など豪華なゲスト陣。見ごたえ充分。こうなったらシリーズ化も期待しちゃうぞ。
「めがね」
「めがね」はそれ以上の傑作だった。これは続編ではないが、「かもめ食堂」のスタッフとキャストが再結集したもので、作風も同じ。実は二番煎じではないかと密かに心配していた。柳の下にドジョウはそう何匹もいないぞと。しかしそれは杞憂だった。同じようなゆったり、のんびり、スローペース映画なのだが、設定とキャラクターをガラッと変えてまた違った味を楽しめるようになっている。今度は場所不特定の不思議空間を設定し、鍋の具として前作以上にへんてこなキャラクターをそろえ、さらにシュール味を利かせ、摩訶不思議味をつけたし、メルシー体操なる奇妙な手つきで具をこね、引き伸ばす。のんびり、まったりから「たそがれる」へ。まるで明るい中で闇鍋を食べているよう。見えているのに口に入れてみるまでどんな味でどんな歯ごたえなのか分からない。そんな不思議な感覚の映画だ。
冒頭、ほとんど手ぶらで舞台に現れるもたいまさこと、重たそうにスーツケースを引っ 張っている小林聡美が対比的に描かれる。小林聡美は予約していた宿に着くが、客は他に誰もいない。食事も宿の人たちと一緒に食べる。超家庭的な宿だった。宿の主人は小林聡美が引っ張ってきた重たいスーツケースを後で運ぶと言いながら、庭に置きっぱなしだ。その意味は後半で分かる。あまりに普通と違うこの宿を飛び出した小林聡美は別の宿に行くが、結局またもとの宿に戻ってくる。その戻る途中彼女は荷物がぎっしりと詰まったスーツケースを道端に置き捨ててくる。そう、この映画には「サン・ジャックへの道」と同じ主題が込められているのである。いらないものを捨ててゆく旅。そして本当に必要なのは何かを見出す旅。どこかを目指す旅ではなく、のんびり一箇所で「たそがれる」旅という点は違うが。
もちろん「かもめ食堂」と共通する点もある。相変わらず過去も現在も謎に包まれたキャラクターたち。そしてこちらもまた食べ物がおいしそうだ。「かもめ食堂」は食べるというシンプルな行為が生きる力と直結していたが、こちらはすっきりと眠って(目を覚ますともたいまさこが枕元で「おはようございます」と挨拶するので寝起きは気味悪いが)、「メルシー体操」でくねくねと体を動かし、何もせずたそがれることがそれに加わっている。たくさん出てくる食べ物がどれもおいしそうだが、なかでもシンプルなカキ氷と梅干が印象的。人間、よく寝て、よく食べて、のんびりたそがれていれば、そしてそれにカキ氷の甘さと朝食べる梅干のすっぱさがスパイスとして加われば、充分人生を楽しめる。そんなメッセージが心地よい。余計な効果音を用いず、ゆったりとした波の音とリズムに身を任せるような映画だ。
キャストの中ではもちろん小林聡美ともたいまさこがいいが、うれしいのは市川実日子の起用。この人も大のお気に入り(ああいう顔立ちが好きなのです)。痩せすぎているのが気になるが、不思議な雰囲気がある人なのでこの映画にはぴったりだ。この映画に合うといえばエンディングで流れる曲。どこかで聞いたことのある声だが、誰だったか。曲が終わる頃ようやく気がついた。大貫妙子。浮遊感があって、人を和ませる独特の声の持ち主。80年代初めにFMでたまたま聴いたのがきっかけで、一時はよく聴いたものだ。CMや番組のエンディングにぴったりの声で、よくテレビで流れていたな。最近聞かなくなっていたので懐かしかった。
相変わらず安っぽい映画が大量に作られているが、日本映画の水準は確実に上がってきている。去年の日本映画の活躍はまぐれではない。映画の出来とは関係ない興行収入や観客動員数は別にして、着実に優れた映画が一定数作られてきている。ただ日本の映画製作環境は決して充実しているわけではなく、むしろ問題点ばかりだ。いずれゴムが伸びきったところで行き詰まる時期が来るだろう。この点は強調しておかねばならないが、それでもこれだけ優れた作品が生まれてきていることもまた事実だ。才能のある映画人をきちんと養成する機関を作り、設備の整った撮影所を増やし、国の支援体制をより手厚くすれば、50年代の黄金期に匹敵する時代がくることも夢ではない。この2本を観てつくづくそう思った。
短い報告記事のつもりがだいぶ書きすぎた。本格レビューが書きにくくなるかも知れない。それでもこの2本はきちんとレビューを書いてみたい。今、中国映画「天上恋人」のレビューを書いている途中なので、取り掛かるのはその後になる。映画を観るペースにレビューが追いつかない。ああ、時間が足りない(毎度同じぼやきですいません)。
「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(2007年、山崎貴監督、日本)
出演:吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希、もたいまさこ、三浦友和、薬師丸ひろ子
評価:★★★★☆
「めがね」(2007年、荻上直子監督、日本)
出演:小林聡美、市川実日子、加瀬亮、光石研、もたいまさこ、橘ユキコ
評価:★★★★☆
<追記>
お気づきと思いますが、最近写真日記を載せていません。実は映画記事中心の「銀の森のゴブリン」とその中から写真日記や旅行記だけを抜き出して集めた別館ブログ「ゴブリンのつれづれ写真日記」の内容をはっきり分けることにしたのです。このところ「銀の森のゴブリン」は映画ブログから写真ブログになりつつありました。そこで、思い切って二つのブログをはっきり分けることにしたわけです。つまり、両方のブログに載せていた写真日記や旅行記を「ゴブリンのつれづれ写真日記」だけに載せることにしたのです。
最近映画チラシや映画パンフの写真を載せ始めたのは、デジカメで何か撮るのが習慣化したことの延長でした。しかし今では写真日記の埋め合わせに使えると考えています。「独立後」の「ゴブリンのつれづれ写真日記」には既に「白樺湖で紅葉を撮る」と「海野宿と望月宿を歩く」という2つの記事を載せています。こちらも時々覗いてみて下さい。
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kimion20002000さん コメントありがとうございます。
おっしゃることは分かるような気がします。確かに何もない田舎に行って、何とのんびりしていいところだなと思うことはよくありますね。でも1日か2日滞在するのとずっとそこで暮らすのとは全く別の話です。そのうち退屈してやりきれなくなるでしょう。
kimion20002000さんの言う<虚無的というか、もう半分「死」の側から世界を見ている>とか<世捨てのところまで>行くというのは、上のレビューで書いた「いらないものを捨ててゆく旅」というのに近い気がします。
しかしこれが実は難しい。僕も捨てられないものをいっぱい持っています。日常性の中に埋没しているから、天気がいい休日はカメラを持って外に飛び出していくのでしょう。「かもめ食堂」や「めがね」、「サン・ジャックへの道」のような映画を観てしばしの安らぎを得てほっとする。そうでなければkimion20002000さんの言うようにすべてを捨てて飛ぶしかありませんね。
投稿: ゴブリン | 2008年6月 4日 (水) 01:09
こんにちは。
「めがね」のほうで、少し。
ゴブリンさんも結構、旅とかが好きなんだと思うんですけど(笑)。僕も、この「めがね」の舞台みたいなところでもいいんだけど、そこで、もう風景に溶け込んでしまいたいと思うことがあります。
だけど、どこかそれは、旅人の視線なんですね。
でも棲みついてしまう、となると、これはまた違った話になります。どうも、その覚悟は僕にはまだできていない様な気がします。
で、「めがね」でいえば、監督がどこまで意識しているのか知りませんが、この「心地よさ」というのは、ある種の「放棄」することと等価の様な気がします。その「放棄」というのは、単に都会を捨てるということとか、合理・効率・生産性といった価値を相対化するということとか、そういうことだけじゃないような気がするんです。
とても虚無的というか、もう半分「死」の側から世界を見ていると言うか、そういうところまで降りていくようなところじゃないかと。
うまく言えないんですけど、僕たちのような年齢になると、都会を離れての「楽園思想(農業やったりね)」の誘惑が常にあって、そっちに行く連中も多いんだけど、それって本当は世捨てのところまでいかないと、行ったことにならないんじゃないかな、みたいなことを、グダグダ考えさせてくれる映画でした(笑)
投稿: kimion20002000 | 2008年6月 3日 (火) 00:48
真紅さん TB&コメントありがとうございます。
「ALWAYS 続・三丁目の夕日」と「めがね」の2本を同じ日に観たのですが、まさに至福でしたね。「二番煎じでは・・」と危惧してしばらく「めがね」を観なかったという気持ちは分かりますね。僕も「ALWAYS 続・三丁目の夕日」のついでに観たというのが正直なところです。でもいい意味で裏切られました。
「かもめ食堂」、「めがね」と来て、次はどんな作品を創り出してくれるのでしょう。次はガラッとテーマを変えて欲しいですね。荻上監督の別の面も見てみたい。でも「のんびり3部作」とばかりまた同じテーマで迫ってくるかも。う~ん、それもいいかな。
投稿: ゴブリン | 2007年12月 7日 (金) 18:30
ゴブリンさま、こんにちは。しばらくです。
遅れ馳せながらようやく『めがね』を観ましたのでTBさせて下さい。
実は私も「二番煎じでは・・」と危惧していたのですが、杞憂でしたね。
『かもめ』よりも好きです。あの朝食のおいしそうなこと・・・。海の綺麗なこと・・・。
『ALWAYS 続~』は公開間もなく観ましたが、ほぼゴブリンさまと同じ感想を持ちました。
いい映画ですよね、シリーズ化できると思うのですが。。
ではでは、失礼します。
投稿: 真紅 | 2007年12月 6日 (木) 16:30