「ブラッド・ダイヤモンド」短評
2006年 アメリカ 2007年4月公開
評価:★★★★
監督:エドワード・ズウィック
出演:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・コネリー、ジャイモン・フンスー
このところアフリカを舞台とした映画が激増している。アフリカ関連映画を集めた「ゴブリンのこれがおすすめ 36」から最近のものを挙げてみよう。
「ブラッド・ダイヤモンド」(06、エドワード・ズウィック監督、米)
「輝く夜明けに向かって」(06、フィリップ・ノイス監督、仏・英・南ア・米)
「ラスト・キング・オブ・スコットランド」(06、ケビン・マクドナルド監督、イギリス)
「エマニュエルの贈り物」(05、リサ・ラックス、ナンシー・スターン監督、アメリカ)
「ツォツィ」(05、ギャビン・フッド監督、英・南ア)
「ルワンダの涙」(05、マイケル・ケイトン=ジョーンズ監督、英・独)
「約束の旅路」(05、ラデュ・ミヘイレアニュ監督、フランス)
「ナイロビの蜂」(05、フェルナンド・メイレレス監督、イギリス)
「ロード・オブ・ウォー」(05、アンドリュー・ニコル監督、アメリカ)
「ダーウィンの悪夢」(04、フーベルト・ザウパー監督、 オーストリア・ベルギー・仏)
「母たちの村」(04、ウスマン・センベーヌ監督、セネガル他)
「ホテル・ルワンダ」(04年、テリー・ジョージ監督、南アフリカ・イギリス・イタリア)
「アマンドラ!希望の歌」(02、リー・ハーシュ監督、南アフリカ・アメリカ)
2000年以降の顕著な特徴はアフリカが「搾取と虐殺の大地」として描かれていることで ある(アフリカを舞台とした映画の簡単な系譜と流れは「ゴブリンのこれがおすすめ 36」参照)。「母たちの村」と「アマンドラ!希望の歌」を除けば、アフリカの人々は虐げられ搾取され、内戦で殺し合っている人々として描かれている。それはほとんどが西洋人の視点で描かれていることと関係していると思われる。西洋人がアフリカでいかに非道なことをしてきたが、ほとんどの映画がその実態を浮かび上がらせ、搾取や支配の構造を暴いてみせる。その点で力強い作品が並ぶ。しかし多くの場合アフリカ人は、逃げまどい、泣き叫び、あるいは無慈悲に殺し合う人々として描かれている。
「ブラッド・ダイヤモンド」を論じる上で以上のことをまず見ておくべきである。これまでの映画は非メジャー系が多かったが、ついにハリウッドもアフリカを舞台にした「社会派アクション」映画を作ってきた。はっきり言おう。紛争ダイヤモンドをめぐる搾取構造は確かに分かりやすく描かれているが、結局はいかにもアメリカ映画の作りになっている。派手な演出が目立ち、登場人物たちの白黒はあまりに単純に分けられている。反政府組織の連中はまるで無頼漢の集まりである。それこそランボーの映画を見ているようだ。ソロモン(ジャイモン・フンスー)の息子が父に銃を向ける場面も、彼が連れ去られ兵士として訓練を受ける段階で予想がついてしまう。ダニー(レオナルド・ディカプリオ)が死ぬ直前にマディ(ジェニファー・コネリー)に電話をかける泣かせのシーンなどはまるっきり「アルマゲドン」だ。この安易な作りがだいぶこの映画の価値を下げてしまっている。
ディカプリオの演技は出色で見事だと言っていいが、途中から「いい人間」に変ってしまう設定が安易である。最後までそれぞれ違う思惑を持ちながら共通の目標を追うという展開にすべきだった。「あの子が大人になればこの国は平和になり楽園になる」と信じて息子の救出に命をかけるソロモン役のジャイモン・フンスーも素晴らしい演技を見せてくれるが、地獄のような現状を描けば描くほど彼の願いは虚しく感じられてしまう。ジェニファー・コネリーに至っては自ら戦乱の中に飛び込んでゆく硬骨のジャーナリストらしさはかけらも感じられない。「ヴェロニカ・ゲリン」のケイト・ブランシェットの精悍さに比べたら、アフリカに遊びに来ているのかと思えてくるほどだ(ブランシェットもヴェロニカ本人に比べると美人過ぎるが)。
アフリカ人が血を流して掘り出した宝石類を西洋人が装飾品として買い求めるという関係は、「ココシリ」で描かれたチベットカモシカの毛皮取引と同じだが、作品の強烈さは「ココシリ」よりはるかに劣る。少年兵の悲劇もブラジル映画「シティ・オブ・ゴッド」(こちらは兵士ではなくギャングだが)ほどのインパクトはない。「ロード・オブ・ウォー」に比べれば、ダニー・アーチャーなどは武器密売人としては甘ちゃんの小物だ。
しかし「ブラッド・ダイヤモンド」をただのアクション映画だと片付けるつもりはない。欧米先進国によってアフリカの国がいい様に搾り取られている実態の一端が確かに暴かれている。「とうの昔に神はこの地を見捨ててる」というダニーの台詞はありきたりだが、「全国民がホームレスなんて」というマディーの台詞にはかなりのインパクトがあった。ソロモンを付け狙う片目の男の台詞、「俺は悪魔だろう。それは地獄にいるからだ。俺は地獄から出たい」も印象的だ。
せっかくいい題材を取り上げたのに、アメリカの大作映画の枠組みに嵌め込まれてしまった。問題なのは紛争ダイヤモンドだけではない。「石油が出なくてよかった」という言葉 が出てくるが、アフリカでは資源のある国ほど先進国の餌食にされ、紛争で国が乱れている。派手な演出に力を入れた分問題の掘り下げが浅くなってしまった。ダニーが言い放った「TIA(This is Africa)」という言葉は、アフリカではそんなことは当たり前だという意味で使われていた。それがアフリカだと。映画はその言葉にもうひとひねり加え、そんなダニーのような男たちが暗躍するアフリカの実態を描こうと試みた。アフリカの現状はこうなっているのだと。しかしストーリーはソロモンとダニーがいかに子供を取り戻し、彼らがいかに危機を脱出するかというサスペンスにシフトしてしまった。その分作品が軽くなってしまった。
アフリカを描くことにかけてはイギリスの方がはるかにアメリカを引き離している。「アラビアのロレンス」、「ズール戦争」、「遠い夜明け」、「ワールド・アパート」、「ナイロビの蜂」、「ラスト・キング・オブ・スコットランド」等々。しかしアパルトヘイトを倒したアフリカ人の熱い息吹を伝えたドキュメンタリーの傑作「アマンドラ!希望の歌」の監督はなんとアメリカ人だ。問題は国籍にあるのではない。アフリカとどう向き合い、どう描くかにある。
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» ブラッド・ダイヤモンド 65点(100点満点中) [(´-`).。oO(蚊取り線香は蚊を取らないよ)]
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