産川探索 その1 鞍が淵を撮る
病膏肓に入る。こんな表現を使ったのは初めてだと思うが、今はまさにそういう状態に なっている。デジカメで写真を撮るのが面白くて仕方がない。毎週土日はどこかに出かけて、写真を撮っている。何か面白そうな情報を聴きつけたら、行って写真を撮ってくる。そんな体になってしまった。先日、そんなゴブリンの目にとまった記事がある。「週刊上田」という地元のミニコミ誌があるが、そこに「鞍が淵の周辺整備完成」という記事が載っていた。鞍が淵は「小泉小太郎」伝説の発祥の地である。この伝説は松谷みよ子の『龍の子太郎』の題材になった。学生の頃児童文学を読みあさった時期があり、『龍の子太郎』もそのころ読んだ。こういう記事を見たら行かないわけにはゆかない。早速今日行ってみることにした。
その前にまずは腹ごしらえというわけで、西塩田小学校の近くにある「み田村」という蕎麦屋で食事。この店に入るのは初めて。店の内装は悪くない。窓からの眺めもいい。特に山田池の眺めがいい。後で写真を撮ることにする。きのこおろしうどんを頼んだ。麺のこしが相当に強い。でも味はまあまあだった。店の外に出て、たばこを一服。東屋が喫煙所になっていて、庭の作りも悪くない。
車に戻ってカメラを取り、細い道を下りて山田池の写真を撮る。ここは以前まだ自転車によく乗っている頃に何度か来たところだ。雨の少ない上小(上田小県)地区にはたくさんのため池があるが、ここはその中でも特に眺めのいい池である。県道別所丸子線から見降ろしてもきれいだが、反対側から見るとさらに眺めがいい。すでに家を建てた後だが、この池が眺められるところに家を建てるべきだったと後悔したものである。小高い丘の上にあるので、横に池と独鈷山を眺め、前には塩田平が見渡せる位置に建てたら最高だ。
車に乗っていよいよ鞍が淵探索に出発。鞍が淵の正確な位置が分からないが、地図で おそらく独鈷温泉まで行けば見当がつくだろうと考えた。独鈷温泉まで行ってみると、すぐに「鞍が淵」と書いた案内板が目に入った。独鈷温泉のすぐ下を産川が流れていて、そこに飯前場橋が架かっている。その橋のすぐ横に「鞍が淵→」と書いた案内板が立っている。後はそれに従って細い山道を上がってゆくだけ。あまりに細い道なので対向車が来ないか少し心配になる。少し進んだところで左側に小さな鳥居があった。車を停めて写真を撮ろうとした。ところがバッテリー切れの表示。あわててバッテリーを入れ替える。2台の車がすれ違える道幅はないので、他の車が来ないかと気が気でない(結局最後まで1台もすれ違わなかったが)。なんとか写真を撮りまた坂を上る。あわてていたのでそれが何の社なのか確かめる余裕もなかった。
道の右側を産川が流れていて、ずっと川のせせらぎが聞こえる。このあたりは山の中なので渓流になっている。さらに坂を上がると何かの工場らしきものが見える。それも越えてさらに上がると鞍が淵の表示が見え、その横に小さな駐車場があった。道の反対側にも駐車場があるので、併せると10台は停められるかもしれない。完全に森の中で巨木がうっそうと茂っている。車を停めた反対側に、木を切り開いた空間があり、鞍が淵についての説明が書かれた案内板が立っている。石垣を組んで平にしてあるので、何かの跡なのかもしれない。川の方に下りてゆく。川床には巨大な岩が肩を並べるようにいくつも居座っている。写真を撮るとフラッシュが作動する。巨木に覆われて昼なお暗い渓谷。文字通りの深山幽谷。憑かれたように写真を撮りまくる。しかし僕の技術ではこの景色の迫力を捉えられない。
岩には苔がびっしりとこびりつき、地面は降り積もった枯葉で踏むと柔らかい。岩に亀裂 があったり、重なった岩の間を水が流れていたり、そこら中が撮影ポイントだ。岩伝いに川の中ほどまで行って撮った写真もある。岩は苔に覆われているので、足を滑らせやすい。細心の注意を払った。誰も観ていないこともあるが、こういう所に来ると冒険心がくすぐられるのである。今までずいぶん写真を撮ってきたが、早くパソコンに取り込んで、どんな風に映っているか見てみたいとこれほど思ったのは初めてだ。
川沿いに上流の方に行くと赤いロープが切れ、少し上にある川沿いの遊歩道に出る。そこをさらに上流の方へ歩いて行った。大きな水音がするので滝か段差があるのだろうと思っていたら、川に90度の角度で水が流れ込んでいた。流れ込んでいる方はまっすぐなので川というより水路のように見える。しかし水が横から流れ込んでいる所より上流はほとんど水が流れていない。というより、行きどまりに見える。土管から水がちょろちょろ流れているだけだ。つまり下の渓流を流れている水はほとんどこの水路から流れ込んでいる水である。水路のようだが、これが本流ということになる。おそらく何かの事情で人が水の流れを変えたのだろう。水路のようにまっすぐ流れてきて、直角に曲がる川など無い。
車に戻ると手や肩にクモの巣がたくさんくっついていた。車を停めたところのすぐ横にも 小さな橋があったので、これも写真にとる。最近は橋を見るとすぐ写真を撮りたくなる。重症だ。ともかく、また細い山道を下る。独鈷温泉下の飯前場橋のところでまた車を停め、写真を撮る。独鈷温泉下の道に出て、右折。この道沿いには中禅寺、塩野神社、竜光院、塩田城跡、前山寺、信濃デッサン館、無言館など、上田の観光名所がひしめいている。今日はそこまではいかず、中禅寺手前にある「塩田の郷マレットゴルフ場」に行った。道よりやや高い所にあるので、走っている車からは見えない。眺めがよさそうなので前から一度入ってみたいと思っていたのだ。もっとも、別にマレットゴルフに興味があるわけではない。写真を撮って、ついでに休憩したかっただけだ。なだらかな丘の斜面を全部使ってマレットゴルフ場にしている。結構な広さだ。駐車場から 周りを眺めるとこれまた景色がいい。しかし360度山しか見えない。島崎藤村の『夜明け前』の有名な一節「木曽路はすべて山の中である」をもじって、「信濃路はすべて山の中である」と書きたくなるくらいだ。
冷たいものを飲んで一服して、また山を下りる。走っているうちに旧西塩田小学校に出た。今は「さくら国際高等学校」として使われている。普通の高校などに合わない人たちを対象とした通信制のフリースクールである。映画「学校の怪談4」などで使われた古い校舎(体育館は「卓球温泉」の卓球場として使われた)は車で走りながらでも目を引く。そういえば前に訪れた時(文化祭か何かをやっていて中に入れた)、2階で「小泉小太郎」伝説関連の絵だったか彫刻だったかが展示されていたのを思い出した。でも今回は素通り。
別所丸子線の方に向かう途中で舌喰池が見えてきた。池の堤防が一部切れているとこ ろがある。池の外から中の水が見える。絵として面白いので道端に車を停めて写真を撮った。堤防まで上がって池の写真も撮る。池を囲む手すりが木製でなかなか見た感じがいい。ふつうは緑色に塗った金属製のネットで囲んである。ここは前から木だったろうか?写真に突然興味がわき出す前は、そんなことに別段注意していなかった。写真を撮り始めると、それまで何気なく見ていた(つまり、見ていなかった)ものが見えてくる。もうこれは病みつきだ。家に帰って地図などを眺めていたら、もう明日の計画が頭に浮かんでいる(そんな暇ないのに)。産川の水源近くにある沢山湖や野倉の赤地蔵と夫婦道祖神なども撮ってみたい。塩野神社の月見堂にももう一度行ってみ たい。依田川の上流部も気になる。そこら中にあるため池もシリーズで撮りたい。ああ、毎日が土日にならないかなあ。
4時前に帰宅。庭の使っていないプランターの上で白い猫が気持ちよさそうに眠っている。どこかの野良猫だろうか。ここ数カ月ばかり、庭のプランターがこの猫の日向ぼっこ用ベッドになっている。
<写真の説明>
舌喰池(左上)
鞍が淵、飯前場橋、舌喰池(左から)
鞍が淵(下の3枚)
ついでに先日産川の下流部分、浦野川に産川が合流するすぐ手前、古戦場公園の近くで撮った写真も載せおこう。浦野川はそのすぐ先で千曲川に注ぎ込んでいる。つまり、産川は千曲川の支流の浦野川のそのまた支流ということになる。
<上の写真の説明(左から)>
堀川橋
古戦場橋
古戦場橋から見た下流
(左前方の山が突然切れたようになっている部分は「岩鼻」と呼ばれている。鼻っ先を正面から見ると大きな窪みが二つあり、見ようによっては髑髏のように見える。岩鼻の上は千曲公園になっており、上田の市街地が一望に見渡せる。)
<追記>
一つ書き忘れていたことがありました。「み田村」の駐車場から別所丸子線に出る道で何
とタヌキを見かけたのです。車の前を横切ってゆきました。これまでも夜ヘッドライトにタヌキらしき影が映ることはあったのですが、夜なので本当にタヌキなのかあるいは猫なのか確信が持てませんでした。しかし今日は昼間。間違いなくタヌキでした。これほどはっきり見たのは初めて。見かけたという話は何度も聞いたことはありますが、まさかこんな所で出会うとは。でも、さすがにシャッターチャンスはありませんでした。う~ん、残念。