「マッチポイント」を観ました
いや~、久しぶりのウディ・アレン。ここ最近の作品はいまひとつだと聞いていたのでし ばらくご無沙汰していた。しかし「マッチポイント」はなかなか評判がいい。もちろん多少期待して観た。結果は期待をはるかに上回った。上出来です。ウディ・アレンにしては珍しい作風だ。BBC製作のイギリス映画というのも興味深い。最初は恋愛映画という趣で始まる。貧しいアイルランド出身の青年があれよあれよと言う間に成功をつかみかかる。つかみかかった成功が指の先からすり抜けていくのではないかとハラハラさせられる。しかし首尾よく社長の娘と結婚して逆玉の輿に。
ところが、よせばいいのに昔の愛人と浮気をはじめ、よくある話で浮気相手が妊娠してしまう。主人公の青年は自分の掴み取った成功を守るために浮気相手を始末しようとたくらむ。このあたりはほとんどセオドア・ドライサーの『アメリカの悲劇』に似た展開。映画の最初にテニスのシーンが映され(主人公は元テニスのコーチという設定)、ネットに当たって上に跳ね上がったボールがどちら側のコートに落ちるかで運命が大きく異なるとのナレーションが入る。これが最後まで不気味な通奏低音のようにドラマの底を流れている。どういう結末になるのか、最後まで観客はひきつけられてしまう。実にうまいストーリー展開になっている。危険な恋愛+犯罪サスペンスという展開にちょっとひねったフィルム・ノワールの味付け。いやいや老体ながらウディ・アレン健在です。男女のねじれて、こじれて、もつれた恋愛を描かせたら実にうまい。俳優時代も含め彼の映画はもう10本以上観たが、「マッチポイント」は70年代から90年代にかけての傑作群に引けを取らない出来だ。この偏屈親父や恐るべし。
主演のジョナサン・リース・マイヤーズを観るのは「マイケル・コリンズ」、「ベルベット・ゴールドマイン」、「ベッカムに恋して」「アレキサンダー」に続いて6本目。けばけばしく派手派手な「ベルベット・ゴールドマイン」よりこちらの方がずっと記憶に残りそうだ。危うげな表情と佇まいに何とも惹きつけられた(「もうちょっと先のことを考えて行動せんかい!」と突っ込みも入れたくなるが)。スカーレット・ヨハンソンは「モンタナの風に抱かれて」、「ゴースト・ワールド」、「アメリカン・ラプソディ」、「真珠の耳飾の少女」、「ロスト・イン・トランスレーション」に続いてこちらも6本目。妖艶ではないが、あの分厚い唇をフルに活かしたセクシーな役。彼女の出演作はどれもいいが、これも彼女の代表作の一つになるだろう。傑作「Dearフランキー」の母親役が強い印象を残すエミリー・モーティマーは、ここではしきりに子供を欲しがる妻の役。キーラ・ナイトレイのちょっと上の世代、ケイト・ウィンスレット、サマンサ・モートン、タラ・フィッツジェラルド、エミリー・ワトソン、ヘレナ・ボナム・カーターあたりに近い世代。もっと活躍して欲しい女優だ。
昨日念願の「麦の穂をゆらす風」を借りてきた。早く観たい。連休後半には旅行の予定も入っているのでなかなかレビューを書く時間が取れないが、もう開き直ってがんがん映画を観よう。
「マッチポイント」 ★★★★☆
2005年 ウディ・アレン監督 イギリス
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