「王と鳥」をDVDで観ました
このところ猛烈に忙しかった。「ローズ・イン・タイドランド」と「それでもボクはやってない」 のレビューも遅れに遅れている。家に帰ってくるとどっと疲れが出て、ものを考える気力が湧かない。映画を観ることすら億劫だった。昨日の土曜日にようやく一段楽したが、体に疲れが澱のようにたまっていてなかなか抜けない。レンタルしていた「王と鳥」(「やぶにらみの暴君」の改作)の返却期限が昨日だったので夕方無理して観たが、途中で何度も眠り込んでしまい、その度に少し巻き戻して(DVDでもそう言うのか?)観直す始末。もちろん映画が退屈だったわけではない。疲れのせいである。
「やぶにらみの暴君」は1952年製作。日本公開は1955年。その後長い間「幻の名作」化していた。この作品の名前は恐らくまだ田舎にいた高校生の頃に知ったのだと思うが、ようやく念願かなって初めて観たのは84年の3月13日。高田馬場のACTで「禁じられた遊び」、「恐怖の報酬」、「やぶにらみの暴君」の三本立てで観た。東京に出てきて11年目である。「王と鳥」は、ポール・グリモーの気に染まないまま公開された「やぶにらみの暴君」の権利とネガフィルムを彼が取り戻して作った改訂版である。「やぶにらみの暴君」を観てから23年。あの独特の人物・キャラクター造形、未来都市のような王宮とロボットに代表される機械仕掛け、端々にまで行き渡る風刺精神は今観ても新鮮で色あせていなかった。正直、宮崎アニメやピクサーなどのCGアニメに慣れた目で観ても耐えられるのか多少不安はあった。しかしまったくの杞憂だった。
ストーリーなどはほとんど忘れていたので「やぶにらみの暴君」との細かい違いなどは分からないが、ライオンなどの猛獣のエピソードは全く記憶になかった。しかしそこにあったのは間違いなく十九世紀のパリを辛辣に風刺したドーミエなどから続くフランスの風刺の伝統である。後のカリカチュアやパロディ満載の「ベルヴィル・ランデブー」(2002)にも連なる伝統。アメリカのディズニー、日本のスタジオ・ジブリやテレビアニメ、イギリスのアードマン、イジー・トルンカを生んだチェコの人形アニメ、ユーリ・ノルシュテインやイワン・イワノフ・ワノーを生んだソ連アニメなどに比べるとフランスのアニメ作品は印象が薄い。それでも、最近で言えばシルヴァン・ショメ監督の「ベルヴィル・ランデブー」やミッシェル・オスロ監督の「キリクと魔女」や「プリンス&プリンセス」などがある。探せばまだまだ宝が眠っているかもしれない。
「それでもボクはやってない」と「王と鳥」は遅れてもレビューを書きます。「ローズ・イン・タイドランド」は?微妙だな。観てからもう1週間以上たっているからねえ。
「王と鳥」★★★★☆
1980年 ポール・グリモー監督 フランス
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