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2007年4月16日 (月)

「ドリームガールズ」を観てきました

Utahime1  昨日電気館で「ドリームガールズ」を観てきた。実に素晴らしかった。久々にミュージカルを満喫した。80年代以降世界の映画の水準が上がり、様々な国から傑作が届けられるようになってきたが、ミュージカル映画だけはいまだにアメリカ映画の独壇場である。こればかりはどこの国もアメリカにかなわない。音楽映画という切り方をすれば、アメリカ以外にも優れた作品はたくさんある。「歌え!フィッシャーマン」、「風の丘を越えて」、「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」「風の前奏曲」などは優れた音楽映画だ。しかしミュージカルとは呼べない。まさにアメリカのミュージカル映画はワン・アンド・オンリーなのである。やはり電気館で観た「シカゴ」も良かったが、その後に観た「ビヨンドtheシー」「五線譜のラブレター」「プロデューサーズ」などもさすがの出来。平均点は高い。才能のある歌手やエンターテイナーが腐るほどいて、国民がショー好きで、とにかく楽しむのが好きな国民性があってはじめて作られる類の映画である。その上歌やダンスが中心だからドラマは薄くてもいいときてはまさにアメリカ向き。傑作が多いはずだ。映画を観るというよりも、ショーを観に行く感覚で行けばいい。

 「ドリームガールズ」は「ザ・スプリームス」というモデルがあるので、「Ray/レイ」、「ビヨンドtheシー」、「五線譜のラブレター」、「ウォーク・ザ・ライン」など一連の伝記映画の流れの上に企画されたものといえるだろう。しかし「ザ・スプリームス」の成功秘話を描いた映画と言うよりも、むしろ「ザ・スプリームス」になれなかったフローレンス・バラードをモデルにした映画と言うべきである。その点でむしろ″ビートルズになれなかった男″スチュアート・サトクリフを描いた映画「バック・ビート」に近い。とにかくフローレンス・バラードをモデルにしたエフィ役のジェニファー・ハドソンがすごい。彼女には終始圧倒されていた。これは彼女の映画である。ビヨンセ・ノウルズ、エディ・マーフィ、ジェイミー・フォックスなどはみんな脇役。ジェニファー・ハドソンの歌と存在感は断然他を圧倒していた(エディ・マーフィも力演だったが)。だから日本での宣伝がビヨンセ、エディ・マーフィ、ジェイミー・フォックスばかりを前面に出していることには怒りを覚えた。許しがたい行為である。劇中でジェイミー・フォックス(モータウンの創設者ベリー・ゴーディ・ジュニアをモデルにしたカーティス・テイラーJr役)がやったことと同じではないか。

   そもそもモータウン(自動車産業で有名なデトロイトで生まれたので、モーター・タウンをもじってつけた名称)はそれまで黒人を中心に聞かれていた黒人音楽を白人のリスナーもターゲットにして、ソフトでポップな味付けにした独特のモータウン・サウンドで売り出したのである。ドリーメッツの「キャデラック」という曲を白人の男性歌手がよりソフトにして歌って大いに白人たちに受けている場面が出てくる。この場面は二重に象徴的である。ドリーメッツがドリームガールズと衣替えしてデビューした時に歌ったのはそういうソフトでポップな歌なのである。そういう方向転換をしたのだ。同時にそれはエフィーの歌う強烈なR&B路線から美人のディーナを中心としたソフトな白人受けのするモータウン・サウンドへの転向をも象徴している。エフィーが主役の座を奪われたのはディーナの方が美人だったからだけではなく、エフィーの野太い声とソウルフルな歌い方がモータウン・サウンドに合わなかったからでもある。エフィーの復帰作「ワン・ナイト・オンリー」も、カーティス・テイラー(ジェイミー・フォックス)が白人歌手にパクらせてエフィーをもう一度葬ろうとした。白人版の方がヒットしたことは言うまでもない。

 同じことはエディ・マーフィ扮するR&B歌手ジェームス・“サンダー”・アーリーにも言える。JBばりの彼の歌はもう時代遅れで、白人の聴衆には下品に見えるというわけだ。「過去の男」になったジェームズは自ら命を絶つ。だいぶ前に読んだ吉田ルイ子の名著『ハーレムの熱い日々』(1973年、講談社)によると、当時黒人大衆は妖しく歌い踊るティナ・ターナーなどに熱中していたそうだ。「高級な」ジャズはもっぱら白人が聴いていた。彼らは当然モータウン音楽なども聴かない。それも白人の音楽なのである。

 僕はモータウンの音楽は好きだ。ザ・スプリームス(当時は「シュープリームス」と言ってIrisc11 いた)も数多くのナンバーワン・ソングを放ち、耳に馴染んでいる曲が多いので決して嫌いではない。しかし僕が本当に好きな黒人音楽は「真っ黒」な音楽である。もっとディープでなけりゃソウルじゃない。フォークもアイリッシュ・ミュージックもモダン・カントリーも大好きだが、ことブラック・ミュージックに関しては「真っ黒」でなければ満足しない。だからエフィーの歌はまさに僕のつぼにはまる。ダイアナ・ロスもザ・スプリームス時代はまだいいが、ソロになってからはいいと思う曲は一つもない。彼女は「ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実」でビリー・ホリデイを演じたが、スター街道を歩んできた彼女に人種差別で苦しみ麻薬とアルコールが手放せなかったビリー・ホリデイの苦難の人生など演じられるはずはない。まったくの凡作だった。

 まあダイアナ・ロスのことはこのくらいにしておこう。肝心なのはジェニファー・ハドソン。すごい人がいたものだ。抜群のリズム感、太い声と豊かな声量。彼女の声にはソウルが込められている。多くの黒人歌手がそうだが、彼女もまた幼い頃から教会で歌っていたという。イギリスの映画俳優たちが映画の前に舞台でしっかり経験を積んでいるように、黒人歌手の多くも教会で培ったゴスペルの下地がある。ただミュージカルの「ドリームガールズ」では歌で圧倒できたが、もし今後女優を目指すのなら演技力も磨かなければならない。しかしあれだけの表現力があれば女優としても十分活躍できるだろう。

 本格的なレビューが書けるかわからないのでつい長く書いてしまった。最後に、上に挙げた『ハーレムの熱い日々』の他にもう1冊紹介しておこう。ジャック・シフマン著『黒人ばかりのアポロ劇場』(スイングジャーナル社)。ダイナ・ワシントン、ビリー・ホリデイ、サラ・ヴォーン、スティーヴィー・ワンダー等々、錚々たる大歌手たちの舞台裏でのエピソード満載である。昭和48年発行の古い本なので、とっくの昔に絶版になっていると思うが、見つけたら買っておくべし。

「ドリームガールズ」★★★★☆

「ドリームガールズ」のレビュー

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» 映画「ドリームガールズ」 [茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~]
原題:Dreamgirls 「プライメッツ」から「ダイアナ・ロス&ザ・シュープリームス」、彼女達の足跡が、メリーゴーラウンドのようにハイテンションでソウルフルに解散まで持続する・・ エフィー・ホワイト(ジェニファー・ハドソン)、ディーナ・ジョーンズ(ビヨンセ・ノウ... [続きを読む]

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