「硫黄島からの手紙」を観ました
このところ映画は観てもレビューを書けない日々が続いている。完全に輸入超過状態。 気はあせっても筆は進まない。何とか観た直後の感想を連発してその場をしのいでいる。「ローズ・イン・タイドランド」、「王と鳥」、「ドリームガールズ」、「母たちの村」、そして「硫黄島からの手紙」。たまる一方だ。何とか「母たちの村」だけでも本格的レビューを書きたい。
昨年公開された映画は既に50本は観ていると思うが、それでも注目すべき作品でまだ観ていないものが結構ある。「父親たちの星条旗」、「麦の穂をゆらす風」、「カポーティ」、「マッチポイント」、「うつせみ」、「サラバンド」、「王の男」、「007/カジノ・ロワイヤル」、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」、「ブラック・ダリア」、「楽日」、「ブロークン・フラワーズ」、「プルートで朝食を」、「イカとクジラ」、「ダーウィンの悪夢」、「明日へのチケット」等々。ハ~、ため息が出る。この調子じゃ、昨年のマイ・ベストテンが完成するのは6月になりそうだ。
さて、「硫黄島からの手紙」。知り合いがどこか物足りないと言っていたが、確かにそう感じた。141分が3時間くらいに感じた。だらだらとしているわけではないし、退屈でもない。しかし何か物足りない。日本軍の扱いは実に公平だし、戦場と国にいる家族をつなぐカットによって残してきた生活の重さも描きこんではいる。戦闘場面は期待したほどではなかったが、ドラマと演出のメリハリさえしっかりしていればこれは大きな欠陥ではない。だがその人間ドラマにもう一つインパクトがないのだ。ほぼ全滅した日本軍側から描いていながら、悲壮感もむなしさもあまり感じない。別にそう描かなければならないわけではないが、どこか淡々としている。栗林中将(渡辺謙)と西中佐(伊原剛志)の人物描写は見事で強く印象に残ったが、西郷(二宮和也)と清水(加瀬亮)は掘り下げが足りない。役者の演技や存在感にしても前の二人とは格の違いを感じてしまう。この辺もマイナスポイントだ。
恐らくクライマックスに欠けるのが一番の原因なのだろう。退屈な場面はほとんどないのだが、どうもメリハリがないのだ。この長さの作品ならば2箇所は山場がほしい。しかし全体に同じような調子で流れてしまう。どの場面も悪くはないのだが、ぐっと心に迫るものがない。記憶に残る場面やせりふも少ない。だから淡々とした印象を受けるのだろう。なぜそうなるのか。思うにこの映画は主題を絞りきれていないのではないか。5日で終わると思われた圧倒的に不利な戦いを36日間も持ちこたえさせた日本軍の勇敢さ、知略を描きたかったわけではない。アメリカ映画だから当然日本人の愛国心をくすぐる描き方にはなっていない。戦争の犠牲者として日本兵を描いたわけでもない。確かに、単なる「顔のない敵」としてではなく、それぞれの人格を持った人間として日本兵を描こうとした意図は伝わってくる。彼らは何を考え、戦場に来る前はどのような生活をし、どのような悩みを持ち、どのように戦い、どのように死んでいったのか。そこに焦点を当てたい。それは分かる。その意味で、アメリカ映画としては日本人を良く描いていると思う。ほとんど不自然さを感じなかった。しかしどこか深みに欠ける。ステレオタイプ的な描写も所々見受けられる。焦点が絞りきれないから山場が作れず、焦点が拡散してパノラマ的になってしまう。そういうことではないか。
日本人を描いたアメリカ映画としては出色だが、作劇上の問題点をいくつか感じる映画である。もっとテーマを明確にして焦点を絞り込み、クライマックスを設けてメリハリをつけていたらとてつもない傑作になっていたかも知れない。
「硫黄島からの手紙」 ★★★★
2006年 クリント・イーストウッド監督 アメリカ
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真紅さん コメントそしてやさしいお気遣いありがとうございます。
あせるまいと思っていても、今ではブログが生きがいになっていますので気が急いてしまいます。でも、もうすぐ連休ですのでそれまで無理せず我慢しましょう。
「硫黄島からの手紙」が「父親たちの星条旗」よりも先にDVD化されたのは、こちらの方が日本人には馴染みやすいからでしょうね。これで関心を高めて、「星条旗」も借りさせようという狙いではないでしょうか。こちらとしては両方一遍に出してほしかったのですが。
それはともかく、「星条旗」も早く観たいですね。「硫黄島」と対になっている作品なので、両方観ないと見終わった気がしません。
投稿: ゴブリン | 2007年4月25日 (水) 23:50
ゴブリンさま、こんにちは。
私もDVDで観た映画の感想は何本も書けていません。本となると全然です。
お互いボチボチ行きましょうね(笑顔)。
さて、『硫黄島からの手紙』ですが、ご存知とは思いますが劇場公開時は『父親たちの星条旗』→『硫黄島~』という順でした。
本国アメリカでもその順番だったはずです。
DVDリリースが何故逆になったのかはわかりませんが、来月早々に出る『父親たちの~』を観てから(気が向いたら『硫黄島~』を再見されて)、レビューを書かれてもいいのではないでしょうか?
もちろんそれぞれ独立した作品ですが、対になる場面が結構ありましたよ。
レビュー、楽しみにしておりますね!ではでは~。
投稿: 真紅 | 2007年4月25日 (水) 08:09
いちりさん コメントありがとうございました。
こういうご意見をいただくと、作品を別の角度から見直すことが出来るので参考になります。
しゃれを言うようで具合が悪いのですが、いちりさんの感じ方には一理あると思います。「ステレオタイプ的な描写も所々見受けられる」と本文で書きましたが、渡辺謙と伊原剛志の二人はかなり英雄視されています。司令官とオリンピックのメダリスト。そういう位置づけをされ、そのように演じられています。苦渋にゆがみながら堂々とした渡辺謙の表情は「ラスト・サムライ」で演じた勝元盛次のイメージが一部重なっている感じですね。ただ、話し方や振る舞いに表れる彼のリベラルな姿勢はよく描かれていると感じました。
一方、兵卒に過ぎない二宮和也と加瀬亮はより庶民的で、むしろ弱々しく描かれている。このように、この4人から受ける印象には、それぞれの演技だけでなく役の上での位置づけも影響しているでしょうね。加瀬亮は出番が少ないのが残念ですが、それでも、犬を殺せなかったエピソードはこの映画の中では印象に残る場面でした。
ただ二宮和也が僕にはどうもしっくりこないのです。軽い性格だがコミカルなわけでもない。確かに、英雄視されていない分、より自然な演技に見えます。しかしどうもキャラクターとして弱い。事実上の主演なのに狂言回しのようなニュートラルな描かれ方になっている。言うならば、及び腰で一部始終を取材してきたレポーターのような感じ。その辺がどうも引っかかるのです。
投稿: ゴブリン | 2007年4月25日 (水) 01:38
渡辺伊原のアメリカンな大げさな演技より、
二宮加瀬の繊細な演技の方が光っていたと思いましたね。
前者二人は実在のモデルがいたせいなのか
作りすぎて芝居が臭かった。
投稿: いちり | 2007年4月24日 (火) 19:20