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2006年7月 1日 (土)

ふたりの5つの分かれ路

2004年 フランス 2005年8月公開 Sea22
原題:5×2
監督:フランソワ・オゾン
脚本:フランソワ・オゾン、アマニュエル・ベルンエイム
撮影:ヨリック・ルソー
音楽:フィリップ・ロンビ
出演:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ステファン・フレイス
   ジェラルディン・ペラス、フランソワーズ・ファビアン
    アントワーヌ・シャピー、マイケル・ロンズデール
    マルク・ルシュマン

  アレキサンドル・ソクーロフ監督の「太陽」とフランソワ・オゾン監督の「ふたりの5つの分かれ路」を同じ日に観た。結論から言うと、2本ともどうということのない映画だった。ソクーロフの映画を観たのは初めて。と思っていたが、なんといつものフリーソフト「映画日記」に記入していたらソクーロフの名前がすでに入っているではないか(すでに入力済の名前は数文字打ったところで候補として表示される)。何を観たかと調べてみたら「孤独の声」を観ていた。まったく記憶にない。手書きの映画ノートを観たら周辺の事情を少し思い出した。88年に「高田馬場東映パラス」でソ連映画特集が組まれ、11月4日に「翌日戦争が始まった」と「メッセンジャー・ボーイ」、11月6日に「死者からの手紙」と「孤独な声」を観ていたのである。他の3本は多少なりとも記憶が残っているが、「孤独の声」(78年)はタイトルも含めまったく忘れていた。タイトルすら忘れているところをみるとあまり印象に残る映画ではなかったようだ。

  「太陽」は終戦の直前と直後の天皇裕仁を描いた映画。第55回ベルリン国際映画祭のコンペ部門に出品され話題を呼び、ロシアの第13回サンクトペテルブルク映画祭でグランプリを受賞した。しかし主題が主題だけに日本公開が危ぶまれていたが、今年の8月に公開されるようになったようだ(この日は知り合いが持ってきたイギリス版DVDで観た)。ヒトラーを描いた「モレク神」、レーニンを描いた「牡牛座」と合わせて3部作になっている(79年に「ヒトラーのためのソナタ」という作品も撮っている)。もっとも、次や次の次も考えているようなので最終的に何部作になるかは分からない。裕仁を演じるのはイッセー尾形。あの独特の口の動きや身のこなしをよく再現している。終戦前後の数日間を淡々と描いたもので、ただそれだけ。裕仁個人に焦点を絞り、歴史的・政治的視点などは一切捨象している描き方には疑問を感じた。まあ、数人で食事をしながらああだこうだと言いながら観たので、しっかりと鑑賞したわけではない。だからレビューは書かない。

  フランソワ・オゾン監督は「まぼろし」(01)、「8人の女たち」(02)、「スイミング・プール」(03)に続いてこれが4本目。「まぼろし」と「スイミング・プール」は、満点は付けられないがなかなかよくできた映画だった。「8人の女たち」はまあまあの出来。「ふたりの5つの分かれ路」はさらにそれを下回る平凡なでき。監督自身「恋人との別れを経験した直後で、その原因を知りたかったのが、映画を作ろうと思ったきっかけ。失恋すると、みんな過去を振り返るじゃないか。あの時のあの言葉が原因だろうか、それとも……、と。その心の軌跡を、そのまま映画にしたんだ」と語っているが、文字通りそういう映画。ただそれだけ。だから何なの?

  まあ、これではあまりにそっけないのでもう少し書いておこう。映画はジルとマリオンの離婚が成立するところから始まり、別れ、特別なディナー、出産、結婚式、出会い、という5つのエピソードを通して時間を逆にさかのぼって出会いまでを描いている。形式としては韓国の名作「ペパーミント・キャンディー」とほぼ同じ。後者は自殺した男が自殺にいたる経過を過去に戻りながらたどってゆく。次々に男の過去が明らかになってゆく。浮き沈みの激しい人生。男が転落してゆくプロセスがよく描かれており、その根底にはベトナムでの悲惨な経験があったことが明かされてゆく。語られる内容と形式がうまくかみ合っていて、この時間の逆転という手法が十分に効果を発揮している。しかし「ふたりの5つの分かれ路」の場合、時間を逆転させた必然性が何も感じられない。

  それもそのはず、結局は個人的な恋愛のもつれの範囲から一歩も出ていないのだから、単なる個人的な問題に過ぎない。他人にはどうでもいいことである。何が原因かはっきりしないし、そもそも当事者以外には分からないことだ。いや分かったからといって何がどうということもないし、元の鞘に収まるわけではない。終わりがあるから愛は美しいなどという宣伝文句も空疎に響く(ところでこういう終わり方はハッピーエンドというのだろうか?)。

  あるいは、あれほど愛し合っていた二人がどうして分かれてしまうことになるのか、それFutari3c を真摯に追求した作品だと言うかも知れない。しかし出会いの頃の熱々状態のままで20年も30年も暮らしている夫婦が一組でもいるだろうか?二人は結婚してその後幸せに暮らしました、というのは御伽噺だけの世界だということは誰でも知っている。「愛の真実」とか「愛の本質」などという大げさなものではなく、ただ分かりきった当たり前のことを当たり前に描いただけに過ぎない。芸能人の離婚報道で結婚当時の幸せそうな映像が流されるようなものだ。

  「5つの分かれ路」というタイトルは、あの時こうしていれば、こうしなければと思い当たるポイントを5つ取り上げたという意味だろう(原題は「5×2」、当事者は二人だから)。しかし、観ていると分かれるチャンスが何度もあった、あのときに分かれておけば、いやあの時だって分かれるチャンスだったのに、という意味合いに思えてくる。なぜならジルはあまりにだらしない男だし、二人とも関係を改善する努力を何もしていないのだから、ある時点でうまく対応したとしても、いずれどこかの時点で破局に至るのは目に見えているからだ。

 オゾン監督は「愛というものをあれこれ説明することなしに、別の角度から捉えたかったのです。日常的なことが愛を失わせると語るのは、たやすいことのように思えますが、2人を別れさせる本当の理由は表面的なものよりももっとずっと深淵なものであり、そのことに注目しました」と語っているが、一体どこに深遠な理由があるのか。些細なことの一つひとつが実は大きく影響するのだと言いたいのだろうか。だとしたら「深遠な」という言葉の使い方が間違っている。過去にさかのぼる形式がどうの、キャメラワークがどうの、甘く切ないイタリアン・ポップスがどうのという前に、内容が空疎ではいくらテクニックを駆使してもやはり「焼け石に水」である。あるいは説明の付かない行動をとってしまう人間のどうしようもない愚かさを描きたかったのかもしれないが、しかし話の展開には意図的に壊れてゆくよう仕向ける作為を感じた。

  原題は「5×2」となっているが、視点は一貫してマリオン寄りであると感じる。出産したマリオンが夜中に病室を抜け出し保育器の中にいる我が子を見る場面(寄り付こうとしなかったジルと対照的だ)、ジルが乱交パーティーの話を得意げにする横でマリオンの笑顔が消えて行く場面などは印象的だ。初夜に夫のジルが酔いつぶれて寝てしまったため満たされない気持ちを抱いていたマリオンが、強引に迫ってきたアメリカ人と浮気をしてしまう気持ちも理解できなくはない。一方ジルの心中は一貫して明確にされない。なぜ子供を避けたがるのか、なぜマリオンを傷つけると分かっていて乱交パーティーの話をしたのか、最後まではっきりとはわからない。もちろん推測することは可能だ。例えば、ジルが赤ん坊に嫌悪感を示すのは父親が自分ではなく、マリオンが初夜の日に寝た外国人だと知っているから。ジルが兄やマチューの前でこれ見よがしに乱交パーティーの話をするのはそのことに対するあてつけ。そういう解釈も成り立つ。だがもしそうだとして、それがどうだというのか。二人とも関係改善に何の努力もしていない。ただ互いに傷つけあっているだけ。何ともしょうがない夫婦。そう思うだけだ。

  ジルの兄クリストフ(アントワーヌ・シャピー)と兄のゲイの恋人マチュー(マルク・ルシュマン)を登場させて自由恋愛の話題を持ち込んでいるが、いまさら結婚制度が自由を縛るなどと言ってみたところで何の新鮮味もない。テーマとして深められるわけでもなく、ただ話題として流れてゆくだけ。

  唯一興味を引かれたのはカーラ・ブルーニの姉ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ。カーラ・ブルーニの傑作CD「ケルカン・マ・ディ」の解説で姉が女優だと知った。ひょっとして観たことがあるかもしれないと思ってインターネットで調べた記憶がある。ヴァレリアは「ミュンヘン」に出ていたようだがほとんど印象がない。だが主演したこの映画ではなかなか印象的だった。「ラクダと針の穴」では出演だけではなく監督と脚本も兼ねているようだ。才能のある人なのだろう。俳優としてはどちらかというと脇役向きと思われるが、今後の出会いが楽しみだ。

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