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2006年6月10日 (土)

サンシャイン・ステイト

2002年 アメリカ 未公開 Oct10
監督、脚本:ジョン・セイルズ
製作:マギー・レンジー
撮影:パトリック・ケイディ
音楽:メイソン・ダーリング
出演:アンジェラ・バセット、ティモシー・ハットン
    イーディ・ファルコ、メアリー・スティーンバージェン
    ジェーン・アレクサンダー、ラルフ・ウェイト ビル・コッブス
    メアリー・アリス、ミゲル・ファーラー、ジェイムズ・マクダニエル
    トム・ライト、シャーレイン・ウッダード

  寂れた街に降って湧いた開発をめぐる映画というので「ザ・リバー」(84、マーク・ライデル監督)のような映画かと思っていたが、開発をめぐる対立が映画の主題ではないと分かってくる。そのことは、例えば、開発に反対するロイド博士(ビル・コッブス)が協会で開発反対の演説をするために説教壇に上がる場面で明確になる。わたしがこれから話すのは宗教の問題ではない、と言い始めたところで突然場面が変わってしまうのだ。開発問題は主題ではなく、舞台となったフロリダの小さな町(「サンシャイン・ステイト」とはフロリダの愛称)の置かれている状況に過ぎない。では何が主題なのか。うまく表現しにくいのだが、その小さな町で営まれているごくごく日常の人間生活ということになろうか。この映画は社会問題劇というよりは群像劇である。翌年の「カーサ・エスペランサ ~赤ちゃんたちの家~」も一種の群像劇なので、この時期ジョン・セイルズ監督は群像劇にこだわっていたようだ。

  登場人物は多く、しかも小さな町なのでそれぞれの人間関係が複雑に交錯している。その複雑な人間関係の中心に二人の女性がいる。若い頃母とけんかして家を飛び出したが、結婚して夫とともに久々に母に会いに来たデズリー(アンジェラ・バセット)と、寂れたモーテル兼レストランを経営するマーリー(イーディ・ファルコ)。

  舞台となる町はかつては何もない湿地だった。昔はワニや蚊がたくさんいたという。今はゴルフ・コースができ、さらに開発の手が入ろうとしていた。そのゴルフ・コースでゴルフをしていた金持ちの白人男性がその土地の自然を「首輪を付けられた自然」と呼んでいた。なかなか的を射た象徴的表現である。先に名前を挙げた開発反対派のエルトン・ロイド博士(黒人)は当然もっと違った捉え方をしている。その土地に初めて来たデズリーの夫レジー(ジェイムズ・マクダニエル)に語って聞かせるかたちで彼はリンカーン・ビーチについてこう説明している。「40~50年代このビーチはわれわれに唯一許された海辺だった。黒人がこの町を作ったんだ。協力して土地を買い、家を建てた。」したがって昔はかなり貧しい町だった。この点ではデズリーの母の言葉が印象的だ。ロイド博士がわれわれには親の遺産などなくゼロから出発したと言うと、彼女は「それさえ大恩よ。親たちが必死で這い上がったからゼロから始められた」と答える。たとえゼロであってもマイナスでないだけ感謝すべきだと。いかに貧しかったかわかる。マーリー(白人)の父ファーマンも昔は黒人も白人もみな貧しく必死で働いたと現在の堕落振りを嘆いていた。

  黒人のアンジェラ・バセットと白人のイーディ・ファルコをメインにしたのは意図的だろう。主要登場人物は黒人と白人でほぼ二分されている。しかし人種問題や開発問題はどちらBeach61_1 も主題ではない。人間劇をじっくり味わう映画であり、その意味では俳優の演技と存在感が命で ある。メインの女優二人をはじめ、主にテレビで活躍する味のある俳優を多数登場させている。映画が中心なのはアンジェラ・バセットの外にティモシー・ハットンとメアリー・スティーンバージェン程度。テレビ俳優が多いのは予算の関係があったようだ。しかしビル・コブス、メアリー・アリス(デズリーの母ユーニス役)、ジェイン・アレクサンダー(マーリーの母デライア役)、シャーレイン・ウッダード(デズリーの元友人、洗濯物を干していた女性)、トム・ライト(怪我をして引退した黒人の元花形フットボール選手フラッシュ・フィリップス)など、いずれも強い印象を残す名優ぞろい。特にビル・コブス、メアリー・アリス、ジェイン・アレクサンダーの三人は人生の重みを感じさせる名演を残している。

  人間関係ばかりではなく、デズリーとマーリーはともに自分の問題も抱えている。デズリーは女優を目指したが今はせいぜいテレビのコマーシャルの仕事がある程度。夢破れ自信を喪失している。父親(故人)は地元では有名な人物で、デズリーが十代で妊娠したとき厳格な対応をした。そのとき以来デズリーは両親に反発心を抱いたままである。そのとき彼女を妊娠させたのが当時人気の絶頂にあったフットボール選手フラッシュ・フィリップスであり、彼はある目的があって彼女とほぼ同時に故郷に舞い戻ってきていた。マーリーはアメリカ映画によく出てくる場末のレストランの経営者のイメージそのもので、人生に退屈しどこかけだるい佇まいを身にまとっている。父から受け継いだレストランを守るのに汲々とする日々。その心の隙間に入り込んできたのが、開発業者の一員であるジャック・メドウズ (ティモシー・ハットン)である。デズリーの人間関係とマーリーの人間関係は特につながりはないが、マーリーの母が元教師で、デズリーはその教え子の一人だったというのが唯一の接点である。

  他の主要登場人物としては、町おこしのために必死で努力しているフランシーン(メアリ・スティーンバージェン、「カーサ・エスペランサ」にも出演)、その夫で自殺願望のアール(ゴードン・クラップ、何度試みても自殺に失敗するこっけいな役柄)がいる。とにかくいろんな人が入り乱れていて、どこにも全体をつなぐ大きなストーリーなどはない。「カーサ・エスペランサ ~赤ちゃんたちの家~」同様、人生の一断面を切り取って終わっている。ラストでジャックは他の町の開発のために去って行き、マーリーはまた一人で取り残される。確かに日常の生活とはそんなものだろう。大きな事件などそうそう起こるわけではないし、ちょっとしたロマンスぐらいはあるだろうが、それも終わってしまえばまた日常に戻ってゆく。リアルといえばリアルなのだが、この映画の作りはどうも物足りない。あまりに断片的で人物と社会の掘り下げが浅い。他のジョン・セイルズ作品同様、全体に温かみがあってその点は悪くないのだが、ひとつの作品としてはインパクトが弱い。日常を描くのは難しい。退屈こそしなかったが、軽いコメディタッチの群像劇で終わっている。同じ日常を描くにしても、「ライフ・イズ・ミラクル」は思い切ったデフォルメを施し、シュールな展開を盛り込み、それが見事に成功していた。同じ方法を用いる必要はないが、何かもっとユニークな工夫が欲しかった。

  ジョン・セイルズ監督作品はこれまで「メイトワン-1920」(87)、「エイトメン・アウト」(88)、「希望の街」(91)、「パッション・フィッシュ」(92)、「フィオナの海」(94)、「アポロ13」(95)、「カーサ・エスペランサ ~赤ちゃんたちの家~」(03)と観てきたが、「サンシャイン・ステイト」も含めて一度もがっかりしたことはない。優れた作品を作り続けている割には知名度は高いとはいえない。インディーズの宿命かもしれないが、もっと評価されていい人だ。個人的には傑作とのうわさが高い「真実の囁き」(96、未公開)を見落としているのが残念。

  アンジェラ・バセットは大好きな女優の一人。この映画でも魅力を発揮していた。上記の「希望の街」や「パッション・フィッシュ」に加えて、「ボーイズ’ン・ザ・フッド」(91)、「マルコムX」(92)、「ため息つかせて」(95)、「ストレンジ・デイズ」(95)と観てきた。最後に観てからほぼ10年たつことになる。なつかしかった(下半身がずいぶん太くなったなあ)。モンゴメリー・バス・ボイコット運動で知られるローザ・パークス(惜しくも2005年10月24日に亡くなった)を描いたTVドラマ「ローザ・パークス物語」(02)もぜひ観てみたい。  

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