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2006年5月 7日 (日)

青空のゆくえ

V127a 2005年 日本
監督:長澤雅彦
プロデュース:牛山拓二
企画:牛山拓二
脚本:山村裕二、日向朝子
撮影:服部徹夫
美術:富田麻友美
音楽:サン・パオ
挿入歌:山崎まさよし
出演:中山卓也(高橋正樹)、森田彩華(速見有美)、黒川芽以(高橋亜里沙)
    佐々木和徳(杉原雄大)、多部未華子(河原春奈)、三船力也(山下勝也)
    悠城早矢(鈴木貴子)、橋爪遼(矢島信二)、西原亜希(市田尚子)
    市野世龍(野辺稔)、山本茉央(河原百合子)、竹井みどり(河原富子)
    目黒真希(山下昭子)、岡村洋一(河原平蔵)

  あるブログで高く評価されていたのでDVDを借りて観た。なるほどすがすがしい映画だ。キャストを見るとテレビドラマのような作りかと思えるが、どうしてしっかりと作ってある。人気の若手女優を多数起用しながらも、安易で安手のアイドル映画にしなかった。「深呼吸の必要」にどこか通じるものを感じた(別にみんな一緒に一つの目標に向かって打ち込むわけではないが)。その点をまず評価したい。

  小学生、中学生、高校生、年齢にすればわずかな違いだが、この年代は1、2年で大きく変わる。「青空のゆくえ」は小学生でもなく、高校生でもない、中学生という微妙な年齢をターゲットにした。人を好きになるという感情が芽生え始めた年齢、好きなのかそうでないのか自分でもはっきりしない。だからねっとりした嫉妬もなく、どろどろした恋のつばぜり合いもなく、またいじいじ、じめじめしたところもない。実にさっぱりしている。だから観終わった後がすがすがしいのだ。しかし既に個性は十分現れている。この映画は一人ひとりの個性を実に丁寧に描き分けている。少年、少女たちに対して真摯に向き合い、微妙な心の揺れや、感情の波紋が広がってゆくさまを丁寧に描いている。「青空のゆくえ」が際立っているのはその点である。

  言い換えれば、ジャリタレ相手に作っていない。大人の観る映画だ。その意味では今の中学生の実情を正確に反映しているとは言いがたいかも知れない。これは大人たちが自分たちの中学生時代を振り返って懐かしむ映画であるといくつかのブログが指摘している。確かにその通りだろう。主人公の中学生たちが実年齢よりもやや大人びて、落ち着きがあるのもそのせいである。時代は現代なのに懐かしさを感じるのは、もっと上の世代が中学時代を振り返ったという趣のつくりになっているからである。舞台を東京の三軒茶屋にしたのもその辺を計算してのことだろう。それが悪いと言っているのではない。むしろ、そういう設定にしたからこそ、この映画は大人の鑑賞に耐える映画になったのである。

  主要登場人物は7人。この人数は一人の中学生が普段付き合っている人間の範囲としては妥当なところだろう(ほとんど女の子ばかりというのはあまり一般的とは言えないが)。クラスの仲間、クラブの部員、近所の人、まだ中学生だからそれほど交際範囲は広くない。その中にも当然付き合い方の濃淡に差がある。一本の草や木を抜けば、その下から意外に複雑に広がった根が出てくる。同じように人間も社会に根を張って生きている。大地に収まっているときには見えないが、意外に深く広く根を張っていることが分かる。この映画は、一人の男子生徒がアメリカに引っ越す前に、自分の根の張り方を確認し、思い残したことを整理してゆく過程を描いている。と同時に彼の周りの生徒たちもやはり根を張っており、それが地面の下で一部絡まりあっていることが明らかにされてゆく。そういう映画だ。

  中学生という若木だからまだそれほど深く広く根を張ってはいない。したがってそれほど複雑に根が絡まりあってはいない。一番絡まりあっているのは家族だろうが、学校の友達関係を中心に描いているので、家族はほとんど出てこない。「死」とは関係ないごく日常の「別れ」がテーマである。恋愛が絡んでもキス・シーンなど出てこない。さらに特筆すべきは、塾通いや受験勉強が出てこないこと。お決まりのパターンを使わない。あくまで一人の生徒の転校が巻き起こした心の中の波紋を中心に描いている。そこがいい。

G3_1   登場人物の中心にいるのはバスケットボール部のキャプテン高橋正樹(中山卓也)。彼はクラスメイトたちに両親の都合でアメリカに行くことを発表する。彼の話を複雑な思いで受け止めたのはバスケットボール部女子キャプテンの速見有美(森田彩華)、学級委員長で正樹と同じ苗字の高橋亜里沙(黒川芽以)、酒屋の娘で正樹とは幼なじみの河原春奈(多部未華子)、男っぽい性格で正樹しか友達がいない鈴木貴子(悠城早矢)、帰国子女で正樹のメル友である市田尚子(西原亜希)。他にバスケット部の副キャプテン杉原雄大(佐々木和徳)や幼馴染だが不登校になってしまった矢島信二(橋爪遼)など男子生徒も出てくるが、比重は圧倒的に女子生徒に傾いている。

  正樹がクラスで宣言した「やり残したこと」とは一体なんなのか、彼は誰が好きだったのかを縦糸に、正樹と彼を取り巻く女子生徒たちの関係や女子生徒同士の関係を横糸にして話は展開してゆく。最後に学校の校庭で行われるお別れパーティ(花火大会、タイムカプセルの埋設)でクライマックスを迎える。

  正樹がアメリカに飛び去った後に映される青空が印象的だ。青空は映画の途中で何度も挿入されるが、これはまだ若い彼らの前に広がる可能性を暗示しているのだろう。そういえば登場人物の一人が「この空はアメリカにもつながっている」というようなせりふを言っていた。無限に広がる空だが、どこかでつながってもいる。

  5人の女の子がそれぞれ魅力的である。中でも魅力的だったのは森田彩華(有美)と悠城早矢(貴子)。前者はバスケットをしているときの姿が様になっている(その上に美人だ)。後者ははっきりとものを言うすっぱりとした性格が魅力的。ただ、有美、春奈、貴子の3人は途中まで区別がつかなかった。同じ人物が違う服を着ているのかと思っていた。みんな同じ顔に見えるというのは年を取った証拠か、情けない。はっきりキャラの違う亜里沙と尚子だけは最初から区別がついた(尚子役の西原亜希は「リンダリンダリンダ」の香椎由宇と顔つきも体型も似ていると思った)。中山卓也は役者として特に魅力は感じなかったが、役柄としては「やり残したこと」を渡米までに解決しようと真剣に努力しているところに共感できる。最後はすべてうまくまとまってしまう。その分話がストレートになり深みに欠けるので、幾分物足りない気がする。しかし、こういうあまりひねっていない(ひねくれていない)作品もさわやかでまたいい。

  監督の長澤雅彦は既に「ココニイルコト」、「ソウル」、「卒業」、「13階段」などを撮っている中堅どころ。彼の作品を見るのはこの映画が初めて。今後の作品が楽しみだ。音楽もCl25s なかなか印象的だと思ったら「あの子を探して」や「初恋のきた道」で知られるサン・パオが担当していた。山崎まさよしの挿入歌「僕らは静かに消えてゆく」もうまく使われている。

  この映画は10年後にまた「その後」を撮る計画らしい。タイムカプセルもその時のために実際に各俳優が自分で考えて書いたものを保管してあるそうである。果たして「ビフォア・サンセット」のようにうまくいくか。まあ、あまり心待ちにするよりは忘れてしまった方がいい。そのほうが10年後の再会が新鮮になる。

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コメント

カイトさん はじめまして コメントありがとうございます。
「恋人までの距離」(原題 Before Sunrise)とその9年後を描いた「ビフォア・サンセット」のような成功例がありますから期待してしまいますよね。
「読みやすい」と言っていただけるのはとてもうれしいです。「である」調の硬い文体ですが、普段から「分かりやすく」を心がけているつもりです。
「情報」という点では、僕の場合地方都市に住んでいますので、映画館で新作を観る機会は余りありません。せいぜい新作DVDを取り上げる程度です。それでも何らかのお役に立てたならうれしい限りです。
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

はじめまして、TBありがとうございます。
10年後に「その後」を撮る計画があるというのは知りませんでした。期待してしまいますね。
あと、すごく読みやすく、尚且つ、情報がギュッと詰まってる素敵なブログですね。これから映画を見るときの参考にさせていただきたいと思います。

ブタネコさん はじめまして コメントありがとうございます。
10年後の続編楽しみですね。出演していた人たちはその頃どうなっているのか。中には大スターになっている人もいるかもしれませんね。映画の中の登場人物とそれを演じた俳優の実人生が交錯して面白い作品になるのではないでしょうか。

はじめまして ブタネコと申します。

このたびは 拙ブログにTBありがとうございました。

>この映画は10年後にまた「その後」を撮る計画らしい

へぇ… 面白い試みがあるんですね 知りませんでした。

本当は お返しTBさせて頂きたいのですが、現在 拙ブログの調子が悪く発信できないモノで^^;

http://buta-neko.com/blog/archives/2006/04/post_756.html

URL直貼りを どうかお許し下さい。 今後も宜しくお願い申し上げます。

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