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2006年1月23日 (月)

イギリス小説を読む③ 『ジェイン・エア』

angel3テーマ:結婚と身分--成功をつかんだガヴァネス

1 ブロンテ姉妹作品目録
①Charlotte Brontë (1816-55)  
Jane Eyre(1847) 『ジェイン・エア』(岩波文庫)  
Shirley(1849)  『シャーリー』(みすず書房)   
Villette(1853) 『ヴィレット』(みすず書房)  
The Professor(1857) 『教授』(みすず書房)

②Emily Brontë (1818-48)  
Wuthering Heights(1847)  『嵐が丘』(新潮文庫、岩波文庫)

③Ann Brontë (1820-49)  
Agnes Grey(1847)  『アグネス・グレイ』(みすず書房)  
The Tenant of Wildfell Hall(1848) 『ワイルドフェル・ホールの住人』(みすず書房)

2 シャーロット・ブロンテ小伝
  シャーロット・ブロンテは1816年、ヨークシャーの牧師の家に生まれる。父はアイルランドの貧農の生まれ。娘たちの結婚も阻むような気難しい男で、苦労して聖職に就いた。5歳の時に母を失う。6人の子供はみな虚弱で、一番上の二人(マリアとエリザベス)は1825年に亡くなり、1848年から翌年にかけて弟のパトリック・ブランウェルが31歳、エミリーが30歳、アンが29歳で夭折している。姉妹の中で一番長生きしたシャーロットでさえも39歳で亡くなっている。皮肉にも、早死にの一家の中で最後まで生き残ったのは父だった。1847年シャーロット31歳の時に『ジェイン・エア』を発表し評判になる。エミリーの『嵐が丘』とアンの『アグネス・グレイ』も同年に出版された。3人の代表作が同時に発表されたこの年は英文学史上重要な年である。1854年に父の補佐役だったニコルズという牧師と結婚するが、9カ月後に死亡する。

3 『ジェイン・エア』:あるガヴァネスの精神の遍歴
(1)ストーリー
  ジェイン・エアは孤児である。美人ではない。ジェイン(正式にはジャネット)の父は貧しい牧師だった。母は金持ちのリード家の娘で、不釣り合いだという周りの反対を押し切って結婚した。母の祖母は怒って一文も財産を譲らなかった。結婚1年後に父はチフスにかかり、母も感染し、二人とも1カ月もたたないうちに相次いで亡くなった。ジェインは母方の伯父リード氏にひきとられた。伯父は彼女をかわいがってくれたが、伯父の死後、ジェインは居候同然のひどい扱いを受けていた。女中のベッシーだけが唯一の理解者だった。

  伯母は反抗的なジェインに手を焼き、厄介払いするためにジェインをブロックルハースト氏が経営するローウッド校に入れることにした。ブロックルハースト氏に言わせれば、堅実さがローウッド校のモットーである。簡単な食事、質素な服装、簡素な設備等々を方針としている。しかし、その実態は劣悪な校舎で、寒さをしのぐ服もなく、とても食べられないような食事を子供に与えているということであった。ジェインはそこでヘレン・バーンズと仲良くなる。ヘレンは非常に頭が良いのだが、だらし無いと言われていつも先生にしかられている。ジェインが反抗的なのに対して、ヘレンはじっと耐えてしまうタイプだ。しかしジェインはヘレンから多くのことを教えられた。また、教師の中にも一人だけテンプル先生という、優しい人柄でジェインたちをよく理解してくれる天使のような人がいた。劣悪な環境のせいでローウッド校で病気がはやり、学校は事実上病院に変わってしまった。ヘレンも感染して死んでしまう。学校のひどい経営が暴露され、その後改善された。ジェインは主席で卒業し、2年間そこで教師を務めた。新しい経験をしたいと思ったジェインは家庭教師(ガヴァネス)の口を探し、ロチェスター氏の家で雇われることになった。ジェインはまだ18歳だった。

  ジェインはアデルという女の子の家庭教師としてソーンフィールドにあるロチェスター氏の屋敷に住み込むことになった。(アデルは或るフランス人女性--ロチェスターのかつての愛人だったことが後で分かる--の娘でロチェスター氏と血のつながりはない。)ロチェスターは40歳前くらいの莫大な財産を持った男で、「きびしい目鼻だちと太い眉をした浅黒い顔」をしている。がっしりとした体格と強い意志を持っているが、彼もまた必ずしも美男子ではない。ロチェスター家で初めてジェインは人間としてまともな扱いを受けた。美人のイングラム嬢とロチェスターが結婚するといううわさがあったが、実はロチェスターはジェインに魅かれていた。家庭教師をまともな人間扱いしないイングラム嬢たちと対照的に、ロチェスターは身分の差など気にもかけない。ロチェスターはジェインに結婚を申し込み、ジェインもそれを受ける。しかし結婚式の当日、メースンという人物が現れ、ロチェスターには既に妻がいることを暴露する。ジェインは以前から3階の屋根裏部屋から恐ろしい叫び声がするのを聞いており、何か謎があると思ってはいた。実は、屋根裏部屋にはロチェスターの発狂した妻バーサが監禁されていたのである。結婚式は取りやめになった。ロチェスターとしてはバーサは妻の資格はないと思っているのだが、ジェインはロチェスターが自分を情婦にしようとしたのだと考え、翌日黙って屋敷を出て行く。

  一文なしで2、3日さまよい歩き、乞食のような扱いを受ける。やっと親切な二人の女性(ダイアナとメアリ姉妹)に救われる。この二人の兄であるセント・ジョンに頼まれて、ジェインは小学校の教師になる。熱病のような情熱を秘めたセント・ジョンは宣教師になろうと決心する。そのジョンがあるきっかけからジェインの正体を見抜き(ジェインは偽名を使っていた)、彼女の伯父が亡くなりジェインに2万ポンドの遺産が入ると伝えた。またジェインは彼らの従兄弟だということも分かる。ジェインは2万ポンドを従兄弟たちと4等分し、それぞれ5000ポンドずつ分けることにした。

  ジェインは家庭教師をしていたダイアナとメアリを勤め先から呼び戻し一緒に住む。セント・ジョンはいよいよインドへ宣教師として赴くことになり、ジェインに結婚して一緒にインドに行こうと迫る。しかし、敬虔で誠実なクリスチャンであると認めつつも、セント・ジョンのなかに非情で冷酷なところがあると感じていたジェインはその申し出を断る。そんな折り、ジェインはロチェスターが彼女を呼ぶ声を聞くという、超自然的な体験をする。矢も盾も止まらなくgirl1なったジェインはロチェスターの屋敷へ行く。しかし屋敷はバーサのせいで火事になり、完全に廃墟になっていた。バーサは屋根から飛び降り死んだという。ロチェスターは召使たちを救おうとして重傷を負い、両目を失明し片手を失っていた。ジェインはロチェスターがいるファーンディーンに向かい、変わり果てた彼と会う。聞くと、彼も同じ日の同じ時間にジェインの声が聞こえたと言う。二人は再び愛を確かめ合って、結婚する。それから10年立った時点が、ジェインが語っている現在時点である。後にロチェスターは片方の目が少し回復して、見えるようになった。セント・ジョンは今も宣教師として人類のために働いている。

(2)婿捜し物語りという枠組み
  一人の人間としての成長過程、特に精神的成長が小説のテーマとなり、構成要素となる背景には、産業革命によって急速に変わってゆくヨーロッパ社会の中で既成の価値体系が崩れてゆき、従来の生き方が若い世代の青年に人生の意味を提出するものでなくなってしまったという認識がある。それは言いかえれば、既成の人生航路では達成できない人間的成長が明確に意識され始めたことでもある。・・・
  女性作家が女性の成長を扱った小説のパターンの一つに、婿捜し物語がある。婿捜しは、ヒーローとヒロインからなる「ロマンス」を貫く重要なモチーフであり、近代小説においても、人妻の恋、心理的恋愛とともに、恋愛小説の根底を流れるパターンである。・・・  婿捜しというモチーフの中心には、結婚という社会制度、そしてその制度のもたらす個人的な幸福に対する信頼がある。結婚はしなくてはならないものという思想、あるいは信念がなくては、婿捜しの物語は成立しない。同時にまた、どんな結婚でもよいのではなく、最も望ましい結婚という理想的結婚の観念が、結婚する当人、すなわち個人の幸福と矛盾対立するところに、恋愛が婿捜しから独立して取り扱われるようになる根拠の一つがあったのであるが、近代において個の主張が重要になるにつれて、結婚と恋愛はおのおの独立したテーマとして文学上扱われるようになる。・・・
  水田宗子『ヒロインからヒーローへ--女性の自我と表現』(田畑書店、1992年)

(3)ヒロインとしてのジェイン
  ジェインは美人ではない。昔も今もヒロインは美人と決まっているのだが、あえて作者は伝統に逆らって普通の容貌の女性をヒロインにした。美貌を女性の価値と見る男の価値観を引っ繰り返したかったからだろう。

  川本静子氏は19世紀の「女性問題」は、中流階級の女性に関する限り、ひとえに困窮したレディの問題にほかならないが、それは事実上「ガヴァネス問題」という形であらわれると述べている。しかし、ジェインは決して「余った女」ではない。男が見つからなくて結婚できず、ついには社会の最底辺にまで堕ちて行くという運命をたどったわけではない。彼女はロチェスターという理想の男とめぐり会い幸福な結婚をするのである。しかし、単なる通俗小説的な成功物語というわけではない。彼女は当時の価値観に大胆に反抗し、財産や身分よりも人間的な関係を求めてロチェスターに行き着いたのである。

  『ジェイン・エア』は発表当時社会的議論を巻き起こしたが、それはこの作品には当時の価値観に従わない要素が満ちあふれているからである。レディ・イーストレイクはこの作品には「高慢な人権思想」がみられ、危険な書物だと言った。孤児という運命を謙虚に受け止めるのではなく、それに不満を言うなどもってのほかだというわけだ。確かに『ジェイン・エア』は、ヴィクトリア時代の保守的な文学伝統と社会常識を脅かす要素をもっていた。

・激しい感情をあらわにする
  →不当な扱いに対する反抗、自分を認められたいという思い、自由へのあこがれ、
   知識や未知の世界に対するあこがれ
・女から求愛する。
・身分の違いを越えて結婚を考える
 →結婚:自分を金銭的な投機の対象とは考えていない、情熱や感情の一致を重視する
・男女の平等意識 
・男や社会の考えをそのまま受け入れるのではなく、自分の価値観で判断する。
 →絶えず自己批評、自己分析を繰り返しながら成長してゆく。  
 →例:ジェインは小学校で教えることになって品位を落としたと感じる
  しかしこれはすぐに克服する。彼女の考え方というよりは、社会的価値観を受け身的
  に反映したもの。
・リード一家やイングラム嬢を初めとするロチェスターが付き合っている上流家庭の人物
 はみな美男美女だが、いずれも高慢で、傲慢で、意地の悪い俗物として描かれてい
 る。それに対して、ロチェスターを自分と同類の人間だと感じる。

  しかしその一方で伝統的な側面も合わせ持っている。
・財産や身分のもつ価値を完全には否定していない
 →結局は自分よりも身分が上のロチェスターと結婚し、都合よく遺産も相続する。せい
   ぜい遺産の分け前を従兄弟たちに与えるだけだ。
  遺産相続後の生活はメアリは絵を描き、ダイアナは百科事典の読破を続け、ジェイ
   ンはドイツ語を勉強しているという優雅な生活だ。
 →作品自体も、ロチェスターに妻がいることが分かり、彼の元を飛び出す当たりから話
   の展開が慌ただしくなる。遺産が入り、バーサが都合よく死んでくれるなど、話が
   意外な方向に目まぐるしく展開して行くメロドラマ的な展開になっている。なぜ自分
   はこんな目に遭うのか、「不合理だ、不公平だ」と激しく反抗していた前半の力強さ
   はなくなっている。  
 →現実と自己が溶け合わない疎外された段階、次に現実から圧迫され悩まされる段
   階を経て、自己が現実を認識して現実に溶け込む段階へと至る、コントの「3段階
   の法則」のパターンに当てはまるという指摘がある。結局現実を何ら変えることな
   く、うまく現実の中に収まってしまうという意味では当たっている。  
 →ヘレンの聖書的諦めの境地を結局ジェインは理解できなかった。ジェインは神の世
   界ではなく現実の世界に生きる女性なのである。この点がジェインの強み(不当な
   扱いを跳ね返して行く)であると同時に限界(現実の中に収まってしまう)でもある。
・遺産を相続するとさっさと教師を辞める。
 →男に養われるという「家庭の天使」に止まらずに、経済的自立を目指す発言もしてい
   るが、それも遺産を相続するまでのこと。貧しい子供たちを教育しながら、彼らにも
   個人差があると気づいてゆくが、これも遺産が入ると人に任せてしまう。
・セント・ジョンの宣教活動がもつ帝国主義的意味に気づかない

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