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2005年12月17日 (土)

きみに読む物語

2004年 アメリカ akinokehai1
原題:The Notebook
原作:ニコラス・スパークス“The Notebook”
製作:マーク・ジョンソン
脚本:ジャン・サーディ、ジェレミー・レヴェン
監督:ニック・カサヴェテス
出演:ジーナ・ローランズ、ジェイムズ・ガーナー
    ライアン・ゴズリング レイチェル・マクアダムス
    ジョアン・アレン、ジェームズ・マーズデン
    サム・シェパード、ケヴィン・コノリー、デヴィッド・ソーントン

  正直前半は退屈だった。ヒロインのレイチェル・マクアダムスは今ひとつ魅力に欠け、ライアン・ゴズリングとのロマンスもありきたりだった。いかにも安っぽいアメリカ映画という感じで、はずれくじを引いたかなと思った。しかし後半が素晴らしい。DVDで二日に分けて観たのだが、同じ映画とは思えないほど後半は泣けた。

  療養所に入居している銀髪の老女カルフーン夫人(ジーナ・ローランズ)にデューク(ジェイムズ・ガーナー)という老人が毎日のように物語を読んで聞かせている。それは1940年代のアメリカ南部、ノース・カロライナ州シーブルックを舞台にした若い男女の恋物語であった。材木工場で働く青年ノアは一目ぼれしたアリーを強引に口説く。最初迷惑顔だったアリーもノアの情熱に押され、二人の仲は急速に近づいてゆく。しかしアリーは裕福な家庭の娘で、ノアとは全くの身分違いであった。アリーの両親はノアが貧しい家柄の出である事を知り二人の交際を認めようとしない。夏が終わればアリーはニューヨークの大学に進学する。地元を離れられないノアは彼女と別れることを決意した。やがて第二次大戦が始まりノアは出征する。アリーは富豪の御曹司ロン(ジェームズ・マーズデン)と知り合い、結婚することになっていた。このあたりははっきり言って二流のラブ・ロマンスという感じだ。

  しかしカルフーン夫人が実はアリーでデュークがノアである事(最初からほとんど察しがついてしまうが)が明かされるあたりからぐんぐん話しに引き付けられる。カルフーン夫人は認知症であり、夫のデュークが彼女の記憶を回復させようと2人の若い頃の話を毎日語って聞かせていたのである。カルフーン夫人は見たところ普通の老女で、ほとんどぼけているようには見えない。記憶が欠けているだけで日常生活は特に困難ではないように思える。彼女はデュークが語る物語に魅きつけられ、「それから二人はどうなったの」とたびたび先を促す。ただそれが自分の話である事には気付かない。

  ノアは除隊して父(サム・シェパード)の元に戻る。父はノアに農場を買ったと伝える。その大きな農場はアリーと別れる前、ノアがいつか買い取って自分で建て替えたいと彼女に話していた農場だった。父とそこに移り住んだが、やがて父がなくなりノアは一人で農場を改築する。白い立派な建物が出来上がった。ノアはアリーが去った後も1年間毎日欠かさずアリーに手紙を書いていた。しかしアリーの母親(ジョアン・アレン)がそれらを全部抜き取ってしまうためアリーには1通も届かなかった。

  アリーはロンと結婚する直前、偶然新聞に出たノアの写真を見てひとり彼に会いに行く。再会した二人は恋の炎を再燃させる。ノアはひげを生やし、アリーは以前よりも少し大人びている。再会後の二人は最初の頃よりずっと魅力的だ。前半が面白くなかったのはかなり無理して青臭い恋を演出しようとしていたからだと分かる。アリーはノアを選ぶのかロバートを選ぶのか選択を迫られる。まあ年老いた二人を知っているから彼女がどちらを選択したかは自明だが。

  後半には素晴らしい場面がたくさんある。例えば、アリーと再会したノアが彼女をボートに066675乗せて連れて行った湖のシーンは信じられないほど美しい(タイトルバックで夕日に赤く染まる湖をボートが進んでゆくシーンの美しさも特筆ものだ)。ボートを囲むようにしてあたり一面に白鳥が泳いでいる。ほとんどありえないような幻想的なシーンである。もう一つはアリーの母親がアリーを連れ戻しに来るところ。アリーは激しく抵抗する。娘の決意が固いことを知った母親はアリーを連れて材木工場にゆく。そこで車を停めて工場で働いている一人の男を指差す。実は、彼女は若い頃その男と駆け落ちしたことがあるのだ。結局うまく行かず分かれた。お父さんと結婚したから今は幸せなのよ、本当にお父さんを愛してるのと話し、激しく泣き出す。そういいながらも彼女は娘を許したのだ。きつい顔で見るからに意地悪そうな母親であったが、娘をノアの家に戻したとき彼女に手紙の束を渡す。ノアがアリーに送った手紙だ。母親は1通も捨てずに取っておいたのである。そして「後悔しない道を選びなさい」と言いおいて去ってゆく。ありえない話で、取ってつけたようなエピソードだと言えなくもないが、感動的なシーンだった。このあたりからリアリティを無視してファンタジー色が濃くなってゆく。

  だが何と言ってもすばらしいのは老いたノアとアリーだ。物語を語り続けているうち奇跡が起こる。アリーが一時的に記憶を取り戻すのだ。医者は記憶が戻るなどありえないと言っていたのに。「あれは私たちの話だったのね。」涙を流して抱き合う二人。二人で踊るダンス・シーンが実にすてきだ。しかし無情にも彼女はまたすぐノアを忘れ「他人」に戻ってしまう。「この前は5分間だった」という台詞が出てくるから、以前にも短い時間だけ記憶を取り戻したことがあったようだ。たった数分しか戻らない記憶。なんとも哀れで切ない。記憶を失うことがいかに残酷なことであるかこの映画を観て初めて認識した。老いた二人にとって思い出こそもっとも大切な財産である。過去の記憶を失うこと、人生の最も美しかった頃の記憶を失うこと、それは二人の生きた証を失うことだ。長年連れ添った相手が他人に見えるということは、二人が過ごした時間をゼロにリセットしてしまうことだ。ノアにはそれが耐えられなかったのだろう。ノアが「命がけで」物語を読み続けた気持ちも理解できる。この後に続くラストシーンも感動的だが、これは言わないでおこう。ノアが読んでいたのが何であったかも観てのお楽しみ。

  この映画はジーナ・ローランズとジェイムズ・ガーナーの映画だ。老優二人が実に素晴らしい。サスペンス映画の傑作「グロリア」で知られるジーナ・ローランズも今やすっかり太った婆さんだ。ジェイムズ・ガーナーも太った爺さんで、かつての渋い精悍さはもはや面影すらない。しかしこの二人が出てくる場面は若い二人のどの場面よりも素晴らしい。一時的に記憶が戻った場面などは「レナードの朝」以上に感動的だ。

  ライアン・ゴズリングとレイチェル・マクアダムスも後半はなかなかよかった。老優二人ばかり褒めたが、この若い二人のストーリーがあったからこそ、晩年の二人のストーリーが生きてくるのである。たとえ数分間でもその記憶が戻ったときの感動、その記憶された瞬間を若い二人は実際に生きたのだ。恐らく晩年の二人を描かなければ、この映画は単なる平凡なラブ・ロマンス映画で終わっていただろう。だが、晩年の二人を描いただけでも物足りないものになっただろう。若かった時代と晩年の二人が記憶でつながっている、この秀逸なシチュエーションがなかったらこの映画の成功もなかった。もちろん、熟年離婚などという言葉がありふれたフレーズになっている今日、これは現実にはほとんどありえない話だ。そういう意味ではこの映画は「純愛映画」というよりはファンタジーである。そして毎日のようにいやなニュースが流れている今日ほどファンタジーを必要としている時代もないのである。

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コメント

 ほんやら堂さん コメントありがとうございます。
 「人生の最も美しかったときの記憶。これが一番大事な宝」というのは映画に沿ったコメントで、僕自身もまだそういう心境にはなれません。
 ただ、老境に入ったとき、自分の連れ合いが自分のことを忘れてしまったとしたら、それはつらいことだろうと思います。そして過去の思い出によって記憶が戻る可能性がほんのわずかでもあるとしたら、やはり二人にとって一番楽しかった時代の思い出を語ることになるでしょうね。
 色々なことを考えさせられる映画でした。

ゴブリンさん.コメントありがとうございました.
この映画の結末は好きです.あのような形は理想の1つです.
僕もいい年ですが,「人生の最も美しかったときの記憶。これが一番大事な宝」という境地にはまだなれません.
極楽とんぼの僕にとっては,人生は常に今が最高,というのが本音です(と言うかそうありたいということかも知れませんが).
ではまた

晴薫さん コメントありがとうございます。
どうやらTBは入っていないようです。メンテナンス以降の不具合には泣かされます。徐々に問題は解決されてゆくのでしょうが、そんなことはあらかじめ「想定済み」と行かなかったのでしょうか?腹立たしいことです。まあ、ただで使わせてもらってるのですから強く文句を言うつもりもありませんが。
これからはFC2の方にコメントやTBを送るようにしますね。

こんばんは。
コメントありがとうございます。
どうやらココログの方はTBがダメなようです。
FC2の方からTBを送らせていただきましたが、通っているでしょうか?
今度はそちらに送っていただければ幸いです。

 garamさん コメントありがとうございます。
 莫大な費用をかけた大作ばかりではなく、こういうしみじみと心に響く映画も作ってしまうあたりがアメリカ映画の懐の深さですね。昨年公開のアメリカ映画の中ではベスト5に入るのではないでしょうか。

TBありがとうございました!

>この映画は「純愛映画」というよりはファンタジーである。そして毎日のようにいやなニュースが流れている今日ほどファンタジーを必要としている時代もないのである。

まさにそうですね!
アッと驚く仕掛けがある物語では無いのですが、
特に後半はグッと心に響きました。

 HANAさん 二度目のコメントありがとうございます。
 そうそう、ノアが建てた白い家は素敵でしたね。ひとりであそこまで出来るのかという気もしますが、そこはファンタジーなのですね。
 ファンタジー的な要素を交えながら老いと惚けという現実からも目をそらさずに見つめる。現実とファンタジーが自然に溶け合っていて素晴らしい映画に仕上がっていると思います。

先にコメントをいただいてしまいました。
ありがとうございます。

冒頭の湖の場面は映画館で見たかったなと残念でした。
一人でPCで見ていたので、美しいと思いながらも気だけ焦って
「早く先を見たい」なんて・・・。

でも、美しい映画というのが全体の印象です。
ノアの一途な思い、アリーの情熱、母の愛・・・
ノアの建てた家、湖・・・。

ただ、最後は美しいというにはつらすぎて、
ゴブリンさんの言うようにファンタジーになってしまったように思います。

 HANAさん いつもありがとうございます。
 こちらは時々のぞいていましたので、パソコンの調子が悪くて携帯を使っていたことは知っておりました。僕のレビューはネタバレありなので、先に映画をご覧になってからのほうが確かにいいと思います。観た後にまたお寄りください。
 リンクの方は、HANAさんが「緑の杜のゴブリン」をブックマークに入れてくださった直後に入れました。ただ、ホームページの方はさっぱりアクセスがないので大してお役に立てないかもしれません。

しばらくネットが使えなかったのでご無沙汰してしまいました。

「君に読む物語」は今一番みたい映画です。ブログ友達のfujiminoさんという方がやはり一番のお勧めと紹介していました。

で、これから見たいのでゴブリンさんの記事はちょっとおあずけ。先にコメントだけ書かせてください。見たらまた書きます。

それからネット復活して久しぶりに「緑の杜のグブリン」の方にもお邪魔したら「リンク」のその他に私のブログがあるのを発見。感激です!!

 カゴメさん コメントありがとうございます。
 カゴメさんのレビュー、特に認知症に関する部分は、現場におられる方だけにとても参考になりました。やはり現実はそういうものなのですね。でもだからこそこういう作品には惹かれるのでしょう。
 「アイリス」は観ました。ジュディ・デンチが海岸でノートを破いて、飛ばされないように上に石を乗せて並べてゆくシーンはとても印象的でしたね。意味は分からないけれども、なぜかいつまでも心の深いところに残るシーンで感動的でした。

ゴブリンさん、お久しぶりです!!

心に優しい作品ですね。特に冒頭の湖と夕焼け(朝焼け?)シーンは、
記憶に染み入るような美しさでした。
CGもこういう使われ方をされると効果を発揮しますね。
認知症の人は、普段はまるでとんちんかんな事を口にしてても、
突然、はっとするほどクレバーだったり、
過去の出来事の鮮明な記憶が甦ったり、
時折、こちらが襟を正させられるようなことを仰ったりすることがあります。
そんな事を思い起こさせてくれるような素敵な作品ですね。
「アイリス」という作品も素晴らしいですよ。
機会があったら是非どうぞ

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