資料・日本と諸外国の映画環境②
【アメリカ映画の市場占有率】
・アメリカ映画の世界市場で占める割合は上がる一方である。1998年の世界映画市場稼ぎ頭40本のうち39本、フランスでは稼ぎ頭10本のうち9本までがアメリカ映画である。フランスの国産映画は1982年には53%を占めていたのに、1998年には28%に落ち、英国では1997年のシェア27%が翌年には半減、ドイツでは1998年で10%である。一方、小国デンマークでは1999年、2000年と連続20%を維持している。韓国もアメリカ映画の上映時間割当制のおかげで、従来20%のシェアが40%まで拡大しているという。
→日本映画の国内シェアは2001年にはついに27%まで落ち込む。
→映画入場者数も1958年をピークに下降傾向は止まっていない。
・アメリカは一貫して経済的観点から映画を論じる。ヨーロッパは文化主義的観点から映画を論じる。アメリカが文化的ヘゲモニーを拡大して行く中で、娯楽大作ものはアメリカに任せて、自分の国では独自の文化的薫りを持った作品を作ろうとする方向に進む国が増えている。
・ハリウッドの大手各社がアメリカ産の映画では十分世界市場を維持出来なくなったので、アメリカは世界中から目ぼしい作品の配給権を買い、世界で稼ぐマーケット戦略を強めている。特に製作費がアメリカと比べて格段に安い中国映画がねらわれている。チャン・イーモウの「あの子を探して」と「初恋の来た道」はソニー・エンタテインメント・ピクチャーズの配給である。日本も例外ではなく、スタジオ・ジブリはディズニーと組んでおり、熊井啓の「海は見ていた」はソニー・エンタテインメント・ピクチャーズ、平山秀幸の「OUT」はフォックスの配給である。
・1993年のGATTでフランスとアメリカの間で激しい駆け引きがあった。
→上映割当システムの維持をめぐっての争い。フランスが押し切る。
・フランスなどがこれ程自国映画の保護に熱心なのは、アメリカ映画が市場を独占出来るだけの力をもっていることの裏返しである。くだらない作品も山のように作っているが、優れた作品もたくさん生み出している。アメリカ社会の腐敗や矛盾、社会悪を告発する作品もまたアメリカ人自身の手で作られている。
【韓国映画の勢いと国の保護政策】
・韓国では40万坪を有する撮影所が国の支援で97年に作られ、「JSA」「シュリ」などの話題作が次々に作られている。韓国の映画振興委員会(99年設立)は製作支援から撮影所の提供、教育・研究まで総合的な支援策を検討し、実行している。
・韓国映画の目覚しい躍進を支える有力な制度的仕組みとして、1996年の「映画振興法」によって実施された「韓国映画の上映義務」制、いわゆる「スクリーン・クォータ制」(上映時間割当制)がある。すべての映画館は年間146日以上、韓国映画を上映する義務を負い、この制度に国の様々な助成策が加わって韓国映画の「躍進」を促してきた。
しかし1999年、それまで韓国映画市場の6~7割を占有してきたハリウッドは、このスクリーン・クォータ制に激しい攻撃を加え、韓国政府に圧力をかけたが、韓国映画人は団結して民族映画擁護のため、この制度を死守する大運動を展開。「クスリーン・クォータ文化連帯」という非政府組織をつくり、その力で政府はハリウッドの要求をはねつけてきた。
「シュリ」(1999年)「JSA」(2000年)「シルミド」(2003年)「ブラザーフッド」(2003年)など、国民的な大ヒット作が続出、韓国映画は市場の過半数を制するまでになり、ハリウッドは再びスクリーン・クォータ制への攻撃を強めた。04年7月14日、3000人の韓国映画人があつまり、この制度を死守する大デモを決行、日本でも知られる大スターたちも参加している。
・韓国映画の市場占有率は、2002年に45.0%だったのが、03年には49.4%、そして04年の上半期はついに60.0%に達した。03年12月公開の「シルミド」は1108万人、04年2月公開の「ブラザーフッド」は1174万人の記録的な大動員を果たした。これにたいしアメリカ映画は2002年48.7%、03年43.5%、そして04年36.1%と押され続け。アメリカ映画7対邦画3の壁をなお破れない日本の場合と、対照的だ。
・「KOFIC」発行の『韓国映画の展望台』(2005年夏の号)より
韓国映画は2000年以来年平均19%の観客増という急成長を続けてきた。2005年は若干足踏みしている。05年上半期の観客動員数は計2076万9086人で、昨年同期の2317万2446人に比べて27.8%減。その大きな理由は昨年上半期には「シルミド」「ブラザーフッド」という1000万人動員のメガヒットがあったが、今年はまだそのクラスの大作に恵まれていない。その結果昨年同期、国産映画の市場比率が62.4%まで飛躍していたのが、今年は50.4%に後退。しかし韓国の全映画館は年間146日、国産映画を上映する義務を持つスクリーン・クォータ制があり、なおシェアの過半を占めている。
なお日本の「ハウルの動く城」は昨年末公開、外国映画の興行収入第4位(301万5615人)を記録した。
【映画は文化である フランス映画に学ぶ文化の支援と保護】
以下は中川洋吉『生き残るフランス映画』(希林館、2003年5月)の「序文」の要約紹介である。
CNC[注:国立映画センター、文化省の直属機関]の財政基盤を支えるのは、映画・映像(テレビ)産業界からの拠出金システムである。映画入場料金の11%、テレビ局(国営も含む)の総売り上げの5.5%を徴収し、年間予算は26億2200万フラン(2001年、約440億円)に上っている。民間の資金を官が運営し、徴収金を再び映画産業へと還元する。一種の文化リサイクル装置をつくり上げている。日本の文化庁予算の45%の規模であり、すべてが映画・映像に費やされている。
CNCと並ぶ、フランス映画を支える両輪の一方がテレビ局である。フランスでは、映画がテレビの重要なソフトであり、年間約1500本が放映される。テレビ局は映画製作に対し、地上波局は総売り上げの3%、ケーブルテレビのカナル・プリュスは20%の支出が法的に義務づけられている。
フランスのテレビが映画・映像作品を放送する場合、60%をヨーロッパ作品としたうえで、40%をフランス作品とするという枠をはめ、自国作品の保護を図っている。
93年度の統計によると、上映館数は4300館で、この10年間ほとんど変わらない。日本の1700館とは大きな開きがある。
この違いはシネマコンプレックス(複合映画館)の発展の違いによる。フランスにはシネマコンプレックスが800館以上あり、大部分はひとつのビルに2~5館を含んでいる。
助成は映画館の改装費、設備費に対して最高90%まで援助される。また、CNCはプリントの貸与も行っている。この制度によって、少都市でも、大都市と同様な上映作品が楽しめ、映画館の経営維持にも役立つ。
CNCが行っている映画製作に対する助成のひとつ「選択助成」の最大のものとして、制作資金の前貸し制度がある。この制度のおかげで、フランスでは毎年、多くの新人監督が世に出ている。
フランスではテレビは映画の敵ではない。テレビが映画を斜陽化させた事実は否定できないが、映画はテレビにとって視聴率を上げる最大のソフトでもある。つまり、テレビには映画なくしては生きていけない状況があり、そこで両者の制度的な共存関係が生まれた。
映画館の客足を確保するため、金曜日の夜は芸術性の高い作品を除いて、テレビは映画を放映できないという制限もある。
映画を歴史的文化遺産として保存に力を注ぐことにおいて、フランスにまさる国は他にないであろう。古い作品を恒常的に上映するシネマテークの存在は我が国でも広く知られている。フランスでは1992年の政令により、出版、ビデオ、映画、テレビに関し、納付制度が義務づけられた。この制度により、映画に関しては、国内で上映された全作品をCNCが保管することとなった。他に、このアーカイヴのもう一つの大きな役割は、古いフィルムの修復であり、むしろ、この分野にこそ、CNCは力瘤を入れている。
CNCとシネマテークの業務は重なる分野もあるが、実際は上下関係にあり、規模はCNCが圧倒的に大きい。両者の特徴は、CNCが保存・修復を第一の目的とし、作品の一般公開は原則的に行わない。これに反し、シネマテークは、作品の公開をメインの目的としている。
このようにCNCを頂点にした映画分野における「歴史的文化財産」の保存・修復活動は、国家の文化に対する意識の高さを表している。
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