マシニスト
2004年 スペイン・アメリカ
原題:THE MACHINIST
監督:ブラッド・アンダーソン
脚本:スコット・コーサー
出演:クリスチャン・ベイル、ジェニファー・ジェイソン・リー
アイタナ・サンチェス=ギヨン、ジョン・シャリアン
マイケル・アイアンサイド
久々にアメリカの娯楽映画を観た。本当にこの手のアメリカ映画は著しく質が落ちた。観たいのに観たくなる映画がないのだからどうしようもない。とにかく何か観ようと思って借りてきたが、まあ水準の出来でしょうか。
とにかく落ちがあまりにも情けない。「ロスト・ハイウェイ」のレビューで書いたが、これじゃリンチが不条理を持ち出したくなる気持ちも理解できる。ただ途中の不気味な展開はそれなりにみせる。差し引きゼロで水準程度におさまるというしだい。
機械工のトレバー(クリスチャン・ベイル)は原因不明の極度の不眠症ですでに丸1年眠っていない。という設定だがそんなはずはあるわけない。睡眠不足で機械工をやっていたら1ヶ月もたたないうちに両手の指は一本もなくなっているはずだ。彼のせいで指を失った同僚のように。要するに極度の不眠症ということが大事で、寝ていないのが1年である必要はない。2、3週間ほとんど眠っていないとすれば無理のない設定なのだが、話を大きくしたかっただけだろう。むしろ不眠症の原因がわからないというのがポイントである。
話の展開は、彼が見る不思議な現象の原因追及と謎の人物の正体の解明である。ある日、トレバーは自宅の冷蔵庫に”Who are you?”と書いてある張り紙を見つける。自分では全く覚えがない。留守中に誰かが侵入していたことになる。一隊誰の仕業か。張り紙の意味は何か、目的は何か?映画はサスペンスの色合いが濃くなる。
不眠症で極度に痩せているトレバーは麻薬でもやっているのではないかと上司に疑われる。尿検査の後、工場の外でタバコを吸っていると見慣れない男を見かける。アイヴァン(ジョン・シャリアン)という名前で、休んでいる同僚の代わりだと話す。ところがこの男の姿はどうやらトレバーにしか見えないらしい。アイヴァンに気をとられたトレバーのせいで同僚(マイケル・アイアンサイド)が指を切断する大怪我を負ってしまう。このあたりから映画にホラーの要素(超自然的現象)が混じってくる。
家に帰ればまた不気味な張り紙が見つかる。アメリカの子どもなら誰でも知っているハングマン・ゲームをもじった謎の張り紙。これが効果的だ。このゲームは相手の考えた単語を1文字ずつ当てて行き最後に何と言う単語かを当てるゲームである。外れるたびに少しずつ吊るし首の絵が完成して行き、単語が分かる前に絵が完成すれば答える側の負けである。
最初は6文字のうち最後の2文字erが示される。何回か張り紙が見つかるたびに分かる文字が増え,*il*erまで来た時に、トレバーは答えがmillerだと直感する。例の彼のせいで指を切断する事故にあった男の名前だ。トレバーはミラーが脅迫の犯人だと思って怒鳴り込んでゆく。しかしどうも違うらしい。このあたりまで来ると、トレバーがほとんど錯乱状態になっていることが分かる。ハングマン・ゲームの答えはこの段階で誰の目にも明らかで、ミラーは明らかに肩透かしなのだから。
他にもあの手この手を使って不気味で怪しげな雰囲気を作り出してゆく。ナンバープレート743CRNの赤い車に乗ってトレバーの行く先々に現れるアイヴァン、ルート666という遊園地の怪しい出し物。トレバー自身も工場で危うく手をはさまれて大怪我をしそうになる。誰が機械のスイッチを入れたのかわからない。
誰かが陰謀を張り巡らせ自分を陥れようとしている。そう信じたトレバーは、ますます精神を蝕まれていく。ありえないことが次々に起こり、サスペンスの域を超えてサイコホラーになってゆく。トレバーの体は登場したときから既にガリガリのすさまじいほどの痩せ具合である。目は落ち窪み、異様にぎらぎらしている。体中から骨が飛び出さんばかりに浮いている。意識も朦朧とすることが多く、食欲も無くなり、記憶力も落ちてゆく。ほとんど生きる亡者だ。さらに精神まで蝕まれてゆく。クリスチャン・ベイルの鬼気迫る演技がすごい。
彼の目に見える世界は青みが勝った色合いになっている。この色合いが不気味な雰囲気によく合って効果的だ。彼は次第に周囲から孤立し,ついには会社を首になる。もうここまで来ればほとんどやけくそである。赤い車の持ち主が知りたくて番号を暗記して警察に行くが教えてくれない。ひき逃げに合った証拠があれば教えるといわれ、自ら車に飛び込んで怪我を負うことまでやる。
しかし神経を張り詰めっぱなしでは体が持たない。彼が気を休められる居場所が2箇所ある。馴染みの娼婦スティービー(ジェニファー・ジェイソン・リー)と、いつも通っている飛行場のカフェで働くウェイトレス・マリア(アイタナ・サンチェス=ギヨン)である。そして謎を解く鍵も実はこの二人にあった。この先は言えないが、言ってもそれほど差し支えないほどのしょぼい結末である。でもまあ、言わんでおこう。
監督は「ワンダーランド駅で」「セッション9」のブラッド・アンダーソン。「セッション9」は観てないが、「ワンダーランド駅で」はいい題材を扱ってはいるが出来は今ひとつだった。今のところ傑作はまだ作っていないということになるだろう。
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コメント
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KAZUさんコメントありがとうございます。
1年眠っていないことについて同じような指摘をされていましたね。実際なんでそんな長めに設定するのか分かりません。
クリスチャン・ベイルの劇痩せボディはゾンビものかナチスの収容所ものに使えますね。何せ本物だけに凄みがありました。
投稿: ゴブリン | 2005年11月 2日 (水) 21:03
TBありがとうございます。
確かに設定からして無理がありますよね。
私的には不眠症1年後ではなく、不眠症にかかり2週間前後その苦悩や不眠症の恐ろしさを描いたほうがまだ面白い映画になっていたかもしれませんね。
下手にサスペンス調にした点が裏目に出た感じ。
クリスチャン・ベイルの演技には脱帽ですね~。バットマン・ビギンズと比べても少しの間にあれだけ筋肉質になってるのもまたすごすぎます。
また色々映画レビュー参考にさせてもらいますねー。面白いのあった是非拝見したいと思います^^
投稿: KAZU | 2005年11月 2日 (水) 12:27