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2005年10月20日 (木)

どっこい生きてる

momiji_w1951年
監督:今井正
出演:河原崎長十郎、中村翫右衛門、河原崎しづ江、飯田蝶子
    岸破旗江、木村功

 今井正監督の独立プロ第1作。独立プロ自体としては山本薩夫監督の「暴力の街」が第1作で、これは第2作目にあたる(特典映像の早乙女勝元インタビューで彼がそう話していた)。山本薩夫の「暴力の街」「傷だらけの山河」「証人の椅子」などは思想性が前面に出すぎて今ひとつの出来だと思ったが、さすがに今井正の作品は出来がいい。徹底したリアリズムで戦後の不況時代を描いている。映画会社を飛び出して、全国からカンパを集めて作った独立プロ作品だが、仕事がなく食い詰めた人たちをそのまま描くことで説得力を得ている。イタリアのネオリアリズモの影響が指摘されているが、意識はしていたかもしれないが、現実を描けばこうなるのだろう。

 まず、当時ニコヨンと呼ばれていた日当240円で日雇い仕事を引き受ける人たちの群れが描き出される。電車から次々と人が降り立ち、なぜか皆駆けてゆく。早く列に並ばないと人数に制限があるのであぶれてしまうからだ。昔のアメリカ映画でよく見かけた風景(例えばジョン・フォードの「怒りの葡萄」)だが、当時の日本も同じだったわけだ。主人公の毛利(河原崎長十郎)はその日仕事にあぶれた。家に帰ると、長屋を明日取り壊すので出て行ってくれと大家に言われる。出て行っても他に住む家があるはずもなく、何とかしてくれと頼むがもちろん受け入れられない。

 結局、妻と子供2人を田舎に返し、毛利本人は簡易宿泊所に泊まって日雇い仕事を続けることにする。その宿泊所には日雇い仕事仲間(中村翫右衛門)がいた。お調子者で、生き抜くすべを心得たはしこい男だ。中村翫右衛門がまさにはまり役。いまではいなくなったいい役者だ。

 ある日毛利は電柱に貼ってあった「旋盤工求む」の張り紙を見て応募してみた。何とか雇ってもらえたが(徴用で覚えた技術が役に立った)、前借を申し出たため不審がられる。前借は出来なかったが、仲間が金を集めて給料日までの資金を出してくれた。しかしその晩酒を飲んで酔っ払い、目が覚めたら金を取られていた。弱り目に祟り目で、翌日仕事場に行ってみると、昨日は雇うと言ったのに注文が減ったので雇えないと言われる。仲間が集めてくれた金を取られ、仕事もふいになった。その上、田舎に帰ったはずの女房と子供がまた戻ってきた。田舎も子沢山でとても長くはいられなかったのだ。どうにもならない状況に押しつぶされ、毛利は死ぬ決意をする。盗み(水道管を抜き取って売る)をして稼いだ金でその晩は精一杯の贅沢をする。翌日死ぬ前に子供たちを楽しませてやろうと遊園地につれてゆく。しかし息子が池に落ちておぼれかける。死ぬつもりだったが、彼は思わず池に飛び込み息子を助ける。これで彼の考えは変わった。先の見通しはまったくないが、生きてゆくことにした。翌日からまた仕事斡旋所前の人ごみの中に彼の姿があった。

 「どっこい生きてる」というタイトルから、最後は何か浮かび上がれるきっかけを掴むのかと思っていたが、最後まで希望はない。もちろんそのほうがリアルだ。安易な救いをもたらさなかったことがこの作品の価値を高めている。日本のリアリズム映画の傑作の一つだ。

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