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2005年10月 2日 (日)

イブラヒムおじさんとコーランの花たち

2003年 フランスparis13
【スタッフ】
脚本:フランソワ・デュペイロン
        エリック=エマニュエル・シュミット
監督:フランソワ・デュペイロン
【出演】
オマー・シャリフ、ピエール・ブーランジェ、ジルベール・メルキ
イザベル・アジャーニ

 しみじみとした味わいを残す映画だが、今ひとつ胸に迫ってこない。どうも一つは物語の展開に問題がありそうだ。

 1960年代初頭のフランス。ブルー通りというパリの裏通りに住む13歳の少年モイーズは毎日満たされない生活を送っている。父と母はかなり前に離婚し、モイーズは父と二人暮し。父親は仕事から帰ってくると、モイーズが作っておいた食事を食べる。当たり前だという顔で。いかにも安っぽいアパートで、かつかつの生活をしていることが想像される。父親は本が好きで、家中に本があふれている。本棚の板が本の重みでたわんでいるのがやけにリアルだ。父は本が焼けるからと窓を開けることも許さない。父と二人で薄暗い安アパートで暮らす生活。父との会話は一向に弾まない。父は何かにつけてモイーズを兄のポポルと比較するので、モイーズは面白くない。そんなモイーズの唯一の楽しみは窓から見える通りにたむろする娼婦たちを眺めることだ。

 この導入部分から何か重苦しい。見ているこっちまで気がめいってくる。この演出方法はうまくいっていない。気のめいるような生活をしていることを分からせつつ、観客を退屈させないように描くべきだ。

 モイーズは少しずつ溜めた貯金で初めて娼婦を買う。娼婦たちにかわいがられるようになるが、彼の寂しさを救ってくれたのは彼女たちではなく、彼女たちが立っている通りに面した食糧店を営む老人だ。トルコ移民のイブラヒムである。彼はモイーズをモモと呼んだ。そのほうがユダヤ人らしくないと。満たされない思いがあるモモはしだいにイブラヒム老人と親しくなってゆく。二人の心の交流が始まってゆく。

 このあたりまで来るとイブラヒムを演じるオマー・シャリフの存在感もあって大分画面に引きつけられる。しかし突然モモの父親は解雇され、やがてモモを置いて蒸発してしまう。しばらくして父が自殺したことが知らされる。モモは唯一の知り合いであるイブラヒムの養子になる。そのとたんイブラヒムはモモを連れてトルコに旅立つ。彼の故郷に着いたとたんイブラヒムは自動車の事故であっさり死んでしまう。モモはイブラヒムの全財産を相続し、彼の店を引き継いでいる。大人になったモモの店に昔のモモの様な少年が買い物に来て、その少年をモモはモモと呼んでいる。

 物語の展開が突然ころころ変わり、どうも不自然だ。何か原作の筋だけを追っている気がする。筋の展開を追うだけで手一杯で、肝心の二人の心の交流が十分描くところまで手が回らなかった。そんな感じだ。95分と短めの映画なのでエピソードを詰め込みすぎたということだろうか。

 テーマとシチュエーションは悪くないので、2時間くらいの長さにしてもっとじっくり描けばいい作品になったかもしれない。実際いい場面は少なくない。イブラヒムの店の中での二人の会話の部分は全体にいいできである。イブラヒムが免許もなく運転もできないのに車を買うあたりのエピソードも実に滑稽だ。トルコへの旅もよくできている。トルコの荒涼とした風景は観るものに強い印象を残す。二人が入った寺院の中で見たくるくるいつまでも回って踊っている男たち、トルコの都会の様子、街の人々。どれをとってもモモには、そして観客には新鮮で鮮やかな印象を残す。ただなぜ二人がトルコに行くのか、なぜ突然イブラヒムが死んでしまうのか、そのあたりの意味合いが性急すぎて十分伝わらない。

 人種と宗教と世代の壁を超えた人間同士の絆を描く普遍的なヒューマンドラマという触れ込みのわりには、宗教への踏み込みも浅い。あえて多くを語らず観客の想像力の余地を残すという作りでもない。むしろうまく伝えられないままで終わってしまったという感じだ。原作は知らないがどうも原作を消化不良のまま描いてしまったようだ。

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コメント

kimion20002000さん こちらにもコメントありがとうございます。
もうだいぶ忘れてしまいましたが、イブラヒムの店の中でのモモとの会話やトルコでのシーンは記憶に残っています。イブラヒムとモモとの関係がモモとモモの店にやってきた少年に引き継がれてゆくというラストもいいですね。
ただ、全体としては物足りないと感じてしまいました。オマー・シャリフをもっと活かしていれば、もっと丁寧に描きこんでいればという思いが残ってしまうのが残念です。

こんにちは。
あのあたりのパリのなかでの下層社会が移民社会だなあ、と面白く思えました。
僕の相方も、フランスに数年滞在していたんですが、あそこらへんの通りに住んでいたことが、あったそうです。
ちょっと物足りない映画ではありましたが、少年を警察からかばうところと、最後のお店で世代がチェンジされ、そのシーンが再現されるところは、良かったですね。

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