小さな中国のお針子
2002年 フランス
監督:ダイ・シージェ
出演:ジョウ・シュン、チュン・コン、リィウ・イエ
ツォン・チーチュン、ワン・シュアンバオ
ワン・ホンウェイ、シャオ・ション
期待通りの傑作だった。「山の郵便配達」よりももっと山奥の小さな村に二人のインテリ青年(マーとルオ)が下放されてくる。誰ひとり字を読めるものもおらず、バイオリンを見てもおもちゃだと思ってしまう始末。もってきた料理の本はすぐその場で燃やされてしまう。そこで二人は「小さなお針子」という名前の女の子に出会う。村一番の美人だ。二人はすっかり彼女に引かれてしまう。すぐ二人は彼女と親しくなる。二人と彼女を結び付けているのはお互いの愛情だけではなく、本である。字の読めない彼女に本を読み聞かせ、字を教えていた。本はもう一人の下放青年「メガネ」から盗んだものだ。魯迅のものも一冊あったが、他は西洋の本ばかり。「ゴリオ爺さん」、「モンテ・クリスト伯爵」等々.やがて彼女は西洋の考え方に感化され、村と二人を捨てて出て行ってしまう。20数年後再会した二人はかつて二人が青春時代をすごした山村が巨大ダムに沈むことをテレビのニュースで知る。しかし「小さなお針子」にはその後会えなかった。
文革時代を背景に恋愛ロマンスを描いたところが新鮮だ。「初恋のきた道」より時代色が濃く、識字と文学が絡まっている分奥行きがある。「山の郵便配達」と同じような山村を舞台にしているが、親子の愛ではなく、男女の恋愛を描いている。しかも一種の三角関係である。一人は気持ちを奥に秘めてはいたが。風景描写の美しさはどちらもすばらしい。恋愛的情緒は「イルマーレ」に通じるが、「小さな中国のお針子」に比べると「イルマーレ」はいかにも人工的な設定に思える。
隠れて字を教えるというテーマはNHKのドラマ「大地の子」にも通じる。文字を学ぶことを通して物語を知ることは、自分の世界を超えた新しい世界、まだ見ぬ広い世界を知ることである。また、新しい自分の可能性を知ることでもある。だから「小さなお針子」は村を出て行ったのだ。恋愛のテーマよりもこのことこそ、作者が一番言いたかったことではないか。
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