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« 寄せ集め映画短評集 その10 | トップページ | アメリカン・ラプソディ »

2005年10月23日 (日)

舞台よりすてきな生活

2000年 アメリカ・ドイツglass-small03
原題:How to kill your neighbor's dog
製作総指揮:ロバート・レッドフォード
脚本:マイケル・カレスニコ
監督:マイケル・カレスニコ
出演:ケネス・ブラナー、ロビン・ライト・ペン
    スージー・ホフリヒター、ジャレッド・ハリス
    リン・レッドグレーヴ、ピーター・リーガート

  レビューを書いていて採り上げてよかったと思う映画というものがある。すなわち、あまり世間では評判にならなかったが、作品として優れている映画である。まあ、僕が採り上げている映画の大半はそういう映画ではあるが、中には自分でも意外な拾い物だと感じるものが何本かある。この映画もそういう映画だった。

  レビュー数は少ないが、取り上げている人の評価はおおむね高い。ジャンルでいえばハート・ウォーミング・コメディに入るだろう。この種の映画は幸せな気分になれて、後味もいいからまずひどい評価にはならない。無難なジャンルなのである。したがって常に一定数作られている。

  その手の映画はおおむねファミリー物が多い。家族でそろって楽しめる映画、したがって幾分子供向きの傾向がある。「舞台よりすてきな生活」にも女の子が登場し、作中で重要な役割を果たしている。しかし焦点は大人たちに当てられている。一般のファミリー映画と違うのはその点である。少し角度を変えてみてみると、この映画は「ネバーランド」と逆のケースを描いている。「ネバーランド」は劇作家バリがピーター少年の閉ざされた心を開こうと苦心する映画だが、「舞台よりすてきな生活」は子供嫌いで子供をうまく描けない劇作家(彼の名もピーターだ)が女の子との出会いを通じて子供と心を通わせて行く映画である。

  この映画を魅力的にしている最大の要素は、言うまでもなく、主人公の劇作家ピーター・マクガウェンを演じたケネス・ブラナーである。監督として、俳優として数々の名作にかかわってきた。今や英国映画界の重鎮である。本作はアメリカ映画だが、イギリス人気質丸出しの毒舌家を演じて、本領発揮である。

  ピーターは今スランプに陥っている。台本には直接子供が出てこないが、間接的に言及されている。しかしその言葉使いが不自然だと俳優たちに指摘されされる。果ては、劇場の床を掃除している掃除係の男にまで「子供は舞台に登場しないが、重要な第3の登場人物だ。存在感を与えなきゃ」と指摘される始末。ピーターは「台本を書くのは俺だ」と怒って席を立つが、掃除係に「おれの意見なんか無用ってわけか。清掃係だもんな。そっちは掃除の出来を批判するくせに」と言われてしまう。

  たまたま掃除をしていた素人にまで台本の欠点を指摘される。ピーターは実は極端な子供嫌いだった。妻のメラニー(ロビン・ライト・ペン、好演)からは子供がほしいと求められるが、なんだかんだと言って逃げてしまう。公私共に子供に悩まされている。その上、夜は隣の犬の鳴き声がうるさくて不眠症気味。原題の「隣の犬の殺し方」はここから来ている。その上、近所に彼の名を騙る別人が出没しているらしく、一度など眠れなくて夜の散歩に出たとき偽者のピーターと間違えられて警察に捕らえられてしまう。妻の証言であっさり解放されるが、そんなこんなでさっぱり筆が進まない。絶不調のどん底。名優ケネス・ブラナーがこの不幸なピーターを何ともユーモラスに演じている。頑固でしょっちゅう怒鳴り散らす男だが、どこかかわいげがあって憎めない。ちょっと「サイドウェイ」のポール・ジアマッティの役柄を思い出させる。

  たまに気分が乗った夜は奥さんとことに及ぼうとするも、なぜかうまくいかない。思い余っtree_ww1て医者に行くと、前立腺がはれ上がり精子が塞がれてたまっていると言われる。その上あろうことかイボ痔にもなっている。四つんばいになって尻に指を突っ込まれて「ウギャー」と叫んでいる姿はおよそ情けない図だ。思わず叫んだ「まるで指人形にされた気分だ」と言うせりふには大笑いしてしまった。

  そんなスランプ時に、たまたま隣に娘を連れた女性が引っ越してくる。娘のエイミー(スージー・ホフリヒター)は時々ピーターの家にある小屋で一人で遊んでいるが、ピーターは隠れて彼女を観察しようとする。しかしエイミーに見つかり、仕方がないので一緒に遊ぶことになる。二人でままごとをするシーンは傑作である。子役のスージー・ホフリヒターがなかなかかわいい上に達者な演技でうならされる。ままごとの場面はアドリブでやったとインタビューで答えていた。うまくままごとについてゆけないピーターをエイミーがたしなめるところが愉快だ。難しい言葉をエイミーが理解できなかったりする一方で、子供たちの間で使われる言葉をピーターが理解できなかったりする。かと思うとエイミーが意外な言葉を知っていたりもする。子供の話し方に対するピーターの理解はエイミーとの出会いを通じて格段に豊かになってゆく。台本もどんどんよくなってゆく。

  このあたりからエイミーの存在が大きくなって主題の一部になってくる。エイミーは片足が不自由である。彼女の母親はいじめを警戒して彼女をあまり外に出さない。ピーターの妻エミリーはダンスの教師で、エイミーにも踊りを教え始める。エイミーはインディアンの踊りを母親とピーター夫婦の前で披露するが、母親は娘を見世物にする気かと腹を立て途中で止めさせてしまう。怒ったピーターと激しい口論になる。

  エイミーとの出会いをきっかけにピーターはスランプを脱し、台本もうまく仕上がった。最後の稽古の後、例の掃除係も交えてみんなで一斉にペトゥラ・クラークの「ダウンタウン」を歌う場面がすばらしい。だが、恐らく先の口論がきっかけになったのだろう、エイミーたちは町を出て行くことになる(母親はまたもとの夫とよりをもどした)。詳しくは書かないが、別れの場面は感動的だ。エイミーはどうなってしまうのか。

  すべてをうまく収めてしまわなかった演出が出色である。単なるファミリー映画では終わっていない。ある夜、眠れなくて夜の街を散歩していた時にピーターは偽のピーターと出会う。何度か出会ううちにいつしかさまざまなことを話し合う仲になっている。この夜のシーンがなかなかいい。さほど深い内容の会話ではないが、ピーターにエイミーからとは別の影響を与えている。今ひとつ主題にうまく絡められていない気もするが、作品に奥行きを与えているのは確かである。妻メラニーとのやり取りも秀逸だ。子供のように感情をむき出しにするピーターと優しい笑顔と眼差しでうまく彼の手綱を取るメラニー(ロビン・ライト・ペンは実に魅力的だ)。喧嘩しているときでもほのぼの感が漂っている。ファミリー・ドラマを撮らせたらアメリカ映画はうまい。名作の宝庫である。この映画はその長い系譜に連なる新たなる1本である。

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