ディープ・ブルー
2003年 イギリス・ドイツ
監督、脚本:アラステア・フォザーギル、アンディ・バイヤット
撮影:ダグ・アラン、ピーター・スクーンズ、リック・ローゼンタール
今上田でも「皇帝ペンギン」が公開されているが、このところ動物ドキュメンタリー映画が続々作られている。「ディープ・ブルー」はイギリスBBC製作の海洋ドキュメンタリー映画だ。ペンギン、サメ、シャチ、亀、クジラ、アシカ、深海魚などの映像が延々と続く。NHKで放送されるBBCのドキュメンタリーもの大好きの僕にとってはたまらない映像だ。動物もののドキュメンタリーという意味ではフランスの「WATARIDORI」に通じるが、あちらは鳥がテーマ。海がテーマと言う意味では、むしろ同じフランスの「アトランティス」(リュック・ベッソン監督)に近い。ただ、「アトランティス」が静かな映像でヒーリング向きなのに対して、「ディープ・ブルー」はベルリン・フィルを使った音楽が激しく鳴り響き、波の音や魚が水を切る効果音などが体を震わせる。動きもはるかに動的で、展開もドラマチックである。とうていリクライニング・チェアーを後ろに大きく倒して、グラス片手にゆったりとくつろぎながら観る映画ではない。シャチがアシカを襲う場面、魚と鳥が小魚を追いまくる場面などはすさまじい限りである。後者は空から見ると、激しい水しぶきが上がり、まるで艦隊と爆撃機の戦闘場面のように見える。水中から見るとまるで白兵戦の修羅場だ。小魚たちは群れて一斉に同じ動きをする。まるで次々にメタモルフォーゼを繰り返す一つの巨大な生き物のように見える。
一転して深海に潜ると光と音のない世界。暗闇に怪しく光る不思議な生き物たち。チョウチンアンコウの様なグロテスクなものから、光を放つ妖精のように美しいものまで、実に様々な異形のものたちが棲息している。深海を訪れたものは宇宙を訪れたものより少ないと言う意味のナレーションが印象的だ。人は見たことのない世界を見てみたいと思う。ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』に描かれた地中の世界もそうだし、深海ものや宇宙のかなたの星を探検する話も同じだ。深い地底や海底には人間が見たこともない怪しげな生き物や恐ろしい生き物が生息しているに違いない。そこにどんな世界があるのか、見たことがないだけに人は覗いてみたくなる。「アビス」「デプス」「リヴァイアサン」などの映画は、そのぞくぞくするような深海の怖さを味わう映画である(期待に応えたかどうかはともかく)。「ジュラシック・パーク」のような恐竜時代を再現して見せた映画が大ヒットするのも同じ欲求からくるものだろう。
まあ、この手の映像は好きでよく観るから珍しくはないのだが、テレビで見るときと違って音響効果がものすごいのではるかに迫力がある。プラズマテレビでサラウンドにして観たのでものすごい迫力だ。映画館で見たらなおさらすごいだろう。特に海面近くで撮った映像の迫力は下手な人間のドラマをはるかに凌ぐ。そこにはナマの生存競争がある。まさに弱肉強食の世界。やらせでも芝居でもない、本物の食うか食われるかの世界だけに圧倒的な迫力である。
疲れたときに観て心が安らぐ映画ではないが、音を消してただ流しているだけだったらどうだろうか。ヒーリングになるか。眠れない夜に「アトランティス」と「ディープ・ブルー」を続けてみてみよう。
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