ある陶芸家の話
食事に出かける。店に入ると年配の先客がいた。Y先生という小諸に住んでいる陶芸家の先生だと紹介された。後からKさんも来た。客が三人になった。カウンターで横に並んでいたのでマスターを挟んで色々と話をしたが、Yさんの話が面白かった。彼が独自に開発した「練りこみ」という技法の話だ。陶芸というとすぐろくろを使うと連想するが、「練りこみ」の場合はろくろが使えない。粘土を細かく切ってブロック塀を積み上げるようにして下から積み上げてゆく技法だ。粘土は何種類もの色を用意して模様をつける。上薬を塗るのではなく、一つひとつの違う色の粘土を組み合わせて模様を付けてゆく。点描画の様な手法である。写真を1枚見せてもらったが、着物の柄にヒントを得た見事な模様である。
何と彼は50歳まで30年ほど呉服屋をやっていたそうだ。だから着物の柄に詳しかったわけだ。まさに50の手習いである。今74歳だといっていた。50歳からまったく分野の違うことに手を出してここまで来るとは。それも世界で彼にしか出来ない唯一無二の技法を編み出したのである。
とにかく小さな粘土を一つずつ貼り付けて行くのだから気の遠くなる作業だ。写真の壷は幅50センチ、高さ50センチだからかなりの大きさである。前述のように、ろくろを使わずに下から積み上げてゆく。ろくろを使うと表面をこするわけだから、せっかく一つひとつ貼り付けた粘土が流れて混じってしまう。とにかく、空気が入らないように力を込めて押し付けながら貼り付けてゆく。
しかも驚いたことに、粘土はあらかじめ色違いのものを何種類も分けて用意しておくのだが、焼く前はどの土も皆白い色なのだそうだ。焼いて初めて色が出る。したがって積み上げているときはほとんど白一色なのだ。粘土も間違わないように番号をつけておくのだそうである。その上、壷だから下絵の様なものは作れない。実際あらかじめ完成図を頭に描いて作ったのではないそうだ。積み上げながら模様を作り上げてゆくのだそうだ。ほとんど同じ白い色の粘土だから、組み上げた部分はどこにどういう色の粘土が入っているか頭に入れておかねばならない。それでいて完成品は見事な絵柄になっている。一体どうやったらそんなことが出来るのか。
難しいのは一番てっぺんの部分である。壷だから口のところはすぼまっている。てっぺんのあたりはドームのようになるわけだ。ここはしっかり貼り付けないと粘土自身の重みで下にたれてきてしまう。一旦たれたら手で持ち上げて直しても、焼いたときにへこんでしまうそうである。まるで形状記憶合金だ。
そのほかにも陶芸のいろいろな話を聞いた。実に面白かった。小諸の懐古園の近くに店があるそうなので一度行ってみたいと思った。
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投稿: 湯乃郷窯 | 2005年9月20日 (火) 14:44