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2005年9月 8日 (木)

月曜日に乾杯!

2002年 フランス・イタリアn0003sn
監督、脚本:オタール・イオセリアーニ
出演:オタール・イオセリアーニ、マニュ・ド・ショヴィニ
   ジャック・ビドゥ、アンヌ・クラヴズ・タルナヴスキ
   ラズラフ・キンスキー、ナルダ・ブランシェ

 オタール・イオセリアーニを最初に見たのは岩波ホールで上映された「落葉」である。当時のチラシを見ると「ピロスマニ」に続くグルジア映画第2弾という位置づけだったことが分かる。映画ノートで「落葉」を見た日付を確かめてみると82年9月18日とある。もう23年前だ。内容はもうほとんど思えていない。

 最近のヨーロッパ映画に多いのだが、「月曜日に乾杯」は実に奇妙な味わいの映画だ。主人公は工場の労働者。毎日同じように工場に行き同じように帰宅する。妻からも子どもたちからもろくに相手にされない。ある日突然工場をサボり、家族に黙ってヴェニスに行ってしまう。しばらくゆっくり羽を伸ばして、家に帰る。旅先から送っていた絵葉書を妻はろくに見もせず破り捨てていたが、夫が帰ってくると何事もなかったかのように迎える。子どもたちもちょっと長い休暇から父親が帰ってきた程度の反応。またいつものように日常が始まる。  

 ストーリーはこのようなものだが、ほとんど説明がなく勝手にどんどん場面が変わってゆく。にもかかわらずどういうわけか画面にひきつけられてしまう。冒頭の工場の様子からそうだ。何の工場かよく分からないが人々が働く様子をカメラがなめるように写し取ってゆく。いったい何が始まるのか分からないのでずっと観ていると、いつの間にか画面にひきつけられている。結局何も起こりはしない。ただ毎日の労働の様子をそのまま写しただけだ。全体がこんな感じで淡々と流れてゆく。そう、流れてゆくという感じだ。何も劇的なことは起こらない。突然の旅行もあっさり流される。そもそもなんでタイトルが「月曜日に乾杯!」なのかも分からない。

 不思議な味わいの映画だ。淡々とした描き方はオリヴェイラの「家路」を思わせるが、まだ多少なりとも筋があるだけ分かりやすい。日常からの脱出というテーマも分かりやすい。しかし日常からの脱出というよりも、日常そのものが主題ともいえる。息子たちが父親に関係なくハングライダーで空を飛ぶシーンが挿入されたりする。ヴェニスでは金をすられたり、訪ねていった家族が彼が出て行った直後に猛然と言い合いを始めたり。すべてが日常だ。確かにアメリカ映画のようにそうそう大事件が起こるわけではない。人生の大半は何事もなく凡々と過ぎてゆく。主人公もヴェニスで何か人生の教訓を学んだわけではなく、ただのんびりすごしただけだ。何とか気がまぎれて、また日常に戻ることが出来たに過ぎない。この程度のちょっとした「はめはずし」は誰にでもある。その日常を、観客を退屈させることなく描いた力量は注目に値する。ヨーロッパで小津が尊敬される理由が何となく理解できる。

 この映画の場合、説明を省いていることが効果を上げている。突然現れる人物にいったい誰かと注目する。しかしさらっとその場面は流れてゆく。汽車の中で出会う女性がどこか思わせぶりで、何かその先重要な役割を演じるのかと観客は予想するが、それきり出てきはしない。訳が分からないから何とか理解しようと緊張する。そしていつの間にか画面に引き込まれている自分に気づくのだ。小津とはまた違った日常の描き方の文法を発明している。                                    

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