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2005年9月11日 (日)

サイドウェイ

gurasu2004年 アメリカ
監督:アレクサンダー・ペイン
脚本:アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー
撮影:フェドン・パパマイケル
出演:ポール・ジアマッティ、トーマス・ヘイデン・チャーチ
                      ヴァージニア・マドセン、サンドラ・オー

 久々に見たアメリカ映画。とにかく久しぶりに何かアメリカ映画を観てみようと意識して探していたから目に付いたのである。監督は「アバウト・シュミット」のアレクサンダー・ペイン。彼の作品だということが選んだ決め手だった。ちょっと見にはこれといった魅力のない映画だ。中年の男二人のロード・ムービー。ワイナリーめぐりの旅といっても大して興味はそそられない。アカデミー賞の脚色賞を取った映画だが、地味な部門なのでさほど話題にはならなかったと思う。しかしこれが意外な収穫だった。

 アメリカ人は移動を好む国民なのでロード・ムービーはたくさん作られてきたが、この作品は数あるロード・ムービーの中でも傑作の部類に入るだろう。主人公は小説家志望でワイン好きの高校教師マイルス(ポール・ジアマッティ)とTV俳優のジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)。マイルスは頭も禿げかけたさえない小太りの男。2年前に離婚を経験し、以来女性が苦手である。やっと小説を書き上げ、出版社に送って結果を待っているところだ。一方のジャックは対照的なプレイボーイ。結婚を1週間後に控えて、独身最後の自由な時間を過ごそうとマイルスを誘って二人でワイナリーをめぐる旅に出る。

 二人は大学の寮で同室となって以来の友人同士である。どこでももてもてのプレイボーイとさえないまじめ男というでこぼこコンビだ。この取り合わせがいい。監督自身も大好きだというワインの薀蓄をたれながらの珍道中。しかしまったくのドタバタ喜劇ではない。映画の視点はどちらかといえばマイルスに向けられている。彼はまじめな男だからあまりはめをはずさない。女性には臆病になっているので、マヤ(行きつけのレストランのウェイトレス/ヴァージニア・マドセン)という好きな女性がいるが、積極的には近づこうとはしない。問題はいつもジャックが起こす。無節操なジャック(彼の本当の目的は女とやりまくることだと本人がマイルスに打ち明けている)の行動に顔をしかめながら、結局彼がジャックの尻拭いをする。その典型が財布事件。ジャックは例によって初対面の女にちょっかいを出し、まんまと彼女の家にしけこむ。しかし明け方素っ裸で逃げ戻ってくる。彼女の夫が予想外に早く家に戻ってきたからだ。素っ裸で5キロ歩いてきたという。ところが彼女の部屋に大事な財布を忘れてきたので戻って取りにゆくといってきかない。結局マイルスがその家に忍び込んで、ベッドで取り込み中の二人の横の棚にある財布を取って逃げてくる。今度はその家のだんなが素っ裸で二人を追ってくるという展開。このあたりはドタバタ調だ。

 マイルスは小説が不採用になったときなど時々切れて暴れることもあるが、普段は憂鬱な情けない顔をしている。ジャックの無節操な行動にさんざん振り回され、小説が認められないと落ち込み、マヤには惹かれているがどうせ俺なんか相手にされないとまた落ち込む。前の妻との離婚の傷が癒えずなかなか一歩が踏み出せないのだ。そこにまたジャックからことあるごとに早くマヤをものにしろとせっつかれるので、イライラがつのる。それでもなんとかマヤとうまく行きかけるが、またまたジャックのせいで大きな亀裂が入ってしまう。ジャックはステファニー(サンドラ・オー)と深い仲になっていたが、彼は自分が近く結婚することを隠していた。マイルスがうっかり口を滑らせてマヤにそのことを教えてしまったためステファニーは激怒し、マイルスもマヤから同じ穴のムジナだとばかりにはねつけられてしまう。

 まあ、こんな調子で話が進んでゆく。ジャックが前面に出るとドタバタ調になり、マイルスが前面に出ると、悩める中年男のちょっと滑稽な愛の彷徨話となる。このあたりの切り替えや織り込み方が絶妙だ。最後はマヤの誤解も解け、マイルスがマヤの家を訪ねてゆくところで終わる。その時マイルスの小説が重要な役割を果たす。マイルスはマヤと小説への自信を同時に取り戻すのだ。

 山田洋次の「家族」の感想を書いた時に「われわれはピカロ(ピカレスク小説の主人公)の旅を通して社会を観察するのである。」と書いたが、「サイドウェイ」の場合、観察眼はむしろ主人公たち、特にマイルスに向けられている。その意味で同じロード・ムービーでも「サイドウェイ」は「家族」や「モーターサイクル・ダイアリーズ」などとやや性質を異にする。視点が主人公の他に向けられたとしても、それは社会というよりも他の人間(特にマヤ)、つまり人間関係(とりわけ恋愛関係)に向けられているのである。ロード・ムービーといっても主人公二人があまりあちこちの土地を旅しないのは、個人的な人間関係(マヤとステファニーとの関係)に縛られているからである。

 主演の二人の男優がともに好演。マヤ役のヴァージニア・マドセンも色気たっぷりで実に魅力的だ。ステファニーを演じた韓国系女優のサンドラ・オーはアレクサンダー・ペイン監督の奥さんだそうである。

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コメント

真紅さん いつもながらTB&コメントありがとうございます。
なるほど「リトル・ミス・サンシャイン」に共通する面はありますね。この手の映画はアメリカ映画の得意とするところ。主演の2人が実にうまい上に、脚本と演出が実にうまく練られていて上質のロード・ムービーに仕上がっています。
最近はなかなか時間の余裕がなくてレビューが書けません。「リトル・ミス・サンシャイン」も時間がたつうちに記憶が薄れてきてしまいました。早く書かねば。

ゴブリンさま、こんにちは。TBさせていただきました。
この映画、『リトル・ミス・サンシャイン』との共通点を指摘されている方がいらして、観てみました。
本当に、思わぬ収穫でしたね。
漂流するアメリカの家族のエントリも、興味深く拝読しました。
『リトル・ミス~』『トランスアメリカ』のレビューも楽しみにしておりますね!
しかしくれぐれも、ゆっくり、マイペースでどうぞ。ではでは。

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