家族のかたち
2002年 英・独・オランダ
監督:シェ-ン・メドウス
出演:ロバート・カーライル、リス・エヴァンス、
シャーリー・ヘンダーソン、フィン・アトキンス
キャシー・バーク、リッキー・トムリンソン
ロバート・カーライル主演。大分予想と違っていた。いつものイギリスの下層中流階級を描いた重苦しい映画。舞台はノッティンガム。グラスゴーでテレビを見ていたジミー(カーライル)は元妻のシャーリー(シャーリー・ヘンダーソン)がテレビに出ているのをたまたま見かける。デック(リス・エバンス)という男がテレビでシャーリーに求婚して断られていた。それを見てジミーはシャーリーとよりを戻そうとノッティンガムに舞い戻る。監督のシェーン・メドウスは男が町に舞い戻ってきて厄介ごとを起こすという西部劇のパターンを取り入れたと話している。
実際、シャーリーと娘のマーリーンはデックとうまくやっていた。ジミーの出現は文字通り厄介者の帰還だった。ジミーは強引にシャーリーの家に入り込む。弱気なデックはシャーリーの気が代わったと思い町を出て行こうとする。しかし車にマーリーンが乗り込んでいた。マーリーンは実の父のジミーを嫌っており、デックに好意を寄せている。マーリーンを見て気が変わったデックは、ジミーと対決し、彼を殴り倒す。本気で争えばジミーに勝ち目があるが、シャーリーもマーリーンもデックの側についたことを悟った彼はおとなしくデックの車で(デックが差し出した交換条件だった)グラスゴーに戻ってゆく。
シャーリーは意志が弱く、いつも誰かを頼りにしていないといられない性格だ。この映画を観ていて感じるイライラの大半は彼女の優柔不断さから来る。ジミーは強盗をやって金を奪うような男。粗雑で自分勝手な性格。ただロバート・カーライルがメイキングで語っていたが、彼は最初もっと悪党として設定されていたらしい。しかしデックとの差がありすぎるので、ただのだらしない男にトーンダウンした。確かに彼は暴力を振るってはいない。しかしそれでも彼の粗暴さと自分勝手さは、映画全体を暗くしてやりきれない思いを感じさせるには十分だった。救いはデックが最後に勇気を奮うところだ。彼のパンチはまぐれ当たりの様なものだが、これでハッピーエンド。気がめいるような終わり方にはなっていない。そこを評価したい。
それにしても階級社会であるイギリスの庶民を描くのは難しい。お先真っ暗でこっちまで暗くなる映画か、そうでなければ頑張って成功を収めるか、両極端になりがちだ。「家族のかたち」の明るいエンディングもとってつけたような感じがしないでもない。現実の困難を描きながら庶民のしたたかさ、明るさ、力強さを映画くのは至難の業だ。それはリアリズムそのものの課題でもある。麻薬やアル中の蔓延、精神の荒廃、無知と粗暴さ、これらを描きつつなおかつ見るものに感動を与える作品を作ることは困難な課題だ。それに成功したのはわずかに「秘密と嘘」「レディバード・レディバード」「シーズン・チケット」くらいではないか。これからも労働者階級や下層中流階級を描く作品は作られ続けるだろう。そこからまた傑作が生まれることを期待したい。
ついでながら、平凡社新書に収められた『不機嫌なメアリー・ポピンズ イギリス小説と映画から読む「階級」』(新井潤美著)はおすすめです。これほどイギリスにおける微妙な階級的特徴を面白く解説した本はほかに見当たらない。
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