反則王
2000年 韓国
監督:キム・ジウン
出演:ソン・ガンホ、チャン・ジニョン、パク・サンミョン
チャン・ハンソン、イ・ウォンジョン、チョン・ウンイン
キム・スロ、コ・ホギョン、シン・ハギョン、キム・ガヨン
もっとはちゃめちゃなコメディかと思ったが、意外にまともなコメディである。決してバカバカしさはない。むしろサラリーマンの悲哀感がよく出ていて出色の出来である。凡百のコメディと違うのはその点だ。その意味では名作「アパートの鍵貸します」に通じるものがある。ちょっとほめすぎか。ソン・ガンホ主演なので案外いい映画ではないかと思ってDVDを買ったのだが、予想以上によかった。
イム・デホ(ソン・ガンホ)はさっぱり業績の上がらない銀行員。契約確保数はいまだゼロ。遅刻の常習犯でもある。韓国も出勤時間帯はラッシュ地獄があるようで、電車の窓ガラスに顔を押し付けられている冒頭のシーンが可笑しい。職場の朝礼もあるようで、彼が遅刻して行くと、お説教の真っ最中。さっそく怒鳴られる。(職場の様子が普通の企業の様な感じで、とても銀行に見えない。窓口ではなく、その奥にある部屋なのだろうか。)意地悪な上司で、トイレでデホはヘッドロックをかけられる。それをはずせなかったのが悔しくて、友人にテコンドーを教えてもらおうとするが、テコンドーにヘッドロックはないと言われる。もっともこうやればはずせると、色々技は教えてくれるがとてもやれそうにない。
そんなある時たまたまプロレス・ジムのメンバー募集の張り紙を見かける。しかし恥ずかしがってすぐには入門しない。やがて決心して門をたたく。デホは館長に昔見た反則王ウルトラタイガーマスクの話をぺらぺらとまくし立てるが、館長に追い出される(実はその館長自身がその反則王だった)。その時他のレスラーをチラッと見かけるが、でれでれと練習していて少しも強そうでないのがこれまた可笑しい(それも二人しかいない)。そのジムの館長は、日本帰りの有名レスラーの試合に反則専門の相手役がほしいと頼まれていた。そこへまたデホが頼みに来たので館長は彼を弟子入りさせる。デホは反則王になるべく毎晩特訓を受ける。メリケン粉の様な目潰し、木に銀メッキを塗ったフォークなど、小道具がこっけいだ。ある時、間違えて本物のフォークを持ち込み、同僚のレスラーに突き刺してしまったり・・・。随所にコミカルなシーンを織り込んでいて飽きさせない。
しかしそのうちデホはプロレスの素晴らしさに目覚め、反則技のみならず、本物の技も磨き始める。コーチは館長の娘。やがてデホはかなりの実力を身につける。しかも血を見るとかっとなって、とんでもないパワーを発揮することも練習試合で分かる。
ついに本番の試合の日。本当は別のレスラーが日本帰りの有名レスラーと対戦するはずだったが時間になっても現れない。そこでデホが覆面レスラー「阿修羅X」となり登場(偶然見つけた師匠のウルトラタイガーマスクをかぶって出てくる)。最初は反則業を繰り出すが、そのうち血を見て興奮して本気で技をかけだす。場外乱闘になり、ともに血まみれで暴れまわる。いつしか壮絶な死闘になっていた。二人ともリングでダウンしてしまう。このレスリング場面はかなり引き締まった演出でぐいぐい観るものを引きつける。
うだつの上がらない駄目人間が思わぬきっかけで俄然活躍してしまうというのはよくあるストーリーである。仕事人間としても駄目、同僚の美女にも無視されっぱなし、友達は同じ職場の同じように成績最低の男。家に帰れば父親にも馬鹿にされる。まったくうだつの上がらない面白くもない人生に、かろうじて光が差し込んだのがプロレスの世界。しがない銀行員の悲哀感と何とかそこから抜け出しというという願望、このメインの主題にコミカルな味付けと迫力ある試合の場面が適度にミックスされている。この絶妙なバランスがこの作品を成功させている。
そして何と言ってもソン・ガンホの存在が大きい。アン・ソンギ、ハン・ソッキュ、チェ・ミンシクと並ぶ韓国男優の「四天王」。女性週刊誌でもてはやされている若手「四天王」など足元にも及ばない。ソン・ガンホはシリアスな役も見事にこなすが、あの顔つきからしてもやはりしがない庶民の役、それもコミカルな作品が一番似合う。「殺人の追憶」の田舎のどんくさい刑事役もこの範疇に入る。「大統領の理髪師」もこのタイプである。しかし到底はまり役には思えないシリアスな役も見事に演じてしまうところが彼の俳優としての本当のすごさだ。日本で言えばフランキー堺に近いタイプか。
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反則王
出演■ソン・ガンホ、キム・スロ、シン・ハギュン(友情出演)
監督■キム・ジウン
<ストーリー>
落ちこぼれの銀行員イム・デホは、上司にヘッド・ロックをかけられては、屈辱的な日々を送っていた。そんな彼が、偶然目にしたプロレス館に... [続きを読む]
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