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2005年9月26日 (月)

ボン・ヴォヤージュ

SD-shipwindow022003年 フランス映画
【スタッフ】
脚本:ジャン=ポール・ラプノー、パトリック・モディアノ
監督:ジャン=ポール・ラプノー
音楽:ガブリエル・ヤレド
撮影:ティエリー・アルボガスト
【出演】
 イザベル・アジャーニ、ジェラール・ドパルデュー
 ヴィルジニー・ルドワイヤン 、イヴァン・アタル
  グレゴリ・デランジェール、ピーター・コヨーテ

 1940年6月14日、ドイツ軍の侵攻によりパリは陥落する。フランス第3共和制はこれにより崩壊し、政府はボルドーに疎開する。その後ペロン元帥を首相とした、親ナチス政権であるヴィシー政権が成立する。「ボン・ヴォヤージュ」はこのヴィシー政権誕生前夜の混乱した時期を背景として、2つのストーリーをもつれ合うように展開させている。

  一つは女優ヴィヴィアンヌ(イザベル・アジャーニ)と作家志望の幼なじみのオジェ(イヴァン・アタル)のストーリー。ヴィヴィアンヌはしつこく迫ってくるアルペルという男を誤って殺してしまい、その死体の始末をオジェに頼むが、オジェが車で死体を運んでいる途中事故にあい、トランクの中に隠していたアルペルの死体が見つかってしまう。オジェは犯人にされて監獄に入れられてしまう。しかしドイツ軍の侵攻により囚人たちもパリから他の土地に移送されることになるが、その混乱に乗じてオジェは同じ囚人のラウルと共に脱走する。ヴィヴィアンヌは彼女のファンである大臣ボーフォール(ジェラール・ドパルデュー)に取り入ってうまくボルドーに脱出する。

  第2のストーリーは原爆の基となる化学物質“重水”をドイツ軍に見つかる前にイギリスへ持ち出そうとするコポルスキ教授と女子学生カミーユ(ヴィルジニー・ルドワイヤン)のストーリーである。彼らもパリからボルドーに向かうが、その途中足のないオジェとラウルを同乗させる。  この2つのストーリーが大混乱に陥ったパリとボルドーを舞台にめまぐるしく展開される。ボルドーは避難して来た政府関係者や一般人でごった返している。道もホテルもレストランも人であふれている。その混乱の中でドイツのスパイである新聞記者も暗躍している。

  めまぐるしい展開だが前半はやや退屈だった。人間関係が複雑なのでどうしても説明的描写が多くなるからだろう。後半は“重水”をイギリスへ持ち出せるかどうかというサスペンス的要素が濃くなるのでそれなりに惹きつけられる。ヴィヴィアンヌとカミーユとの間でゆれるオジェの三角関係の行方もそれに絡んでくる。

  魅力的なストーリーだが、テーマが複雑すぎて消化不良で終わっている。それ以上に不満なのはイザベル・アジャーニだ。主役は言うまでもなく彼女だが、この映画で一番活躍しているのはイヴァン・アタルとヴィルジニー・ルドワイヤンである(ジェラール・ドパルデューもさすがの存在感だ)。このギャップが欠点となっている。イザベル・アジャーニは確かに美人だし、もう50も近いというのに可愛らしさが十分残っているが、顔が能面みたいで表情に乏しく、主役としての魅力に欠ける。もちろん映画スターという設定だから、常に回りを意識して表情を崩さないよう努力したり、自分の魅力を武器に男に取り入ろうとするのはある意味でリアルであるともいえる。しかし女優としての表の顔のほかに当然裏の顔、すなわち彼女の素顔もあるはずだ。その二つを演じ分けられなければ主演の役割を果たしているとは言えない。めまぐるしい展開に追われて、中心にある人間ドラマを十分掘り下げられなかった。「ボン・ヴォヤージュ」が傑作にならなかった一番の理由はそこにあると思う。

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