ハウルの動く城
「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」は色々なテーマを無理に詰め込みすぎてどこかごちゃごちゃした感じがした。しかし宮崎駿は「ハウルの動く城」で再び「未来少年コナン」「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」の路線に戻った。彼にはやはり大冒険活劇が似合う。理屈ぬきに楽しめるからいい。
「ハウル」には上の3作のエコーが感じられる。爆撃機が飛び交う火に包まれた戦場の場面は「未来少年コナン」のタイトル場面や「風の谷のナウシカ」を思わせる。鉄の戦艦や飛行機は「風の谷のナウシカ」を連想させる。最後にチラッと出てくる、緑の木と芝生に囲まれた空飛ぶ「城」はまさに「天空の城ラピュタ」だ。何度も出てくる文字通り絵のように美しい場面は見ているだけで心を和ませる。フィクションが本来持っている重要な効果の一つ、現実を超えた理想的な状況や場面を疑似体験させてくれるという効果を、最大限に発揮している。わくわくする冒険の世界。これこそアニメの、ひいては物語の原点だ。魔法の世界はそういう意味で効果的に機能している。ダイアルを変えるたびに違うところに通じるドアがまさにそれだ。ヨーロッパ風の町並みの美しさも特筆すべき。「魔女の宅急便」や「紅の豚」にも出てくるが、「ハウル」のものが一番美しい。そして何といってもあの動く城だ。その外観もさることながら、内部のヨーロッパ風の作りがため息が出るほど素晴らしい。
この作品の素晴らしさは声優の使い方にも現れている。これまで有名人を起用していたため、本職の声優の様には絵と声が一致していない恨みがあった。本作ではそれが見事に一致している。とりわけ倍賞千恵子は若いソフィーとばあさんのソフィーの声を見事に使い分けていた。妹「さくら」も顔はもうすっかりばあさんなのだが、その声の若々しいこと。実に見事な声技だ。美輪明宏と加藤治子は絵が本人に似せて描かれていたこともあり、絵と声がうまくマッチしていた。以外なのは木村拓哉。一番心配だったが何の違和感もなくやってのけた。賞賛していい。
原作が外国のものだけに、人物は西洋人風に描かれている。特にソフィー(もちろん若い方)は魅力的だ。これまでのヒロインの中で一番女の子としての魅力を感じた。顔の映らない斜め後ろからの姿がこれほどまでに心をときめかすヒロインは今までいなかった。長く愛せる作品がまた増えた。宮崎駿には毎年1作ずつ永遠に作ってほしいくらいだ。
ちょっと褒めすぎか。自分らしくない気もするが、たまには手放しで褒める映画があってもいいだろう。宮崎駿は本当に好きなのだから。
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