68年版「ミニミニ大作戦」
1968年、アメリカ
【原題】The Italian Job
【スタッフ】
製作: マイケル・ディーリー
脚本:トロイ・ケネディ・マーティン
監督:ピーター・コリンソン
音楽:クインシー・ジョーンズ
撮影: チャック・ウォーターソン、他
【出演】
マイケル・ケイン、ノエル・カワード
ベニー・ヒル、ラフ・ヴァローネ
トニー・ベックリー、ロッサノ・ブラッツィ
マイケル・ケイン主演の痛快犯罪アクション映画。2003年に再映画化されたが、そちらは見ていないし見る気もない。この68年版はBFI(British Film Institute)選定イギリス映画ベスト100の第36位に選ばれた傑作。マイケル・ケインの出演した作品は他に「狙撃者」(71年)16位、「ズール戦争」(64年)31位、「アルフィー」(66年)33位、「国際諜報局」(65年)59位、「モナリザ」(86年)67位など、合計6本入っている。68年のこの作品はまさに彼の絶頂期に撮られた彼の代表作の一つである。他にも「探偵スルース」(72年)、「殺しのドレス」(80年)、「デストラップ・死の罠」(82年)、「ハンナとその姉妹」(86年あたりが僕にとっては印象深い。その後さっぱり名前を聞かなくなったかと思っていたら、「リトル・ヴォイス」(98年)「サイダーハウス・ルール」(99年)「ウォルター少年と夏の休日」(03年)などで健在ぶりを示していた。すっかり爺さんになってはいたが、さすがの存在感である。
この映画はミニ・クーパーが大活躍するので(タイトルはここから来たのだろう)車オタクたちが好むマニア向け映画のごとく思われているふしがあるが、決してそんなことはない。僕にとって車は単なる移動手段であって、名車や高級車には何の関心もない。ミニ・クーパーだろうがアストン・マーティンだろうがおよそどうでもいい。走っているのがカローラでもマーチでも一向に構わない。それでも十分楽しめる。そんなことにこの映画の眼目はない(小型車だということには重要な意味があるが)。
まず、映画の冒頭場面からして印象的である。長い曲がりくねった道をスポーツ・カー(ランボルギーニ・ミウラだそうです)が疾走している。車はトンネルに入ったとたん何かに衝突して炎上してしまう。マフィアの待ち伏せにあったのである。いきなりのクラッシュでショッキングだが、それ以上に映像が実に鮮明でシャープであることに驚かされる。イギリスのカラー映画といえば、マイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーの「赤い靴」や「黒水仙」のあの鮮明で濃厚な映像が有名だが、こちらは濃厚さを排したぐっとシャープな映像である。今見ても驚くほど鮮明で新鮮だ。
もちろん素晴らしいのは映像ばかりではない。この映画はその奇抜なアイデアが浮かんだ段階で傑作になることがほとんど保障されていたといってもいいだろう。400万ドルの金塊を積んだ現金輸送車から金塊を奪うという計画自体はありきたりである。その方法が奇抜なのだ。信号機を制御するコンピューターに偽の指令を流して交通渋滞を引き起こし、その混乱に乗じて金塊を奪い、大通りの渋滞を尻目にミニ・クーパーで裏道や細い路地や、果ては建物の屋根から下水道まで走り抜けて逃走するという奇想天外な計画である。だからミニ・クーパーでなければならないのだ。総勢20人近くの仲間がそれぞれの持ち場でてきぱきと指示通りに動く。警察の追跡を振り切ったミニ・クーパーは大型トラックの荷台に乗り込み、金塊を積み替えた後は崖下に突き落とす。てきぱきとした手順とそれを描く切れの良い演出。この一連のプロセス全体が見せ場である。
銀行強盗や宝石泥棒などをテーマにした映画は限られた空間で展開されることが多い。「おしゃれ泥棒」「トプカピ」「オーシャンと11人の仲間」(あるいはその再映画化作品「オーシャンズ11」)、「エントラップメント」、あるいはパトリス・ルコントの「スペシャリスト」など、いずれもその類である。しかしこの映画はトリノの街を縦横に走り回る。そこに無類の爽快感がある。金塊奪取の部分も面白いが、その後の逃走劇、カー・チェイスももちろん見せ場だ。これがすごい。ミニ・クーパーだからこそ出来る、ドラえもん的「どこでも道路」逃走術。「フレンチ・コネクション」より3年前、マックィーンの「ブリット」より1年前に作られたとは思えない、カーチェイスのお約束的要素がすべて入っている。
だが、皮肉なことに警察もマフィアも振り切って成功を確信した瞬間にトラックは道をまがりそこね、崖のふちから車体半分を突き出したかたちで止まってしまう。まるでシーソーのように上下に揺れるトラック。ゆれるたびに金塊は滑って手の届かない奥へと移動してしまう。まるでチャップリンの「黄金狂時代」に出てくる崖っぷちの小屋だ。最後はマイケル・ケインの「いいアイデアがある」という言葉で終わる。車が宙ぶらりん状態になるというシチュエーションはその後たくさんの映画で真似されている。「いいアイデアがある」と言っているが、結局金塊は車と一緒に崖に落ちていったに違いない。仕事に成功して浮かれるあまり、帰りに事故に会うというのは「恐怖の報酬」と同じだ。
イギリスを代表する名優の一人として、不気味な殺人者から人のいい優しい爺さんまで様々な役柄を演じてきたマイケル・ケインだが、ここでの彼はさっそうとしたチンピラやくざという役回りである。まだ若く、はつらつとした彼が見られる。
他の出演者についても一言。マイケル・ケインに計画を指示する獄中の大ボス、ブリッジャーにイギリスの有名な劇作家ノエル・カワードが扮している。獄中なのになぜかまるで自分の大邸宅にいるような余裕の生活ぶりを見せている(これがまたシュールでいい)。ラフ・ヴァローネ(マフィアのボス)とロッサノ・ブラッツィ(最初に車を疾走させていた男)を見たのは実に久しぶり。いやあ、ふたりともなつかしかった。
(「BFI選定イギリス映画ベスト100」の全作品を知りたい方は、本館の「緑の杜のゴブリン」へ飛び、「イギリス映画の世界」のコーナーに入ってください。邦題つきで載せ
てあります。元の英語のサイトへも本館のリンクから飛べます。)
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コメント
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KSさん 何度もありがとうございます。
最初のコメントを頂いたときから相当なこだわり派だと分かりました。僕は性格が淡白なせいか何でも屋タイプですので、特定の事柄についてはこれからも色々と教えていただくことがあろうかと思います。
これからもどうぞよろしく。
投稿: ゴブリン | 2005年11月 6日 (日) 19:26
すいません。「伝説」「薀蓄」「物語」が付随するのに極端に弱い性格でして(^_^;つい余計なことをたらたらと書いてしまいます。
ええと、はじめに戻って、あの映画に出てくるミニは実にスタンダードなミニの外見をしてまして、いわゆる「クーパー仕様」の外見ではありません。・・・というだけのことです。
もしかしたら撮影車の中には「中身はクーパー」というのも混ざってて、カットによって使い分けてるのかもしれません。しかし絵面的には「クーパーではない普通のミニ」にみえます。
投稿: K.S | 2005年11月 6日 (日) 00:40
KSさん ありがとうございます。「ミニ」の意味がよく分かりました。
何だか通信教育を受けているような気分になってきました。飲み込みの悪い生徒で申し訳ありませんが、そうすると最初に戻って、あの映画で使われていた車は「ミニ」ではあるがクーパーチューンではなく別の人のチュ-ンだということでしょうか?それとも、レーシング用ではなく、「遅い」方の別のグレードだということでしょうか?
投稿: ゴブリン | 2005年11月 6日 (日) 00:03
すいません。ちょっと解りにくかったですね。
正確に言うと、
1948年にモーリス社のアレック・イシゴニスが設計した「モーリス・マイナー」という小型車が発表されます。
戦後の不景気などからモーリス社オースチン社その他の英国の自動車会社は合併されBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)となります。BMCになっても、ブランドとしてモーリス、オースチンなどの名はそのままで販売する経営戦略がとられました。
1959年イシゴニスは、エンジンを横向きに積んだFFという画期的な(今では大抵の小型車はこの形です)コンセプトの超小型車をつくります。これが、オースチンブランドでは「オースチン・セブン」モーリスブランドでは「モーリス・ミニ・マイナー」という名前で発売されます。「ミニ」の誕生です。両者の違いはバッチとグリルの形のみの双子車でした。おっしゃるとおり、一番最初は「モーリス・マイナーの小型版」という意味の『ミニ』だったのです。
オイル・ショックが生んだエコノミーなミニマムサイズの乗用車として誕生した「ミニ」ですが、その安定性の高さからチューンナップのベース車両として注目されました。多くのチューナーの中の一人が「ジョン・クーパー」です。
1961年クーパーチューンは1000台限定のスペシャル仕様として、「オースチン・ミニ・クーパー」「モーリス・ミニ・クーパー」という名称で発売されます。これが最初の「ミニ・クーパー」です。おそらくこの頃までにこの車のことを「ミニ」と呼ぶのが普通になっていたと思われます。オースチンブランドもいつからか正式に「ミニ」になっています。
1963年「クーパー」をさらにチューンナップした「モーリス・ミニ・クーパーS」「オースチン・ミニ・クーパーS」が登場します。BMCはオフィシャルチームを組んでクーパーSでラリーに挑戦することになります。
そして、「1964年モンテカルロ・ラリー」において、ミニの伝説がはじまります。この年のモンテカルロで、フォードやサーブなど居並ぶスーパースポーツに対して1071cc70馬力のクーパーSが総合優勝(クラス別の優勝ではありません)したのです。
翌1965年、1275cc78馬力になったクーパーSは猛吹雪のモンテカルロにおいても圧勝。
1966年のモンテカルロは突如ミニに不利なルールへと変更されます。なんとか資格をとり出走。1、2、3位を完全獲得して走り終えたにも関わらず、ランプの仕様が規定にあっていないとされ、失格となります。繰上げ優勝となったフランスのシトロエンチームは表彰台を拒否します。
そして翌年の1967年、クーパーSはポルシェ911やアルピーヌを相手に見事に総合優勝へと返り咲くのです。
というわけで、伝説的なモンテカルロの4年間の翌年に「ミニミニ大作戦」は公開となったのでありました。
投稿: K.S | 2005年11月 5日 (土) 22:55
KSさん たびたびどうも。
車にも詳しいのですね。僕は車種には無頓着なのでコメントがよく理解できませんでした。ひょっとして「ミニ」というのは車種なのでしょうか。あるいは、最後のあたりを読むとグレードの一つのようにも読めます。僕は「クーパー」という車種があって、その小型ヴァージョンが「ミニ・クーパー」なのかと思っていました。「パジェロ・ミニ」みたいに。
投稿: ゴブリン | 2005年11月 5日 (土) 16:45
現代の「イタリアン・ジョブ」は、「どこか抜けてる仕事」とか「いい加減な仕事」とか言う意味で「しょせんイタリア人のやることだから・・・。」とうニュアンスの俗語らしいです。
TVドラマ「冒険野郎マクガイバー(だったと思う)」で、この映画のミニでの逃走シーンフィルムを流用しまくってほぼ一話分まるまる作っているのをみて唖然とした覚えがあります。(主人公のマグガイバーがミニに乗って逃走するという話になっていました。)
記事でも書かれているように車種はこの際重要なファクターではないのですが、ひとつ気になったところを突っ込ませていただきます。(なんか重箱の隅をつつく嫌な奴みたい。すいません。)
ミニ・「クーパー」というのは、「ミニ」をジョン・クーパーという人がチューニング・アップしたレーシーングバージョンのことで、この映画のミニは「クーパー」じゃないと思います。
その機敏さが評判になった後、クーパーチューンはメーカーに取り込まれ、車のグレードになりました。クーパーチューンが購入時からチョイス出来るようにしたのです。判りやすくいうと、スカイラインGTとスカイラインGTRみたいな感じになりました。ミニは1000ccで、実は結構遅い車です。もちろんクーパーは早い車に仕上がっています。いろんなバージョンのクーパーが作られましたが、「1300クーパーS」というバージョンが最高性能だったと思います。ミニ、クーパー、クーパーSというグレード設定は、今のドイツ車になった(BMWですから)ニュー・ミニでも同じ設定になっております。
投稿: K.S | 2005年11月 5日 (土) 10:23