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2005年8月29日 (月)

キッチン・ストーリー

red2003年 ノルウェー・スウェーデン
監督:ベント・ハーメル
出演:ヨアキム・カルメイヤー、トーマス・ノールストローム
       ビョルン・フロベリー、レイネ・ブリノルフソン
       スブレエ・アンケル・オウズダル、レーフ・アンドレ

 いかにも北欧映画という感じの、静かで穏やかでほのぼのした映画だ。ノルウェーの小さな村にスウェーデンから「独身男性の台所での行動パターン」を調査するために調査員がトレーラーをつけた車で続々とやってくる。スウェーデンの家庭研究所からの依頼だ。これは1950年代に実際ににあったことを元にしている。監督も50年代の雰囲気を出すのに苦労したようだ。特に何台も連ねて登場するトレーラーは当時のものを再現したそうである。トレーラーがどれもまったく同じ形なのか妙に可笑しい。ノルウェー人のベント・ハーメル監督に言わせると、まったく同じ色と型のものを何台もそろえるあたりが、いかにもスウェーデン人らしいのだそうだ。

 イザックの家にはフォルケがやってきた。モニターを引き受けたことをすぐ後悔したイザックは最初居留守を使う。しかししつこく声をかけるフォルケに根負けしてようやくドアをあける。この出だしが面白い。フォルケは台所の一角にテニスの審判が乗るような背の高い脚立を置き、その上からイザックを観察する。調査員は対象となる男性と一言も話してはならないし、付き合ってもならないことになっている。終始黙ったままでイザックを眺めているフォルケに、最初イザックはいらいらする。しかしフォルケがイザックにタバコをあげたことがきっかけで、二人は言葉を交わし始める。

 ノルウェーとスウェーデンは隣国だが、色々と確執があるようだ。互いに軽く皮肉を言い合いながら次第に2人は打ち解けてゆく。特典映像に入っているインタビューで、ベント・ハーメル監督は、ノルウェーの観客はスウェーデン人のことを笑い、スウェーデン人はノルウェー人を笑っている、と観客の反応を語っている。脚本の共同執筆者はスウェーデン人だったらしい。ノルウェー人の監督とスウェーデン人の脚本家の共同作業がこの絶妙の会話を生んだのである。隣国同士だから仲がいいのではないかと思っていただけに、意外だった。日本は島国なので国境を接する隣国がない。車で国境を越えるなどということは日本ではありえない。地続きなのに国境を越えるとやはり外国なのである。この感覚が面白い。そういう意味では興味深いシチュエーションを扱った映画で、新鮮だった。

 別の調査員グリーンが調査対象者と酒を飲んでいるという情報が入ったり、そのグリーンが酒を分けてくれとフォルケを訪ねてきたりするあたりがこっけいだ。その調査員は、一言も話すなとは無理な注文だ、お互いに話し合った方が事情がよく分かるはずだと主張する。フォルケは契約に従うべきだと説得する。二人の話を聞いていたイザックは、グリーンの言うとおりだとフォルケに言う。

 フォルケが椅子に座っている場所の真上にあたる天井にイザックが穴を開けて、逆にフォルケをイザックが観察していた。それを打ち明けたときさすがにフォルケはむっとするが、そんなことでは2人の友情が壊れないほど2人の間の絆は強くなっていた。フォルケはイザックの誕生日をケーキで祝ってやる。いい場面だ。しかししたたか飲んだ翌日、責任者が見回りにやってきた。イザックの台所に入るとテーブルの上には酒の空ビンが何本も並んでいた。監視用の椅子の上にはフォルケではなくイザックが座って寝ている。責任者は激怒し、フォルケは首になる。フォルケはここに残りたいと言ったが、トレーラーを国に戻すまで責任を取れと言われる。フォルケは国境までトレーラーを引いてゆき、そこでトレーラーを切り離して、責任者が止めるのを振り切って引き返す。しかしイザックの家に戻ってみるとイザックは死んでいた。このあたりははっきり描かれていないが、イザックが飼っていた馬の病気が治らず、イザックは楽にしてやるといっていた。フォルケが戻ってきたとき、イザックの家の前に大きな車が停まっていたが、あれにはおそらく馬とイザックの遺体が乗っていたと思われる。

 最後の場面は、イザックの家にフォルケが住み着いていて、そこにイザックの友人だった男から電話でコーヒーを飲みにくるという合図が入り、フォルケがカップをテーブルに並べている場面である(電話代が高いので、イザックと友人は呼び出し音の回数で用件を伝え合うという方法を取っていた。呼び出し音だけ鳴らして話はしない)。

 効果音を使わず自然音だけで描くという、いかにも北欧らしい作り。国境を越えた人間同士の理解などという大げさな作りではないが、人間的交流をじんわりと暖かく描いていて好感が持てる。歴史的名作というほどではないが、愛すべき作品である。

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