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2005年8月31日 (水)

歌え!フィッシャーマン

tobira_flower2_pi2001年 スウェーデン、ノルウェー
監督:クヌート・エーリク・イエンセン
出演:エイナル・F・L・ストランド、レイダル・ストランド
アーネ・ウエンセル、オッド・マリーノ・フランツェーン
ヴィッゴ・ヨンセン、カイ・オーラフ・ヤコブセン

  「歌え!フィッシャーマン」は期待どおりの傑作だった。最初はインタビューが続いて退屈かなと思ったが、いつの間にか画面に引きつけられていた。ノルウェーの漁師町の素人合唱団の話である。セミ・ドキュメンタリー・タッチの作品で、全編のほぼ5、6割は合唱団のメンバーのインタビュー・語りだ。ほとんどが老人で、最高齢者は90歳を越えている。この各人の語りがいい。いずれも若いころはお盛んだったようだが、それがいやらしくは響かない。みんな自分の町を愛しているのがよく伝わってくる。実に変った音楽映画だ。

 何がそんなに見るものを引き付けるのか。職業は様々だがだれもが歌うことを愛している。コンサートの前におめかしする光景も、ほのぼのしていてかわいいとさえ思った。一人一人の個性が際立っていて、いずれも魅力的だ。特に若いころ麻薬にはまっていたという、ウィレム・デフォーを老人にしたようなじいさんがいい。ロシアでのコンサートで手拍子に最初に反応したのも彼だ。歌もいい。宗教的な歌も多いが、単純なメロディーなのに胸に迫ってくる。わざわざ戸外に並ばせて歌わせるのはやらせっぽいが、結構きまっているので嫌みがない。彼らが誇りにしている船員帽が実に素晴らしい。これを被るだけで姿がしまって見える。

 最後にロシアでコンサートを行う場面が出てくるが、この辺りまでくると完全に映画にはまり込んでいて、グングン引き込まれる。バスの中で原発のような建物がある地域を通過すると、議論が沸騰する。荒れ果てた風景にロシア人に対する批判が出ると、今でも共産主義者だという団員が必死でソ連の弁護をするところがおかしい。西洋では共産主義者=ソ連擁護という図式がはっきり出ている。しかし、コンサートは感動的だ。スタンディング・オーベイションに祝福されて公演は大成功だった。車椅子の指揮者がサインぜめにあっている。出番前はコチコチになっていたが、観客の反応にどんどん調子が出たのだろう。しかし、より感動的だったのは、その後に続く最後のシーンだ。彼らはノルウェーに帰り、故郷の海辺の町で勢揃いして歌っている。吹雪のような天候で、帽子ばかりか眉、まつげ、髭にまで雪がこびりついている。何もこんな天候に外で歌わせなくともという気もするが、それ以上に彼らは間違いなく北国の合唱団なんだということが伝わって来て感動的なのだ。寒さに赤らんだ一人一人の顔が皆素晴らしい。深いしわが刻まれた顔、寒さに歪みそうになりながら、なお歌う喜びが顔中にあふれている。

 不思議な魅力を持った映画だった。「ザ・コミットメンツ」「ブラス!」「SUPER8」と並ぶ音楽映画の傑作がまた一本増えた。あるいは、「コクーン」「八月の鯨」「森の中の淑女たち」などと並ぶ老人映画の傑作でもある。

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