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2011年10月 1日 (土)

お気に入り写真集 2

 パタゴニアというとまず思い出すのは岩波新書で出ていた『パタゴニア探検記』という本。日本・チリ合同パタゴニア探検隊が処女峰アレナーレスに登頂した時の記録です。高校生か大学生の頃(70年代の前半)読んだものなので、もう40年近く前のことになります。

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 実に面白い本でした。著者の高木正孝は元南極越冬隊の隊長だった人だという記憶があります。それまで人が入ったことがない土地に分け入ると、どんなに寒くても決して風邪を引かないということをこの本を読んで初めて知りました。ウイルスがいないからです。

 日本人隊員とチリ人隊員の習慣などの違いによる行き違いや反感なども面白かった。ある時とうとう我慢が出来なくなって、すぐ近くの見える所で大便をするのはやめてくれと日本人隊員が言うと、チリ人隊員がそれじゃあお前達も人前で鼻くそをほじるのはやめてほしいと言ったというエピソード。失礼にあたること、 不愉快に感じる事が国によって違うことが良く分かった。

 閑話休題、『パタゴニアを行く』は写真をふんだんに載せた紀行文としては珍しい新書版です。この本を買ったきっかけは、タイトルにパタゴニアが入っていたからです。この本を読んで感じたことは、著者の野村哲也という人は第二の星野道夫になる素質があるということです。野村哲也も時々パタゴニアを訪れて写真を撮るというのではなく、変化に富んだ自然に魅せられてそこに住みこんでしまった。アラスカ、アンデス、南極などの辺境の地に惹かれていること、自然と人々の中に飛び込んで行こうとする情熱などに共通点を感じました。

 僕は本を読んで線を引いた部分をパソコンに書き写して、必要な時に引用するのに利用しています。この本から書き写した文章を一部以下に載せておきましょう。この著者が星野道夫と同様、時に文学的な表現を使うということ、人々の言葉を聞きとる耳を持っていることが分かると思います。

 「異国から来た友よ、耳を澄まし、よく聞いておくれ。私たちの足元に広がる大地は、祖先たちの“生命の灰”で作られている。大地は、常に仲間たちの魂で満ちている。大地が人間に属しているのではなく、人間が大地に属しているのだよ。土地の所有権を賭けて人々は争いを起こす。でも最後に人を所有するのは誰だい、大地ではないのかい?誰もがいつかはその下に埋められるのだから」
 マプーチェ族のセルマ婆ちゃんの言葉

 日が完全に落ちると、照り返しが起こり、多様な雲が変幻自在に宙を駆けていく。パタゴニアに長く滞在すると、「雲」は「風」の一部だと実感せずにはいられない。風に吹かれて雲ができ、風がまた雲を消していく。


 インディアンの言い伝えなどがよく人生の指南書のような形で売られています。そういう利用の仕方には疑問を感じますが、土に生きる、あるいは自然に生きる人たちの素朴な言葉には耳を傾けたくなる素晴らしい言葉が多いのは確かです。

 しかしそういう言葉を引き出せるところまで人間関係を作ることはなかなか容易なことではありません。星野道夫にしろ、野村哲也にしろ、そういうことが自然にできているところがすごいと思います。写真にしても、自然はそこまで行けばだれにでも撮れますが、人間を撮るには信頼関係がなければ撮らせてもらえません。撮ったとしても構えた姿しか撮れません。

 自然の中だけではなく自然の中で暮らす人々の中にまで飛び込んで行けるところ、この二人が、そして彼らのみならず一流の写真家と呼ばれる人たちがすごいのはその点だと思います。

 野村哲也の写真集『悠久のとき』も手に入れました。その中に「星の道を継ぐ者」という章があります。そこで野村氏は星野道夫を「師匠」と呼んでいます。師匠と一緒に幾夜も過ごしたとも書いています。上に「野村哲也という人は第二の星野道夫になる素質がある」と書きましたが、この二人は実際に師匠と弟子の 関係だったのですね。
 ■野村哲也『パタゴニアを行く―世界でもっとも美しい大地』(中公新書、2011年)940円
 ■野村哲也『悠久のとき』(中日新聞社、2002年)1600円

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 こちらは野村哲也の本格的写真集です。写真集として『アークティック・オデッセイ』と比べても全く見劣りしない極めて優れたものです。上で紹介した『パタゴニアを行く』とほとんど写真は重なっていません。しかも大型本ですので、写真の迫力は新書サイズの『パタゴニアを行く』より遥に勝ります。

 とにかく写真がすごい。『アークティック・オデッセイ』がカナダを中心とした北極圏を撮ったのに対し、『パタゴニアを行く』は南極に近いパタゴニアを撮ったものです。同じ極地に近い地域でも、どこか違いがあります。パタゴニアはとにかく山が美しい。パタゴニアには富士山そっくりの山もありますが、荒々しい山容の山が多い。とがった奇岩が山頂にそそり立つ奇っ怪な山。これらの山々の写真を見るだけでも買う価値があります。  他にも氷河の美しさに魅せられたり、動物の可愛らしさにひかれたり、さまざまな楽しみができる写真集です。日本とは全く違う荒々しい自然が残るパタゴニア。一家に一冊の必需品です。
 ■野村哲也『パタゴニア』(風媒社、2010年)2940円

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 ゴブリンが写真日記を書き始めたのは浦野川とその川に架かる橋に魅せられたのがきっかけでした。その後しばらくは川と橋の写真を中心に撮っていました。その頃にアマゾンでまとめて買ったのが写真の3冊の写真集。日本中、世界中の様々な橋の写真が載っています。

 いやあ素晴らしい。これまで自分が撮った橋の写真などとても及ばない素敵な橋ばかり。やはり遠くまで足を運ばなければいい橋とは出会えません。

 何といっても撮ってみたいのは石橋です。信州にはいい石橋があまりありません。なぜか九州など西の方に多いようです。

 小さな川にかかる風情のある小さな木橋もいい。夕暮れ時に橋と橋を渡る人影をシルエットで撮ってみたい。いろんな橋の写真を見ながら、心は旅先へと飛んでゆきます。
 ■ベルンハルト M.シュミッド『世界の橋』(ピエブックス、2006年)
 ■平野 暉雄『日本の名景 橋』(光村推古書院、2000年)
 ■平野 暉雄『橋を見に行こう』(自由国民社、2007年)

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 これもゴブリンが多大な影響を受けた写真集です。「世間遺産」という考え方には大いに共感しました。観光地でもないごく普通の地域にある風景や建物、遺物、石碑などを意識的に撮って来た自分の姿勢に重なるものを感じたからです。

 この写真集にはどこかあか抜けない奇妙奇天烈なものから「う~ん」と感心するものまで、地元の人でもうっかり見落としそうなものがこれでもかと並んでいます。以下にこの本からの引用を二つ紹介しましょう。  

 民の手による遺産をめぐるこの放浪記は、無名の人々の営みを寿ぐ(ことほぐ)、パッションとミッションとセッションのレクイエム。誰も気にとめない。誰も語らない。けれども知っている。無名で風土的でプリミティブな「働く建築」たちは、一切の無駄を省いた、機能美のモダニズム。

 「世界遺産」や「近代化遺産」が脚光を浴びる中、社会からはなかなか見向きもされない、これら「世間遺産」たちとの出会いは、筆者自身に強い印象を与えるものばかりでした。長く人の生業(なりわい)やくらしとともにあった、「用の結果の美」としての建築や道具。または庶民の饒舌、世間アートとでも呼びたくなるような不思議な造形の数々…。


 「無名の人々の営み」、「無名で風土的でプリミティブな『働く建築』」、「機能美」、「用の結果の美」、「庶民の饒舌、世間アートとでも呼びたくなるような不思議な造形」、等々。キーワードを拾ってゆくと、著者の視点や姿勢が読み取れてきます。

 「近代化で捨ててきたモノを懐古するのではなく、置き忘れられたモノにひそむ物語を知ることで未来を探るのが、世間遺産の方程式」という言い方もしています。そこにあるのはレトロさを味わいノスタルジーに浸る姿勢ではなく、時代と地域の要請に応じて生まれたもの、ザラザラごわごわした手触りが伝わってくる 「今の時代に生まれないもの」への敬意です。
 ■藤田洋三『世間遺産放浪記』(石風社、2007年)2415円

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 『世間遺産』の次は『奇界遺産』です。こちらは摩訶不思議で奇妙奇天烈な建造物、人、習慣などを集めた奇怪な写真集です。度肝を抜く奇想、一体何のためにこんなものをと呆れる逸脱ぶり、執念の塊のようなこだわりぶり、ほとんどゲテモノのような偏執ぶり。笑ったり、呆れたり、仰天したり。次はどんなものが、とページをめくるのが楽しみになる。楽しめますよ。
 ■佐藤健寿、『奇界遺産』(エクスナレッジ、2010年)3990円

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 信州は山国で、360度どこを見渡しても常に山で視界が遮られている。信州にいる限りまっ平らな地平線を眺めることなど望むべくもない。たまに東京へ行ったりして関東平野に出ると、はるか遠くまで見通せて開放感がある。海岸近くで育ったので、海が見えたりするとホッとする。信州で育った人たちは逆に周りに山がないと不安になるそうだ。  関東平野に育ちながら信州に住んでいるせいか、『地平線』という写真集を手にとってぱらぱらとめくった瞬間欲しいと思った。最初に紹介したベルンハルト・M.・シュミッドの『道』シリーズ同様、はるか遠くまで見通せる壮大な光景に引き込まれてしまう。

 しかしこの写真集を眺めていると、日本という国がいかにごちゃごちゃと家の建てこんだ狭苦しい国かということを痛感せざるを得ない。また逆に、世界には見渡す限り家一軒なく、人っ子一人見かけない土地がこれほどあるのかと驚く。地平線の遠さ、空の大きさ、日本では北海道でもなければ体験できない開放感をたっぷり味わえる本です。
 ■『地平線』(パイインターナショナル、2011年)2520円

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 今回はこの有名な写真家の写真集で締めくくります。また何冊かたまったらまとめて紹介します。 『ロバート・キャパ スペイン内戦』は、世界的に有名な戦場写真家/報道写真家ロバート・キャパが撮ったスペイン内戦の写真を初めて集大成した本です。あのあまりにも有名な写真、頭部を撃ち抜かれ倒れる瞬間の人民戦線兵士を撮った「崩れ落ちる兵士」も収録されていますが、それは収録されたたくさんの写真の中の1枚にすぎない。それほどキャパが取材したスペイン内戦の初集大成版には素晴らしい写真があふれています。

 戦場の緊迫した様子が収められた写真もいいのですが、何と言っても僕は人物を撮った写真に心を引かれる。写真集の扉におさめられた10歳前後と思われる銃を背負った少年、おどけた表情で笑いかけている若い兵士、何かを食い入る様に見つめている兵士たち、固い決意でじっと前を見つめる兵士、茫然とした顔で瓦礫の中にたたずむ女性、子供を抱きかかえ不安そうに前を見つめる若い母親、銃を背負い頭にスカーフを巻きつけたひげずらの兵士、満面に笑みをたたえたベレー帽の兵士、荷物を両手いっぱいに抱え疲れた表情で道を行く初老の女性、顔に深いしわを刻んだゴマ塩ひげの老兵、道端に座り込み暗い表情でじっと前を見つめる初老の女性、チェロ(?)と弓を両手に持ってまるで泣き出しそうな、深い悲しみをたたえた顔でこちらを見つける男性、等々。

 どれも忘れ難い顔です。これらに匹敵する写真を僕は生涯に1枚でも撮れるのだろうか。スナップ写真を除けば、ほとんど人物写真など撮ったことがない僕としてはそう思わざるを得ない。これらの写真はそれぞれの人物の肖像写真であると同時に、また時代の肖像でもあった。その時代のその場所に生きた人々。どれだけの人が内戦を生き延びたのだろうか。たとえ内戦時代を生き延びても、その後長く続いたフランコの独裁時代を生き延びられたのか。そんなことを想像せずにこれらの写真を見る事は出来ない。個々の人物を映しながら、その時代と時代の雰囲気(緊張感、強い決意と意思、不安、哀しみ、希望、怒り、喪失感などが入り混じった時代の空気)をも写し取る。天才的カメラマンの目はかくも鋭い。
 ■『ロバート・キャパ スペイン内戦』(岩波書店、2000年)6800円

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