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2011年5月17日 (火)

先月観た映画(11年2月)

「息もできない」(08、ヤン・イクチュン監督、韓国)★★★★★
「フローズン・リバー」(08、コートニー・ハント監督、米)★★★★☆
「セラフィーヌの庭」(08、マルタン・プロヴォスト監督、仏・ベルギー・独)★★★★☆
「告白」(10、中島哲也監督、日本)★★★★☆
「レッド・コーナー 北京のふたり」(97、ジョン・アヴネット監督、米)★★★★
「リバティ・バランスを射った男」(62、ジョン・フォード監督、米)★★★★
「グリニッチ・ビレッジの青春」(76、ポール・マザースキー監督、米)★★★★
「パララックス・ビュー」(74、アラン・J・パクラ監督、米)★★★★
「ザ・ロード」(09、ジョン・ヒルコート監督、米)★★★★
「ナルニア国物語/第1章」(08、アンドリュー・アダムソン監督、米)★★★★▽
「台北に舞う雪」(09、フォ・ジェンチイ監督、中・日・香港・台湾)★★★☆
「ナルニア国物語/第2章」(08、アンドリュー・アダムソン監督、米)★★★☆

「息もできない」
  韓国映画はこのところ「チェイサー」や「母なる証明」などの強烈な作品があったが、またまたインパクトのある映画が登場した。韓国のこの手の映画はとにかく感情の描き方が激越で、これでもかとばかりむき出しの暴力や感情の爆発を画面にたたきつけてくる。

  「息もできない」は言ってみればやくざ映画だが、日本のやくざ映画よりずっと良くできている。きわめて暴力的だが、その根底に家庭内暴力の連鎖があることが明確に示されている。主人公はその犠牲者であり、また加害者でもある。そしてそういう生き方をやめようとした途端に命を絶たれる。彼の後にまた彼のように家庭内暴力で苦しんできた若い男が取って替わる。結局連鎖は続く。暴力描写がやたらと多いが、そういう描き方なのでさほど嫌悪感を覚えない。人間描写は必ずしも深いとは言えないが、とにかくぎりぎりと締めあげるような描写力で迫ってくる映画である。

「フローズン・リバー」
 2008年の9月にアメリカのボストンで研修を受けていた時、ボストン郊外のブルックラインという街にあるクーリッジ・コーナー・シアターで上映していた映画の一つがこの「フローズン・リバー」だった。ミニ・シアター系の映画館で、他にTowelhead、Vicky Cristina Barcelona(邦題「それでも恋するバルセロナ」)、Man on Wire(邦題「マン・オン・ワイヤー」)などが上映されていた(「ボストン滞在記 最終回」参照)。映画評を見るとどれも面白そうだったが、研修中はついに映画を観に行くことができなかった。ようやくあれからおよそ2年半後に「フローズン・リバー」をDVDで観る事が出来た。

  カナダとアメリカの国境地帯に住む女性二人が主人公。二人の家庭の貧しさがよく描かれている。それが背景にあって、当面必要な金を得るために二人が密輸入や密入国にかかわる経緯が説得的に描かれる。危険物が入っていると思いこんで川の上に放り投げてきた鞄の中に赤ん坊が入っていたことを知り、あわてて拾いに戻るエピソードがある。主人公二人が家族を抱えた女性であることを象徴的に表していて実に印象的だ(幸い赤ん坊は無事だった)。タイトルの「フローズン・リバー」は密入国のために越える凍結した国境のセントローレンス川のことである。寒々しいアメリカの現実を描いた映画で、これもポスト9.11映画に入れていいかもしれない。

  コートニー・ハント監督にとってこれが最初の長編映画。元は短編映画だったのを長編に仕立て直したらしい。また注目すべき監督が現れた。次回作が楽しみだ。

「セラフィーヌの庭」
 「セラフィーヌの庭」はフランス映画というよりも、オランダやデンマークの映画のような感覚だった。効果音や説明的な描写を一切使わない。久々にこういう手触りの映画を観た。セラフィーヌの絵が素晴らしい。花や植物の絵ばかり描いているが、素朴ながら力強い独特のタッチが魅力的だ。しかし成功をつかみかけた時、運悪く世界大恐慌に遭遇する。個展は開かれなかった。セラフィーヌは部屋に閉じこもり、奇矯な行動を取った結果精神病院に収監される。そのまま外へ出ることなく一生を終える。彼女の絵は彼女の死後高く評価された。

 淡々とした映画ながら、決して飽きることなく観客をひきつける力があった。主演女優の不思議な魅力もあるが、彼女と画商の関係を軸に描いたことが成功している。時代によって翻弄されながらも二人の関係は続いた。彼女は成功できるのか、その関心が観客を引っ張っている。才能はいかにして世に出るのか、才能を埋もれさせる運命の皮肉、それでもやがて正当な評価を得られるようになる陰には理解者がいたこと、そんなことが描かれている。

「告白」
  「告白」は予想とだいぶ違ったが、かなり力のこもった映画だった。後味は良くないが、適当な所で妥協せずに、復讐劇を描いた。テーマは「命」だ。しかし小さな娘の命は大きな問題でも、犯人の母親は簡単に殺してよいという描き方には疑問も残る。重い映画のようでいて、命の扱いはやはり軽いと言わざるを得ない。

「レッド・コーナー 北京のふたり」
  ツタヤのキャンペーンに乗って借りてきた映画だが、これがまさに拾いもの。サスペンスの傑作だと言っていい。犯人は推測した通りだったが、とにかく先がどうなるのか分からない展開で、ぐいぐいとひきつけられていった。まったく道理の通らない国という中国のイメージがあって成り立つサスペンスだ。面白いところに目をつけたと思う。ちょっと前ならソ連が舞台になっていただろう。監督は「フライド・グリーン・トマト」や「八月のメモワール」のジョン・アヴネット。今話題の「ブラック・スワン」では製作総指揮の一人として名を連ねている。

「リバティ・バランスを射った男」

  ジョン・フォード監督の有名な西部劇ドラマ。正義漢と悪党の対立、山場に決闘シーンがあってと一通り西部劇の要素が入っているが、活劇というよりはドラマである。銃の名手としてジョン・ウェイン(トム・ドニファン役)を出演させながら、あえて主役を青年法律家ジェームズ・スチュアート(ランス・ストダード役)にしたところがさすが非凡である。

  この映画は正義漢が悪党を倒すという型どおりの展開になってはいるが、そのプロセスにおいてアメリカの理想と現実が描かれていることを見落としてはならない。青雲の志に燃えて東部から西部へやってきたランスが町の住民に文字を教えるシーンがある。そこで彼が教科書として使うのがアメリカ憲法の条文であり、憲法を通して彼は住民たちにアメリカの民主主義の原則を教えている。こうして彼はアメリカの理想を高々と謳い上げるが、その一方で、それだけでは無法者から町を守れないことも知っていて、密かに銃の練習をしていた。映画の冒頭、彼が西部の町にやってきたその日に、無法者リバティ・バランス(リー・マーヴィン)の一味に襲われ、命を落としかけたのである。初日から西部の無法状態による洗礼を受けたわけだ。ランスがやってきた町はまだ州に昇格する前の準州(テリトリー)だったところで、州に昇格するかどうかが差し迫った最大の政治課題であった。

  しかしどんなに練習を積んだところで、ひょろひょろの彼に名だたる悪党であるリバティ・バランスを決闘で倒せるはずはない。表向きはランスの撃った弾がリバティ・バランスを倒したとして彼は英雄に祭り上げられた。しかし実際にリバティ・バランスを撃ったのは陰で様子をうかがっていたトムだった。

  ランスは後に出世して上院議員になるが、それには彼の真面目で清潔な政治姿勢も一定評価されただろうが、何といっても「リバティ・バランスを撃った男」という彼が背負った金看板が彼を成功に導いたに違いない。銃をもって悪党を倒した男こそ英雄なのである。一方、実際に「リバティ・バランスを撃った男」であるトムの方は無名のまま人知れず死んでいった。

  正義を掲げながらも悪党に殺されかかった男が英雄となって出世し、実際に悪党を倒した男は世間から忘れ去られて静かに死んでいった。この描き方は暗示的だ。映画はランスとトムのどちらをより高くい評価しているのか。やむなく銃に訴えたことはあったが、あくまで理想を追い続けたランスか、控え目なヒーローとして埋もれて行ったトムの方か。それとも、二人揃っていることが必要なのだ、それこそが現実なのだと言いたいのか。実に微妙で、解釈の余地が残る。どう解釈するかはとりあえずおくとして、このように「リバティ・バランスを撃った男」は西部劇という枠組みを借りた一種の政治劇であると考えるべきである。開拓時代の西部の小さな町を描いたこの映画は、今日のアメリカの姿、自由主義陣営の盟主を自認し、常に自由と民主主義を水戸黄門の印篭のように振りかざすが、同時に世界一の暴力国家でもあるというアメリカの姿と見事に響き合うのだ。

「グリニッチ・ビレッジの青春」
  傑作とまでは思わないが、なかなかいい青春映画だ。カレッジを卒業したユダヤ人の青年があこがれのグリニッチ・ビレッジにやってくる。そこには俳優、作家、画家などを目指す若者たちが群がっていた。主人公の青年がそんな仲間たちと過ごしながら、時々やってくる母親の無理解をかいくぐり、最後は自分の才能によって成功のきっかけをつかんでハリウッドに乗り込むところまで描いている。ひりひりするような青春というのではなく、だらだら、ぐだぐだしながらの青春。友人関係も結局は深いものではない。次第に関係が崩れて行く。緊張はもっぱら母親が登場することによって生まれる。甘酸っぱい青春ものを期待するとやや物足りないかもしれないが、でも案外青春なんてこんなだらだらと過ぎてゆくものかもしれない。

「パララックス・ビュー」
  これもツタヤのキャンペーンで借りてきたもの。ウォーレン・ベイティ主演の社会派サスペンスだというので期待してみたが、ややがっかりした。どうもラストが分かりにくい。効果音や説明的なものを省いた演出。そのため分かりにくいところがあるが、サスペンス映画としてはよくできている。ただパララックス・ビューという組織がどのようなものなのかは最後まで謎のまま。

「ザ・ロード」

  何年か後には「ザ・ウォーカー」と混同しているかもしれない。どちらも終末世界を描いた映画で、タイトルまで似ているのだから。アクション映画的側面もあった「ザ・ウォーカー」に対し、こちらは親子の愛情を描いているのだが、もう一つ何を訴えたかったのかはっきりしない。「ザ・ウォーカー」の主人公はある本を運び、「ザ・ロード」の主人公は「心にともる火」を運んでいた。そういうことになるだろうが、当たり前すぎる設定だ。ヴィゴ・モーテンセンは熱演しているのだが、映画全体としては最後まで「当たり前」の枠を超えられなかった気がする。

「台北に舞う雪」
  典型的なラブロマンスもので、美男美女が出演している。ヒロインの女優がいま一つ魅力に欠けるが、相手役の男優が人のいい青年で好感が持てた。傑作ではないが、爽やかな映画だった。

「ナルニア国物語/第2章」

  テレビで鑑賞。かなり「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを意識した造りだが、出来栄えは遠く及ばず。どうも主人公の5人が魅力に欠ける。ライオンが出てくるとすべて解決という作り方も安易だ。「ロード・オブ・ザ・リング」では戦いが得意ではないホビットたちと、彼らを支える英雄たちとがうまく使い分けられていた。しかしこちらは精悍さに欠ける少年たちが英雄のような活躍をするという無理な設定になっている。

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コメント

kimion20002000さん

 いつもコメントありがとうございます。そちらの記事も読ませていただきました。あのヨニという女の子の存在もこの映画にとって大きいですね。
 しかしすごい才能を持った若手が次々に出てくるところは韓国映画界の強みですね。美男美女が登場するスター路線の作品が圧倒的な数を占めますが、一方で人間の業や性(さが)をとことん追い詰め、突き詰めたような強烈極まりない作品も作られている。キム・ギドクとはまた違った味わいの才能と作品が生まれてきている。一時期低迷していた印象があったが、韓国映画はまだまだしぶとく大関の地位を維持している。今後どんな作品が生まれてくるのか楽しみです。

ごめんなさい。
「息もできない」のこちらのレヴューは以下でした。

http://blog.goo.ne.jp/kimion20002000/e/a05f8932666fe53cd86146a3f8b1e8b3

こんにちは。
僕はどうも映画レヴューはさぼりがちで、なかなか集中できないです。

「息も出来ない」だけはレヴューにしました。
泣けました。この監督兼俳優はすごく才能がありますね。

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