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2009年6月28日 - 2009年7月4日

2009年7月 3日 (金)

マルタのやさしい刺繍

2006 スイス 08年10月公開
評価:★★★★
監督:ベティナ・オベルリ
原案:ベティナ・オベルリ
脚本:ザビーヌ・ポッホハンマー
撮影:ステファン・クティ
美術:モニカ・ロットマイヤー
衣装:グレタ・ロデラー、リュク・ツィマーマン
出演:シュテファニー・グラーザー、ハイジ・マリア・グレスナー
    アンネマリー・デューリンガー、モニカ・グブザー
    ハンスペーター・ミュラー=ドロサート

はじめに
  珍しいスイス映画である。スイスと映画の関係というとロカルノ国際映画祭が思い浮かぶ。1946年からスイス南部のイタリア語圏ロカルノで毎年8月に開催されている。老舗の映画祭ではあるが、地味なのであまり報道されることはない。グランプリである金豹賞を受Engle2 賞した作品でも日本未公開というのはざらにある。受賞作で僕が観たことがあるのはトルコ映画「群れ」とジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」くらいのものだ。日本で公開された作品は他にフレディ・M・ムーラー監督の「山の焚火」(スイス)、テレンス・デイヴィス監督の「遠い声、静かな暮し」(アメリカ)、ペ・ヨンギュン監督の「達磨はなぜ東へ行ったのか」、トム・ディチロ監督の「ジョニー・スエード」(アメリカ)、クレール・ドニ監督の「ネネットとボニ」(フランス)など、数えるほどしかない。 日本映画では実相寺昭雄監督の「無常」(70年)と小林政広監督の「愛の予感」(07年)が金豹賞を受賞しているが、日本ではほとんど話題にならなかったのではないか。受賞作はほとんどすべてアート系作品ばかりである。その辺はいかにもヨーロッパの映画祭らしい。日本であまり馴染みがないのもそのせいだろう。ただし、スイスの一般観客はやはりハリウッド映画を観ている。映画館がハリウッド映画に占領されている状況はスイスでも他の国と変わらない。

 ついでに触れておくと、今年の8月に開催される第62回ロカルノ国際映画祭では、「Manga Impact - The World of Japanese Animation」と題した特集上映が行なわれることになった。アニメ映画から短編アニメーション、テレビアニメなど、初期のものから最近のものまでを網羅した大回顧展になるらしい。

 さて、スイス映画というとどのような作品があるか。ちなみにこれまで僕が観てきたスイス映画は以下の通り。実質的には他の国の映画だがスイスが製作あるいは資本に参加したものも含めてある。

「僕のピアノコンチェルト」(07、フレディ・M・ムーラー監督、スイス)★★★★
「コーラス」(04、クリストフ・バラティエ監督、独・仏・スイス)★★★★
「そして、デブノーの森へ」(04、ロベルト・アンドゥ監督、仏、伊、スイス)★★★★
「列車に乗った男」(02、パトリス・ルコント監督、仏・独・英・スイス)★★★★
「キャラバン」(99、エリック・ヴァリ監督、英・仏・ネパール・スイス)★★★★
「遥かなる帰郷」(96、フランチェスコ・ロージ監督、伊・仏・独・スイス)★★★★
「ジャーニー・オブ・ホープ」(90、クサヴァー・コラー監督、スイス)★★★★
「アリス」(88、ヤン・シュヴァンクマイエル、スイス)★★★☆
「路」(82、ユルマズ・ギュネイ監督、トルコ・スイス)★★★★★
「カンヌ映画通り」(81、ダニエル・シュミット監督、スイス)★★★☆
「光年のかなた」(80、アラン・タネール監督、仏・スイス)★★★★
「サラマンドル」(70、アラン・タネール監督、スイス)★★★★☆

 スイスは映画産業がそれほど発達しておらず、人口が少ない上にドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の四つの言語圏に分かれているため(ちなみに、「マルタのやさしい刺繍」はドイツ語圏の村が舞台)、自国だけで映画を作っても制作費を回収することが困難である。また、スイスはEUに入っていないため、ヨーロッパの映画製作のための基金、文化的な基金による援助を受けられないという事情もある。そのため、カナダと同じように、他国の映画に資本参加するという形をとることが多いと思われる。「ジャーニー・オブ・ホープ」がアカデミー外国語映画賞を受賞したが、この作品を含め、まだまだスイス映画の知名度は低い。

  スイス映画が日本で知られるようになってきたのは80年代からである。当時アラン・タネール監督とダニエル・シュミット監督の作品はよく名画座や自主上映館で上映されていEngle1 た。アラン・タネール監督(1929-)は60年代のスイスのヌーヴェル・ヴァーグといわれた時代から映画を作っているスイス映画界の巨匠。1985年2月から3月にかけてアテネ・フランセ文化センターで大規模な特集が組まれた。「サラマンドル」はその時に観たもの。ダニエル・シュミット監督(1941-2006)も81年にアテネ・フランセ文化センターで「ダニエル・シュミット映画祭」が開催されている。2007年にもユーロスペースで特集が組まれ、いまだに人気を保っている。フレディ・M・ムーラー監督(1940-)は「山の焚火」で一躍知られた人である。その後さっぱり名前を聞かなくなったが、昨年「僕のピアノコンチェルト」が公開された。なかなかの出来。この3人あたりがスイスの代表的な監督だろう。

 さて、「マルタのやさしい刺繍」(原題は「遅咲きの乙女たち」)のベティナ・オベルリ監督は1972年生まれ。まだ30代の若い女性監督だ。チューリヒの造形芸術大学の映画ビデオ学科で学んだということだから、若い世代を育てる機関があり、新しい才能が着実に育っているということだろう。最初の長編劇映画「ひとすじの温もり」はいくつもの賞を受賞し注目された。「マルタのやさしい刺繍」は長編第2作目。スイスで大ヒットした作品である。何とハリウッド大作を抑え2006年度の観客動員数 No.1を獲得したという。ちなみに、日本でも2008年のミニシアター観客動員数で1位を獲得した。

* * * * * * * * * * *  

  スイスの小さな村にある、澄み切ったように美しい湖。そこに誰かが石を投げ込んだ。小さな波紋が緩やかに広がってゆく。しかしその波紋はいつまでたっても消えない。それどころか湖底から茶色く濁った汚泥が吹き上がってきた。たとえて言えばそんな映画か。若いころの夢を実現しようとする一人の老女によって、スイスの小さな村の驚くほど保守的な面がさらけ出されてゆく。この映画は「森の中の淑女たち」(1990)、「ムッソリーニとお茶を」(1999)、「ポーリーヌ」(2001)、「歌え!フィッシャーマン」(2001)、「ラヴェンダーの咲く庭で」(2004)のような老人映画であると同時に、「靴に恋して」(2002)、「カレンダー・ガールズ」(2003)のような女性映画でもある。夫をなくしたばかりの未亡人が一つのムーブメントを引き起こしてゆくという点では「カレンダー・ガールズ」が一番近い映画かもしれない。刺繍を通じて生きる力を得てゆくという点では「クレールの刺繍」(2004)とも共通点がある。

 自分の夢を実現するためには閉鎖的な村の空気や冷たい村人たちの視線、果ては悪質な妨害にも一歩も引かないマルタとその仲間たちの芯の強さに共感せずにはいられない。ついにはマルタの商売はビジネスとして成功を収め、散々妨害していた息子で牧師のヴァルターや村の保守党員フリッツたちをやり込めてしまう。何とも爽快な映画だ。

 この映画が魅力的なのはマルタ(シュテファニー・グラーザー)とその仲間たち(リージ、フリーダ、ハンニ)と保守派の代表であるヴァルター(ハンスペーター・ミュラー=ドロサーTntpn001 ト)やフリッツ(マンフレート・リヒティ)などとの対立の構図が明快だからである。ほとんどハリウッド映画を思わせる単純明快さ。これほど単純な構図でなおかつ面白さを引き出せるのは、村の生活があきれるほど保守的だからである。そもそも、あの下着を作り販売することのどこがいやらしいのか、何で破廉恥だの、ふしだらだの、身の程知らずだの、村の恥だのと言われるのかさっぱり理解できない(笑)。逆に言えば、村がそれほど保守的だったから、マルタたちが断固自分たちの意志を曲げずに自分たちの道を進む様を描くだけで、観客は彼女たちに感情移入してしまうのである。

 もちろんそれだけ話は単純になり、物足りないと感じることも確かだ。確かに、女友達のフリーダやハンニも最初のうちはマルタについて行けず非難する側に回るが、やがて考えを変えてマルタを応援するようになる。その点、イギリス映画「柔らかい手」(2006)では、普段仲良くしていた知り合いたちが最後までヒロインの足を引っ張るというよりシビアな展開になる。だから「柔らかい手」にははるかにはらはらする緊張感がある。ヒロインたちが手を染める商売も「やわらかい手」や「ヘンダーソン夫人の贈り物」(2006)のほうがずっと大胆だ。これらのイギリス映画に比べるとやはりひねりがないといわざるを得ない。

 マルタの「勝手な」行動は平穏だった村を引っ掻き回してしまう。定年で仕事を引退し、しょぼくれていた男たちが次第に新しい生きがいを見出してゆく重松清の『定年ゴジラ』(講談社文庫)に比べると、マルタの選んだ道はより厳しい道だった(『定年ゴジラ』がつまらない小説だと言っているのではない)。古い価値観と正面から衝突せざるを得ない道を選んだのだから。しかし、「マルタのやさしい刺繍」はそれを重苦しく悲痛なタッチではなく、ユーモアを交えた軽快なタッチで描いた。

 村人たちから冷たい目を向けられ(女たちからさえ白い目で見られるのだ)、身内から手ひどい妨害を受けても、マルタたちはひょうひょうとしてアップルパイとお茶でおしゃべりを楽しみ、作戦を練っている。そんな描き方がいい。

 リージ(ハイジ=マリア・グレスナー)、フリーダ(アンネマリー・デューリンガー)、ハンニ(モニカ・グプサー)といったマルタの友人たちも、彼女たちを一番しつこく非難したヴァルターやフリッツもそれぞれに悩みや事情を抱えている。中心的な対立の構図とともに、そういった個々の家族の事情を丁寧に描いている。息子のヴァルターの秘密を知ったマルタが、彼にある助言をして彼を見方にしてしまうという展開が面白い。社会派ドラマとしてではなく、ファミリー・ドラマとして描いたから「マルタのやさしい刺繍」は成功した。「オフィシャル・ストーリー」(1985)、「セントラル・ステーション」(1998)、「母たちの村」(2004)、「ヴェラ・ドレイク」(2004)、「スタンドアップ」(2005)、「スパングリッシュ」(2006)などの優れた女性映画に比べると、「マルタのやさしい刺繍」は単純すぎるといわざるを得ない。しかし、「マルタのやさしい刺繍」には「ククーシュカ ラップランドの妖精」(2002)、「オフサイド・ガールズ」(2006)、「ボルベール<帰郷>」(2007)などの、また別のタイプの優れた女性映画に通じるものがあることも確かだ。われわれにはさまざまなタイプの映画が必要なのである。あまり難しいことを言わずに、その痛快さと爽快さを楽しめばいい。

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