「蟻の兵隊」を観ました
「延安の娘」(2002)に続いてようやく「蟻の兵隊」(2006)を観た。「延安の娘」には及ばないが、かなりのインパクトのあるドキュメンタリーだった。「延安の娘」に比べて劣ると感じるのは編集の仕方に疑問が残るからだ。インタビュアーの声が頻繁に入ってきて、それがどうも気になる。いちいち質問の声が入るのがどうもうっとうしいのだ。一つには奥村さん(主たる登場人物)の行動の邪魔をしていると感じるからである。もう一つは相手から自然に出てきた声を拾うのではなく、無理やり答えを引き出そうとしていると感じるからである。どうも撮影する側が前面に出すぎている気がする。もっと行動そのものを追い、相手の自然な声を拾い、質問などは別に時間を取ってまとめてする方がいい。質問も字幕で出すなどの工夫が欲しかった。
そういう不満はあるが、それでもこの映画に強烈なインパクトがあるのは奥村さんの体験自体が強烈であり、また真相を追究しようとする彼の意志が強靭だからである。例えば、初年兵の時に「教育」として中国人を銃剣で刺し殺すよう上官から強要された話。初めて人を殺す体験。銃剣を持った側の方がおどおどしていたという。とにかく相手の目が見られない。「怒りのまなざしで睨みつけている」中国人の目が怖くて目をつぶってしまう。狙いがそれて相手の肋骨に当たりうまく刺さらない。上官に怒鳴りつけられ何度も繰り返し刺す破目になる。
それだけでもすごい話なのだが、奥村さんはその場にいた人が生存していたら会って話が聞きたいという。パニック状態だった自分は目の前のことしか見えていなかった。だから実際はどんな状況だったのか聞きたいというのだ。そして実際に会う。それがまた予想外の展開となる。その後で奥村さんが漏らしたコメントがまたすごい。詳しくはレビューで書くことにするが、下手な演出まがいのちょっかいを出すより、実際にあったことをそのまま映した方がよほど迫力ある映像になる。池谷薫監督にはそういう題材を探してくる才能がある。今後どんな作品を作り上げてくるか楽しみだ。
「蟻の兵隊」(2006年、池谷薫監督、日本)★★★★
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