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2007年1月 1日 (月)

推手

1991年 台湾・アメリカ 1996年1月公開
評価:★★★★☆
監督:アン・リー
製作:テッド・ホープ、ジェームズ・シェイマス、アン・リー、エミリー・リウ
脚本:アン・リー、ジェームズ・シェイマス
撮影:ジョン・リン 音楽:チュイ・シャオソン  
出演:ラン・シャン、ワン・ボー・チャオ、ワン・ライ、デブ・スナイダー、ハーン・リー

 アン・リー監督作品はこれまで「いつか晴れた日に」(1995)、「グリーン・デスティニー」Cliptoso2 (2000)、 「ブロークバック・マウンテン」(2005)の3本を観た。「いつか晴れた日に」と「ブロークバック・マウンテン」は優れた作品だと思う。「グリーン・デスティニー」はアカデミー賞を取るほどの作品とは思わないが、結構楽しめた。初期の3本を観ていなかったのは当時何となくウォン・カーウァイとイメージがダブっていたからである。僕はウォン・カーウァイの作品が苦手なのでどうも手が出なかった。先日レンタル店に行ったら「推手」(1991)、「ウェディング・バンケット」(1993)、「恋人たちの食卓」(1994)の3本が棚に並んでいた。9月にDVDが出ていたはずだが、なぜかそれまで気が付かなかった。3本とも観るつもりなので、まず順番通り「推手」から借りてきた。

  想像していたのとはだいぶ違うタイプの作品だったが、なかなかいい映画だった。出だしがいい。中国人の老人(ラン・シャン)が一人静かに太極拳をしている。しかし建物の感じはどう見ても中国ではない。白を基調とした清潔で整頓された部屋。まずこれだけで違和感がある。しばらく老人の動きを映した後、キャメラの角度が変わると金髪の若い女性(デブ・スナイダー)が映る。彼女はパソコンで何か書いている。さらにキャメラの角度が代わると彼女がいるのは老人の隣の部屋だということが分かる。二つの部屋の間のドアは開いているので、互いが見えるはずだが、互いに相手を全く意識していない感じだ。

  老人は一通り太極拳を終えると、時間をもてあまし気味にビデオを見るがどれもつまらないらしく、すぐ交換して次のを見る。やっと気に入ったのが見つかってヴォリュームを上げる。それは京劇のビデオだった。あの甲高い声があたりに響き渡ると、我慢しかねた金髪女性がヘッドホーンを取り出し老人に差し出す。なぜか互いにほとんど口を利かない。しかし老人が興に乗って声を出して歌い始めると、女性のイライラが爆発する。

  非常に優れた導入部分である。この二人はいったいどういう関係なのか。なぜこの二人 が同じ家の中にいるのか、なぜこんなにも沈黙が支配しているのか、という疑問が観客の中に自然と浮かんでくる。実は、この不思議な非日常的雰囲気と空気感が彼らの日常だったのである。場所はニューヨーク。老人の名前は朱。金髪女性は老人の息子アレックス(ワン・ボー・チャオ)の嫁で、老人は1ヶ月前から息子夫婦の家に厄介になっていたのである。夫婦の間には息子のジェレミーがいる。息子のアレックスと孫のジェレミーは英語と中国語が話せて通訳の役が果たせるが、二人がいない昼間は老人と嫁のマーサ2人きりになってしまう。それぞれ自国語しか離せないのでほとんどコミュニケーションが取れない。この導入部がそのままこの映画の主題を暗示している。

  移民を主題にした映画はこれまでもいくつかあった。「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」(2006)、「スパングリッシュ」(2004)、「イン・アメリカ 三つの小さな願いごと」(2002)、「アメリカン・ラプソディ」(2001)、「ジョイ・ラック・クラブ」(1993)、「グリーン・カード」(1990)、「わが心のボルチモア」(1990)、「エル・ノルテ 約束の地」(1983) 、「ディープ・ブルー・ナイト」(1984) 等々。たいていは不法入国者の苦労、差別問題、異文化のぶつかり合い、故国への思いなどが主題だった。「推手」がユニークなのは異文化間のディスコミュニケーションや老いた父の扶養問題、さらには老人の居場所という問題を一家族の物語の中に描き込んでいる点である。人種や文化の違いというギャップにさらに世代の違いを加えている。したがって、特に前半は、舅と嫁、板ばさみの息子というホーム・ドラマの様相を呈する。さらに後半はアメリカの中の中国人コミュニティーに老父が自分の居場所と伴侶を見つけるまでの「さすらい」が描かれる。

 つい先日見たばかりの「胡同のひまわり」でも父親が散々息子に迷惑をかけ、最後には家を出て行く。息子への迷惑のかけ方はぜんぜん違うが、老人が家を出て自分の人生を見出してゆく点は同じである。他人に頼らない老人の生き方、この点は日本とはだいぶ違う。世界中に中華街を作ってきた中国人とやっと最近になって大衆が海外へ出始めた日本人との違い。

 それでも前半のホームドラマは日本でもなじみのテーマなので映画に入りやすい。無意識のうちに観客の視点は最初に映った老人の視点に重なる。あの清潔な家。違う文化のTaiwan001視点から見ると同じものがそれまでと違って見えるから面白い。「胡同のひまわり」を観た直後だったせいもあろうが、彼らの住むああいう清潔な家はどこか生活感がないと思えてくる。中国の薄汚れて埃っぽい家のほうが使い込んだ生活感があって人間的な感じがする。あの部屋では老人も落ち着かないはずだ。導入部の後はマーサと朱老人(朱老人というより「朱大人」と表現したくなる。人間国宝チュウ・シュイ〔朱旭〕など素晴らしい人生の厚みを感じさせる名優が中国には多い)のまったく反りの合わないちぐはぐな日常が事細かに描かれる。食べるものが違う。野菜ばっかり食べているマーサと自分で肉料理を作って食べている朱老人。朱老人が中華なべで食事を作っているとマーサが手を伸ばして彼の足もとや頭の上の棚から皿などを取るシーンが象徴的だ。一緒にいながら全く別の料理を別々に作っている。ほとんど言葉も交わさないすれ違いの生活。

 文化の壁はかくも大きく厚い。同じ中国人同士でも、例えば「ジャスミンの花開く」の第2章で、莉(チャン・ツィイー)が労働者と結婚して夫の両親と同居する場面があるが、寝室に便つぼを置く習慣になじめず臭いから何とかして欲しいと夫に訴えるシーンが出てくる。同じ中国人でも生活のレベルが違うとギャップが生じる。ましてや人種と世代が違う舅と嫁ではまるで異星人同士。それまで夫や息子と平穏に暮らしていたマーサにとってはまったくの闖入者である。夫や息子がいれば通訳してもらえるが、面倒くさがってまともに通訳しない。野菜しか食べないマーサをあげつらって朱老人が「わしは肉を食べてるが太ってないぞ」と言うのをマーサが聞きとがめて、何と言ったのかと夫に聞くが、夫は適当にごまかしてしまう。逆のケースもある。まるで「ククーシュカ ラップランドの妖精」を観ている感じでこのあたりは可笑しい。

 マーサと朱老人だけの時は沈黙が支配する「真っ白い」コミュニケーション不全状態、4人そろった時は二ヶ国語が飛び交うがそれでも充分なコミュニケーションが取れない。一家の間に次第に亀裂が生じて行く。クライマックスは朱老人が迷子になったとき。お前が外に出すからだとアレックスは荒れ狂い、台所をめちゃくちゃにして外に飛び出してゆく。ぐでんぐでんに酔って夜帰ってきて(既に老父は警察に保護され戻っていた)トイレの壁に頭を打ち付けて穴を開けてしまう。アレックスの父への思いは深い。心から尊敬し、これまで育ててもらったのだからこれからは自分たちが父の世話をするのは当然だと譲らない。しかし、作家であるマーサは義父が家にいるせいで気が散ってさっぱり小説が書けないという、これまた深刻な悩みを抱えている。誰も悪者はいないのだが、否応なく亀裂が深まってゆく。ただでさえ親の扶養は大きな負担なのだが、カルチャー・ギャップが絡んでいるため問題はさらに拡大する。誰も迷惑をかけたいとは思っていないのに、誰かが傷ついてしまう。誰の言い分も理解できるが、解決が見出せない。安易に登場人物を善玉悪玉に分けなかったことが、ドラマの葛藤をより深く深刻なものにしている。

 どこにも居場所がない朱老人だが一つだけ気の休まる場所がある。チャイナタウンで太Tree 極拳を教える時である。朱老人は太極拳の達人。倍ぐらいある大きな男もはじき飛ばしてしまう。太極拳の会場で朱老人は陳夫人(ワン・ライ)と出会う。この出会いが結果的にはターニングポイントだった。このまま朱老人が息子一家と同居し続けるのも困難だし、かといってマーサの親の助けを借りてより広い家に引っ越すこともアレックスが拒んでいる。にっちもさっちも行かないどん詰まりの状況。考えに考えてアレックスが目をつけたのはこの陳夫人。何とか父と陳夫人がうまくいってくれれば。しかしそんな思惑を陳夫人は察していた。それを聞いて朱老人は一人黙って家を出る。レストランでの皿洗いのエピソードを経て、朱老人はチャイナタウンで新たな太極拳の教室を開く。そして陳夫人との再会。ニューヨークの路上で空を見上げる2人。

 日本のテレビドラマ向きの題材だが、アン・リー監督は日本のドラマのように人間関係をドロドロには描かない。互いに言いたいことは言い合う、時には怒りを爆発させるが最後は落ち着くところに落ち着く。朱老人は同胞の中に居場所と伴侶を見出し、息子夫婦はより広い家に引越しいつでも父を迎えられる余裕を作る。他民族が互いにある程度触れ合いながらも別々に共存しているアメリカ社会。家族も同じこと。互いに一定の距離を置いて付き合う。困難を見つめつつも新しいスタートを予感させるラストがいい。

 「スパングリッシュ」のレビューでも書いたが、日本人には自国の文化よりアメリカの文化の方が上だという意識が働く。早くアメリカになじもうとする、アメリカに同化しようとする。朱老人に比べると若い世代のアレックスはそれに近いが、同じではない。自分のルーツは中国人であることを忘れない。息子のジェレミーには週末中国語を習わせている。皿洗いしていたレストランで一暴れして監獄に入れられた父にアレックスが面会に行く。息子がさめざめと泣く場面はいい場面だ。息子の父親への思いが伝わってくる。人間は自分が育った文化の外には簡単に出られない。ましてや老人の場合はなおさらそうである。人の厄介にはなりたくない。例え家族でも。無理に相手に合わせようとするのではなく、自分にあった環境を見出すのが一番。太極拳の達人でも問題が錯綜した現実の中では「無の境地」には至れない。そういう描き方がいい。無理をすることはない。自分のままでいればいい。そうできる場があればいい。

 何といってもラン・シャンの好演が光る。人生の厚みを感じさせる表情と佇まい。朱老人には文革時代の決して忘れられないつらい記憶がある。「胡同のひまわり」のシャンヤンの父親もそうだが、中国のあの世代には誰にも深い心の傷がある。決して癒えることはないが、それに押しつぶされずに今を生きてゆこうとする人々。中華街にいれば安全というわけではない。中華街にも朱老人を雇ったレストランの経営者のような男がいる。しかしいい距離を保っている朱老人とアレックス一家は何とかうまくやってゆけるだろう。新居のベッドルームでアレックスがマーサに「推手」を教えている。相手の力を利用しながらバランスを取って相手を倒すのだと。マーサが「結婚と同じね」と口を挟むところが面白い。人間関係はバランスが肝心、この映画はそう言っているようだ。

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コメント

kimion20002000さん、真紅さん 明けましておめでとうございます。

kimion20002000さん
ほぼ同じ時期に観るとは偶然ですね。僕はまだ1作目しか観ていませんが、残りの2作を観るのが楽しみです。kimion20002000さんのアン・リー特集も期待しています。
こちらからも訪問させていただきます。今年もよろしくお願いいたします。


真紅さん
TB&コメントありがとうございました。ブログを通じて「映画仲間」が増えて行くのはうれしいことです。昨年は何度もTBやコメントをいただき本当にお世話になりました。
初期の3作がまとまってDVD化されたことは朗報でした。ちょっと気づくのが遅れたのですが、残りの2作も楽しみです。
「ブロークバック・マウンテン」は丁度気力が減退していた時期にぴったりはまってしまい、結局レビューを書けませんでした。真紅さんが大好きな作品だったようですので、その点が心残りです。
今年もよろしくお願いいたします。

ゴブリンさま、明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

TBさせていただきました。
アン・リーの長編デビュー作である本作と、続く2部作は素晴らしいですね。主人公たちを救う温かいラストが大好きです。
『ブロークバック・マウンテン』効果でこの三部作がDVD化され、観ることが叶い幸運でした。

ではまたお邪魔しに参ります。

あけましておめでとう。
今年も、このblog楽しみにしていますよ。

それにしても、不思議ですね。
ちょうど、年明けの「座布団シネマ」の題材を、アン・リーにしようと思っていたんですよ。
しかも、ラン・シャンおじさんの台湾「家族3部作」をね。昨年の12月に、この3作を続けて見たんです。

ゴブリンさんのように深くは書けないけど、そのうち、アップしますね。
ではでは。

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