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2006年8月21日 (月)

TOMORROW 明日

Artspring250w 1988年 日本 1988年8月公開
監督:黒木和雄
製作:鍋島壽夫
原作:井上光晴 『明日・1945年8月8日・長崎』
脚本:黒木和雄 井上正子 竹内銃一郎
撮影:鈴木達夫
美術:内藤昭
編集:飯塚勝
音楽:松村禎三
出演:桃井かおり、南果歩、佐野史郎、黒田アーサー、仙道敦子
    水島かおり、馬渕晴子 、田中邦衛、賀原夏子、なべおさみ
    殿山泰司、絵沢萌子、岡野進一郎、長門裕之、 森永ひとみ
    原田芳雄、伊佐山ひろ子、荒木道子、入江若葉、横山道代
    楠木トシエ、 二木てるみ

  「TOMORROW 明日」は88年『キネマ旬報』ベストテンで「となりのトトロ」に次いで2位に入った作品。その時から気になっていたが、当時の日本映画に対する僕の評価は低く、また黒木和雄という監督をよく知らなかったこともあって観ようという気にまではならなかった。最初に観た黒木和雄作品は「美しい夏キリシマ」である。『キネマ旬報』と『シネフロント』のベストテンで共に1位になった作品なので、これはさすがに見逃せなかった。期待したほどではなかったが、なかなかいい作品だった。次に見たのが「父と暮らせば」。これはここ10年の日本映画の中でも群を抜く傑作だった。そして彼の遺作となった「紙屋悦子の青春」が現在公開中である(黒木和雄監督は惜しくも今年の4月12日に75歳で亡くなった)。こうなるとどうしても「TOMORROW 明日」が気になってくる。今頃やっと「TOMORROW 明日」を観ることになったのはこういう事情である。「とべない沈黙」(66年)、「竜馬暗殺」(74年)、「祭りの準備」(75年)、「泪橋」(83年)、「浪人街」(90年)など他にも注目作は多いが、僕は晩年の戦争にこだわった作品ばかりを観ていることになる。

  「TOMORROW 明日」は「父と暮らせば」(04年)、「美しい夏キリシマ」(03年)、そして現在公開中の「紙屋悦子の青春」へと続く“戦争レクイエム”4部作の第1作である。描かれたのは二日間。長崎に原爆が落とされる前日の1945年8月8日から翌日の原爆投下の瞬間まで。特定の主人公はなく、長崎に住む人々のなんでもない日常を描く群像劇である。

  「TOMORROW 明日」、「父と暮らせば」、「美しい夏キリシマ」の3作に共通しているのはどれも戦闘場面や原爆投下後の地獄絵図などを直接描いていないことだ。戦争の悲惨さを直接描くのではなく、戦時下の日常を淡々と描く、あるいは戦争が残した深い心の傷を描く。普通の戦争を描いた映画とは違った切り口から戦争を描いている。つまり3作とも生きることを通じて死を描いているのである。これは大事な視点だと思う。「父と暮らせば」や「美しい夏キリシマ」では生者が死者の影を引きずっていた。「TOMORROW 明日」では明日命を奪われることを知らずに人々は日常を生きていた。「TOMORROW 明日」はほとんど死の影のない日常を描いているが、彼らがいやおうなく突然の死へと向かっていることをわれわれは知っている。戦争のむごさを描く際の一般的な方法、悲痛な死の場面をリアルに描く方法は確かにインパクトがあるが、どうしても死に意識が向いてしまう。しかしその時まで彼らは生きていたのだ。死は彼らから未来を奪うばかりではない、彼らの生きてきた過去を無に帰してしまうのだ。「TOMORROW 明日」は直接彼らの死を描かない。8月8日から翌日の原爆投下の瞬間までの彼らの生を描く。そして最後にそれらが一瞬の光とともに奪われてしまう。死んだことではなく、生きてきたことに焦点を当てるというこの新鮮な視点がこの作品をユニークなものにしている。

  戦時下で物不足、食糧不足ではあっても人々は結婚式を挙げ、子供を産み、縫い物をしたり炊事をしている。若者は恋をし、子供たちは木登りをしたり魚を取ったりして遊んでいる。その日常が突然断ち切られてしまう。『風と共に去りぬ』の最後の1行は”After all, tomorrow is another day”というスカーレットのせりふだった。そこには明日への新しい可能性に希望を寄せる気持ちが込められている。しかし「TOMORROW 明日」の登場人物たちに明日はなかった。

  この主題は冒頭の引用にはっきりと示されている。

人間は 父や母のように
霧のごとくに
消されてしまって
よいのだろうか
(若松小夜子)

  映画は最初互いに関係ないと思われる何人もの人物たちを次々と点描的に描いてゆく。身重のからだで坂を苦しげに上る娘(桃井かおり)と彼女を叱咤激励する母親(馬渕晴子)、食糧配給所で食料を配る男(殿山泰司)、その裏口で食べ物を乞う朝鮮人、その朝鮮人への冷たい対応に抗議する男(黒田アーサー)、床屋で頭を刈ってもらっている男(長門裕之)。これらの一見何のつながりもないと思われた人物たちの共通点がやがて明らかになる。結婚式の準備に追われるある家にこれらの人々が集まってくるのだ。坂を上っていた母娘の家だ。身重の娘の妹(南果歩)が結婚するのである。しかしその花嫁の姿はまだない。花婿(佐野史郎)だけがぽつんと座敷に座っている。準備に忙しい母親を一番下の娘(仙道敦子)が手伝っている。

  戦時中ということもありささやかな式である。参加者は少ない。仲人(横山道代)、花嫁の叔父と叔母(なべおさみ、入江若葉)、花婿側の縁者(田中邦衛、絵沢萌子)、花嫁の同僚(水島かおり、森永ひとみ)。やがて花嫁も帰ってきて式が始まる。家の外には婚礼のご馳走を物欲しげに覗き込む子供たちの姿も見える。いつ空襲があるか分からないのでそそくさと式を終わらせ、一同そろって記念写真を撮る。この写真が、映画が終わった後、まるで遺影のように観客の脳裏に焼きつく。映画全体を通じて用いられる黄色みがかった色調が消え去らずに残った記憶のような印象を映像に与え、効果的である。

  式が終わり参列者はそれぞれの日常生活に戻る。映画はその日常を淡々と描き出すばかり。劇的な展開はない。せいぜい身重の娘の出産の場面程度だ。もちろん、日常とはそういうものである。そうではあるが、正直言ってあまりに淡々とした描き方には疑問も残る。平板だという印象は免れない。優れた着想に基づく映画だとは思うが、途中で何度も中だるみしていると言わざるをえない。その点が残念である。

  もちろん、ただだらだらと続いているわけではない。一つひとつのせりふにはっとさせられる場面がいくつもある。なんでもない日常が描かれていても、観ているわれわれはそんArtsyokujo300w な彼らに明日がないことを知っているだけに、「明日仕事が引けた後、待ち合わせて一緒に寺町を歩いてみよう」という言葉や「明日でも明後日でもまだ時間はいっぱいあるとでしょう」という言葉に胸がちくちく痛む。「さびしか花嫁衣裳じゃねえ。」「仕方なか、ご時勢やもん。でも戦争が終わったら金襴緞子の帯を締めて、もう一回結婚式やり直す積もりじゃけん。」戦争は終わったが、彼女は終戦を迎えられなかった。田中邦衛と原田芳雄が雨が止んだ後に出た虹を並んで見上げる場面も印象的だ。「悪かことばっかり続くわけはなかですよ。あん虹ごとよかことのかかる日も来ますけん、辛抱なさらにゃあ。」彼らにその日は来なかった。

  淡々とした中でも最も素晴らしい場面だと思ったのは俘虜収容所に勤務する黒田アーサーが娼婦と月を見上げる場面だ。外国人俘虜に満足な手当てが出来ず死なせてしまった彼は、軍の冷たい仕打ちに対する怒りとやりきれなさのあまり娼婦(伊佐山ひろ子)を抱こうとする。電灯から床に落ちた虫を外に逃がそうとした娼婦は、空にかかった真っ赤な月に気づく。その時娼婦がいった言葉が耳に残る。「お月さんも月に一度血ば流すことあるとやろか。」血の色のような真っ赤な月、不吉な前兆である。

  あるいは新婚の二人が蚊帳を吊った寝床で交わす会話。夫はそれまで黙っていた母親のことを打ち明けようとする。そこへ電報が届いて中断され、結局彼は話す機会を失ってしまう。上に引用した「明日でも明後日でもまだ時間はいっぱいあるとでしょう」というせりふはこの場面で新妻が言うせりふだ。この場面は小津を意識していると思われる。キャメラの角度、二人の座る位置(彼らは布団の上に正座している)。実は、登場人物の一人が小津の「父ありき」を映画館で観る場面も出てくる。DVDの特典映像に収められたインタビューで、黒木監督自身がこの映画は小津監督へのオマージュでもあると語っている。日常を描かせて小津に勝る人は他にいない。残念ながら「TOMORROW 明日」の日常描写は小津の域に達しなかった(無理もないが)。

  しかし日常描写に一部退屈な部分があるにしても、全体としてみれば決して悪い出来ではない。映画を観終わった後、その日常の描写と最後の原爆のきのこ雲の映像が交じり合い、時間がたつにつれていろいろな思いがじわじわと湧いてきて、胸がざわついてくる。この映画にはそういう効果がある。その点を付け加えておかねばならない。桃井かおりが子供を産む場面はラストの直前である。かなりの難産で、子供が産まれたのは明け方の5時17分だった。母親が雨戸を開けると空はうっすらと明るくなっていた。子供の出産は悲惨な現実の中でのかすかな希望の象徴として描かれることが多い。しかしこの映画ではそのわずかな希望さえも一瞬にして奪われる運命にある。この世に生を受けてほんの数時間しか生きられなかった赤子。生まれたわが子をいとおしげに見つめる母親の顔を見ていると、何ともやりきれない気持ちになる。だとすればそれは映画の力なのである。この映画にはそういう力がある。

  特典映像の監督のインタビューでもう一つ強く印象に残った言葉がある。撮影の際、当時の長崎の街並みは当然残っていないので、当時の長崎を偲ばせる雰囲気を残した佐世保や鎌倉でも撮影されたという。ラストの原爆が炸裂する映像はビキニ環礁の映像を使ったそうだが、その原爆が落ちる長崎の街はなんと88年当時の長崎の映像を用いたそうである。ビキニ環礁での水爆実験の映像と88年当時の長崎の映像をモンタージュし、それを45年8月9日の映像として映し出す。そこに込められた意図は明らかだ。原爆問題は終わっていない、今も起こりうる現在の問題として映画はそれを提起しているのである。この映画は「アトミック・カフェ」と併せて観るべき映画なのである。原爆を落とした側のあまりにも浅薄な認識と落とされた側の悲惨な現実。

  この映画を撮り終わった後でも、黒木監督の中では戦争は終わっていなかった。死の直前まで彼は戦争を主題とした映画を撮り続けた。当然様々な工夫をしている。恐らく「TOMORROW 明日」では日常を淡々と描きすぎて平板だったと反省したのではないか。それで「美しい夏キリシマ」では友人を見捨てたという少年の心の傷を描きこんでみた。しかしやはり淡々と日常を描く基本の姿勢は同じで、心の中の葛藤も内面化されたままで十分掘り下げられていなかった。「父と暮らせば」はその心の傷を本格的に掘り下げドラマ化した作品である。自分だけが生き残ったことを却って申し訳ないと思い込んでいる娘と娘に生きる力を与えようとする父親の幽霊の対話劇。前2作は群像劇でありその分散漫になっていた感は否めないが、「父と暮らせば」ではあえて登場人物を二人に絞り込み、畳み掛けるような言葉のやり取りを通じて、心の中にしまいこまれた辛い記憶を無慈悲なまでに一つ一つめくり取ってゆく。これでもかと妥協なくテーマに深く食い入り、強烈なドラマ的展開を持った作品をついに作り上げた。これらの3本の中ではこれが最も優れた作品だと思う。その後に作られた遺作「紙屋悦子の青春」はどんな作品になっているのか。実に楽しみである。

  DVDの特典映像には2種類のインタビューが収められていて、僕はその片方しか観ていない。それでも上で指摘したことのほかに、初夜の場面で新郎の佐野史郎が言いそびれたことが、実は彼の母親が被差別部落の出身だったということ、朝鮮人や外国人の捕虜の話は原作にないことなどを知ることが出来た。もう1つのインタビューと共に映画とあわせて観てみることをお勧めしたい。

  最後に仙道敦子について一言。彼女を見るのは実に久々だった。かつて結構好きだった女優である(歌手でもあって、彼女のCDを1枚持っていた)。今見てみると宮沢りえに顔も話し方も雰囲気も似ていると思った。なるほどそれで惹かれていたのか。

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コメント

 邦画ブラボーさん TB&コメントありがとうございます。
 長い間気になっていた映画ですが、やっと観ることができました。タイトルが実に象徴的ですね。映画を観た後タイトルの意味を考え直すとなおさら心が締め付けられます。
 長い文章が多くて読みくいかもしれませんが、気が向いたら時々お寄りください。これからもどうぞよろしく。

こんにちは!!

TBありがとうございました。

ほんと悲しくていたたまれなくなる作品でしたね。
特典映像のお話も
たいへん興味深かったです。
佐野史郎が言いたかったこと・・
そうだったのですか・・・
また映像を思い出してじ~んときてしまいました。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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